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出逢い。 2
しおりを挟む「あのちょっと伺いたいのですが………」
「突然申し訳ありません。私達本日こちらに引っ越してきました、水瀬と申します」
白い肌の彼女は30歳半ばというくらいだろうか。高めの艶やかな声で特長的な声色をしている。
その後ろにひっつき虫のように足にしがみついている女の子。
「こら、まほろ。頭くらい下げなさい」
そう制されるとまほろと呼ばれる女の子は素直にぺこりと頭を下げた。
頭を上げてまた足にしがみつくと水瀬さんは続けた。
「申し訳ありません。お急ぎでなければこの辺にスーパーがあるか教えていただけないでしょうか…?」
「出来れば車を使わない距離だと助かるのですが…」
「それでしたらこの十字路を左に曲がっていただいて、大きい通りに出たら右に半kmほどにあります」
「一応そこが最寄りとなりますので自転車あると楽になりますよ」
「わかりました、ありがとうございます」
水瀬は一礼し、その場を後にする。
「母子2人生活か。大変だな」
「落ち着いたら何か持っていってあげましょう」
「そうだな…どうした秀作。ぼけっとして」
秀作の目はまっすぐ水瀬親子を見つめていた………
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日になりまた世界は動き出した。
「さて、仕事にいくとするか」
「それじゃお父さん、いってらっしゃい」
「いってらっしゃい!」
「あぁ、2人とも気をつけてな」
いつものように朝の挨拶を済ませ、車に入り、キーを回す。
幼稚園につくとそこはいつもと違う賑わいを見せていた。
「美由さん、おはようございます」
「知ってらっしゃいます?今日新しい子が転園するって話」
「えぇ、昨日息子から…」
「あのご家族みたいですよ」
美由が目をやるとそこには昨日家の近くのアパートで引っ越しをしていた水瀬親子の姿がそこにあった。やがて水瀬は娘、たしかまほろといったか。彼女と別れをすますとこちらへと歩いてきた。
「昨日は改めてありがとうございました」
「いえいえとんでもありません。まさか同じ幼稚園だとは思いませんでした」
「そうですね、こちらの土地は不慣れで至らぬこともあると思いますがどうかよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
美由は快い笑顔で返すと水瀬は安心したように頬を緩ませ、仕事へと向かっていった。
母子家庭とはきっと想像もつかぬほど大変なのだろうと心の中で思ったのち目で彼女を見送る。
「じゃ僕も行ってきます」
秀作も自分の教室へと荷物を置きにいくと美由も幼稚園を後にする。
そして園内では新しい仲間を歓迎する朝の挨拶が始まる。
「今日はみんなに新しいお友達が増えます」
「水瀬まほろちゃんです、本当だったら昨日からお友達に加わるはずだったんだけどお家に引っ越す途中遅れてしまい今日からみんなの仲間に加わることになりました」
「それじゃまほろちゃん、ご挨拶お願いします」
「水瀬まほろです。よろしくお願いします」
そういってぺこりと頭を下げると緊張した顔のまま指定されたグループのテーブルへと歩き出した。
秀作は途中彼女を見やる。彼女も歩きながらふと秀作を見やった。視線が交差する。昨日の子だとお互いに認識したのであろう。しかし言葉を交わしたのはこの3日後であった。
ある日秀作は皆が帰るタイミングになっても1人教室に残るまほろの姿が気になった。
「まほろちゃん」
「なぁに??」
くりりとした目とまだミルクの匂いがしそうなさらさらの髪を肩から流しながらこちらを振り返る。
「どうして君は教室にいるの?」
「僕んち、今日お父さんもお母さんも仕事で遅くなるんだ」
「まほろちゃんも?」
「うん、ママはいつもお仕事あるんだって」
「そっか、んじゃもしまほろちゃんのママより僕のお母さんが先にきたらいっしょ帰る?」
「いいの?」
「うん!お家近いし!」
初めての会話にしては上出来である。ほどなくして迎えに来たのは秀作の母、美由であった。
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