私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第592話

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「「「さんっ!」」」
「「「にいっ‼︎」」」
「「「いーち!!!」」」
「お待たせいたしました! 新年のパーティー、開始します!」

カウントダウンのあと、舞台に立った新都長が高々にパーティーの開始を宣言する。

毎年正午から始まる新年のパーティーは今年も無事に正午にあわせて開始された。午前は都長の引き継ぎ式など公式行事が行われ、宣言が新都長のお披露目も兼ねている。

「さ、みんなも頑張って売っちゃって」
「「「はい!!!」」」
「みんなもフォローよろしく」
《 はーい 》

農園で収穫した物を売っている私の屋台。昨年の新年パーティーから、売り子はセウルたち生産者本人に任せている。自分たちで作った物を売る。屋台には魔石が設置されていて、魔石がレジスターの代わりだ。これで売り上げがひと目でわかる。
これが何百年前もから使われている魔導具だというから驚きだ。
しかし、この魔導具があるおかげで安心して屋台を任せられる。これで屋台の売買に慣れれば、屋台村で屋台を開くことも可能になる。店舗みせを構えることができなくても屋台を持つことは可能なのだ。それを考えて、屋台を用意した。

ひとつはセウルたち兄妹の屋台。幼くても礼儀正しい子供たちの屋台は、昨年の売り上げナンバー1だった。野菜が足りなくなりそうになって、セウルが農園の貯蔵庫まで戻って野菜を追加して切らさないようにしたのだ。貯蔵庫は空になったが、屋台に出した野菜は完売した。
パーティーの終了直前に4人揃って舞台上にあがり表彰された。そのときに屋台村の営業権を与えられたのだ。営業権は私が預かっている。

ゼオンはひとりでふかし芋や焼き芋を作って配っている。色んな芋を販売しているが、試食という形で味見をしてもらうことで客が味を気に入って結構並んでいる。

フリンクとベイルは穀類用の屋台だ。米粉や小麦粉でクレープを作って販売している。果樹園でできた果物だけでなく小さなアリシアが一生懸命作った果実のジャムも使っていることで、女性や子供たちに大人気だ。

「このジャム、販売していないの?」
「すみません。そのジャムはここにいるアリシアがエミリア様に作り方を教わってはじめて作った物です。販売できるほど作ってはおりません」
「え……? あなたが作ったの?」
「……はい。ごめんなさい」

踏み台に乗ったアリシアに頭を下げられて、誰が文句を言えるだろうか。それも「ジャムが美味しいから買いたい」と訴えたのであって、「不味いもんを作るな」と言いたいわけではない。

アリシアが完熟した果実をみて半泣きしたのだ、「ごめんなさい」と。「はやくつまなかったから」と。完熟する前に摘むことで屋台に出せると思っていたのだ。

農園担当の妖精たちに聞いて、ここの農園では完熟した物を売るんだと教えた。そして完熟しすぎたものはジャムにできるとも教えた。そしてジャムの作り方を教えて一緒に作った。完熟した果物は砂糖がいらないのだ。今年はそれで作ったシロップをお湯で割り、ゆず茶も提供している。希望者には甘さにハチミツを加えているが、全員がハチミツを入れる。砂糖もそうだがハチミツも高級品なのだ。
今年はテンサイを育てたため、テンサイから作られた砂糖を使ったジャムがクレープに使われている。

ゼオンのふかし芋はじゃがバターに、焼き芋は揚げ芋大学いもにランクアップした。バターを作るのに牛乳を提供して作り方を教えたら、男の子たちは「誰がいちばん先にバターを作れるか」という競争を始めて、屋台で振る舞ってもまだまだ余っている。バラクルから「余ったら買い取らせて」と言われているため、連日容器にいれて「「「ウオォォォォォ!!!」」」と叫びながら振りまくっている。


一昨年までの屋台では妖精たちが農園で作った日本の野菜を売っていたが、私が販売していると時々バカがホイホイと寄ってくるのだ。

「アクセサリーは何時から販売しますかぁ」
バッコーンッ
「アクセサリーの注文をしたいのですが」
スパコーンッ
「お店の商品は売ってないんですかー?」
ドッコーンッ

購入客ではない人は妖精たちがプラスチック製この世界にはない素材のバットで城門まで吹っ飛ばす。……パーティー会場から城門まで約5キロあるが、そんなこと関係なくよく飛んでいく。そして飛んでいった先ではダンジョン都市シティ管理部が「お帰りはあちら~」と城門の外へ蹴りだしている。
城門の外、それは別名外周部という。そこでは宿が冬季休業中にも関わらず、新年は臨時で開業する。彼らはに気絶したまま追い出された人たちを「行き倒れおいでませ~」と回収していく。放置していてはそのまま「ってらっしゃ~い」となるからだ。至れり尽くせりのお世話をして、出ていくときに高額な宿泊料を請求する。

「「「なんだと!」」」
「「「なんですって!」」」
「当然でございましょう? 当方は冬季休業中です。ですが行き倒れたあなた様を放っておくことは人道上できません。そのため介抱させていただきました。お目覚めになられたときに申し上げたはずです、当方は休業中だと。外周部では宿泊施設はどこも開いておらず、娼館や男娼館で冬を越されるほかはありません。と」

それを聞いた上で、彼らは権力を振るう。「冬が終わるまで泊めろ」と。
それは間違いなく宿泊料の発生を認めるという契約。

料金は休業中の宿に泊まるため割り増し。外周部の宿泊施設を管理している組合は3割で提言している。それでも冬の期間は何ヶ月もあり、宿の提示金額は素泊まり。食事や暖房代は別途請求となれば、小さな宿でも十分な料金かせぎとなる。 

「当方はサービス業ではありますが、無償ではございません。当方はお申し出の通りサービスを提供させていただきました。受けたサービスの代金をお支払いいただくのは当然でございましょう? それもご家族までお呼びになられてのご宿泊、当然のように個室をご利用。もちろん個室の宿泊料も請求させていただいております」

提示された代金に不正はない。すべて正式な契約によって成された上での請求額だ。よって支払い義務が生じる。
なぜここまで私が知っているか。それは冬季休業にも関わらず営業している宿泊施設には管理部から魔導具で監視される。といっても、監視されるのは宿泊者。犯罪に関わっている可能性があるからだ。そして冬のおわりから徐々に出ていこうとして正規の宿泊料を請求されて逆ギレをする。それを未然に防ぐために管理部が警備隊を動かす。
……ただ、映像を確認する人材マンパワーが圧倒的に足りない。

《 こっちも動き出したよ 》
「おい、ルート8の客が出ていく」
『了解した』

足りないから私と妖精たちが臨時でチェックに入る。そのときに会話も聞いているのだ。請求されて素直に支払う人もいるからだ。

《 こっち、怪我してた人も乗合馬車が動くから帰るって 》
「んー、素直に支払ってるな」
「でもそこってルート54でしょ。停留場まで遠くない?」
「ああ、そうだな。ルート54、足を骨折している商人が乗合馬車に乗って帰るらしい。サポートしてくれ」
『わかった』

ルートは宿にあてがわれた番号だ。最初はルーチンだったのが短くなったらしい。『同じことの繰り返し』との意味でつけられていたそうだ。

……この世界にきたときから不思議なんだよ、この英語が当然のように使われているこの世界が。このルーチンもルートも、何百年も前から普通に使われているんだから。元の世界の知識や常識がこの世界にぎゅうっと押し込まれたようで。
漢字の衰退とか中途半端な英語の使用。単語だけかと思ったら『くたばっちまえGo to hell』という言葉もある。ただしアルファベットがあるのに表記がカタカナ。『Goゴー toトゥ hellヘル』だ。

「エミリア、疲れたか? 休憩に入っていいぞ」
《 エミリア、私たちが代わるよー 》
「ありがとう」

魔石ごとに空中に映し出される映像。動きがあるまですることはない。そのため、私たち人間は複数の魔石を監視している。ちなみに妖精たちは1人1つずつ。

「お疲れ様です」
「う~、集中力が切れた~」
「はい、エミリア。糖分よ」

そう言ってリリンがチョコを口に入れてくる。私の好物のヘーゼルナッツだ。

「んんん~、おいし」
「わあい。ピピン、聞いた⁉︎ 私が作ったチョコ、エミリアが美味しいって♪」
「よかったですね」
「うん!」

あれ? 珍しい。いつもはピピンが作っているのを横でお手伝いするだけだったのに。ピピンに頭を撫でられて喜んでいたリリンは「今度はこれ!」とアイスボックスクッキーを差し出してきた。サクッとしてピピンが作ったクッキーと遜色ない。

「これもリリンが?」
「うんっ!」
「今日のお菓子はすべてリリンがひとりで作りました」
「ふえ? ピピンが作ったのと同じ美味しさだよ」

いつの間にこんなに上手になったの?

「エミリア、美味しい?」
「うん、美味しい」
「ホントに?」
「うん、すっごく美味しい」

このとき気付いた。毎日変わらないようで、確実に変わりつつあることを。
それは良いことであり…………悪いことでもあった。
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