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最終章
第710話
しおりを挟むフィムの言葉がようやく脳まで到達したのか、途端に青ざめていくアゴール。心配なのは無事に産まれるかどうか、だろう。
「エミリア。分からなかったのか?」
「アゴールに腕輪つけてもらってるでしょ」
「あ、そっか」
今回は『エルフの祝福』がないため、アゴールにはどんな魔法からも身を守る腕輪を装着してもらっている。そのため、鑑定は使えない。物理的攻撃には、ステータス内の持ち物に『結界の指輪』を入れているため火龍の攻撃からも守られる。だいたい、妖精たちの警備隊がアゴール専用で組まれている。
すでに、ひとりがアゴールに手を出そうとして地上から消された。
ああ、その人は一応生きている。地の妖精に生きたまま地中深くまで沈められたのだ。そして騰蛇と「はじめまして」と顔合わせをした後、騰蛇の体内を通ってプリッと排出。「人生さようなら。魔物未満の生物よ、誕生おめでとう」となった。
「ところで何の生き物?」
《 リトルワーム 》
《 3センチだっけ? 》
《 5センチじゃなかった? 》
簡単にいえばミミズ。この世界にはワームという魔物がいるため、頭にリトルという名前がついている。ちなみに妖精たちの要請で騰蛇が生み出した生き物。だから魔物ではなく、生モノの処理に役立つ生き物だ。それも魂が分裂して10匹のリトルワームが生まれたという。
「あのとき不思議に思ったんだよね。平地でアゴールを突き飛ばそうとしただけにしては重い罰だな~って」
そう、アゴールは背中を押されそうになった。ただし、未遂。妊娠が分かった直後から付きっきりの護衛たちに守られたからだ。それなのに、魂が分裂……たぶん八つ裂きのことだろう。そんな処分が与えられるほど重い罪になるはずがない。
「お腹の中の子、神様か聖霊か。その類が含まれていない?」
シラ~と妖精たち全員の視線が私からそれていく。私が知りたかった理由をダイバたちも気づいて黙る。その探るような視線が妖精たちに向けられると、妖精たちの目が泳ぎ、脂汗がしたたり落ちる。
「……ふぅぅぅん」
私の声にビクリと怯える妖精たち。私は彼の胸に顔を埋めて、それ以上ひとことも口を開かなかった。
私が口を閉ざした理由。それを妖精たちは何となく理解している。「無理に聞かない」という意思表示だ。ただ妖精たちは言えないからこそ、申し訳なさそうに遠巻きに私を見遣る。そんな妖精たちの様子に胸を痛めたのは、コルデさんとアルマンさん。そして彼だった。
エイドニア王国の王都で一緒に住んでいた鉄壁の防衛。私が施設に引きこもったキッカケを彼らは忘れていない。私に後ろめたさを隠しきれなかった自分や仲間たちの視線が、私にはどう見えているかをキッカさんやエリーさんから見せられた。
それと同じ視線を、私を膝にのせていた彼は妖精たちから向けられた。そして自分たちが後ろめたさから真っ直ぐ見られなかった視線が、受ける側には胸に突き刺さることを思い知ったそうだ。
「エミリアさん、いまさら謝っても……」
「いまさらだと思うなら言わないで」
家に帰って、彼が真っ先に口にした。しかし、その言葉を遮る。
キツく言いすぎただろうか。でも『いまさら謝っても遅い』と思っているなら謝らないでほしい。それは彼らの自己満足であり、当時の私の気持ちが癒やされるわけではないのだから。
ただ……私の悲しみ、自分たちのしたこととされたこと。それを知ったのだから、二度と後悔するようなことを繰り返さないでほしい。
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