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出雲ライン
何のために
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結局まとまることのなかった会議を終え、私室に戻った四万十。誰かがドアをノックする音がした。
「早手くんか? 入りたまえ」
しかしゆっくりとドアをきしませて入ってきたのは北の仲間である赤井の方だった。
「兄さん、そんな露骨につれない顔しなくてもいいだろぉ」
二人きりの時だと赤井はどんよりとした親しみを込めて、四万十のことを『兄さん』だとか『兄ぃ』だとか呼ぶ。四万十はそれが非常に気に食わない。くすぐられているようで気分が悪いのだ。
「赤井くん、要件を簡潔に伝えるのだ。北くんからの伝言か? それとも君は改心して僕の作戦に乗ることにしてくれたのか?」
「どっちでもねえ、兄さん。俺は質問がしたくてここに来たんだ」
「質問……だと?」
いぶかしげに目を細める四万十。計算上、千里たちが出雲にたどり着くまでにはあと一時間程度しかない。無駄なことに時間は使っていられないのだが、果たして益のある質問なのだろうか(先程の会議がまったく無益なものだったことは置いておいて)。
「兄さんは、本当に『正々堂々』真正面から連中をシバくつもりなのか?」
「シバくというのは言い方が悪いが、そのとおりだ」
「正気の沙汰じゃない」
四万十が呆れたようにため息で返すと、赤井も返事するかのように肩を落とした。
「相手は沖縄と九州をまるごと落とした戦略兵器だぜ? 北の姐さんが言う通り、絡め手でもなんでも使って安全に倒すべきだ」
「その意見にも一理あることはわかっている。だが、僕にはそれを認めるわけにはいかない理由がいくつもあるのだ」
「ほほう、聞かせてもらいたいね」
そう言われると、四万十は窓の外遠くを見つめて、思い出しながら語るような口調でぽつぽつと『理由』の話をし出した。
「まず、北くんの作戦を使えば神子や異能のことを何も知らない一般市民にも被害が出る。彼女の能力は街中をスキャンするわけだから、プライバシーの侵害がだね」
「今はそんなこと言ってられる状況じゃないんじゃないか? 大半の住民が北方か海外に避難したし」
「いや、残っている住民がいる。それが問題なんだ」
「相変わらず、兄ぃは潔癖症だね」
「そうならざるをえない理由がある!」
「理由、理由、うっせえなあ。結論をバシッと言ってくれよ」
一瞬口ごもる四万十。だが、すぐに赤井に向き直る。
「見返りのために戦うわけじゃないが」
四万十の声のトーンが暗くなる。
「僕は、東京でのブリーフィングで、名古屋ラインの暗条くんがリンチされるところを見た――見ただけで、何もできなかった。口を出したり手を出したりすれば、暗条くんへの攻撃が苛烈化することは目に見えていたからだ。こんな、我々神子へのひどい待遇を変えるには、まっとうで文句の言われようがないやり方で、大きな成果を出すしかないと考えている。だめなんだ、北くんのやり方では。たとえ成果を出したとしても、『市民の権利を侵害した』『必要のない危険を犯した』と言われて、認められる可能性が薄い。管理省はそういう組織なのだ。だから、僕たち出雲ラインが、今イザナミとスサノオを止める立場にある出雲ラインの四人こそが、正々堂々誰もが認める真っ直ぐなやり方で、世界の平和を守るしかない。それがすべての神子のための行いであり、僕のスタンスなんだ。……わかってくれるかい?」
「兄ぃ」
ケケッ、と笑って赤井が言う。
「世間じゃそういうのを、『見返りのために戦う』って言うんだぜ」
「早手くんか? 入りたまえ」
しかしゆっくりとドアをきしませて入ってきたのは北の仲間である赤井の方だった。
「兄さん、そんな露骨につれない顔しなくてもいいだろぉ」
二人きりの時だと赤井はどんよりとした親しみを込めて、四万十のことを『兄さん』だとか『兄ぃ』だとか呼ぶ。四万十はそれが非常に気に食わない。くすぐられているようで気分が悪いのだ。
「赤井くん、要件を簡潔に伝えるのだ。北くんからの伝言か? それとも君は改心して僕の作戦に乗ることにしてくれたのか?」
「どっちでもねえ、兄さん。俺は質問がしたくてここに来たんだ」
「質問……だと?」
いぶかしげに目を細める四万十。計算上、千里たちが出雲にたどり着くまでにはあと一時間程度しかない。無駄なことに時間は使っていられないのだが、果たして益のある質問なのだろうか(先程の会議がまったく無益なものだったことは置いておいて)。
「兄さんは、本当に『正々堂々』真正面から連中をシバくつもりなのか?」
「シバくというのは言い方が悪いが、そのとおりだ」
「正気の沙汰じゃない」
四万十が呆れたようにため息で返すと、赤井も返事するかのように肩を落とした。
「相手は沖縄と九州をまるごと落とした戦略兵器だぜ? 北の姐さんが言う通り、絡め手でもなんでも使って安全に倒すべきだ」
「その意見にも一理あることはわかっている。だが、僕にはそれを認めるわけにはいかない理由がいくつもあるのだ」
「ほほう、聞かせてもらいたいね」
そう言われると、四万十は窓の外遠くを見つめて、思い出しながら語るような口調でぽつぽつと『理由』の話をし出した。
「まず、北くんの作戦を使えば神子や異能のことを何も知らない一般市民にも被害が出る。彼女の能力は街中をスキャンするわけだから、プライバシーの侵害がだね」
「今はそんなこと言ってられる状況じゃないんじゃないか? 大半の住民が北方か海外に避難したし」
「いや、残っている住民がいる。それが問題なんだ」
「相変わらず、兄ぃは潔癖症だね」
「そうならざるをえない理由がある!」
「理由、理由、うっせえなあ。結論をバシッと言ってくれよ」
一瞬口ごもる四万十。だが、すぐに赤井に向き直る。
「見返りのために戦うわけじゃないが」
四万十の声のトーンが暗くなる。
「僕は、東京でのブリーフィングで、名古屋ラインの暗条くんがリンチされるところを見た――見ただけで、何もできなかった。口を出したり手を出したりすれば、暗条くんへの攻撃が苛烈化することは目に見えていたからだ。こんな、我々神子へのひどい待遇を変えるには、まっとうで文句の言われようがないやり方で、大きな成果を出すしかないと考えている。だめなんだ、北くんのやり方では。たとえ成果を出したとしても、『市民の権利を侵害した』『必要のない危険を犯した』と言われて、認められる可能性が薄い。管理省はそういう組織なのだ。だから、僕たち出雲ラインが、今イザナミとスサノオを止める立場にある出雲ラインの四人こそが、正々堂々誰もが認める真っ直ぐなやり方で、世界の平和を守るしかない。それがすべての神子のための行いであり、僕のスタンスなんだ。……わかってくれるかい?」
「兄ぃ」
ケケッ、と笑って赤井が言う。
「世間じゃそういうのを、『見返りのために戦う』って言うんだぜ」
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