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高校生編
断章(*****、?)
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亜硝酸塩を含む雪が、しんしんと降り始めていた。
そこはかつて山があったとされるが、今やどこまでも風が吹きすさぶ荒野だった。見渡す限り、なんの生命の気配もない――
だが、無人探査機が、生命活動の存在を繰り返し報告してきたのは事実だった。
男は、調査挺の速度を上げた。船体に雪が積もるとあとが面倒だ。船体が重くなると燃料の消費が速くなる。
しばらく艘を走らせたときだった。
なにもない――と思われた荒野に、唐突に、ぽつりと黒い点が生まれた。分厚い雲の下、黒ぐろとわだかまるように見えたのだが、カメラの画質を調整すると、それは濃い緑だった。
緑――植物……?
近づくにつれ、それは明瞭になった……
森が、木々が密集して生育し、天に向かって枝を伸ばしている。それは、一本の巨大な樹に見えた。
(馬鹿な……)
雲のためにつねに薄暗く低温で、腐食性の雪が降り続け、酸素濃度も二パーセントを切るこの地球上に、――植物、それも被子植物と思われる大木が自生しているなんて……
しかも、手元の計器は、「動物」の存在を示唆していた。細胞が生む電磁場の揺らぎが、地上の磁場に僅かに干渉している……
男は、酸素マスクと防護服をつけると挺のタラップを降りた。ほぼ無酸素の大気を呼吸すれば、ほんの一呼吸で昏倒してしまう。注意が必要だった。
大木の根が古い建物の一室を抱くように、守るように伸びていた……その内部だ。
男は、手元の計器を見ながらライトをつけた。人工的な光が、朽ち果てた建物の残骸を照らし出す。
「あ……」
一瞬、男は、巨大な卵を見たのかと思った。白く丸く、閉ざされた――
――それは、羽根だった。
白い翼は、羽毛に覆われた背につながり、なめらかな脊椎は、細い腰につながっている。
呼吸している――
この、無酸素の大気の中で、それは、生きていた。
「まさか……そんな」
男が声を漏らしたとき、僅かに翼が動いた。
その間から、顔が見えた。まだ年若い、少年の顔――その、薄い瞼が開き、まともにそれが男を見た。
七色にきらめく眼差しが、男を貫いた。
男は、悲鳴を飲み込んだ――
見てはいけないものを見た、という理由のない確信に抱きすくめられ、彼は後ずさった。
歳降りた、底しれぬその眼は、限りある生を生きるものが受け止められるものではなかった。男は、左手で酸素マスクを押さえ、必死に藪を漕いで大樹の根方をよろめき出た。
挺に戻った男は、喘ぎながら酸素マスクを外すと、ミラーを覗き込んだ。
そこには、見慣れた――先ほど見た瞳にはくらぶべくもなく弱々しくはあるが――瞬くようなプリズムの虹があった。
*
《世界樹》の根方で、少年は何世紀かぶりに身じろぎ、息をついた。
「ん……あきら?」
彼の胸元で、愛するものもまた身じろぎ、目を開けようとした。
「大丈夫だよ、樹……まだ寝ていろよ」
「ん……」
夢うつつに、彼は微笑んだ。呼吸がふたたび穏やかな寝息に変わるのを、少年は静かに聞いていた。彼は、白い翼をもう一度固く閉じ合わせると、その中で自分も目を閉じた。
そこはかつて山があったとされるが、今やどこまでも風が吹きすさぶ荒野だった。見渡す限り、なんの生命の気配もない――
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しばらく艘を走らせたときだった。
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緑――植物……?
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しかも、手元の計器は、「動物」の存在を示唆していた。細胞が生む電磁場の揺らぎが、地上の磁場に僅かに干渉している……
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「あ……」
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――それは、羽根だった。
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呼吸している――
この、無酸素の大気の中で、それは、生きていた。
「まさか……そんな」
男が声を漏らしたとき、僅かに翼が動いた。
その間から、顔が見えた。まだ年若い、少年の顔――その、薄い瞼が開き、まともにそれが男を見た。
七色にきらめく眼差しが、男を貫いた。
男は、悲鳴を飲み込んだ――
見てはいけないものを見た、という理由のない確信に抱きすくめられ、彼は後ずさった。
歳降りた、底しれぬその眼は、限りある生を生きるものが受け止められるものではなかった。男は、左手で酸素マスクを押さえ、必死に藪を漕いで大樹の根方をよろめき出た。
挺に戻った男は、喘ぎながら酸素マスクを外すと、ミラーを覗き込んだ。
そこには、見慣れた――先ほど見た瞳にはくらぶべくもなく弱々しくはあるが――瞬くようなプリズムの虹があった。
*
《世界樹》の根方で、少年は何世紀かぶりに身じろぎ、息をついた。
「ん……あきら?」
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「ん……」
夢うつつに、彼は微笑んだ。呼吸がふたたび穏やかな寝息に変わるのを、少年は静かに聞いていた。彼は、白い翼をもう一度固く閉じ合わせると、その中で自分も目を閉じた。
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