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高校生編
十三(2026、冬)
しおりを挟む「――あきら!」
はっ、と息を吸い込んで、晶は目を覚ましていた。凍るような恐怖の残滓が喉につかえた。
「っあ、はあっ、はあっ、はあっ……」
震えながら、目の前の温かな身体にしがみつく。「いつき……樹……」
未だ現実感がなく、涙が次々に頬を伝うのを留められなかった。
腕の中に目を閉じていた樹、そのつめたく重い身体――失ってしまった、そのぬくもりを、二度と取り戻すことができないのだ、と悟ったときの絶望――
自分が殺した。
がたがたと身体が震え、晶は、掠れた息を吐いた。
昨夜見たビデオカメラの画像、白い翼の中にくずおれていた血まみれの少女のイメージがどうしようもなく蘇る。力なく開かれた、形のよい唇、長く反り返った濃い睫毛、血が飛び散った頬――そして、その肌の下で蠢く腫瘍……
蟲になろうとして、死骸のなかで育ち、移動し、融合しようとしている腫瘍。
樹が、蟲になったら――
それだけは、俺は見たくない――
見る前に、どうか俺のいのちが尽きてくれればいい……
「あきら、こわい?」
温かな身体が、そっと抱き寄せてくる。
「こ、こわい……怖い」
「おれがいるよ」
「怖い、樹、こわい……」
「おれがいるよ……」
樹は耳に、首筋に温かく口づけた。「こわくないおまじない、する」
「ん……」
例のとねりこのおまじないをしてくれるのかと思ったが、樹は、晶の上にうずくまると、パジャマの裾を引っ張り上げ、臍の横に口づけた。
「ひゃっ……なに」
「あきら、こわくなくなる」
言いながら唇を這わせる。胸の固い凝りにそれが至ったとき、晶は小さく息を呑んだ。熱い唇が胸を吸い付け、指先がもう片方を弄ぶ。
「……んっ……おまじないって、おまえ、それ……」
「こわくなくなる」
「馬鹿……あっ」
「まだおおきくない」
「おまえなぁ……」
「あきら」熱い手が背中から腰を伝い、晶は身体を震わせた。
「きもちよくしたい……もっと。あきら」
「ん……」
「ちょっとおおきくなった」
「だから、そういうこと言うな……」
「だって、うれしいから」
樹は言いながら温かな手を差し入れ、慈しむように撫でた。「きもちい?」
「馬鹿……」
「ききたい。ここすき?」
耳元に熱い息がかかる。樹の歯が耳たぶをかすめたとき、晶の腰が跳ねた。傷つけるため、血を啜るためではなく、快楽を与えるための歯の感触……樹は、優しく耳介を噛み、軽く首筋にも歯を当てた。自分が同じことをすればどんなに軽く歯を当てても血が流れることだろうが、樹の鈍い歯先は晶を傷つけることなく、ぎりぎりの性感だけを高めてくる。
「きもちい……?」
「う、うん」
「ききたい。きもちいの? あきら……」
「ん、うぁっ、き、気持ちいい――気持ちいよ、樹……」
「うれし……」
浅く温かな息が晶自身にかかった。「おっきくなった……」
熱く柔らかなものに飲み込まれて、晶は声を噛み殺した。惜しみなく樹は愛撫した。唇、舌、喉――喰らわれているかのようでありながら、それは僅かにも晶を傷つけず、喜びだけを与えてきた。
人でなくなったとしても、構わない。
大人になれなくても……
どんな姿に変わろうとも。
もういい。
こいつとともにいられるなら。
まなうらの闇の中では、樹も自分もただ明るく燃える火だった。
「っあ、あっあ、あぁ……」
低く呻きながら晶は達した。両手の指先まで広がる衝動をそのまま解き放ったとき、狭い室内いっぱいに翼が広がった。それは流れる血を透かし、暗い部屋の天井で虹色に輝いた。
常の翼化とは異なり、ただ腕が翼となるにとどまらず、ちょうど鳥の翼のようにそれは背から広がって、胸郭さえ鳥のように変形していた。そこに樹はさらに口づけた。
「あきら……あきら」
軽くなった骨を労るように彼は晶を持ち上げ、そっと膝に座らせた。長い翼が天井を、壁を掻く。晶は、苦労しながら翼を畳んだ。その翼に顔を埋めて、樹は羽毛の一つ一つに口づけた。
「ふわふわしてる」
「おい、くすぐったいよ……」
「きもちい。すべすべ」
「くふっ、ふふ、やめろって……」
「きれい。あきら」
彼は晶の胸元で囁いた。「きれい……」
「おまえも」
晶は伸び上がって樹の瞼に口づけた。小鳥がついばむように、繰り返し口づけを落としていく。もはや、手がそこにないことが自然にすら思われた。晶は口で樹の下履きを引き下ろし、熱く硬くなったものに頬を寄せた。
「う……」
万一にも傷つけたくなかった。含むことはせず舌を出し、先走りの甘さを味わう。唾液を絡め、舐めあげると、樹が低く喉で唸った。
「あきら……あきらぁ、い、いれたい……」
「ん……もうちょっと……」
脈打つように重量を増すそれを唇で支え、音を立てて吸い付く。舌先で先端から溢れる蜜をねぶり取ると、樹が腰を浮かせて唇を割ろうとしてきた。
「こら、無理やりするなよ。怪我すんだろ」
「だって……我慢できない、あきらぁ……」
「しょうがないな……」
晶は、膝を進めて樹に馬乗りになった。身をかがめ、唇を落とす。樹の口は甘く熱かった。僅かに唇をずらして、樹は囁いた。
「あきらののんだよ。おいしくない?」
「もう、おまえの味しかしないかも……」
「あきらも」
樹は舌を出して唇から頬まで舐めた。「あきらのあじ……」
「俺、出来ないから……おまえがして」
樹の指先が身体の中心を探る。
受け容れるために身体の形を変えていくことさえ、もはや強く意識しなくとも可能だった。受け容れたい、深く繋がりあって身体の奥で樹を感じたい……晶の身体はしなやかに樹の指先を受け入れ、ほころびた。
「あ、ああぁあ……樹、はやく……早く、うぅっ」
樹の長い腕が胸郭を抱きしめ、待ち望んだものが身体に割り入ってきた。晶は息を吐いた。体液が内側に擦り付けられるたび、痺れるような快感が腰から下腹に熱を灯していく。
「くあっ、あ、樹、いつき……」
「もっときもちくしたい、あきら……」
息を荒くしながらも、樹はゆっくりと身体を動かした。ふたたび耳たぶに歯を当て、優しく噛みながら身体の中を擦り上げていく。「こえ、きもち?」
「うっ、うっ、くぅっ……」
「ここ?」
「ん……」
涙が勝手に零れ、頬を滴った。
「うれしい……あきら。あきら、きもちいの、うれし……」
「も、もういいから、おまえも――」
勝手に身体の中がうねり、渇望するように樹のものを絞り上げた。飢えは耐え難く、晶はがくがくと身体を震わせた。
(飲みたい――早く、欲しい……ほしい……)
「なに?」
「うっ、だ、だから……」
晶は身体を動かそうとして、手をつくことができずに果たせず、地に落ちた鳥のようにもがいた。
「あきら、いって……」
「くっ、うあ、だからっ、――はやく」
「はやく、なに?」
「――はやく、くれよ、おまえの……」耳元に囁いた。「のませて。奥に」
はっ、と短く息を吐き、樹は晶を突き上げた。
「あきらぁ……っ」
逃げ場もなく抱きしめられたまま律動的に貫かれ、晶はもだえるように羽ばたいた。白い羽毛が舞った。
「うっ、うぁっ、あああっ、――」
その声は和音を含んで震えた。熱い液体が身体の奥に叩きつけられる。
「っ、あ、あぁ……あぁあ……」
餓えるように最奥が収縮し、樹の精液を啜り、飲み下していく……
吸収された熱が腰から指先まで巡り、翼はまばゆく血管に沿って虹色に輝いた。
「おいし? あきら……」
荒い息のまま、樹は耳元に囁き、そこに口づけた。零れた涙をそっと舐め取る。
「う、うん、美味しい、……あぁっ……美味しいよ……」
身体の震えはなかなか収まらず、樹が晶を狭いベッドに横たえ、唇で彼を清める間も続いた。
「あきら、きもちいい、うれしい」
「うんっ……俺も、嬉し……」
「うれしい……あきら、おいしい。すき」
囁きながら、樹は腹にこぼれたものを丁寧に舐め取った。
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