1 / 1
1人と1人と1人
しおりを挟む2041年
よく晴れた青空の下。
木陰の隙間から天を仰ぐ。
そよ風の中には近代化したなんというか「街くさい」という言葉が似合う感じが混ざっている。
ここは私の故郷。海の街、石巻だ。
新しく創られた街の公園で1人膝を抱く。
思いというほどの輪郭はなく、呆けてるような緩さではない。
そんな無色透明な心模様を他人がみたらどんな風に見えるのだろうか…
なにせ私は30年前の過去から来たのだから……………
_________________________
「…………………」
静寂と呼ぶには周りはとても五月蝿い。
「ねむ……」
ぼそりと彼女は呟く。
そして東から声がする。詩音だ。
「希未~!待った??」
「ううん、今日はバンドはないの?」
「今日はオフ!なんか…どしたの?」
「ん~、考え事」
先ほど無色透明だなんだかんだかっこつけて求めた他人からの自分の見え方に泣きたくなるほど彼女は普段と変わらないリアクションである。
程なくして私達は立ち去り、自分らの住むA地区へと足を進める。
過去から来たのに何故住居をもってるか。それは言いづらいが何故かは知らない。「ここが私の家だから」としかいいようがないんだ。
そんなことは置いといて。
近所のカフェテリアで昼食をとり、自室をオリジナルのDIYでまとめた詩音の家へと向かう。
帰宅後の行動パターンがプログラムされているようにアコースティックギターを膝に乗せて曲を奏でる姿は未熟であってもミュージシャンであり自分なりの答えを求めて探求心を燃やして生きていることを納得させられるような力強さをひしひしと感じる。
「詩音さ、なんで音楽やってるの?つかなんでギターだったの?そもそもきっかけって何?」
「ちょ…そんないっぺんに聞かれてもわかんないって!」
そりゃそうである。
「んーなんでって聞かれて答えられるものなようやそうでもないような…」
「なにそれ…」
「ぶっちゃけすごい漠然としてるけど気付いてたら持ってたような気がするんだよね。そりゃ音楽なんて人間に生まれた以上関わらないことなんて多分ないじゃん?」
「そう…だね」
「んでそうなると楽器だって然りじゃん?んでちょっとかっこいいなんて思ったら多分そん時には拾ってた。つまりきっかけなんてものは始めるだけの瞬間の動機であってギター持ってからはそんなのどうでもよかったというか、とうの昔に拾った粗大ゴミ置き場に捨ててきたというか」
「あーなんとなくわかる」
「結果オーライじゃないけど私は自分の中の不透明なものをぶつけられるのが音楽でよかったな。ある意味それが音楽やってる理由なのかもね」
「そっか」
「うん、なんとなく自分ではわかってたけど口にだして人にこんな話したの初めてかも」
そういって笑う彼女はどこか嬉しそうで、恥ずかしそうで、だけど悲しそうだった。
そう感じたのは詩音という女の子がこれまでを生きる上で一般的にいえば"苦痛な人生"というのを歩んできたことを知ってるからだろうか。
そう彼女は捨て子なのだ。それも物心がついてから捨てられた女の子なのである。
「ねぇ…」
句点のつくような会話のやりとりの後、先に口を開いたのは詩音の方だった。
「本当の"生きる"ってなんだと思う?」
「……わかんない。少なくともまだ」
「そうだよね…w」
思春期というか中二病というか、はたまた哲学というか1人1人の思想というか。そういった曖昧な感覚でも多少なり考えるであろうこの思考に彼女達も思いを巡らせる午後。
彼女は歌う。
自分でもよくわからない感情を、感覚を、想いを、言葉と音に乗せて。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる