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第一章
12.思い出したくない過去だよね
兄のメルトスにダンジョン内の魔物の件を報告すると「魔物は全部調査機関に送って」と返事がきた。
兄の天恵は『解析』。
どんな物でも分析して解明する能力で、ここ十数年の世界解析とそれによる魔導具の発展は兄たちの功績によるものだ。
「そちらはどう? 結界師の噂は僕たちの方にも届いているよ」
「僕は大丈夫だよ、メルトス兄さん。それより魔物の解析をお願いね」
「そっちは急いでやるよ。その間は休暇だと思ってゆっくり休みなさい」
「ありがとう」
兄はいつも僕の心配をしてくれる。
僕の結界が絶対的なもので、災害からも守ってくれることは知っている。
それでも兄として僕のことを遠くからでも心配してくれる。
「そうだ、メルトス兄さん」
「ん? どうしたんだい?」
「僕ね、結界師のランクが1に上がったよ」
「いぃぃぃっっやっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
僕の報告に兄が歓喜雀躍している騒ぎがこちらまで聞こえた。
飛び跳ねたときに机の上の資料を落としたらしく大きな物音と「どうしたんですか⁉︎」という慌てた声が届く。
しかし、僕の結界師ランクが上がったことを興奮しながら話す兄に次々と祝辞が送られる。
会話は互いにしか聞こえないが、周りの声や喧騒は話し相手にも届く。
「「「おめでとうございます!」」」
「『ありがとうございます。これからも精進します』。メルトス兄さん、そう伝えてもらえる?」
「ああ、いいよ。みんな、弟から『ありがとうございます。これからも精進します』と伝言があったよ」
兄の言葉にまた喧騒が大きくなる。
僕は国を離れてひとりで生きているけど、それは世界を回って母国に報告するためだ。
ほかの兄姉たちも、自らの『神の天恵』を有効に使っている。
僕のように世界に出て情報を集める者。
兄のように母国に残って研究に身を置く者。
研究結果から有効な魔導具をつくり出す兄姉たち。
そして……偶然を装って僕の元へ来る兄姉たち。
心配だよね、僕はまだ8歳。
7歳の誕生日に天恵を受けて、翌週には母国を出た。
両親は大反対派の筆頭で、泣いて嫌がっただけでなく僕を部屋に閉じ込めた。
僕の結界師の能力は、世間が認知している『結界が張れるだけ』ではない。
結界師に結界は効かないため、張られた結界を損傷なく出入りできて張った本人には気づかれる心配もない。
そして、まとっている結界を不可視状態にすれば僕の姿は見えない。
そうして僕は国を出た。
『天恵を得た者は即刻その能力を活かすために行動するべし』
それが母国の規則。
僕は末っ子だから、両親は僕をそばに置いておきたかったらしい。
そして兄姉たちが天恵を受けたのは10歳になってから。
だから7歳の誕生日パーティーの最後に天恵を受けとるとは思っていなかったそうだ。
「いやよ! なんでこの子だけ7歳で天恵を受け取るのよ!」
「認めんっ! せめて10歳までは親元で育てるべきだ!」
同母・異母の兄姉も僕を抱きしめて離さなかった。
しかし、幼いからとか末っ子だからと言って神の御意志に背く行為は国の存亡にかかわる。
「僕ひとりのせいで国が滅ぶのを見たくない」
みんなに愛されていると実感したから、僕は規則どおりに国を出ることにした。
「国を出たら二度と帰ってきてはいけない」なんてことはない。
だから、この『世界最大のダンジョン』のマッピングを全階層完成させたら一度国に帰るつもりだ。
神がつくり、神に認められた『地上にある神の国』、それが僕の生まれた国。
そして僕は国王と貴妃の子、一応王子の肩書きを持って生まれた。
王族にはこれまで何度も転生を繰り返してきた『天恵持ち』が4割いる。
母たちはこの国の貴族として生まれ、僕たちを産むために神に選ばれた。
生まれ変わったら徳をひとつ積んで、それが積み重なると僕たちみたいにスキルを持てるらしい。
実際に貴妃から2人、スキルを目覚めさせた。
枯れた地でも植物を育てられる『みどりの手』と、汚れた空気も心も浄化する『洗浄』。
スキルが目覚めた貴妃の2人は次から王族として生まれ、天恵でスキルが使えるようになる。
元々、この国は神や精霊と人間が結ばれて誕生した国。
そのため、神や精霊の持つ能力がスキルとして受け継がれて目覚める。
魂に刻まれたスキルは二度と消えないため、危なくない年齢で神が天恵という形で目覚めさせる。
何代か前のスキルを持たない王族がスキル持ちと思しき息子を屋敷に閉じ込めて育てた。
「スキルなど神が手を出さないと目覚めないなら、そのままにしていればいいじゃないか!」
スキルを持たない者の僻みである。
しかし、それが悲劇につながった。
彼が閉じ込めた息子にスキルは持っていなかったのだ。
持っていたのは前世で使っていたアイテムだけである。
そしてスキル持ちは神の加護を持っているため簡単に死にはしない。
しかし閉じ込められた息子はスキルを持っていなかった。
スキル持ち前提で閉じ込められた息子は、一週間後に衰弱死した状態で発見された。
男は勘違いしていた。
次期当主、王太子などの後継者には血統をつなぐためにスキル持ちは生まれない。
スキルによっては、僕のように国を出るからだ。
もし国に残れるスキルだったとしても、スキル持ちと当主や国王という二足の草鞋では日常生活が破綻してしまう。
その事実を知った男は自ら生命を絶った。
それは神にとって『罪を償わずに死を選んだ』という大きな罪となる。
罪を償っていれば『地上にある神の国』からの追放だけで、人間として生まれ変われただろう。
しかし、勝手な思い込みで我が子を死なせて、その罪を償わずに死んで逃げた。
神にそう判断された男の遺骸は、埋葬前に安置されていた神殿から消滅していた。
…………次の世は人間として生まれることも許されなかった。
両親……国王と貴妃の2人は僕を閉じ込めたが、それは親心という理由から罪には問われていない。
ただし、僕と連絡が取れなくなる罰は受けている。
毎日朝昼晩と寝る前に連絡してきていたことで、僕の生活に支障が出ていると兄たちが神殿で神に祈った。
それが、僕が成人するまでの11年間は一切の連絡を断つという、神から罰が与えられた。
とはいえ、兄姉たちと連絡をとっているため、僕のことは両親に筒抜けらしい。
「そうそう、父上から『成長した姿が見られるのを楽しみにしている』と伝言を預かったよ。きっと結界師のランクが上がったと知ったら大喜びするだろうね」
「狂喜乱舞して周りに迷惑をかけないように注意してください」
「わかった。ちゃんと伝えておくよ」
兄の漏れた苦笑を最後に通話は切れた。
忘れやしない。
母の誕生日に、まだ6歳だった僕が初めて母と踊ったワルツが完璧だったと誉められた直後……
両親は狂喜乱舞した挙げ句、交代で僕を相手に踊り続けて最後には両親と僕という3人で踊る、というかグルグルと周り続けたお陰で……僕はその日から一週間寝込んだ。
疲れによるものだけど、両親は兄姉たちからお説教を受けたそうだ。
今でも両親はそのときのことがトラウマになっていて、当時の話が出ると青ざめるらしい。
僕が倒れた後、加減を考えずに燥いだことを責められてた父と母。
会場のど真ん中で正座をさせられて王妃さまや貴妃様たち、同母や異母の兄姉たちから5時間のお説教で日が暮れた誕生パーティーは、2人にとって思い出したくない過去だよね。
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