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1巻

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 レシピ一つとっても、厳しいルールが存在するのか。だったら、今まで作っていた料理が作れなくなるのは困るから、最初に商人ギルドに登録したほうが良さそうだ。

「たとえばね。私たちの誰かがレシピを購入するでしょ? それを購入していない人が盗み見たらそれだけで窃盗罪よ。家族だと一枚で十分でしょ? そのように複数人が見る場合は、購入時に『何人で読む』と言って人数分を支払う必要があるのよ」
「それでは、この中の誰かがレシピを登録したけど、ここの皆さんにはタダで使ってもらいたいと思ったら?」
「ああ。その場合は商人ギルドからその相手にレシピが贈られるのよ」
「あとね。商人ギルドに登録したら、新しい料理を作ったら自動で登録されるの」
「ステータス画面に『新規のメニューです。レシピを登録しますか?』って出るのよ」
「それを登録しないと、いくら自分で作ったレシピでも、ほかの人が似たレシピを登録したら二度と使えないわ」

 そのために料理をする人は商人ギルドに登録しているらしい。
 でも普通の家庭料理は?
 そう考えたが、料理で登録できるのは飲食店や屋台などで販売が可能なメニューだけだそうだ。それとアレンジソース。スイーツも登録が可能らしい。

「実はね。冒険者が商人ギルドに入ったほうがいい理由がほかにもあってね」

 そう言って教えてくれたのは『犯罪ギルド』に関することだった。密輸や暗殺を生業としている犯罪者の組織だそうで、ほかの大陸から流れてくるらしい。
 別の大陸では密猟や密漁も多く、目撃されるとその者の口をふさぐために奴隷商人に売ってお金にするようだ。
 そして冒険者はドロップアイテムからレア物を得ることも多い。

「レア物が多いと密輸を疑われてしまうの。でも冒険者ギルドと商人ギルドの両方に登録して、さらに冒険者ギルドに活動記録があれば密輸や犯罪の疑いは晴れるわ」
「それ以外にも、冒険者が商人ギルドに所属登録するのには理由があるのよ。調味料を安いところで仕入れて、高く売れるところでまとめて売ったりね」

 海辺や塩湖えんこなどの近くの町で売られる塩は安価で流通していて、王都みたいに海や塩湖えんこから遠い所なら塩は高く売れる。そのため、行った先で商品を大量に仕入れて王都で売却する冒険者もいるらしい。その時に密輸を疑われないように商人ギルドで登録するそうだ。

「あとね。魔物が落とすアイテムにもレアがあるわ」
「逆に『ビー』が落とすはちみつなんて、レアアイテムじゃないけど流通量自体が少ないから、けっこう高値なのよ」
「ひと瓶一万ジルはするわね」
「……高価なんですね」
「残念だけど、はちみつは一般に流通していないから商人ギルドで購入するしかないの」
「それも入荷が少ないから予約待ち」

 ビー……蜂のことですか。魔物というくらいなんだから、きっと大きいんだろうな。
 ……あれ? そういえば本屋のおばあさんがくれた本に『まものぜんしゅう』があった気が。
 ゲームみたいに、写真かイラスト付きで生息域やドロップアイテムなどが記載されているのかな?
 宿に帰ったら調べてみよう。
 ふと気付いてステータスを開いてみる。そこに『フレンド』という欄があった。
 城で説明を受けた時に、フレンドのことも聞いていた。フレンドに登録したら、メールやチャットが可能なようだ。ただ、チャットは同じ町や村にいないと使えないらしい。

「あの……。私と『フレンド登録』していただけませんか?」

 おそおそる聞いてみると、お姉様方から「え⁉」と驚かれた。

「またわからないことがあったら教えていただきたくて」

 そう言うと、隣に座るミリィさんが「喜んで!」と言って抱きしめてきた。

「ほんと。エアちゃんはいい子ね」
「ね? 私の言ったとおりの子でしょ」

 ……皆さんの話がわかりません。というか、ミリィさんは一体なにをおっしゃったのでしょうか?

「ミリィ。そろそろエアちゃんを離してあげて」

 この家に住むお姉様、フィシスさんが、いつまでも抱きついているミリィさんに声をかけてくれた。それでもミリィさんは離そうとしません。

「ミリィ。離しなさいって言ってるでしょ」
「きゃー。私のエアちゃ~ん」

 フィシスさんがミリィさんの首根っこを掴んで部屋から出ていく。ここは玄関脇の台所兼食堂。そこから、玄関側の扉ではなく隣の部屋へと連れて行かれた。チラリとソファーが見えたから、リビングなのだろう。

「ごめんなさいね。エアちゃん」
「ミリィったら、さっきケーキを頂いた時、カットしにキッチンへ行ったでしょ? その時からお友だちになりたいって言ってたのよ」
「でもエアちゃんは冒険者になるでしょ? そんな人と友だちになるっていうのは、『珍しい物を見つけたら贈って』って強請ねだることになるから禁止されているのよ」
「あ。それじゃあ……」
「大丈夫よ。私たちからは禁止だけど、冒険者、つまりエアちゃんからの申請は許されているの」
「それでは、フレンド申請をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「「もちろんよ」」

 目の前に並んで座る二人のお姉様から、快く了承してもらった。
 フレンド登録するには、どちらからでもいいのでステータス画面を開いてフレンド欄にある『フレンド申請』を選択する。申請する側はそれだけで終了。そして申請を受けた人は承認するだけ。それでフレンドになれる。
 でも、それだと不特定多数に申請してしまうと思ったが、ステータス画面は本人の意思を反映するから、『フレンドになりたい相手』にだけ申請できるそうだ。
 フレンド申請を選択すると、前の二人がほぼ同時にステータスを開いた。

「え? 二人同時に申請が届いたのですか?」
「私たちだけじゃないわ」

 その言葉と同時に、隣の部屋から「きゃー‼」という叫び声が上がった。……悲鳴というか歓喜?
 アレ? もしかして……と思うと同時に、扉がバァン! と音を立てて開いた。扉がそのまま勢いよく壁にぶつかったけど……壁か扉が壊れなかった? それを確認したくてもできない。気付いたらミリィさんに再び抱きしめられていたから。
 開いたままのステータスには『フレンド申請が受理されました』の表示が出ていたので、ミリィさんに抱きつかれながらその表示に触れる。
 フィシスさんと目の前に座ってるシシィさん、アンジーさんから承認されていた。


 エイドニア王国
 王都エドニア
 シシィ(シンシア)
 フィシス(フィシス)
 アンジー(アンジェリカ)


 カッコの前が愛称で、カッコの中が名前なのだろう。
 ……ミリィさん。承認がまだです。

「ちょっと、ミリィ!」
「あなた、まさか承認してないの⁉」
「え? あ! …………きゃー!」

 私の様子でミリィさんが承認していないことに気付いたようで、フィシスさんとシシィさんがミリィさんに注意して、ミリィさんが操作のために私から離れた。
 しかし、ミリィさんの悲鳴と共に、私のステータスには『フレンド申請が拒否されました』と表示された。
 ……タイムアウト?

「きゃー! お願い! エアちゃん! もう一回申請してー!」
「なに馬鹿なことをしてるのよ」

 ミリィさんがフィシスさんたちに呆れられている。
 その横でフレンド申請をしようとしたら、『再申請は十日あけないと送れません』と表示された。

「あの……送れません」
「え?」
「『再申請は十日あけないと送れません』と表示されてしまいます」
「ちょっと待って! ミリィ! あなた何したのよ!」

 ミリィさんが驚いて固まった。同じく驚いたフィシスさんは逆に焦っているし。

「エアちゃん。ミリィからの返事はなんて出てた?」
「『フレンド申請が拒否されました』でした」

 私の言葉に全員が固まったあとに「「「ミリィ!!!」」」という叫び声が部屋内に響き渡った。
 どうやら、慌てていたミリィさんは『承認』の横にある『拒否』を選択してしまったようだ。

「どうしましょう?」
「仕方がないわ。十日後にならないとミリィへのフレンド申請凍結は解除されないもの」
「タイムアウトだったらすぐに再申請できたのに、ミリィったら『拒否』しちゃったんだもの」
「えー」
「ミリィが悪いんだから仕方がないわね」
「そんなぁー。私だけエアちゃんと友だちになれないなんてー」

 イスに腰掛けて、さめざめと泣いているミリィさん。

「ミリィさん。お友だちって『フレンド登録しないとなれないもの』ですか?」

 そう聞いたら、ちょっといてから「エアちゃーん!」と三度みたび抱きしめられた。

「そうよね! フレンド登録をしていなくてもエアちゃんと私は『友だち』よね! ね‼ ね!!!」

 ミリィさんが必死すぎて怖いです。

「……そんなにしつこく絡んでいると、友だちすら拒まれるわよ」

 アンジーさんの言葉に、ミリィさんが慌てて両手を上げて私を離した。その様子にクスクス笑っていると、笑いが連鎖していき、最後は五人で笑い合った。
 ……この世界で、この人たちと出会えて、友だちになれて、本当に良かった。



   第二章


 翌朝、私は最初に冒険者ギルドの中へ入った。商人ギルドはひと辻先だと聞いたからだ。
 扉を開けると、受付カウンターが五つ。
 右側にバーカウンターがあり、たくさんの人たちが酒を呑んで賑やかだった。もちろん静かに呑んでいる人もいるし、酔い潰れて寝ている人もいる。
 左側の壁には掲示板があり、いろんな紙が貼られている。中にはイラストの描いてある紙もある。あれが依頼書だろう。
 とりあえず『とうろくうけつけ』と書かれた受付に向かう。時間的にまだ早いため、優しそうなお姉さんが受付にいるだけだ。

「すみません。冒険者登録をしたいのですが」
「はい。登録は初めてですか?」
「ええ。そうです」
「では簡単にギルドの説明をさせていただきますね。そちらのイスにおかけください」

 冒険者ギルドでは、初回登録は無料。しかし依頼失敗などのペナルティが規定値を上回ると登録抹消処分となる。
 ただ、無理に依頼を受ける必要はない。その代わり、冒険者ランクがアップすることもない。
 薬草採取などの依頼を受けていれば確実にランクアップするが、依頼を受けずに魔物を倒すだけでもランクアップする。ランクアップすれば、依頼の成功報酬は高くなっていく。
 また、冒険者には『緊急クエスト』が発令されることもあるが、それも『絶対に受けなければならない』というものではない。
 義務化すれば初心者も出ることになる。それでも大人しく後衛にいれば良いのだが、上級者でもてこずる魔物討伐とうばつの前線に出て来られては足手まといでしかない。
 そして『冒険者同士のトラブル』は禁止とのこと。ただし『正当防衛』はあり。『報復』や『復讐』は犯罪のためなし。
 そしてギルド職員が守ることだけど、冒険者も知識として知らなければならないことがある。
『冒険者の個人情報を漏らしてはならない』というものだ。
 別に職員が身分証の中身をなんでも見ることができる訳ではない。名前と冒険者ランク、冒険の記録は職員でも確認できる。その代わり、どこの迷宮や洞窟に入ったとか、どんな魔物を倒したという冒険の記録情報を他人に漏らしてはいけない。
 日本でいうところの『個人情報の保護』だ。
 過去に「この迷宮に行ったのなら、レアアイテムを手に入れてないか」としつこく付きまとっていた職員がいたらしい。「この迷宮なら誰々さんが攻略したから」とばらして仲介料を取る職員もいたとか。
 そんな町や村の冒険者ギルドに誰が行くだろうか。
 今では迷惑行為をした職員は、規約違反で即解雇。迷惑を受けた冒険者に、ギルドからは一億ジルの迷惑料を支払う。迷惑行為をした職員自身は五千万ジルの迷惑料を支払う。
 もちろん個人でそんな大金を持っていないし、ギルドもそこまでお金はない。そのため、借金生活が始まる。給料は現金で三割しか貰えず、七割が借金の返済にあてられる。
『いつもニコニコ現金払い』だ。
 身分証は借金を返し終わるまで使用停止となるため、町や村から逃げ出すこともできない。ほとんどの町や村を出入りする際には身分証が必要だ。犯罪者を入れない、逃がさないためだ。
 ギルドの借金は、依頼の仲介料やギルド内のバーの売り上げ、併設の武器屋や防具屋の売り上げがすべてあてられる。だからと言って、バーの値上げは認められない。

「それは大変ですね」
「はい。だからこそ『個人情報の取り扱い』は慎重かつ注意が必要なんです」

 確かに、個々が注意していれば防げることだ。
 そして『仲良し』と『馴れ馴れしい』は違う。
 そこを履き違える職員も過去にいたのだろう。
 説明を受けたあと、何か私からの質問があるか聞かれた。そのため「冒険者はフレンド登録し合わないといけないのか?」と聞いてみた。説明の間ずっと、フレンド申請を受け取り続けていたのだ。

「いいえ。そのようなことはございません。何かありましたか?」
「ずっとフレンド申請が届いているのですが」
「お名前を伺っても?」

 そう聞かれて、順番に名前を告げていった。その間も、増えていく申請者。結局、総勢二十三名。その全てがこのギルド内にいる冒険者だという。

「あ……。ごめんなさい。また二人追加です」
「ほんと。節操なしばかりでごめんなさいね。もうすぐ静かになるから」
「いえいえ。これは個人の問題ですから。……また来ましたよ」
「何を考えているのでしょうね?」
「酒の相手をしろ、じゃないですか?」
「酔っ払いほどタチの悪いモノはないわね」
「このまま何もしないで待っていても時間の無駄ですよね。……まだ申請が続いていますよ。私、まだ『冒険者ギルドに入っていない一般人』ですよね」
「入っていても女性ですから、正当防衛が成り立ちますよ」
「酔っ払いに絡まれた場合って……」
「確実に正当防衛が成り立ちますね」
「さらに三人追加。……酔っ払いは足腰がフラフラで、ちょっとしたことでも足がもつれて倒れちゃいますよね」
「そうね。これで、もう三十人……。呆れた。あそこにいる男性全員ね」

 美人受付嬢の呆れた表情が可愛くて、私は苦笑しかできない。さっきの「もうすぐ静かになる」というのは、この酔っ払いをどうにかするための救援を呼んだのだろう。

「ところで、待ち人はあとどのくらいで来ますか?」
「もうそろそろ到着すると思います」
「じゃあ。ちょっと時間潰しに併設の武器屋を見に行ってきます」
「来たら呼びに行きますね」
「はい。お願いします」

 私がいたのは壁側で彼らから一番離れた場所だったからかな? 申請してきた男たちは、私たちの会話が聞こえなかったみたいだ。酔っ払いたちが立ち上がった私を見てニヤニヤしている。きっと『冒険者登録が終わった』と思っているのだろう。
 ギルド併設の武器屋兼防具屋へ向かうルートは二つ。一旦外へ出る遠回りか、バーの通路を通って行く近道か。もちろん、私は遠回りなんかするつもりなく、酔っ払いの間を抜けていくルートを選択。でもその前で絡まれた。

「なあ、ねーちゃん。フレンド申請の返事が来ねーんだけどよー」
「おいおい。コッチだって申請してるのに返事まだかよー」

 酔っ払いの絡みと口臭ほど臭いものはないんだよなー。体臭自体が酒臭い。呑んでいなくても、近付いただけで酔いそうだ。程よい酔い方をしないから女性が近寄らないんだよー。
 ということで、この場でまとめてお返事をさせてもらおう。

「おい。早く申請を許可してオレの相手をしろよ」
「女ならなー……あ? アガガガ……」
「女だからなんでしょうかねえ? テメエの女でもないのに、軽々しく手を出そうだなんて。ナ・ニ・サ・マのつもりでしょうか」

 はい。絡み酒の酔っ払いに続いて、ニヤニヤしながらお尻に手を伸ばしてきたオッサンがいるので、触られる前に手をひねり、腕もねじって上半身をテーブルに押さえつけて差し上げた。
 タダで触らせるほど、私は『お安く』できていませんので悪しからず。たとえ、大金を積まれても触らせませんが。……やはり、私の握力も素早さもすべて上がっているようだ。

「女だと思って甘く見てれば、つけあがりやがって!」
「押さえつけて皆でまわして……」

 バァン! ドドーン‼
 男たちが集団で私に襲いかかろうと動きだしたと同時に、ギルドの扉がものすごい音を響かせて開いた。扉は勢いそのままで、さらに大きな音を立てて壁に激突し、建物全体が大きく揺れた。
 それは昨日も見た光景だった。
 そう、昨日フィシスさんの家で、だ。あの後、結局宿へ帰って部屋で購入した魔法の本を読み、夕食を食べて寝てしまった。そのためギルドめぐりは今日に持ち越しになったのだ。


「エアちゃ~ん!」

 ギルドに飛び込んで来たのは、やはりミリィさんだった。
 ブンブン! と音が聞こえるように勢いよく首を振って周囲を見回したミリィさんは、バーで酔っ払いたちに襲われそうになっている私に気付くと、ぶっ飛んで来て強く抱きしめてきた。

「エアちゃん! 無事? 怪我してない? もうたちが来たから大丈夫よ!」

 いつの間に『』になったんだ? ケーキと紅茶が姉妹のさかずきだったのか?
 ん? ……お姉ちゃん? 複数形?

「このバカどもがその子にフレンド申請してたんだよ。相手にする価値もないバカだから返事しなかったみたいだけど、今度は彼女に無理矢理フレンド登録させて、全員でまわそうとしてた」

 カウンターでしみじみとグラスを傾けている女性がミリィさんに話しちゃった……。それもアチコチ端折はしょっている。
 なにより、ミリィさんにとって『フレンド申請』は鬼門なのに。

「な・あ・ん・で・す・うっ・て・え!」
「ついでに言うなら、そこのテーブルで腕を押さえている男は、その子のお尻を撫でようと手を伸ばした」

 ぐいんという音が聞こえるような首の動き。そして、ギロリという効果音が似合いそうな視線を男に投げかけた。私のお尻をナデナデしようとした男が「ヒィ!」という悲鳴を漏らす。

「ミリィ……さん」

 ずっと抱きしめられてて気付いた。
 こんな、酔っ払いの絡みなんて日本でもあったし、初めてじゃないけど、それでも怖かったんだ。泣かなかったけど。連中相手には見せなかったけど。
 ミリィさんの腕に抱かれて安心したからか、自分の身体が震えているのにやっと気付いた。
 それも、ミリィさんが抱きしめてくれたから、今は震えも落ち着いてきた。

「大丈夫よ。私のカワイイをイジメた連中には、この瞬間まで生き延びて私の前に姿を現したことを死ぬほど後悔させてやるから」
「ミリィ。ほどほどにね」
「わかってるって! 死なない程度で許してやるわ!」

 ミリィさんのほどほどの基準は『死なない程度』なのか?
 ミリィさんに解放されて声のした後方を見ると、フィシスさんたちが立っていた。

「手続きは?」
「まだ……説明を受けただけです」
「ひっきりなしにフレンドの申請が届くから。結局三十八人からきたわ」

 受付嬢が出した用紙に記載された名前を、その場にいる人たちと照らし合わせて確認していくフィシスさんたち。

「ミリィ。……そこにいる男性、全員有罪」
「一般女性への婦女暴行も追加」
「りょーかい! 私のエアちゃんに手を出そうとして、二度と日の目を拝めると思うなよー!」
「まだ手を出してねぇー!」
「それを決めるのはアンタらじゃない、私たちだ。そして、この私が『全員死刑』と決めた! ……さあ、覚悟しろよー。したよなー。私のエアちゃんをターゲットにした時点で、私に棺桶にも入れられずに地中深く沈められる覚悟は、で・き・て・る・よ・なー」
「そんなもんできるかー!」
「男だったら、いちいち気にするなー!」

 ギャー! 来るな! めろー!
 そう叫んでいる冒険者たち。……逃げればいいのに、なぜ立ち向かおうとするのだろう?

「エアちゃんは私のものだー!」

 完全にミリィさんのものにされています。
 フィシスさんたちはこの場をミリィさんに任せると、私を促して受付へと戻った。
 イスに座って登録の手続きを再開。……の前に、お片付けが残っている。

「まず先に、フレンド申請を一括で拒否しましょう」
「あの……。新しく『エリー』さんって方が申請されているのですが」
「それ、私よ」

 バーのカウンターで一人、お酒を呑んでいた女性が答える。マントに付いたフードを目深に被った女性が近くのカウンターにもたれかかっていた。

「え? エリー?」
「エリーが誰かに興味を持つなんて珍しいわね」

 フィシスさんとアンジーさんから驚きの声があがる。
 フードを取ったその女性は、緑の長い髪に長い耳をしていた。

「あら? エルフを見たのは初めて?」

 凝視していたから嫌な気分にさせてしまっただろうか、と思ったが、女性は慣れているのか気にした様子もない。

「はい。……あの、私の何に興味を持たれたのですか?」

 私が彼女の言葉で顔を凝視していた理由はそれが原因。だって、私がと気付いて、興味を持たれたのなら……

「だって。あのミリィがあれほど可愛がるなんて。それも妹なんて言ってるのよ。興味を持つなって方が無理だわ」

 エリーさんの言っている意味がわからない。ミリィさんが私を可愛がる姿は、私からみても確かに異常だと言える。それでも興味を持たれるほどのことなのだろうか?
 ……ミリィさんの過去に、何があったのだろう?

「ねえ、エアちゃん。初めてミリィを見た時、どう思った?」
「……ふくよかな人だなー」
「もう。本当ホントにエアちゃんはいい子なんだから」


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