【ハルピュイアの鎮魂】―禁忌を超えて、魂に、触れる。― ディストピアSFホラー×異形吸血鬼譚×異種族恋愛BL

静谷悠

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中学生編

三十二(2024、夏)

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「それで、こうなったのか」
 
 泥だらけの二人を眺めて、崇は呆れたように言った。どうしても樹が離れようとしなかったので、晶は結局彼をホテルに連れ帰ってきたのである。何とか点呼の時間には間に合ったものの、ここからどう収拾をつけたものか、晶は正直なところノープランだった。
「うーん……ここからどうしたもんか。ともかく、修学旅行が終わるまでは樹も京都にいなくちゃなんだろ」
 崇が頭を捻ってくれているようだったので、晶はとりあえず樹のびしょぬれの服を脱がせ、泥を洗い落として、自分の寝間着用に持ってきた新しいジャージを出してやった。自分も身支度を整えていると、朝食から唐沢が帰ってきた。
「あっ、水埜、どこ行ってたの? 身体大丈夫?」
 唐沢の目が動き、背の高い少年に止まった。
「あれ? 誰?――うちの学年じゃないよな?」
「おれ、いつき」
 樹は、じろじろと唐沢を見ながら、晶と彼の間に割りこんだ。「おまえ、だれ」
「え? いつき?」
 唐沢の口がぽかんと開いた。「え? い、いつきちゃん? ってあの? 水埜の、その、束縛系の、――コイビトの」
「おれ、あきら、こいびと」
 晶が何か言う前に、樹は彼をぎゅっと抱き締め、唐沢を睨みつけた。「おまえ、だれだ」
「え? ええ??」
「ちょ、唐沢、おまえ、ちょっとこっち来い」
 崇は唐沢の肩に腕をかけると、部屋の片隅に引っ張って行った。
「これは、内密の話だが……あれが、正真正銘、晶の恋人のいつきちゃんだ」
「ちょ、ほんとに? そういう??」
「世の中、別段珍しくもないだろ。それはそれとして……」
 崇は、声を顰めた。「大事なのは、いつきちゃんが茨城から晶の薬をわざわざ持ってきてくれたってことだ」
「え、まじで? はるばる?!」
「ああ」
「す、すげえな。めっちゃ愛じゃん」
「ああ、で、問題なのが」
 崇は、唐沢をじっと見た。「今日、いつきちゃんは泊まるところがないんだよ」
「えっ……」
「しかもともかく急いで来たから、一円も持ってないの」
「そんなことあんの??」
「あるんだから、しょうがないだろ。な、唐沢」
 にこっと崇は笑った。「俺たちの泊まる部屋ってさ、もともと四人部屋だったよな?」

 紫穂は、晶の予想に反して、ほっとした顔をした。
「樹くんが来てくれて良かった……晶くんが体調を崩すまで思いつかなくて、迂闊だったわ。やはり、アシュエラ合致の副反応だったのね」
「薫さんも薫さんだよ、言ってくれればいいのに」崇は顔をゆがめた。
「知らないのかもしれないわ。距離が離れるだけで、相互の欠乏症状が起こるということね」手帳の【コンパティビリタス・アシュエラ】の項に加筆しながら、紫穂は呟いた。「致死的になるかもしれないんだから、もっと慎重にしないと……」
「にしてもさ、こいつ、先生とかに見つかったらやっぱり大分まずいよな……?」
 晶は、ぴったりとくっついてくる樹の頭を撫でてやりながら言った。
「うーん、自由行動中は、たまたま京都に住んでる親戚と合流したとか、そういうことにして。集団行動のときはちょっと離れて待っててもらって。夜は、うまいこと紛れ込んでもらう……って感じかな」
「受血だけは途切れないようにしないと、穢狗だってバレたら大変よ」
「俺、スマホで帰りの新幹線取れるから」崇が気前よく言った。「帰ったらトイチで返して」
 ありがたいことに、土産物用の小遣いを多めにもらっていたので、樹に下着と安いサンダルを土産物屋で買い揃える事ができた上、食費も切り詰めれば何とかなりそうだった。樹は、どういうわけか依然として唐沢に対しては敵愾心を抱いているようだったが、班での自由行動を楽しんだ。清水寺では、翼化できるか否か足切りに使われたという清水の舞台の柵に跳び乗って下を見下ろしたり(実際、樹は飛べないので、晶はひやひやした)、土産物屋では真剣な顔で木刀を選ぶ崇に(彼なりの)アドバイスをしたりした。あまりにも暑かったので、二寧坂の茶屋に入って一同はあんみつを楽しむことにし、晶は抹茶ソフトを奢ってやった。
 実のところ、晶も楽しかった。地元では、人目を避けることばかり考えていたので、ほとんど一緒に出かけた試しがなかったのだ。
「あきら、これ、おいしい。いる?」
 樹が、笑顔で食べかけのソフトクリームを差し出したので、晶は深く考えずに一口舐め取った。「ん、美味しい」
「あきらのもほしい」
「いいよ、食べたことある?」言いながら黒蜜のかかった寒天ゼリーをすくってやると、樹はおやつを貰った犬のように嬉しそうに口で受け取った。
「なんかさぁ、……ほんとに、おまえら付き合ってるんだな。っていうかラブラブだな!」
 唐沢が思わずといった様子で突っ込んだ。「こいつら、いつもこんなんなの?」
「もう慣れたわ」
「通常運転かな」
「いや、ほら、こいつはどっちかっていうと犬みたいなもんだし……」
 無意識だった晶は赤面して言い訳したが、樹はむっとしたように言った。「おれ、いぬ、ない。こいびと」
「そうだけどさ」
「こいびと」
「だからごめんって」
「あーあ……」言って、唐沢は拳でテーブルを叩いた。「爆発しろ、リア充め」
 
 
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