回復魔法が不要になった最強パーティーから俺は離脱して町の治療師として世界を救う

紡識かなめ

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第11話 癒せない命との出会い

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魔法陣の導入により、診療所の治療効率は格段に向上し、ルシエルたちは、以前にも増して多くの患者を診ることができるようになっていた。下町の人々の信頼も厚く、毎日、診療所は活気に満ち溢れていた。

そんなある日、診療所に、少し困った様子の老人が訪れた。

「先生…どうか、私の息子のことを診てやってください」

老人は、憔悴しきった顔でルシエルに懇願した。

「息子さんは、どのようなご様子ですか?」

ルシエルが優しく尋ねると、老人は、悲しそうな表情で答えた。

「もう、数ヶ月も寝たきりで…体が日に日に弱っていくばかりなんです。色々な医者にも見てもらったんですが、どこも匙を投げてしまって…」

老人の言葉には、深い絶望の色が滲んでいた。

「わかりました。詳しい状況をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

老人の話によると、息子の病は、徐々に体を蝕んでいくもので、激しい痛みはないものの、徐々に動けなくなり、食事もほとんど摂れなくなってきているという。

「一度、ご自宅にお伺いして、息子さんの様子を診させてください」

ルシエルは、そう言って、ナミとエレナと共に、老人の家へと向かった。

老人の家は、下町のさらに奥まった場所にあり、ひっそりと佇んでいた。

案内された部屋には、痩せ細った若い男性が、布団の中で横たわっていた。顔色は悪く、目はうつろで、辛うじて呼吸をしているのがわかる程度だった。

ルシエルは、慎重に男性の状態を診察した。指先から微かな光を送り込み、体の隅々まで状態を確認する。

その結果、ルシエルは、男性が不治の病に侵されていることを悟った。それは、彼の知識の中でも、治療法が見当たらない、非常に稀な病だった。回復魔法をもってしても、この命を繋ぎ止めることは難しいだろう。

ナミは、先生の診察を固唾を飲んで見守っていた。彼女は、これまで、先生の魔法で多くの人が元気になっていくのを見てきた。回復魔法は、どんな病気でも治せる万能の力だと、心のどこかで信じていたのかもしれない。

しかし、目の前の男性の姿は、彼女のその希望を打ち砕くものだった。どんなに優しい光を送っても、男性の衰弱は止まらない。

「先生…この方は…」

ナミは、不安そうな声でルシエルに問いかけた。

ルシエルは、静かに頷き、老人の目を見つめて言った。

「お辛いでしょうが…息子さんの病は、残念ながら、私の力では治すことができません」

老人は、ルシエルの言葉を聞くと、肩を震わせ、深い悲しみに打ちひしがれた。

「そんな…先生でも、ダメなのですか…」

ナミも、その言葉に大きな衝撃を受けた。先生ですら治せない病があるなんて。彼女は、初めて、回復魔法の限界を知った。

エレナは、老人の肩にそっと手を添え、静かに寄り添った。

ルシエルは、しばらく沈黙した後、再び口を開いた。

「治すことはできませんが…痛みを和らげ、少しでも安らかに過ごせるようにすることはできます。もしよろしければ、私ができる限りのことをさせていただきます」

老人は、顔を上げ、かすかな希望を込めてルシエルに言った。

「本当ですか…?どうか、お願いします」

ルシエルは、頷き、男性に優しい回復魔法を施し始めた。それは、治癒を目的としたものではなく、痛みを和らげ、苦しみを軽減するためのものだった。

魔法が施されると、男性の表情が少し和らいだように見えた。呼吸も、いくらか楽になったようだ。

ナミは、先生の背中を見つめながら、複雑な思いを抱いていた。治せない命がある。それでも、先生は、諦めずに、できる限りのことをしようとしている。

その姿を見て、ナミは、回復魔法の本当の意味を、改めて考えさせられた。

ただ病気を治すだけが、医者の役目ではない。

たとえ治せない命であっても、その痛みを和らげ、安らかに見送ることも、また、大切な役目なのだ。

その日の帰り道。

ナミは、ルシエルに静かに問いかけた。

「先生…回復魔法でも、治せない病気があるんですね…」

ルシエルは、少し寂しそうな表情で頷いた。

「ああ。魔法は万能ではない。この世界には、まだ解明されていない病や、抗えない運命というものがあるんだ」

「でも…先生は、それでも、あの人のために魔法を使ったんですね」

「ああ。治せなくても、できることはある。苦痛を和らげ、少しでも穏やかな時間を与えてあげることが、今の私にできる精一杯のことだから」

ルシエルの言葉は、ナミの心に深く響いた。

彼女は、初めて、癒しの本当の意味を理解した気がした。それは、奇跡を起こすことだけではなく、寄り添い、支えることでもあるのだと。

その日以来、ルシエルは、老人の家を定期的に訪れ、男性の痛みを和らげる魔法を施し続けた。ナミとエレナも、できる限りの手伝いをした。

そして、数週間後。

穏やかな日差しが差し込む朝、老人の息子は、家族に見守られながら、静かに息を引き取った。

悲しみに暮れる老人に、ルシエルは、そっと寄り添い、言葉をかけた。

「あなたは、できる限りのことをされました。息子さんも、きっと感謝していると思います」

ナミは、その光景を静かに見つめながら、心に深く刻んだ。

癒せない命との出会い。それは、彼女にとって、回復魔法の限界を知ると同時に、医者としての新たな役割を学ぶ、貴重な経験となった。

痛みを抑えて、安らかに見送ることも、また、大切な癒しなのだと。
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