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第八章
第280話
しおりを挟む「アウミ。キミは王都で生きようとは思わなかった?」
ミスリアはアウミが元貴族令嬢と知ってこえをかけた。しかしアウミは断った。
「私は冒険者の娘です。これまでも。そしてこれからは私も冒険者の端くれです。そしてこれからもそれは変わりません」
その言葉を聞いて、都市のみんなは陰で笑った。
「私は冒険者です。これまでも。そしてこれからは聖魔師の端くれです。それはこれからも変わることはありません」
私がそう言ったのは昨年のこと。聖魔師である私の身柄を求めてきた男にそう言って断った。
「何が不満なんですか! 我が国に来ればいい暮らしが約束されるんですぞ!」
そう怒鳴った男を風の妖精が丸裸にした。
……何が『いい暮らし』だ。それを本人が望んでいない以上、いいも悪いもない。それを決めていいのも第三者ではない。
「私の言葉が聞こえない耳は切り落としたほうがいいですね。ああ、私の言葉を理解できないその頭は必要ないでしょう? 首から上は切り捨ててもいいですよね」
そう言って、風魔法で首の薄皮一枚に赤い筋をつけた。風が自分の首を掠めたのは気付いたのだろう、青ざめた顔で慌てて首に手をあてて逃げだした。
アウミは誰かから聞いたその言葉をアレンジして使ったらしい。「冒険者になる私に二度と関わらないで」という意思表示だった。その含まれた思いにミスリアは勘づいた。そしてアウミの望み通り、『冒険者の孤児』に二度と関わらないと約束した。
「無茶をしない。忘れずにそれを誓約しなさい」
「はい。来週、冒険者ギルドで誓約するときに追加します」
孤児だった冒険者は、最初のダンジョンにはいる前に誓約をかわす。それを破れば冒険者ギルドから重い罰則を受けることになる。下手すれば、冒険者ギルドからの追放になる。
アウミの誓約はフーリさんたちバラクルの人にとって安心させるものにもなる。アウミは賢い。だからこそ、私が誓約をさせる理由にも気付いていた。
「私は冒険者になります。でも、生命を軽く考えて無謀な行動をとる冒険者にはなりません」
孤児出身の冒険者は『生命の大切さ』を知っている。だからこそ、アウミも無茶をしない冒険者になれるだろう。
それから最初のダンジョンに入ったアウミは、荷物持ちではなく一人の冒険者として魔物の肉を土産に持ち帰ってきた。
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