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第44話 すべてはわが手中にあり
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「すべて、計画通りだっ!」
ぼくが、胸をはってそう答えると、フィリオリナは可哀想なやつを見る目になった。
「これだけの数の使徒をいっぺんに侵入させたら、追い切れない。
かりにこいつらが、自らに課したルールを守って、冒険者学校の生徒にしか手を出さないとしても、だ。
そして、冒険者学校の生徒を守りきることなどできない。数が多すぎる。」
「先に侵入させた12使徒をマーカー替わりに転移してくるなんてけっこうな反則技ではある。」
ぼくは、友好的であることを示すために手を挙げ、にこやかに笑いながら、近づいた・・・つもりなんだけど、なんでそんなに変なやつを見る目でぼくを見るのだ?ヴァルゴールの使徒たちよ。
「きみは?」
大司祭どのは、目を閉じたまま、ぼくを見た。
「ランゴバルドの冒険者学校の生徒です。ルトとお呼びください。
大司祭さま。」
ドンッ
と、音がした。ボルテックがぼくの傍らに降り立った音だ。音が重いのはドロシーを横抱きにしているからで、ちょっとムカついた。
「フィリオリナっ!」
と、フィリオリナを呼んで同じように抱き上げようとしたら、抱き上げられた。
「いや、違う、違うんだ。」
「なにを言ってる。愛するもの同士のスキンシップを見せつけてやりたいんだろ? あってるじゃないか?」
ぼくがフィリオリナを抱っこしたかったんだが。
「いったい我々はなにを見せられてるのだ?」
邪神を崇めるものの総元締めとでも言うべき、大司祭アザートは呆れたように言った。
よしっ!
これも作戦通りだっ!
ぼくは懸命に自分に言い聞かせた。
えもの
獲物だ。
獲物がいるぞ。
捧げられるべき贄がいる。
使徒どもがざわめく。
アキルが、ぼくの隣りにたった。
なんの能力ももたない、勇者は落ち着いていた。
続いてギムリウスたちが、わいわいしながらやってきた。
最後にアモンが。
ずん、と踏み込んだその足元がすり鉢状のくぼみとなる。
完璧なアモンの人化だがときどきこうしてボロがでる。特に戦おうと意気込んだ時などは。
「姫! 姫じゃないか! 久しぶりだね! 迷宮に閉じこもってしまったときいて、心配してたんだ。」
アスタロトが横抱きにしたレクスの首がうれしそうに叫んだ。
「レクス、自分からはひとに話しかけない約束だろ?」
「いや、アスタロト。あれは、ぼくの身内だよっ!
人ではないからね。」
「あれも」
アスタロトは、苦い煎じ薬でもよまされたような顔になった。
「あれも、古竜なのか?」
「久しぶりだな、鎧の。
首だけになってもいい男じゃないか。
こんなところでなにをやっている?」
「それについては、つもる話があるんだけどさあ。」
一同に戦慄が走った。
おそらくは・・・古竜同士の話。つもる話ははたして何百年分になるなか、それははたして今日中に終わるのが?
「単純に言っていまうと、相変わらずぼくは人化がえらく苦手でねえ。」
とレクスは語った。
「いろいろと人間の文化を楽しみたいんだがどうにも人化した状態だと、寛げない。
肩が凝ってしたかないのさ。」
竜の肩。
・・・ってどこ?
と殆どのものが思った。
「そんなときに、このアスタロトに出会ったのさ。もともと魔界の大貴族の転生体だから、ぼくが神鎧竜のレクスだって、きいてもビビらなかったし。おかげて、ここ何年かはいろいろと街見物もできて満足しているよ。
きみは?」
「いろいろあっていまは、ランゴバルド冒険者学校の生徒をしている。」
「へえ?それも面白そうだねえ。」
レクスは無邪気に言った。
「おまえも入学してみるか?
寝る場所くらいは、もとのサイズになれるように確保してやるが。」
「うん、そうだな!
他ならぬきみのお誘いだ!
お世話になるよ。」
「ち、ちょっと!」
アスタロトが、慌てたように言った。
「アスタロトさん。あなたもこれだけ、公然と大暴れしてしまったからには冒険者資格は取り消しでしょうね。」
ぼくは口を、はさんだ。
「冒険者学校で資格を取り直す必要がありますね。」
「しかし、」アスタロトは狼狽えた、「使徒としての使命が」
狼狽えるなよ、ちょっとそれもありかな、とか思ってるんじゃないよ!
「レクスに匹敵する古竜に、もと12使徒。」
だんだん、状況が見えてきたのかアザートの顔色も悪くなってきた。
その12使徒のひとり、ゴウグレは、ギムリウスの指示で地面のアリンコを追いかけている最中だった。
「・・・なにをしている?」
「分からない。」
と、ゴウグレは言った。
「だが我が創造主の命令なれば、いくら変わったものでも従うべきなのであろう。」
はい!
とギムリウスが手を挙げた。
「わたしがその変な創造主です。」
アキルがなんかのツボにハマったらしく大笑いしていた。
「それでどうする?」
「わかりきったことです。」
ぼくはせせら笑ってみせたつもりだったが、フィオリナに抱っこされたままなので、冷酷さは今ひとつ伝わらなかったと思う。
「血の祭典とやらは中止させてもらう。」
「この数の使徒を前にして、それを言うか?」
使徒だから出来るんだが。
ぼくは手を上げて、宣言した。
「きたれ。迷宮ランゴバルド!」
ぼくが、胸をはってそう答えると、フィリオリナは可哀想なやつを見る目になった。
「これだけの数の使徒をいっぺんに侵入させたら、追い切れない。
かりにこいつらが、自らに課したルールを守って、冒険者学校の生徒にしか手を出さないとしても、だ。
そして、冒険者学校の生徒を守りきることなどできない。数が多すぎる。」
「先に侵入させた12使徒をマーカー替わりに転移してくるなんてけっこうな反則技ではある。」
ぼくは、友好的であることを示すために手を挙げ、にこやかに笑いながら、近づいた・・・つもりなんだけど、なんでそんなに変なやつを見る目でぼくを見るのだ?ヴァルゴールの使徒たちよ。
「きみは?」
大司祭どのは、目を閉じたまま、ぼくを見た。
「ランゴバルドの冒険者学校の生徒です。ルトとお呼びください。
大司祭さま。」
ドンッ
と、音がした。ボルテックがぼくの傍らに降り立った音だ。音が重いのはドロシーを横抱きにしているからで、ちょっとムカついた。
「フィリオリナっ!」
と、フィリオリナを呼んで同じように抱き上げようとしたら、抱き上げられた。
「いや、違う、違うんだ。」
「なにを言ってる。愛するもの同士のスキンシップを見せつけてやりたいんだろ? あってるじゃないか?」
ぼくがフィリオリナを抱っこしたかったんだが。
「いったい我々はなにを見せられてるのだ?」
邪神を崇めるものの総元締めとでも言うべき、大司祭アザートは呆れたように言った。
よしっ!
これも作戦通りだっ!
ぼくは懸命に自分に言い聞かせた。
えもの
獲物だ。
獲物がいるぞ。
捧げられるべき贄がいる。
使徒どもがざわめく。
アキルが、ぼくの隣りにたった。
なんの能力ももたない、勇者は落ち着いていた。
続いてギムリウスたちが、わいわいしながらやってきた。
最後にアモンが。
ずん、と踏み込んだその足元がすり鉢状のくぼみとなる。
完璧なアモンの人化だがときどきこうしてボロがでる。特に戦おうと意気込んだ時などは。
「姫! 姫じゃないか! 久しぶりだね! 迷宮に閉じこもってしまったときいて、心配してたんだ。」
アスタロトが横抱きにしたレクスの首がうれしそうに叫んだ。
「レクス、自分からはひとに話しかけない約束だろ?」
「いや、アスタロト。あれは、ぼくの身内だよっ!
人ではないからね。」
「あれも」
アスタロトは、苦い煎じ薬でもよまされたような顔になった。
「あれも、古竜なのか?」
「久しぶりだな、鎧の。
首だけになってもいい男じゃないか。
こんなところでなにをやっている?」
「それについては、つもる話があるんだけどさあ。」
一同に戦慄が走った。
おそらくは・・・古竜同士の話。つもる話ははたして何百年分になるなか、それははたして今日中に終わるのが?
「単純に言っていまうと、相変わらずぼくは人化がえらく苦手でねえ。」
とレクスは語った。
「いろいろと人間の文化を楽しみたいんだがどうにも人化した状態だと、寛げない。
肩が凝ってしたかないのさ。」
竜の肩。
・・・ってどこ?
と殆どのものが思った。
「そんなときに、このアスタロトに出会ったのさ。もともと魔界の大貴族の転生体だから、ぼくが神鎧竜のレクスだって、きいてもビビらなかったし。おかげて、ここ何年かはいろいろと街見物もできて満足しているよ。
きみは?」
「いろいろあっていまは、ランゴバルド冒険者学校の生徒をしている。」
「へえ?それも面白そうだねえ。」
レクスは無邪気に言った。
「おまえも入学してみるか?
寝る場所くらいは、もとのサイズになれるように確保してやるが。」
「うん、そうだな!
他ならぬきみのお誘いだ!
お世話になるよ。」
「ち、ちょっと!」
アスタロトが、慌てたように言った。
「アスタロトさん。あなたもこれだけ、公然と大暴れしてしまったからには冒険者資格は取り消しでしょうね。」
ぼくは口を、はさんだ。
「冒険者学校で資格を取り直す必要がありますね。」
「しかし、」アスタロトは狼狽えた、「使徒としての使命が」
狼狽えるなよ、ちょっとそれもありかな、とか思ってるんじゃないよ!
「レクスに匹敵する古竜に、もと12使徒。」
だんだん、状況が見えてきたのかアザートの顔色も悪くなってきた。
その12使徒のひとり、ゴウグレは、ギムリウスの指示で地面のアリンコを追いかけている最中だった。
「・・・なにをしている?」
「分からない。」
と、ゴウグレは言った。
「だが我が創造主の命令なれば、いくら変わったものでも従うべきなのであろう。」
はい!
とギムリウスが手を挙げた。
「わたしがその変な創造主です。」
アキルがなんかのツボにハマったらしく大笑いしていた。
「それでどうする?」
「わかりきったことです。」
ぼくはせせら笑ってみせたつもりだったが、フィオリナに抱っこされたままなので、冷酷さは今ひとつ伝わらなかったと思う。
「血の祭典とやらは中止させてもらう。」
「この数の使徒を前にして、それを言うか?」
使徒だから出来るんだが。
ぼくは手を上げて、宣言した。
「きたれ。迷宮ランゴバルド!」
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