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第一章
1.大人になるに従って精神が腐っていったんだね
しおりを挟む僕が『世界最大のダンジョン』に潜ってすでにひと月。
ソロだからマイペースで自分専用のマッピングづくりをできるのが嬉しい。
完全なフロアマップを作ったら高値で売れるのも夢中になっている理由だ。
マッピングには完成度が表示されるため、僕は100%の完成度を目指してフロアを歩き回っている。
「おい、結界師」
たまに邪魔が入るものの、大抵は無視して通り過ぎる。
荒げた声がダンジョン内に響き渡る。
そんな風に声を上げれば、魔物が襲いかかってくる。
もちろん分かっていて声をあげているのだろう。
魔物は僕より彼らを襲う。
大人とはいえ疲れたように座り込んでいる集団と、結界を展開して身を守っている子どもの僕ひとりなら疲れている方を襲うだろう。
彼らの望みは声でわかる。
大体が同じで「休憩したいから結界を張れ」である。
もちろん有料で時間制限の結界を張ることも可能だが、金を積んでも僕が結界を張らないことは世界中の冒険者だけではなく貴族の中でも有名な話だ。
それは「結界しか張れない結界師」「結界を張るしか出来ない無能者」と散々バカにしてきた彼らの自業自得。
ここ最近では僕しかいないと分かった結界師だったけど、それでも底辺職と見下し続けた結果、今のぼくたちの亀裂となって続いている。
通り過ぎた小さな空間から多数の悲鳴が響き渡る。
それに合わせるように足元の揺れが大きくなり、そのまま地響きが通り過ぎていく。
魔物が雑食から肉食獣へとスイッチしたのだ。
「マッピング終了っと」
魔物が一ヶ所に集中したことで、ほかの場所には魔物がほとんどいない。
たとえ洞窟タイプのダンジョンでもマッピング出来る範囲は半径20メートルほど。
罠など詳細をチェックするには半径5メートル以内にまで接近しなくてはいけない。
ステータス画面を開いて、詳細までチェックが済んだことを【マッピング100%完成】の表示で確認する。
上の階ではずっと99.9%から完成させられなかった。
その場合、隠し部屋があることが多い。
隠し部屋は近付けばマッピングされるわけではないため慎重に探した。
見た目はジャングルの階だったが、見つけた隠し部屋は1本の樹木の虚だった。
その隠し部屋がダンジョン内の安全地帯。
結界がなくても魔物の襲撃に怯えることなく、見張りを立てずとも全員がゆっくり休める貴重な場所。
ここに入ったパーティは数日休んで体力を完全に回復させてから出てくる。
ただ、誰もが入れるわけではない。
まず第一に、当然の話だけどこの位置を知っていなくてはいけない。
第二に、この空間には一定人数しか入れない。
パーティでも全員が入れなかったりする。
逆に僕みたいなソロの冒険者なら上限に到達するまで入れたりする。
そして第三、これが重要。
誰かが入った自然界にできた隠し部屋は、最初の人が入ってから5日後に全員を吐き出して10日間は閉鎖してしまう。
隠し部屋は癒やしの空間。
その癒やしを充填していると思われる。
それはまるで結界のようで、無理にこじ開けようとすれば命を失う。
ダンジョンの場合、遺体はダンジョンに吸収されてダンジョン内にある何かの栄養になる。
ただ分かっていることは……ダンジョン内で死んだ魔物は僕たちのドロップアイテムになるが、僕たちが死んだら魔物やダンジョンの餌食となるのだろう。
「さっきの連中、上の階に戻って隠し部屋で休めば良かったのに」
ただし彼らの持っている地図が、隠し部屋の位置も描かれた完全体かどうかは不明。
隠し部屋まで調べた地図は結構高額だ。
ソロ冒険者なら高くても必須だろう……結界を展開できる僕以外なら。
結界師と言われるとおり、結界を張れるのも才能のひとつ。
魔法石に結界を閉じ込めた『結界石』というものがある。
使用回数も展開できる時間も少ないが、それでも見張りを立てず魔物に怯えることもなく朝まで眠れるということで、たとえ高値であっても購入されている。
そんな結界をいつでも張れる結界師の存在は貴重だ。
「それなのに……何がしたかったんだろうね」
僕が子どもだから見下しているのだろうか。
暴力を振るえば、怒声を浴びせれば。
子どもだから何でもいうことを聞くとでも思っていたのか。
どこの国でも、どんな大人でも。
飴と鞭を使い間違えるのだ。
自分が僕にしたことと同じことをされたら……ねえ、バカみたいに素直にいうことを聞いて道具扱いされるの?
「そうだ」という大人がいるなら言いたい。
「きっと大人になるに従って精神が腐っていったんだね」って。
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