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第一章 夜の淵を走る
第8話 共同作戦
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「まったく」
昏倒しかかった乗務員をささえてやりながら、ナセルはぼやいた。
「今回の度はいやな予感がしたんだ。次から次へと問題が巻き起こる。」
並走して走っていた黒雲と稲妻は、はっきりとこちらに向きをかえた。
雲の中に、紫の光がまたたく。
次々とボウガンが発射された。
・・・・すべて、はずれた。
「まあ、こんなものだな。人生は。」
「けっこう、余裕ですね。」
あきれたように、ルウエンが言った。
「それはそうだろう。やれるだけのことをやってダメなら死ぬだけだ。しかし、まあ。」
男らしい顔に、笑みがうかんだ。
「列車と乗客の命を預かってるんだ。気張らにゃなあ。」
「いやな予感といいますが、いいことだってありますよ。」
「ほう? どんなことだい、坊や。」
「坊やは勘弁してください。資格をもった冒険者です。在学中の冒険者学校生が冒険者資格を獲得するのは、20年ぶりです。つまり、ぼくたちは。」
ルウエンは、こっそりと武器に追加の付与魔法をかけようとしているアデルを止めながら言った。
「けっこう優秀なんですよ。」
「非常識なだけのような気がするんだが。」
「そんな。ちゃんと『一般常識』の授業はとってます。」
ごおおおおおっ。
風がうなり、バリバリと稲光が、一箇所に集まった。
「さがれ。魔法攻撃がくるぞ。」
ナセルは、手をあげた。指輪が光る。
青いリングが広がった。幾重にも。幾重にも。幾重にも。
普通の魔法障壁ではない。
走り続ける列車すべてを覆う魔法障壁だ。
究極の鉾と究極の盾では、常に鉾が勝る。
攻撃する方は、切っ先にすべての力を込められるのに対し、守るほうは一定以上の面積に力を分散しなければ、ならないからだ。
はたして、ナセルの展開した防御壁は。
流れていた。それは高速で移動し続ける壁であり。
稲妻はそれの表面を流れるようにすべり、壁を破壊することなく、すべて流れ、滑り落ちていった。
「すごい! ユニークな魔法障壁ですね。」
「それで、なにが『いいこと』なんだい、坊や。」
「坊やはやめてください。例えばですね。はじめて竜の亡霊と対戦した人間になったことですよ。この情報は、保安部にとって価値はありませんか?」
ナセルは顔をしかめた。
「特別ボーナスの対象にはなりそうだな。生き残れたら、の話だが。
だいたい、竜の亡霊なんぞなんで、出てきたんだ?」
「そりゃあ、推測でしかないんですが、語ってもいいですか?」
「好きにしろ。」
再び、黒雲の中で稲妻が飛び交い、集束していく。
そこに、ボウガンが飛んだ。今度はそのうち一本が、その中心を射抜いて、相手はふたたび苦悶の思念波をはっしてのたうった。
「人間が怨霊化したら、人間が処理しますよね。」
「それはそうだろう。」
「だったら、竜が怨霊化したら、竜が処理するんです。でもこの世界の竜はもういないから。」
「なんだ。こいつは竜の置き土産ってことになるのか?」
「そう言っていいんじゃないでしょうか。推測ですけど、ね。」
黒いモヤのようなものが、三人の(気を失った乗務員をいれれば四人)の前に現れた。
そのまま。
高速で走る列車の風に、とばされていくのを、ルウエンが手をのばして、モヤから延びた手をつかんだ。
「あぶないですよ、伯爵閣下。」
実態を取り戻したルーデウス伯爵を、抱きとめながら、ルウレンがいった。とはいってもルーデウスのほうが背が高かったので、そのグラマラスな体に半分埋もれるような格好になっていた。
「相手はアレです。」
ルウレンは、再び光り初めた稲妻を指さした。
「アレですではないのじゃ。」
「とにかく、献血二回分の働きはしてくださいね。」
「け、けんけつ・・・・・」
「伯爵閣下。」
ナセルは、頭をさげた。
「ご足労いただき、恐縮です。賓客である閣下にたびたびお願い事をして申し訳もありません。しかし、このままでは列車そのものの運行にもさしつかえるため、そのお力をお貸しいただきたく・・・・」
「ナセルさん。伯爵閣下は戦うのはあんまり得意ではありません。」
「な・・・・・」
ナセルは、口をあけた。
「なにを。」
「“貴族”のみなさんにも武闘派とそうでないものがいるんですよ・・・・学校で習ったんですが。」
「な、なにを言う!」
「得意な方ですか、戦うの?」
「ど、どっちかと言うと苦手ではある。」
「ルーデウス。」
アデルが、空を見据えながら言った。
「わたしは、おまえがルウエンを吸ったことを許してはないからな。」
駆け出し冒険者に脅された“貴族”は、怒るよりも呆然として、アデルの鮮やかなオレンジの髪を見つめた。
「とにかく、働け。」
そういって、アデルは空を指さした。
「わたしをあそこまで飛ばすんだ。」
「と、飛ばす?」
「そうだ。わたしは飛翔魔法だって得意なんだが、さすがに空中戦ではむこうに分があるので、あそこらへんまで、飛ぶのを手伝ってほしいんだ。できるだけ高速で。」
「浮遊魔法と飛翔魔法の単位を落してるよね?」
「ルウエンは黙れ。」
ルーデウスは、難しい顔をした。
「わたしは飛翔は得意だ。おまえを連れて飛ぶことは出来る。だが、速度が足りない。あそこまで辿り着く前に撃ち落とされる。」
「初速が必要ですね。」
ルウエンは、考え込んだ。
また、ボウガンの斉射。今度は、辿り着く前に、紫電の流れがすべてを撃ち落とした。
「まあ、あの攻撃は、ナセルさんの障壁で流せるだけ、流してください。遠隔で展開できますよね。」
「出来るが・・・・・集中して攻撃されれば突破される。アデルの鎧は、なにか付与はかかっているのか。」
「聞いて驚け。古今東西、ありとあらゆる既知の魔法、あらゆる神々の祝福をなにひとつかけていない。」
「・・・・ある意味驚いたわ。」
「初速さえ確保できれば、わたしの空中機動である程度は、かわして、こいつをあそこまで到達させられる。」
ルウエンは考え込んだ。
トンネルまではあと少し。
だが、それまで待てないし、はっきりこちらに攻撃目標をさだめた以上、トンネルの出口に先回りされたり、トンネルそのものを崩落させられる危険がある。
ある程度、速度をもって空中に飛び上がるには・・・・・。
「ボウガンを使いましょう。」
驚かなかったのはアデルだけだった。
昏倒しかかった乗務員をささえてやりながら、ナセルはぼやいた。
「今回の度はいやな予感がしたんだ。次から次へと問題が巻き起こる。」
並走して走っていた黒雲と稲妻は、はっきりとこちらに向きをかえた。
雲の中に、紫の光がまたたく。
次々とボウガンが発射された。
・・・・すべて、はずれた。
「まあ、こんなものだな。人生は。」
「けっこう、余裕ですね。」
あきれたように、ルウエンが言った。
「それはそうだろう。やれるだけのことをやってダメなら死ぬだけだ。しかし、まあ。」
男らしい顔に、笑みがうかんだ。
「列車と乗客の命を預かってるんだ。気張らにゃなあ。」
「いやな予感といいますが、いいことだってありますよ。」
「ほう? どんなことだい、坊や。」
「坊やは勘弁してください。資格をもった冒険者です。在学中の冒険者学校生が冒険者資格を獲得するのは、20年ぶりです。つまり、ぼくたちは。」
ルウエンは、こっそりと武器に追加の付与魔法をかけようとしているアデルを止めながら言った。
「けっこう優秀なんですよ。」
「非常識なだけのような気がするんだが。」
「そんな。ちゃんと『一般常識』の授業はとってます。」
ごおおおおおっ。
風がうなり、バリバリと稲光が、一箇所に集まった。
「さがれ。魔法攻撃がくるぞ。」
ナセルは、手をあげた。指輪が光る。
青いリングが広がった。幾重にも。幾重にも。幾重にも。
普通の魔法障壁ではない。
走り続ける列車すべてを覆う魔法障壁だ。
究極の鉾と究極の盾では、常に鉾が勝る。
攻撃する方は、切っ先にすべての力を込められるのに対し、守るほうは一定以上の面積に力を分散しなければ、ならないからだ。
はたして、ナセルの展開した防御壁は。
流れていた。それは高速で移動し続ける壁であり。
稲妻はそれの表面を流れるようにすべり、壁を破壊することなく、すべて流れ、滑り落ちていった。
「すごい! ユニークな魔法障壁ですね。」
「それで、なにが『いいこと』なんだい、坊や。」
「坊やはやめてください。例えばですね。はじめて竜の亡霊と対戦した人間になったことですよ。この情報は、保安部にとって価値はありませんか?」
ナセルは顔をしかめた。
「特別ボーナスの対象にはなりそうだな。生き残れたら、の話だが。
だいたい、竜の亡霊なんぞなんで、出てきたんだ?」
「そりゃあ、推測でしかないんですが、語ってもいいですか?」
「好きにしろ。」
再び、黒雲の中で稲妻が飛び交い、集束していく。
そこに、ボウガンが飛んだ。今度はそのうち一本が、その中心を射抜いて、相手はふたたび苦悶の思念波をはっしてのたうった。
「人間が怨霊化したら、人間が処理しますよね。」
「それはそうだろう。」
「だったら、竜が怨霊化したら、竜が処理するんです。でもこの世界の竜はもういないから。」
「なんだ。こいつは竜の置き土産ってことになるのか?」
「そう言っていいんじゃないでしょうか。推測ですけど、ね。」
黒いモヤのようなものが、三人の(気を失った乗務員をいれれば四人)の前に現れた。
そのまま。
高速で走る列車の風に、とばされていくのを、ルウエンが手をのばして、モヤから延びた手をつかんだ。
「あぶないですよ、伯爵閣下。」
実態を取り戻したルーデウス伯爵を、抱きとめながら、ルウレンがいった。とはいってもルーデウスのほうが背が高かったので、そのグラマラスな体に半分埋もれるような格好になっていた。
「相手はアレです。」
ルウレンは、再び光り初めた稲妻を指さした。
「アレですではないのじゃ。」
「とにかく、献血二回分の働きはしてくださいね。」
「け、けんけつ・・・・・」
「伯爵閣下。」
ナセルは、頭をさげた。
「ご足労いただき、恐縮です。賓客である閣下にたびたびお願い事をして申し訳もありません。しかし、このままでは列車そのものの運行にもさしつかえるため、そのお力をお貸しいただきたく・・・・」
「ナセルさん。伯爵閣下は戦うのはあんまり得意ではありません。」
「な・・・・・」
ナセルは、口をあけた。
「なにを。」
「“貴族”のみなさんにも武闘派とそうでないものがいるんですよ・・・・学校で習ったんですが。」
「な、なにを言う!」
「得意な方ですか、戦うの?」
「ど、どっちかと言うと苦手ではある。」
「ルーデウス。」
アデルが、空を見据えながら言った。
「わたしは、おまえがルウエンを吸ったことを許してはないからな。」
駆け出し冒険者に脅された“貴族”は、怒るよりも呆然として、アデルの鮮やかなオレンジの髪を見つめた。
「とにかく、働け。」
そういって、アデルは空を指さした。
「わたしをあそこまで飛ばすんだ。」
「と、飛ばす?」
「そうだ。わたしは飛翔魔法だって得意なんだが、さすがに空中戦ではむこうに分があるので、あそこらへんまで、飛ぶのを手伝ってほしいんだ。できるだけ高速で。」
「浮遊魔法と飛翔魔法の単位を落してるよね?」
「ルウエンは黙れ。」
ルーデウスは、難しい顔をした。
「わたしは飛翔は得意だ。おまえを連れて飛ぶことは出来る。だが、速度が足りない。あそこまで辿り着く前に撃ち落とされる。」
「初速が必要ですね。」
ルウエンは、考え込んだ。
また、ボウガンの斉射。今度は、辿り着く前に、紫電の流れがすべてを撃ち落とした。
「まあ、あの攻撃は、ナセルさんの障壁で流せるだけ、流してください。遠隔で展開できますよね。」
「出来るが・・・・・集中して攻撃されれば突破される。アデルの鎧は、なにか付与はかかっているのか。」
「聞いて驚け。古今東西、ありとあらゆる既知の魔法、あらゆる神々の祝福をなにひとつかけていない。」
「・・・・ある意味驚いたわ。」
「初速さえ確保できれば、わたしの空中機動である程度は、かわして、こいつをあそこまで到達させられる。」
ルウエンは考え込んだ。
トンネルまではあと少し。
だが、それまで待てないし、はっきりこちらに攻撃目標をさだめた以上、トンネルの出口に先回りされたり、トンネルそのものを崩落させられる危険がある。
ある程度、速度をもって空中に飛び上がるには・・・・・。
「ボウガンを使いましょう。」
驚かなかったのはアデルだけだった。
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