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第45話 銀雷の魔女は踊る
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迷宮ランゴバルド。
現実世界のランゴバルドに重なり合うように、作られた別世界だ。
その入り口は、現実世界のランゴバルドのいたるところにぽっかり口を開けている。
たとえば、いまの、ように。
ヴァルゴールの使徒たちは、呆然と辺りを見渡している。
周りを囲む建物も、廃棄が決まってもと、市場の跡地のままだ。空は真っ暗だがどこかからさす明かりで、互いを視認するには差し支えない。
冒険者や魔導師を生業にするものならばそれが、迷宮にはいったときの感覚に近いものだと気がついたはずだ。
「よく来た!
我が迷宮へ!」
広場を囲む尖塔のうえに、人影が現れる。
風にひるがえる黒のインバネスコート。ストールにサングラス。我らがヒロイン、真祖吸血鬼ロウ=リンド。
「ここで裁きをくだすのは、神ではない。我々だ。」
今ではコスプレマニアしかしない狼の頭部を象った兜と闇になお鈍く光る鎧を身につけた少年は、リウ。
「私の、パンチは痛いぞ?」
アモン!いつの間に!
「・・・」
言いたいことがとくにないなら塔のうえに、あがるなギムリウス。
「ここは?」
闇の司祭は、唇をなめた。
これが、彼の緊張をあらわすものなのか。それでも狼狽えた様子はない。
さきほどの「聖櫃の守護者」たちとはえらい違いだ。
「ここは、大迷宮ランゴバルド。」
ぼくは、もう一度言った。
「確かに、ここはいままでいたランゴバルドではない。」
アザートは冷静に言った。
「ランゴバルドを模した迷宮なのだろう。こんなものをよく、見つけたな。」
ではなくて、作った、のだがな。
にわかには信じ難いことなのだろう。実際の理論は1000年ばかり前にウィルニアが確率しているのだが。
「これより、お前たちを粉砕する。」
ぼくは静かに言った。
「抵抗するな、とは言わない。
好きなだけ抗ってみるといい。
だが、この中では『 死 』でさえ自由には選べないのだがな。」
アキルが使徒の群れに走り込んだ。
止める間もなく。
だが、素人丸出しの剣にまえに、使徒たちはあわてたように道をあける。
「ルト、俺は『骨返し』のドズレをもらうぞ。」
ボルテックが、ゴキっと指の関節を鳴らした。
「悪いが、その間、ドロシーは任せた。」
「ジウル!わたしも戦う!」
ドロシーは叫んだ。
「雑魚はわたしが」
「ギムリウスメイクあっ~プ!」
どこからともなく、スポットライトが当たり、ドロシーの体が浮かび上がる。着ている服が粉々にちぎれ飛び、ほんの一瞬だが彼女は白い裸身を晒した。
そこに、糸が巻き付くように白いアンダーウェアが構成され。その上から銀のボディスーツが着せられる。
相変わらず、体のラインを隠さないことでは素裸とかわらないが、今回は、短いスカートで腰周りを。首にはリボンがつけられ、手首に赤と緑のサークットが。足には踊り子がつけるような、ダンスシューズが履かされていて、若干、裸感は減っていた。若干、だが。
「なあにいぃ、これ!」
ドロシーはうずくまったが、もう着替えは完了している。
「よし!ドロシー。」
出来栄えに満足したのかギムリウスは、うれしそうに言った。
「な、なんなんですかっ、これ!」
「お馴染みのギムリウスの糸のスーツだが、特製糸でアンダーウェアを編んだ。」
ロウも満足げだった。
「最後にこれを着てから少したつので、微妙な調整が必要なのだがこの特殊アンダーウェアを着込むことで、それが不要になった。アクセサリーっぽい魔道具もつけてみた!」
さあ、ドロシー!
真祖と神獣がハモった。
「蜘蛛に代わっておしおきよっ!」
戦いながら、アキルだけがウケている。
使徒のひとりが着地したドロシーに斬りかかった。カミソリににた刃物を両手に握っていた。
ドロシーは反射的に体を捻りながら、カミソリを持つ腕を絡めとった。だがカミソリはもう片方の手にも握られている。
それが容赦なく、ドロシーの胸目掛けて切りつけられた。
ギムリウスのスーツがなければ、乳房を切り裂かれていただろう。
だが、ギムリウスの糸は並の刃物をなど通さない。
そのまま、関節をキメてたおれこむと同時に。
電撃っ!
ひとたまりもなく、使徒は失神した。
死んじゃあいないだろうな、命をとるのはまだドロシーには早すぎる。
「ぎ、銀雷の魔女だっ!」
誰かが叫んだ。
グランダ出身者も使徒のなかにはいるらしい。
「あの伝説の対抗戦の??」
えっなにが伝説?ついこの前の?
「あのボルテック卿の血を引く伝説の拳法家ジウル・ボルテックを1度は敗北寸前に追い込んだという?!」
「そうだ。あの銀雷の魔女だ。」
「噂ではその後、ジウルに弟子入りしたときいたが」
「そうだ。しかも弟子入りしたジウルをあっという間に落として、愛人になったという・・・」
「い、いろいろな意味でおそろしいやつ・・・」
だから、いきなり弟子に手を出すとそういうことになる。
ジウル・ボルテックは、苛立ちを使徒にぶつけた。
退治したのは、面貌をおろし、全身を金属鎧に固めた戦士だった。大きな盾と剣を構えていたが、委細構わず、盾めがけてその剛拳を打ち込んだ。折れ曲がる盾ともにふきとんだ戦士に、ジャンプ一番、頭上から踵で蹴りつける。
兜を凹ませた戦士は、頭を地面にのめり込ませるようにして倒れた。もう立ち上がってくる気配もない。
「す、凄まじい!
我流とはいえ、よくぞこれほどの武闘家が世に隠れていたものだ。」
「うむ。夜は夜で銀雷の魔女を毎晩失神させているらしい。」
「ううむ、恐るべきは、ジウル、そして銀雷の魔女。」
ジウルがさらに荒れ狂うのを、大笑いしながら見ていると、こっちにもとばっちりが回ってきた。
右腕を大蛇に、左腕を鰐に变化させた男だった。
これはピンチだった。ぼくは身体の自由がきかない。なにしろ、さっきからフィオリナに抱っこされたままで。
「こいつらはわたしがまとめて面倒を見る。」
ようやっと、ぼくを解放してくれたフィオリナは、薄く笑った。
ちなみに「まとめて面倒」あたりで、蛇鰐男は、あの軌道を途中で変化させる蹴りで、側頭部を一撃されて、倒れている。
「ルトはドロシーを見ててやってくれ。ジウルは、けっこう自分の闘争に夢中になるタイプらしい。」
その通り。ジウル・ボルテックは両腕を炎につつんで、使徒が一番密集してるあたりに突っ込んで、誰からかまわずなぎ倒している。
ドロシーは、流麗な動きをする仮面をかぶった拳法家の女に苦戦している。
やはり、技術だけみれば、ドロシーのそれなどは付け焼き刃なのだ。
しかし。
「さあて。複雑な感情はあったとしても、どれはどの程度? 結局のところルトだって、ミュラが窮地に立たされれば、全力で助けるでしょう?」
それは決まってる。
「結局、わたしたちは誰々に死んでほしいとか、殺してやるとかは決して思わないの。
それが、王の器なのか、あなたの妙な温情がわたしにも感染ったのかはわからないけどね。かかわった人間すべてを平気で、というより否応なしにその運命をねじまげてしまうのに、それが悪い方向に転がるのをすごく嫌がる。」
言いながら、使徒のひとりをぶん投げて、落ちてくるところに蹴りを叩き込んだ大公家の姫君は、晴れ晴れとした顔で笑っている。
「たとえ、もしアキルがわたしたちの考えた通りのモノだったとしても、ね。
さあ、行ってドロシーが悪い方向に転がらないように助けてきなさい。くれぐれもボルテックのじいさまよりいいところを見せようとか思わないように。」
現実世界のランゴバルドに重なり合うように、作られた別世界だ。
その入り口は、現実世界のランゴバルドのいたるところにぽっかり口を開けている。
たとえば、いまの、ように。
ヴァルゴールの使徒たちは、呆然と辺りを見渡している。
周りを囲む建物も、廃棄が決まってもと、市場の跡地のままだ。空は真っ暗だがどこかからさす明かりで、互いを視認するには差し支えない。
冒険者や魔導師を生業にするものならばそれが、迷宮にはいったときの感覚に近いものだと気がついたはずだ。
「よく来た!
我が迷宮へ!」
広場を囲む尖塔のうえに、人影が現れる。
風にひるがえる黒のインバネスコート。ストールにサングラス。我らがヒロイン、真祖吸血鬼ロウ=リンド。
「ここで裁きをくだすのは、神ではない。我々だ。」
今ではコスプレマニアしかしない狼の頭部を象った兜と闇になお鈍く光る鎧を身につけた少年は、リウ。
「私の、パンチは痛いぞ?」
アモン!いつの間に!
「・・・」
言いたいことがとくにないなら塔のうえに、あがるなギムリウス。
「ここは?」
闇の司祭は、唇をなめた。
これが、彼の緊張をあらわすものなのか。それでも狼狽えた様子はない。
さきほどの「聖櫃の守護者」たちとはえらい違いだ。
「ここは、大迷宮ランゴバルド。」
ぼくは、もう一度言った。
「確かに、ここはいままでいたランゴバルドではない。」
アザートは冷静に言った。
「ランゴバルドを模した迷宮なのだろう。こんなものをよく、見つけたな。」
ではなくて、作った、のだがな。
にわかには信じ難いことなのだろう。実際の理論は1000年ばかり前にウィルニアが確率しているのだが。
「これより、お前たちを粉砕する。」
ぼくは静かに言った。
「抵抗するな、とは言わない。
好きなだけ抗ってみるといい。
だが、この中では『 死 』でさえ自由には選べないのだがな。」
アキルが使徒の群れに走り込んだ。
止める間もなく。
だが、素人丸出しの剣にまえに、使徒たちはあわてたように道をあける。
「ルト、俺は『骨返し』のドズレをもらうぞ。」
ボルテックが、ゴキっと指の関節を鳴らした。
「悪いが、その間、ドロシーは任せた。」
「ジウル!わたしも戦う!」
ドロシーは叫んだ。
「雑魚はわたしが」
「ギムリウスメイクあっ~プ!」
どこからともなく、スポットライトが当たり、ドロシーの体が浮かび上がる。着ている服が粉々にちぎれ飛び、ほんの一瞬だが彼女は白い裸身を晒した。
そこに、糸が巻き付くように白いアンダーウェアが構成され。その上から銀のボディスーツが着せられる。
相変わらず、体のラインを隠さないことでは素裸とかわらないが、今回は、短いスカートで腰周りを。首にはリボンがつけられ、手首に赤と緑のサークットが。足には踊り子がつけるような、ダンスシューズが履かされていて、若干、裸感は減っていた。若干、だが。
「なあにいぃ、これ!」
ドロシーはうずくまったが、もう着替えは完了している。
「よし!ドロシー。」
出来栄えに満足したのかギムリウスは、うれしそうに言った。
「な、なんなんですかっ、これ!」
「お馴染みのギムリウスの糸のスーツだが、特製糸でアンダーウェアを編んだ。」
ロウも満足げだった。
「最後にこれを着てから少したつので、微妙な調整が必要なのだがこの特殊アンダーウェアを着込むことで、それが不要になった。アクセサリーっぽい魔道具もつけてみた!」
さあ、ドロシー!
真祖と神獣がハモった。
「蜘蛛に代わっておしおきよっ!」
戦いながら、アキルだけがウケている。
使徒のひとりが着地したドロシーに斬りかかった。カミソリににた刃物を両手に握っていた。
ドロシーは反射的に体を捻りながら、カミソリを持つ腕を絡めとった。だがカミソリはもう片方の手にも握られている。
それが容赦なく、ドロシーの胸目掛けて切りつけられた。
ギムリウスのスーツがなければ、乳房を切り裂かれていただろう。
だが、ギムリウスの糸は並の刃物をなど通さない。
そのまま、関節をキメてたおれこむと同時に。
電撃っ!
ひとたまりもなく、使徒は失神した。
死んじゃあいないだろうな、命をとるのはまだドロシーには早すぎる。
「ぎ、銀雷の魔女だっ!」
誰かが叫んだ。
グランダ出身者も使徒のなかにはいるらしい。
「あの伝説の対抗戦の??」
えっなにが伝説?ついこの前の?
「あのボルテック卿の血を引く伝説の拳法家ジウル・ボルテックを1度は敗北寸前に追い込んだという?!」
「そうだ。あの銀雷の魔女だ。」
「噂ではその後、ジウルに弟子入りしたときいたが」
「そうだ。しかも弟子入りしたジウルをあっという間に落として、愛人になったという・・・」
「い、いろいろな意味でおそろしいやつ・・・」
だから、いきなり弟子に手を出すとそういうことになる。
ジウル・ボルテックは、苛立ちを使徒にぶつけた。
退治したのは、面貌をおろし、全身を金属鎧に固めた戦士だった。大きな盾と剣を構えていたが、委細構わず、盾めがけてその剛拳を打ち込んだ。折れ曲がる盾ともにふきとんだ戦士に、ジャンプ一番、頭上から踵で蹴りつける。
兜を凹ませた戦士は、頭を地面にのめり込ませるようにして倒れた。もう立ち上がってくる気配もない。
「す、凄まじい!
我流とはいえ、よくぞこれほどの武闘家が世に隠れていたものだ。」
「うむ。夜は夜で銀雷の魔女を毎晩失神させているらしい。」
「ううむ、恐るべきは、ジウル、そして銀雷の魔女。」
ジウルがさらに荒れ狂うのを、大笑いしながら見ていると、こっちにもとばっちりが回ってきた。
右腕を大蛇に、左腕を鰐に变化させた男だった。
これはピンチだった。ぼくは身体の自由がきかない。なにしろ、さっきからフィオリナに抱っこされたままで。
「こいつらはわたしがまとめて面倒を見る。」
ようやっと、ぼくを解放してくれたフィオリナは、薄く笑った。
ちなみに「まとめて面倒」あたりで、蛇鰐男は、あの軌道を途中で変化させる蹴りで、側頭部を一撃されて、倒れている。
「ルトはドロシーを見ててやってくれ。ジウルは、けっこう自分の闘争に夢中になるタイプらしい。」
その通り。ジウル・ボルテックは両腕を炎につつんで、使徒が一番密集してるあたりに突っ込んで、誰からかまわずなぎ倒している。
ドロシーは、流麗な動きをする仮面をかぶった拳法家の女に苦戦している。
やはり、技術だけみれば、ドロシーのそれなどは付け焼き刃なのだ。
しかし。
「さあて。複雑な感情はあったとしても、どれはどの程度? 結局のところルトだって、ミュラが窮地に立たされれば、全力で助けるでしょう?」
それは決まってる。
「結局、わたしたちは誰々に死んでほしいとか、殺してやるとかは決して思わないの。
それが、王の器なのか、あなたの妙な温情がわたしにも感染ったのかはわからないけどね。かかわった人間すべてを平気で、というより否応なしにその運命をねじまげてしまうのに、それが悪い方向に転がるのをすごく嫌がる。」
言いながら、使徒のひとりをぶん投げて、落ちてくるところに蹴りを叩き込んだ大公家の姫君は、晴れ晴れとした顔で笑っている。
「たとえ、もしアキルがわたしたちの考えた通りのモノだったとしても、ね。
さあ、行ってドロシーが悪い方向に転がらないように助けてきなさい。くれぐれもボルテックのじいさまよりいいところを見せようとか思わないように。」
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