残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

文字の大きさ
19 / 83
第二章 黒金の城

第19話 夢一夜

しおりを挟む
なにしろ、出会ったからほんの数日のメンバーである。
話すことは、自己紹介をふくめ、山ほどあったが、夜もふけきたため、ナセルは立ち上がった。

「バルトフェルを占領したククルセウ連合の動きが、わかるまで、列車はここに停止する。」

ナセルは言った。

「隣駅から、武装した保安士が様子を見に行っている。必要ならば、戦ってバルトフェルを奪還することになるだろう。
その場合は、また公社が直轄する街がまたひとつ増えることになるし、ククルセウに罰が下されてしかるべきだ、な。
明日の日暮れには、城から今後の処遇についての話があるはずだ。」

ルウエンは、奥まった、小さな明り取りの窓があるだけの部屋をみつけて、窓を上手にふさいだ。

「閣下はここでお休み下さい。」
「寝るには早いだろう。」
ルーデウスは、残念そうに言った。
「まだ夜はこれからじゃないか。」
「人間は夜は眠るものなんです。」
「あの」

ルウエンの寝所を尋ねてもいいか、あるいはこの部屋にルウエンを招いてもいいか。

というような内容のことを、ルーデウスは語った。
かなりたどたどしく。時間をかけて。

少年は、にっこり笑った。

「だめです。」



ルウレンとアデルは、少々困ったことになった。
高級乗務員用につくられた部屋は、たしかに機能的にも十分であったが、もともと高貴な身分でもない乗務員に、従者など連れてくるものなどいない。
よって、この部屋も寝室はひとつしかなかった。

クローゼットをルーデウスの寝室にあてたとしても、ベッドはひとつ。

「ベッドはアデルが使え。」
やや、ぶっきらぼうに言うと、ルウエンは部屋を出ていこうとした。リビングの床にマントでもひいて眠るつもりらしい。
アデルは、腕を掴んでひきとめた。
「ちょっと、話をしとこうよ。打ち合わせ的なやつを。」

食事中に、アデルは、まあ、はっきり言って似合ってもいなかったメイド服を魔改造してしまっていた。
具体的には、胸元のボタンをいくつかはずして、袖をちぎって、けっこう露出の多い格好になっていたのだ。

「打ち合わせもなにも。」

アデルの唇から犬歯が牙のように、のぞいていた。
笑っている。

「一応、学校を出るときに説明した通りだ。ぼくたちの卒業試験は、謎につつまれた『城』について。とくに正体のわからない『ご領主さま』についてのレポートを出すこと。これが評価されれば、ぼくたちは史上三組目の在学中に『銀級』を勝ち取った冒険者になる。
首尾よく、難民にまぎれて『城』に潜り込むことには成功した。明日からの計画はでたとこ勝負。残念だけどなにも計画はない。」

アデルはだまって、ルウエンに唇をよせた。
すこしかがむようにして、ルウエンの首筋を噛んだ。

「いた!」

ルウエンは顔をしかめる。
もちろん、アデルが本気でないことはわかっていた。彼女の強靭な咬合力ならば、本気でかめば肉も、骨だって食いちぎれる。

「ふん?」
アデルは、自分の歯型のついたルウエンの首すじを見つめて、不満そうに鼻をならした。
「消えないね。ルーデウスの牙のあとは。」
「双主変をやろうとしたの?」

ルウエンは、肩を掴んでアデルの体を遠ざけようとした。厚くしなやかな筋肉に包まれたアデルの体はそれを拒否した。

「あれは、伝説のきゅうけ・・・・“貴族”のなかでも“真祖”だけが出来る業なんだって!
ほんとに実在するのかわからない業だし、そもそも真祖なんて存在すらたしかじゃあない代物なんだから。」
「ルーデウスは、強いよね。」

アデルは、そう言いながら、もう一度、ルウエンの首筋の吸血痕に舌をはわせた。

「ちゃんとした“貴族”にあったのははじめてだけど、すごい。性格はちょっとアレだけど。でも強さでいったら、ルウエンを試したあのドルクってカ“貴族”のほうが上だし。」

アデルはまっすぐに、ルウエンの瞳をのぞきこんだ。

「いまのところは、あなたをだれにも渡したくないの。」
「まえにも、話したと思うけど、ぼくは恋愛の対象にはむかないよ。」
「わたしもそのレンアイってものはよくわかってないのかもしれない。」

アデルは、服に手をかけるといっきに引きちぎった。

ボタンがいくつか、床にとび、下着姿の彼女は、それでもまっすぐにルウエンを見つめた。

「・・・・借り物だよ、その服。ルーデウス閣下のだろ。」
「あなたを貸してる以上、利子は積み重なる。」

性的な意味合いでは、未成熟だったかもしれない。あるいは、その姿はあまりにも強靭な、まるで野生の獣を思わせるもので、女性らしい柔らかなラインには欠けているという意味で、好み、の問題はあったかもしれない。
しかし、アデルは美しかった。

服にかくれていた部分にも白い傷跡がいくつも走る。
古い傷ではない。ただ、あまりにも早く傷を治癒させてしまうことはかえって、ダメージを受けることに対して無神経になってしまう、という教えを忠実に守って、治癒促進をほどほどにしか、かけていないのだ。
その一番、あたらしいものは、つい先日の死竜との戦いでうけた擦過傷であり、肩口から、胸の谷間にかけてはしる刀傷は、稽古の際にルウエンが付けたものだ。

ためらいもせずに、アデルは下着にも手をかけた。
ただしこちらは、引きちぎらずに、丁寧に紐をといて、脱ぎ捨てた。
形良く実った乳房を押し付けるようにしながら、アデルは言った。

「ルウエン。わたしはけっこう頑張っていると思う。とくに、ルーデウスをぶち殺さず、ドルクとあなたが戦ったときも手出しをしなかった。」
「まあ、それは」

死竜に深手を追わせたんじゃなくって、そっちを褒めてほしいのか?

「・・・・よく我慢した。」

「だから、一緒のベッドで寝てほしい。いずれにしてもベッドはひとつだけなんだから。広さは十分にあると思う。ふたりならラクラク眠れる。」

確かに、部屋の調度もかなり豪華なもので、ベッドはふたりくらいなら十分に眠れるだろう。

「アデルは、それでいいのか?」
「ルウエンは、この手のことに奥手すぎるんだ。わたしがリードしてやるから・・・・」
「それは、やめといて! 任務中だぞ、ぼくらは。」
「わかった。『それ』はやめとこう。とりあえず、肌を合わせて眠る相手がほしい。いかが?」

なるほど。
と、言いながら、ルウエンはリビングを振り返った。

「肌を合わせて眠る相手は、ほしいよな?」
「そうだね!」

アデルの目が輝いた。
ふたりで旅をしてはいたが、屋根のあるところでふたりきりで眠るのははじめてだった。
アデルも強気なことを言うほどの経験があるわけではない。だが、ルウエンが“貴族”に取られてしまうと思うと、心の中に暗い不安がわいてくる。

出会ってそれほどの年月を一緒にすごしたわけではないが、ルウエンはアデルにとって、特別なひとりになっていた。

ルウエンは、リビングを振り返った。

「アデルが一緒に寝たいそうなんだけど。」
「ふぁい?」

寝ぼけたような間抜けな声がした。
アデルの目がまるくなった。

現れたのは輝くばかりの美少女だった。
身につけているのは青黒い、鱗ににた模様の胸当てと、股間は、同じ素材の金属とも布ともつかない材質のものでかろうじて覆ってある。

「誰だ! おまえは!」
「誰だって、言ってる。」


10をいくつも出ていない少女は、困ったように首をかしげた。長い、背中までのびた銀髪が、それに合わせてゆらいだ。

「ま、待て! わかった! おまえ、竜だな?」
「いかにも。」

と、答えて、少女は天井をむいた。なにか言葉を探しているようだった。

「誰か、というのを答えるのは難しいのだ。」
少女は、困ったように首をひねった。
「あの腐肉の塊のなかに長い間、いすぎたせいで記憶に欠損がある。自分の名前も思い出せない。そのことも含めて、おまえたちと話がしたかったので人化してみたけど。
どうだ、出来栄えは?」

くるり。
と、少女は、ルウエンとアデルのまでターンしてみせた。

「わるくないと思う。でも今日はもう遅いから、話は明日にしよう。」
「もちろんだ。で、わたしはそこのベッドでアデルと眠ればいいのだな?」
「ちょっと! あたしはルウエンと。せっかくの二人きりの夜が・・・・」
「残念だけど、ここにはルーデウス閣下もいて、クローゼットの中で目をギンギンに輝かせている。おまけに人化した古竜までいる。」

がっくりと、アデルはたくましい肩をおとした。
「わかった・・・・・」

「そうだ! アデル。ルウエン。わたしに名前をつけてよ。たぶん生前使ってた名前はあるんだろうけど、思い出すまで、さ。」

アデルは、腕組みをして考え込んだ。

「・・・・そうだな。ラウレス、というのはどうだ。」

ルウエンが変な顔をした。

「ラウレス・・・か。あんまりいい響きじゃないけど、まあ、いいや。わたしをよぶときはそう呼んでよ。」

ラウレスは、腕をひとふりした。ビキニ鎧が消えて、かわりにパジャマになっている。色は同じく青緑だったがやわらかそうな素材だった。
「さあ、眠ろう、アデル。それとも男の子のほうがよかった?」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

処理中です...