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大学決闘編
七、死神
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毛布の中は温かくて居心地がよく、慣れた恋人の肌の匂いがした……レッチェンは、半分眠りながらぬくもりに手を伸ばし、恋人の脇の下に頭を擦り付けた。
ルードルフの指が、髪を梳き、耳に、首筋に触れてくる。くすぐったくて、レッチェンは夢うつつに笑みを浮かべた。瞼に唇が落ちてくる……前夜に身体に刻まれた喜びがまだ気怠くまとわりつく中、ルードルフの唇の感触が記憶を呼び起こし、レッチェンは低くため息を漏らした……
――髪を撫でて、恋人はささやいた。
(行ってくる)
息を飲んで、レッチェンは目を開けた。
寝台は冷え切り、彼はがらんとした室内に一人だった。
扉が叩かれた。
「おい、そろそろ行くぞ。準備出来てるか?」
レッチェンは、のろのろと寝台から出た。「悪い……ちょっと待っててくれ」
青年が身支度を整えて出ていくと、アルトバッハとエーミルが立っていた。エーミルは、青年にチーズ入りの小さいパンを押しつけた。「おまえ、また朝飯食べてないだろ。倒れる前に食っとけよ」
青年は、礼を行って受け取った。
「まあ、急ぐこともないか。関係者だって言えば、最前列に行けるだろ」とアルトバッハが言った。
全く食欲がなかったが、レッチェンは、まだ温かなブレートヒェンを口に入れた。味が分からない中、ひたすらに咀嚼する。
(エーミルの言う通りだ……今日は、倒れてる訳には行かない)彼は僅かにぱさつくパンをなんとか飲み下した。
(あいつを、最後まで見届けるって決めたんだ……)
空は、残酷なまでに晴れ上がり、冷たい風が時折吹き下ろしてくる。レッチェンは、軽く肩を震わせ、襟巻きに首をうずめた。
大学に近づくにつれて、道は混み始めた。屋台も出ていて、まるで祭りのようなありさまだった。ホットワインが売られ、ほろ酔い気分の男たちが笑い声を上げて決闘の行方を予想している。子どもが走り回り、賭け事師が呼ばわる。「さあさあ! エーデルクロッツが何人勝ち抜くか、予想したか? 五人、六人、大穴、十人抜きはいるか?」
青ざめたレッチェンを、連れは挟むように歩いた。賑やかな通りで、黙りこくって歩く三人は周りから酷く浮いていた。
会場周辺はさらに混み合い、進むのも難しくなった。エーミルが屋台の裏に二人を先導し、桟敷席の裏手に導いた。
「ちょっと、通してくれ」
アルトバッハが商人の間を抜けて、縄を越え、無理やりに広場の中へと進み出た。袖に黒い腕章を着けた自警団の男が行く手を遮る。「ここから先は立ち入り禁止だ! 戻れ!」
「関係者だ。立会人と、後見人だよ」
アルトバッハは言い、身体をはすにしてレッチェンを通した。
自警団員は怪訝そうに彼らのみすぼらしい風体を睨め回した。レッチェンは名乗った。「俺がゲオルク・アルブレヒト・フォン・ドルーゼンだ。席に案内してもらおう」
貴族席は、簡易椅子と小卓、火鉢がしつらえられ、毛皮で裏打ちされた天幕で覆われていた。ローレは、隣に座るマルレーネ侯爵夫人にささやいた。「叔母様、ゲオルクが来ましたわ……」
侯爵夫人は、震える手を温めるように、チョコレートのカップを両手で持っていたが、一口も口にしていなかった。広場の反対側に見えた彼女の息子は、痩せた身体を枯れ葉色のローブに包み、深々と襟巻きをしていたが、遠目にも顔色が悪く、今にも倒れそうに思われた。
「見ていることしかできないというのは」
ふと息をついて、彼女は呟いた。「こんなにも過酷なものですのね……」
ローレは、火鉢に当たっても震えてくる両手を、固く握りしめた。
公証人が、広場の中央に進み出た。
喋り交わしていた群衆が徐々に静まっていく。凍るような風が、澄み切った空から吹き下ろし、天幕をはためかせた。
かつらと紺色のジャストコールを身にまとった初老の公証人は、枯れた芝生の上に立ち、巻物風の書類を広げると、大音声で読み上げた。
「これは、リースリンク決闘法典に則った【名誉か死か】の決闘である。
剣士ルードルフ・エーデルクロッツは、挑戦者としてギュンター・フォン・レドリッヒ卿に手袋を投げた。この日この時刻より、いずれか本人の死、もしくは完全なる降伏をもってしか、両名に安寧は訪れない。両者は決闘にあたり代理人を立てることが可能であるが、代理人の死もしくは降伏は、決闘の終結を意味しない。決闘は日没までは継続して行われ、終結しない場合は、翌朝日の出より継続される。なお、この決闘の記録は、アルトシュタット都市裁判所に記録として残される。では、両者および代理人、前へ!」
群衆は、ざわめいた。
赤みがかった金髪を風になびかせて、ギュンター・フォン・レドリッヒが歩み出た。彼は深い青に金の縫い取りのあるライトロックを颯爽と着こなし、細剣を腰に佩いていた。が、むしろ人目を引いたのは、彼が伴った代理人たちだったろう。中には他家の剣士として決闘の場でよく見られる顔、歴戦の傭兵として知られる男もあり、細剣を持つものも両手剣のものも様々で、およそ十人は下らないと思われた。中でも、額に真横に傷のある男は、先年ラインリーデ戦役で敵の一個小隊と戦ったおりに敗走する兵士まで追いかけて殲滅したと噂される傭兵で、分厚い両手剣を背負ったシルエットから、「斜め十字のヘルマン」と呼ばれる男だった。
対して、エーデルクロッツ……天幕から、足音もなく進み出た彼は、たった一人だった。
蒼穹に昇る真冬の太陽が漆黒の外套に身を包んだ長身の剣士を照らし出し、短い影を広場の枯れた芝生の上に投げかけた。
レッチェンは、冷え切った乾いた空気を肺に吸い込み、独り立ちつくす恋人の後ろ姿を見つめた……その後ろ姿は、いつものようにあくまで静謐であり、野生の獣を思わせる荒削りな優雅さを秘めていた。
(俺があくまでも拒否していたら、あいつはここにいなかった)
彼はローブの胸元を掴んだ。
(俺が後見人を断っていれば……あいつは……少なくとも、死ぬことはないはずなのに……)
彼が必死になって毒から救い、死の世界から取り戻した恋人、何よりもかけがえのないものが再び失われようとしている事実がひたひたと胸に迫り、レッチェンは一瞬呼吸ができなくなった。
だが、ルードルフは言ったのだ……
それが、自分なのだと。
(だから、俺は……おまえを見ている。
おまえが、俺のために生命を賭けるところを、見ているよ)
かすれた声で、レッチェンはささやいた。
「ルーディ……死ぬな……!」
金髪の貴公子は、剣士に向き直り、嘲るように言った。
「尻尾を巻いて逃げ出したかと思ったが、命知らずにも、のこのこ猟師の前に出てきたのか、狼め。もしも後悔しているのならば、今すぐ這いつくばって許しを乞えば、生命だけは見逃してやらんでもないぞ」
「貴様の生命も懸かっていることを忘れるな、ギュンター・フォン・レドリッヒ」
ルードルフは、底冷えする声音で返答した。「金で雇った人間の後ろに好きなだけ逃げ隠れするがいい……いつまでそうやっていられるか見ものだな」
静まり返った広場は、しわぶきの音一つすら聞き取れるほどだった。
公証人が声を放った。
「第一決闘、出場者は前へ! 立会人は武器を改めよ!」
立会人として、アルトバッハが前に進み出たが、相手の代理剣士として歩み出た男を見てぎくりとした。それは、残忍として知られる額に傷の傭兵、「斜め十字のヘルマン」であり、改められるべく置かれた武器はその巨大な両手剣だった。当然のこととはいえ、その分厚い剣には、何の小細工もないことを、彼は確認した。冬至祭における暗殺未遂事件の顛末を聞いていたアルトバッハは、慎重だった。
戻ってきたアルトバッハに、レッチェンは小声で聞いた。
「あいつ、強いのか……?」
「戦うところは見たことがない。が……三下じゃないことは確かだ。あいつと一緒に戦った兵士から話を聞いたことがある。やつの通った後は、血の河のようだったそうだ」
レッチェンは、浅い息を吸い込んだ……ヘルマンは、背の高さこそルードルフに及ばなかったが、肩と胸の肉は厚く、その重たい両手剣に相応しかった。
「両者、前へ!」
公証人が呼ばわった。
進み出る二人を残して、天幕までギュンターも他の代理剣士も後退した。縄で囲まれた広々とした芝生の広場には、二人の男……黒い外套のルードルフ・エーデルクロッツと、斜め十字のヘルマンのみが残された。
抜剣したルードルフは、低くささやいた。「おまえが一番手か……運が悪いな、ヘルマン」
至近でルードルフの表情を目にすることができた観客は、ぞっとしたに違いない。その氷のような蒼い瞳には、何の感情も浮かんでいなかった。
唇に微笑を刻んで、ヘルマンは応えた。
「運が悪いのはおまえだろう、ルードルフ・エーデルクロッツ。当代随一の剣士か知らないが、この両手剣にいい箔が付くというものだ」
ルードルフの言葉は、死神のそれのように響いた……
「最後に、一度だけ、機会をやる。
今ならば、帰れるぞ。おまえの女か、家族か……愛するもののところに」
しかし、ヘルマンは、せせら笑った。「なんだ、随分とお優しいな、エーデルクロッツ……戦場に、情は不要だ。そうじゃないか?」
ルードルフの声は、雪の一片が舞い降りるように密やかで、かつ、凍るような冷ややかさだった。
「では……それが、おまえの選択なのだな」
「両者、構え……始め!!」
公証人が声を上げた瞬間だった。
ヘルマンが走り抜けざま、大きく水平に両手を振り抜いた……多くの観客の眼には、胴を真横に絶たれた剣士の姿が映像として映ったかもしれない。が、その瞬間、ルードルフは跳躍していた。真横に移動する両手剣を踏んで、ルードルフは、すれ違いざまに傭兵を跳び越えていた。
ひっ、と息を飲んだのは、近くで見ていた群衆の大部分だった。子どもを連れてきていた親は、わが子の目を覆っていた。
重たいブーメランのように、両手剣が回転して、枯れた芝生に刺さった。
噴水のように鮮血が噴き上がり、首を半ば断たれた斜め十字のヘルマンは、二、三歩頭をぐらつかせながら歩き、泳ぐように空をつかんで、次いで、どっと倒れ伏した。
血溜まりがみるみるうちに広がる。
ルードルフの頬には、わずかに血飛沫がかかっていたが、それだけだった……
黒い影のように、もしくは翼を広げた死神のように、ルードルフは、風に外套を広げて降り立った。乾いた芝生がつま先に沈み、浮いた外套がふわりと元の場所に戻った……
どこからか、悲鳴が上がった……
【名誉か死か】という決闘を見に来た人々の多くは、ここで本当に「死」を目撃しようとは、思っていなかったのだ。
ビュッと剣を振って、ルードルフは刀身についた血液を払った。それは、鋭い血痕となって、乾いた芝生の上に点々と飛び散った。
公証人ですら、動揺を隠せなかった……喘ぎながら、老人は宣言した。
「し……勝者、エーデルクロッツ!」
しばらく、圧倒的な沈黙が場を支配した。
ざわざわと、声が回復したのは、レドリッヒ側の天幕だった。だれが次の代理剣士となるかで、揉めているようではあった…
魔王その人のような冷酷さで、ルードルフは、言った。
「次は、誰だ……? 誰でもいいぞ。すぐに、後を追わせてやろう……」
観客には、黒衣の剣士は、闇をそこに刻んだかのように忌まわしく見えた……それは、代理剣士たちにとっても同じだった。
押し出されるように、前に出てきたのは、まだ、年若い剣士だった。彼は、アルトバッハが剣を改める間、木の葉のように震えていた。
ルードルフは、そっと剣を差し伸べ、彼に言った。
「次は、おまえか。いくらもらったんだ……それは、おまえの葬式代よりは、高かったか?」むしろ、憐れむように、彼はささやいた。「おまえの親は、喜ぶか? 多少の金をもらって……おまえの冷たい骸を抱くことになって、喜ぶのか? 今なら、まだ、言えるぞ……戦いを、降りると」
涙が、若い戦士の頬をこぼれ落ちた……彼は、いいかけた、辞める、降りると。だが、その時、ギュンターが言い放った。「いいのか、金は戦わないと支払われないぞ! おまえの親は、金がいるはずだ……今が生命を賭けるときではないのか!」
喘ぎながら、戦士は、剣を持ち直した。彼は、泣きながら、剣をルードルフに向けた……ルードルフは、わずかに目を細めた。
「殘念だ」
「第二決闘、出場者は前へ!」
公証人が、呼ばわった。
年若い戦士は、しゃくりあげながら、剣を握りしめた。対する剣士の瞳は、あくまでも静かだった。
「構え……始め!」
公証人の声が響きわたったとき、若い戦士は、両手で剣を支え、声をあげながら打ちかかった……
一瞬、観客は、若者がそのまま走り抜けたのかと思った。
剣を握った両手が、そのまま宙を飛んだのだ。
「あ……ああ……あぁ……」
青年は、喘ぎながら、くずおれた。彼の手は、手首より下から切り離され、そこからぼたぼたと血液が滴った。
剣を振るったルードルフは、返り血すら浴びてはいなかった。
見ていた者で、戦慄しないものはなかった……たったその一瞬で、不具として生きることを運命づけられた若者に、ルードルフはそっと剣の切っ先を突きつけた。
「さて、もう一度同じことを聞こう。
死か、降伏か……あるいは、死のほうが、楽だと思うかもしれないな。自分で飯も食えず働けもせず、人の手をわずらわせて生きる生が、おまえを待っているぞ。その手で愛しい女の髪をくしけずることも」ルードルフは、ちょっと言葉を切り、静かな痛みを込めて続けた。「もう、できない」
「死にたくない……死にたくない!!」
若者は、泣き叫んだ。彼の足元には、ぬめる血液で小さい水たまりができつつあり、それはじわじわと広がっていた。「俺は、降りる! もう、いやだ……死にたくない!!」
悲痛な声に、ざわめきが広がっていく。
ルードルフは、目を伏せて言った。「賢明な判断だ……」
「勝者、エーデルクロッツ!!」
重傷を負った若者は血止めを受け、天幕に引きずって行かれた。ざわめきの中から、泣き叫ぶような声がした。「俺も……俺も降りる! あんな奴に勝てるわけがない……いくら……金を貰ったって、わざわざ生命を捨てに行く馬鹿が、いるものか!!」
この悲鳴は、代理剣士たちの内心を、代弁していた。凄惨な生命のやりとりにあって、ただ金を稼ぎに来ただけの彼らに、もはや名誉も恥もなかった。一人、また一人と彼らは、死に神に指さされた者のように必死に、天幕からよろめきでると、その場を後にして群衆に紛れた。
「貴様ら……どこへ行く! 契約を履行しろ!!」ギュンターは、青ざめて叫んだが、一度歯止めが壊れた集団に、留まる気配はなかった。逃げる背に群衆のそこここからざわめきが起こった。誰もが、吸い寄せられるように黒衣の剣士を一瞥し、そして、その蒼い瞳を避けるように、慌てて視線を外した。ルードルフの足元に残った血の臭いは、冷たい風に乗って広がり、決闘場全体を覆い尽くしていた。
「エーデルクロッツ……強すぎるだろ」
黒い影を見つめ、震える声でささやいたのは、エーミルだった。つい先日彼が言った言葉を、レッチェンは卒然と思い返した……
(俺なら、いくら金を出されても、死ぬのなんて嫌だけどなぁ)
結局、正しいのは、この少年だったのだ……
死ぬと分かっている戦いに、いくら金を積まれても赴くものなどいない。
(生命は……人の身体は、贖うことなどできないんだ……たとえ、指の一本だとて、一度、損なわれたら、二度と取り返せない)
温かく心臓が脈打ち、隅々にまで血液を届け、呼吸を、消化を、運動を続けるこの精密な身体は、――人を愛し、愛されることのできる人生は、たった剣の一振りで壊れ、取り返すことができないものだ。
レッチェンは、赤く染まった芝生を凝然と眺めた……
金で生命を贖えると信じるのは、「死」を目の当たりにしたことのないものだけだ。
死そのもののように、ごく自然な優美さで、剣士はそこに佇んでいる。凍るような風がその黒髪を乱し、外套を翻した。
(あいつは……敢えて、無惨な勝ち方で、それを見せつけたんだ。
勝つために。生き残るために……)
ちらりと見えた剣士の横顔には、鋼を思わせる決意があった。冷えた空気に、その黒い影は鋭い輪郭を刻んでいた。
「どうした……ギュンター・フォン・レドリッヒ。おまえのために生命を賭けてくれる人間は、もういないのか」
冷ややかに、ルードルフは、言った。
ここまでが上手くいくかどうかは、賭けのようなものだった。少しでも、勝てるかもしれない、と思わせてしまえば、敵の降伏は誘えない。いかにルードルフといえど、繰り返しの戦闘が続けば疲弊し、剣の切れ味も鈍ってくる。生き残るためには、あくまで、絶対的に、無慈悲に、敵を圧倒する必要があった……最初の二人は、不運としか言いようがなかったが、ルードルフは自分の勝ち目を手放すつもりはなかった。
ここは、戦場だ。
(ギュンター・フォン・レドリッヒ、貴様はそれを分かっているか?)
ルードルフは、細めた目を金髪の貴公子に当てた。ギュンターのいつも冷笑をたたえていた口元はゆがみ、目には焦りと恐怖が浮かんでいる。
(もっと恐れ、怯えるがいい)
ルードルフの胸中に、紛れもない憎悪が立ち上がり、彼はぎりっと歯を噛み締めた。地下牢の冷たい床に倒れていた恋人の姿が眼裏に浮かぶ。
(あいつが味わったであろう苦痛を、絶望を、骨の髄まで味わうがいい……!)
一歩たりと近づいたわけでもなく、剣を突きつけたわけでもなかったが、その視線を浴びたギュンターは、笛のような音を立てて息を飲んだ……
彼は、悲鳴のように叫んだ。「ヴィーゼル……出番だ! 殺せ、こいつを、殺せ!!」
ルードルフは、低く息を吐き、剣を握り直した。
天幕の奥から姿を現した熊を思わせる分厚い体躯の男は、かつて袂を別った相棒に間違いなかった。
「やれやれ……ルードルフ・エーデルクロッツとガチでやり合うのか。こいつは高くつくぜ、ヘル・レドリッヒ」
ヴィーゼルは、低い声で言った。
ルードルフの指が、髪を梳き、耳に、首筋に触れてくる。くすぐったくて、レッチェンは夢うつつに笑みを浮かべた。瞼に唇が落ちてくる……前夜に身体に刻まれた喜びがまだ気怠くまとわりつく中、ルードルフの唇の感触が記憶を呼び起こし、レッチェンは低くため息を漏らした……
――髪を撫でて、恋人はささやいた。
(行ってくる)
息を飲んで、レッチェンは目を開けた。
寝台は冷え切り、彼はがらんとした室内に一人だった。
扉が叩かれた。
「おい、そろそろ行くぞ。準備出来てるか?」
レッチェンは、のろのろと寝台から出た。「悪い……ちょっと待っててくれ」
青年が身支度を整えて出ていくと、アルトバッハとエーミルが立っていた。エーミルは、青年にチーズ入りの小さいパンを押しつけた。「おまえ、また朝飯食べてないだろ。倒れる前に食っとけよ」
青年は、礼を行って受け取った。
「まあ、急ぐこともないか。関係者だって言えば、最前列に行けるだろ」とアルトバッハが言った。
全く食欲がなかったが、レッチェンは、まだ温かなブレートヒェンを口に入れた。味が分からない中、ひたすらに咀嚼する。
(エーミルの言う通りだ……今日は、倒れてる訳には行かない)彼は僅かにぱさつくパンをなんとか飲み下した。
(あいつを、最後まで見届けるって決めたんだ……)
空は、残酷なまでに晴れ上がり、冷たい風が時折吹き下ろしてくる。レッチェンは、軽く肩を震わせ、襟巻きに首をうずめた。
大学に近づくにつれて、道は混み始めた。屋台も出ていて、まるで祭りのようなありさまだった。ホットワインが売られ、ほろ酔い気分の男たちが笑い声を上げて決闘の行方を予想している。子どもが走り回り、賭け事師が呼ばわる。「さあさあ! エーデルクロッツが何人勝ち抜くか、予想したか? 五人、六人、大穴、十人抜きはいるか?」
青ざめたレッチェンを、連れは挟むように歩いた。賑やかな通りで、黙りこくって歩く三人は周りから酷く浮いていた。
会場周辺はさらに混み合い、進むのも難しくなった。エーミルが屋台の裏に二人を先導し、桟敷席の裏手に導いた。
「ちょっと、通してくれ」
アルトバッハが商人の間を抜けて、縄を越え、無理やりに広場の中へと進み出た。袖に黒い腕章を着けた自警団の男が行く手を遮る。「ここから先は立ち入り禁止だ! 戻れ!」
「関係者だ。立会人と、後見人だよ」
アルトバッハは言い、身体をはすにしてレッチェンを通した。
自警団員は怪訝そうに彼らのみすぼらしい風体を睨め回した。レッチェンは名乗った。「俺がゲオルク・アルブレヒト・フォン・ドルーゼンだ。席に案内してもらおう」
貴族席は、簡易椅子と小卓、火鉢がしつらえられ、毛皮で裏打ちされた天幕で覆われていた。ローレは、隣に座るマルレーネ侯爵夫人にささやいた。「叔母様、ゲオルクが来ましたわ……」
侯爵夫人は、震える手を温めるように、チョコレートのカップを両手で持っていたが、一口も口にしていなかった。広場の反対側に見えた彼女の息子は、痩せた身体を枯れ葉色のローブに包み、深々と襟巻きをしていたが、遠目にも顔色が悪く、今にも倒れそうに思われた。
「見ていることしかできないというのは」
ふと息をついて、彼女は呟いた。「こんなにも過酷なものですのね……」
ローレは、火鉢に当たっても震えてくる両手を、固く握りしめた。
公証人が、広場の中央に進み出た。
喋り交わしていた群衆が徐々に静まっていく。凍るような風が、澄み切った空から吹き下ろし、天幕をはためかせた。
かつらと紺色のジャストコールを身にまとった初老の公証人は、枯れた芝生の上に立ち、巻物風の書類を広げると、大音声で読み上げた。
「これは、リースリンク決闘法典に則った【名誉か死か】の決闘である。
剣士ルードルフ・エーデルクロッツは、挑戦者としてギュンター・フォン・レドリッヒ卿に手袋を投げた。この日この時刻より、いずれか本人の死、もしくは完全なる降伏をもってしか、両名に安寧は訪れない。両者は決闘にあたり代理人を立てることが可能であるが、代理人の死もしくは降伏は、決闘の終結を意味しない。決闘は日没までは継続して行われ、終結しない場合は、翌朝日の出より継続される。なお、この決闘の記録は、アルトシュタット都市裁判所に記録として残される。では、両者および代理人、前へ!」
群衆は、ざわめいた。
赤みがかった金髪を風になびかせて、ギュンター・フォン・レドリッヒが歩み出た。彼は深い青に金の縫い取りのあるライトロックを颯爽と着こなし、細剣を腰に佩いていた。が、むしろ人目を引いたのは、彼が伴った代理人たちだったろう。中には他家の剣士として決闘の場でよく見られる顔、歴戦の傭兵として知られる男もあり、細剣を持つものも両手剣のものも様々で、およそ十人は下らないと思われた。中でも、額に真横に傷のある男は、先年ラインリーデ戦役で敵の一個小隊と戦ったおりに敗走する兵士まで追いかけて殲滅したと噂される傭兵で、分厚い両手剣を背負ったシルエットから、「斜め十字のヘルマン」と呼ばれる男だった。
対して、エーデルクロッツ……天幕から、足音もなく進み出た彼は、たった一人だった。
蒼穹に昇る真冬の太陽が漆黒の外套に身を包んだ長身の剣士を照らし出し、短い影を広場の枯れた芝生の上に投げかけた。
レッチェンは、冷え切った乾いた空気を肺に吸い込み、独り立ちつくす恋人の後ろ姿を見つめた……その後ろ姿は、いつものようにあくまで静謐であり、野生の獣を思わせる荒削りな優雅さを秘めていた。
(俺があくまでも拒否していたら、あいつはここにいなかった)
彼はローブの胸元を掴んだ。
(俺が後見人を断っていれば……あいつは……少なくとも、死ぬことはないはずなのに……)
彼が必死になって毒から救い、死の世界から取り戻した恋人、何よりもかけがえのないものが再び失われようとしている事実がひたひたと胸に迫り、レッチェンは一瞬呼吸ができなくなった。
だが、ルードルフは言ったのだ……
それが、自分なのだと。
(だから、俺は……おまえを見ている。
おまえが、俺のために生命を賭けるところを、見ているよ)
かすれた声で、レッチェンはささやいた。
「ルーディ……死ぬな……!」
金髪の貴公子は、剣士に向き直り、嘲るように言った。
「尻尾を巻いて逃げ出したかと思ったが、命知らずにも、のこのこ猟師の前に出てきたのか、狼め。もしも後悔しているのならば、今すぐ這いつくばって許しを乞えば、生命だけは見逃してやらんでもないぞ」
「貴様の生命も懸かっていることを忘れるな、ギュンター・フォン・レドリッヒ」
ルードルフは、底冷えする声音で返答した。「金で雇った人間の後ろに好きなだけ逃げ隠れするがいい……いつまでそうやっていられるか見ものだな」
静まり返った広場は、しわぶきの音一つすら聞き取れるほどだった。
公証人が声を放った。
「第一決闘、出場者は前へ! 立会人は武器を改めよ!」
立会人として、アルトバッハが前に進み出たが、相手の代理剣士として歩み出た男を見てぎくりとした。それは、残忍として知られる額に傷の傭兵、「斜め十字のヘルマン」であり、改められるべく置かれた武器はその巨大な両手剣だった。当然のこととはいえ、その分厚い剣には、何の小細工もないことを、彼は確認した。冬至祭における暗殺未遂事件の顛末を聞いていたアルトバッハは、慎重だった。
戻ってきたアルトバッハに、レッチェンは小声で聞いた。
「あいつ、強いのか……?」
「戦うところは見たことがない。が……三下じゃないことは確かだ。あいつと一緒に戦った兵士から話を聞いたことがある。やつの通った後は、血の河のようだったそうだ」
レッチェンは、浅い息を吸い込んだ……ヘルマンは、背の高さこそルードルフに及ばなかったが、肩と胸の肉は厚く、その重たい両手剣に相応しかった。
「両者、前へ!」
公証人が呼ばわった。
進み出る二人を残して、天幕までギュンターも他の代理剣士も後退した。縄で囲まれた広々とした芝生の広場には、二人の男……黒い外套のルードルフ・エーデルクロッツと、斜め十字のヘルマンのみが残された。
抜剣したルードルフは、低くささやいた。「おまえが一番手か……運が悪いな、ヘルマン」
至近でルードルフの表情を目にすることができた観客は、ぞっとしたに違いない。その氷のような蒼い瞳には、何の感情も浮かんでいなかった。
唇に微笑を刻んで、ヘルマンは応えた。
「運が悪いのはおまえだろう、ルードルフ・エーデルクロッツ。当代随一の剣士か知らないが、この両手剣にいい箔が付くというものだ」
ルードルフの言葉は、死神のそれのように響いた……
「最後に、一度だけ、機会をやる。
今ならば、帰れるぞ。おまえの女か、家族か……愛するもののところに」
しかし、ヘルマンは、せせら笑った。「なんだ、随分とお優しいな、エーデルクロッツ……戦場に、情は不要だ。そうじゃないか?」
ルードルフの声は、雪の一片が舞い降りるように密やかで、かつ、凍るような冷ややかさだった。
「では……それが、おまえの選択なのだな」
「両者、構え……始め!!」
公証人が声を上げた瞬間だった。
ヘルマンが走り抜けざま、大きく水平に両手を振り抜いた……多くの観客の眼には、胴を真横に絶たれた剣士の姿が映像として映ったかもしれない。が、その瞬間、ルードルフは跳躍していた。真横に移動する両手剣を踏んで、ルードルフは、すれ違いざまに傭兵を跳び越えていた。
ひっ、と息を飲んだのは、近くで見ていた群衆の大部分だった。子どもを連れてきていた親は、わが子の目を覆っていた。
重たいブーメランのように、両手剣が回転して、枯れた芝生に刺さった。
噴水のように鮮血が噴き上がり、首を半ば断たれた斜め十字のヘルマンは、二、三歩頭をぐらつかせながら歩き、泳ぐように空をつかんで、次いで、どっと倒れ伏した。
血溜まりがみるみるうちに広がる。
ルードルフの頬には、わずかに血飛沫がかかっていたが、それだけだった……
黒い影のように、もしくは翼を広げた死神のように、ルードルフは、風に外套を広げて降り立った。乾いた芝生がつま先に沈み、浮いた外套がふわりと元の場所に戻った……
どこからか、悲鳴が上がった……
【名誉か死か】という決闘を見に来た人々の多くは、ここで本当に「死」を目撃しようとは、思っていなかったのだ。
ビュッと剣を振って、ルードルフは刀身についた血液を払った。それは、鋭い血痕となって、乾いた芝生の上に点々と飛び散った。
公証人ですら、動揺を隠せなかった……喘ぎながら、老人は宣言した。
「し……勝者、エーデルクロッツ!」
しばらく、圧倒的な沈黙が場を支配した。
ざわざわと、声が回復したのは、レドリッヒ側の天幕だった。だれが次の代理剣士となるかで、揉めているようではあった…
魔王その人のような冷酷さで、ルードルフは、言った。
「次は、誰だ……? 誰でもいいぞ。すぐに、後を追わせてやろう……」
観客には、黒衣の剣士は、闇をそこに刻んだかのように忌まわしく見えた……それは、代理剣士たちにとっても同じだった。
押し出されるように、前に出てきたのは、まだ、年若い剣士だった。彼は、アルトバッハが剣を改める間、木の葉のように震えていた。
ルードルフは、そっと剣を差し伸べ、彼に言った。
「次は、おまえか。いくらもらったんだ……それは、おまえの葬式代よりは、高かったか?」むしろ、憐れむように、彼はささやいた。「おまえの親は、喜ぶか? 多少の金をもらって……おまえの冷たい骸を抱くことになって、喜ぶのか? 今なら、まだ、言えるぞ……戦いを、降りると」
涙が、若い戦士の頬をこぼれ落ちた……彼は、いいかけた、辞める、降りると。だが、その時、ギュンターが言い放った。「いいのか、金は戦わないと支払われないぞ! おまえの親は、金がいるはずだ……今が生命を賭けるときではないのか!」
喘ぎながら、戦士は、剣を持ち直した。彼は、泣きながら、剣をルードルフに向けた……ルードルフは、わずかに目を細めた。
「殘念だ」
「第二決闘、出場者は前へ!」
公証人が、呼ばわった。
年若い戦士は、しゃくりあげながら、剣を握りしめた。対する剣士の瞳は、あくまでも静かだった。
「構え……始め!」
公証人の声が響きわたったとき、若い戦士は、両手で剣を支え、声をあげながら打ちかかった……
一瞬、観客は、若者がそのまま走り抜けたのかと思った。
剣を握った両手が、そのまま宙を飛んだのだ。
「あ……ああ……あぁ……」
青年は、喘ぎながら、くずおれた。彼の手は、手首より下から切り離され、そこからぼたぼたと血液が滴った。
剣を振るったルードルフは、返り血すら浴びてはいなかった。
見ていた者で、戦慄しないものはなかった……たったその一瞬で、不具として生きることを運命づけられた若者に、ルードルフはそっと剣の切っ先を突きつけた。
「さて、もう一度同じことを聞こう。
死か、降伏か……あるいは、死のほうが、楽だと思うかもしれないな。自分で飯も食えず働けもせず、人の手をわずらわせて生きる生が、おまえを待っているぞ。その手で愛しい女の髪をくしけずることも」ルードルフは、ちょっと言葉を切り、静かな痛みを込めて続けた。「もう、できない」
「死にたくない……死にたくない!!」
若者は、泣き叫んだ。彼の足元には、ぬめる血液で小さい水たまりができつつあり、それはじわじわと広がっていた。「俺は、降りる! もう、いやだ……死にたくない!!」
悲痛な声に、ざわめきが広がっていく。
ルードルフは、目を伏せて言った。「賢明な判断だ……」
「勝者、エーデルクロッツ!!」
重傷を負った若者は血止めを受け、天幕に引きずって行かれた。ざわめきの中から、泣き叫ぶような声がした。「俺も……俺も降りる! あんな奴に勝てるわけがない……いくら……金を貰ったって、わざわざ生命を捨てに行く馬鹿が、いるものか!!」
この悲鳴は、代理剣士たちの内心を、代弁していた。凄惨な生命のやりとりにあって、ただ金を稼ぎに来ただけの彼らに、もはや名誉も恥もなかった。一人、また一人と彼らは、死に神に指さされた者のように必死に、天幕からよろめきでると、その場を後にして群衆に紛れた。
「貴様ら……どこへ行く! 契約を履行しろ!!」ギュンターは、青ざめて叫んだが、一度歯止めが壊れた集団に、留まる気配はなかった。逃げる背に群衆のそこここからざわめきが起こった。誰もが、吸い寄せられるように黒衣の剣士を一瞥し、そして、その蒼い瞳を避けるように、慌てて視線を外した。ルードルフの足元に残った血の臭いは、冷たい風に乗って広がり、決闘場全体を覆い尽くしていた。
「エーデルクロッツ……強すぎるだろ」
黒い影を見つめ、震える声でささやいたのは、エーミルだった。つい先日彼が言った言葉を、レッチェンは卒然と思い返した……
(俺なら、いくら金を出されても、死ぬのなんて嫌だけどなぁ)
結局、正しいのは、この少年だったのだ……
死ぬと分かっている戦いに、いくら金を積まれても赴くものなどいない。
(生命は……人の身体は、贖うことなどできないんだ……たとえ、指の一本だとて、一度、損なわれたら、二度と取り返せない)
温かく心臓が脈打ち、隅々にまで血液を届け、呼吸を、消化を、運動を続けるこの精密な身体は、――人を愛し、愛されることのできる人生は、たった剣の一振りで壊れ、取り返すことができないものだ。
レッチェンは、赤く染まった芝生を凝然と眺めた……
金で生命を贖えると信じるのは、「死」を目の当たりにしたことのないものだけだ。
死そのもののように、ごく自然な優美さで、剣士はそこに佇んでいる。凍るような風がその黒髪を乱し、外套を翻した。
(あいつは……敢えて、無惨な勝ち方で、それを見せつけたんだ。
勝つために。生き残るために……)
ちらりと見えた剣士の横顔には、鋼を思わせる決意があった。冷えた空気に、その黒い影は鋭い輪郭を刻んでいた。
「どうした……ギュンター・フォン・レドリッヒ。おまえのために生命を賭けてくれる人間は、もういないのか」
冷ややかに、ルードルフは、言った。
ここまでが上手くいくかどうかは、賭けのようなものだった。少しでも、勝てるかもしれない、と思わせてしまえば、敵の降伏は誘えない。いかにルードルフといえど、繰り返しの戦闘が続けば疲弊し、剣の切れ味も鈍ってくる。生き残るためには、あくまで、絶対的に、無慈悲に、敵を圧倒する必要があった……最初の二人は、不運としか言いようがなかったが、ルードルフは自分の勝ち目を手放すつもりはなかった。
ここは、戦場だ。
(ギュンター・フォン・レドリッヒ、貴様はそれを分かっているか?)
ルードルフは、細めた目を金髪の貴公子に当てた。ギュンターのいつも冷笑をたたえていた口元はゆがみ、目には焦りと恐怖が浮かんでいる。
(もっと恐れ、怯えるがいい)
ルードルフの胸中に、紛れもない憎悪が立ち上がり、彼はぎりっと歯を噛み締めた。地下牢の冷たい床に倒れていた恋人の姿が眼裏に浮かぶ。
(あいつが味わったであろう苦痛を、絶望を、骨の髄まで味わうがいい……!)
一歩たりと近づいたわけでもなく、剣を突きつけたわけでもなかったが、その視線を浴びたギュンターは、笛のような音を立てて息を飲んだ……
彼は、悲鳴のように叫んだ。「ヴィーゼル……出番だ! 殺せ、こいつを、殺せ!!」
ルードルフは、低く息を吐き、剣を握り直した。
天幕の奥から姿を現した熊を思わせる分厚い体躯の男は、かつて袂を別った相棒に間違いなかった。
「やれやれ……ルードルフ・エーデルクロッツとガチでやり合うのか。こいつは高くつくぜ、ヘル・レドリッヒ」
ヴィーゼルは、低い声で言った。
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