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第二章 黒金の城
第18話 鉄道保安官の招待
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三人と一匹を迎えに来たのは、鉄道保安官のナセルだった。
アデルは、じろりと彼を睨んでから、頭を下げた。
「世話になった。」
「まともな口もきけるのか。礼儀作法のほうも落第しているとばかり、思っていたぞ。」
「当たり前だ。わたしはこれでも」
その口を、ルウレンの手が後ろから塞いだ。
「おかげで、試験は合格。ルーデウス閣下はここに置いて貰えそうです。ナセルさんがドルク閣下に話をして貰えたからだと、聞きました。」
つらつらと、ルウレンが述べた。流暢すぎて、ちょっと詐欺師っぽくさえあった
「確かに、ちょっと、話はしたさ。史上初の竜の亡霊を退けた臨時パーティだ。このまま手放してしまう手はないだろう、とね。」
「実際に勝負に勝ったのは、ドルクのほうなのに太っ腹だよな。」
アデルは、相変わらず敬語、尊称はなし、である。
クルルルル。
ミニ竜が、非難するように鳴いた。
半ば白骨と化した竜の屍を屠ったのは、まぎれもなくルーデウスたちであったのだが、ニミ竜はすっかり彼らに懐いていた。
「三合打ち合えば、おまえたちの勝ち。
そう宣言したからには、約束は守るだろう。ドルクはそういう男だ。」
ナセルは、キッパリと、言った。
ふうん。
納得したのかしないのか、ルウエンはちょっと考え込むような仕草をみせた。
「例えば、なんですけど、ぼくが剣をもってなかったら、それって、成立しないじゃないですか?
ドルク閣下が、斬りかかってくるのを、ぼくが、切り結びもせずに、逃げ回っていたりしたろどうなりましたかね。」
「ドルクの剣技からそうそう逃れられるものがいるとも思えんが。
そうだな。いたくプライドを傷つけられこそするが、結局、相手の勝ちを認めるだろうな。
テストの目的は相手の強さを図ることであり、それが一定レベル以上あることが確認できたわけだから。」
「それは」
ルウエンはにっこりと嬉しそうに笑った。
「立派なおかたですね。」
「ああ。その通りだな。」
「閣下にはあらためて、お礼を申し上げます。」
ナセルは、丁寧にルーデウスに頭をさげた。
「閣下のご活躍で、列車と多くの人命が救われました。のちほど、公社としても規定の討伐料を上乗せして、お渡しいたします。」
「いや・・・・そんな、」
「もらっておいたほうがいいです、閣下。」
ルウエンが口を出した。
「ぼくたちが回収しそびれた屍の残骸だけでも、公社が予定している討伐料の20倍は価値がありますから。」
「そ、そうなのか?」
「だって、現代では手に入らない竜の素材ですよ? それが一山あるんですから。」
「そ、そう考えると・・・・」
「ただし、アレ自体があくまで、行き場をなくした竜の亡霊がとりついたなにかの塊にすぎません。ほんとうにその素材が『竜』のものとしての価値があるのかどうなのか。」
キルルルル。
とミニ竜が鳴いた。
「と、とにかく、だ。」
あまりそこいらは、細かく話をしたくないのか、ナセルはいささか慌てたように、続けた。
「まだ、ルーデウス閣下に滞在いただく、屋敷も用意できていない。そこで、準備ができるまで、高級職員用の宿舎をご用意した。
これも公社からのお礼の気持ちとして受け取ってもらえればありがたい。」
「・・・・世話になろう。ナセル保安官。」
ルーデウスは重々しく言った。
「このふたりに食事や飲み物を用意してもらえるか?」
「もちろんです、伯爵閣下。」
案内されたのは、駅からさほど遠くない。
五階建てのコンドミニアムだった。
ここ数年流行りである南方の港町の建物をモデルにした、四角い、まるで墓標のような建物だった。玄関をはいってすぐのホールは、談話室や接客用のスペースも有り、豪華なつくりではあったが、窓のない部屋がないことに、ルーデウスが難色を示した。
「閣下は、あれですか? 陽の光にあたると溶けるタイプなんですか?」
ルウエンが明るい口調で、ずいぶんと失礼なことをずけずけと言った。
「誰が! ただ、基本的には呪いの一部として“親”からは陽光麻痺の体質を受け継いでいる。日中活動するためには、最低でも三つの魔法の重ねがけが必要なんだ。
進んで太陽の下に出ていきたいとは思わない。」
ナセルは少し驚いた。
“貴族”が自分の弱点をあけすけに語るのは、珍しい。しかもその相手は、自分が噛んだいずれ、“子”となるであろう相手である。
「だから、いずれおまえもこうなる。
大丈夫、できる限り保護をするし、余計な呪いは植え付けない。だから安心して一緒にに、闇の生を歩いて欲しい。」
それは、何百年いきたかわからない“貴族”の愛の告白とも取れる、真摯な言葉だった。
「代を重ねる事に、弱体化するのは、“貴族”」の特性上しかたない気もしますが。」
プロポーズ、ともとれる言葉を、少年は平然と無視した。
「それでは、日常生活が不便でしょう。ここのご城主に噛んでもらったら。」
「な、な、な、なにを言う!」
ルーデウスは飛び上がった。
「ここのご城主は“真祖”だという…噂です。
親を切り替える、いわゆる双主変という力ですね。真祖なら使えるでしょうし、そうすれば、閣下が受け継いだ呪いともいえる弱体化からは、解放されます。」
「それは、難しいだろう。」
ナセルが口を挟んだ。
「ここのご領主は、一時、実在が危ぶませるほどに、姿を見せなかった。
ご領主が“暗き御方”の盟友であるがゆえに、この地には戦の手が及ばず、平穏な日々が送れている以上、実在はしているのだろうが
はたしてどんな人物なのか、一切が不明のままだ。
もちろん、かなり上位の“貴族”には違いないが、“真祖”はどうかな。誰にも噛まれずに、自ら“貴族”となったもののことだろう?
それ自体が伝説の産物だぞ。」
アデルは、じろりと彼を睨んでから、頭を下げた。
「世話になった。」
「まともな口もきけるのか。礼儀作法のほうも落第しているとばかり、思っていたぞ。」
「当たり前だ。わたしはこれでも」
その口を、ルウレンの手が後ろから塞いだ。
「おかげで、試験は合格。ルーデウス閣下はここに置いて貰えそうです。ナセルさんがドルク閣下に話をして貰えたからだと、聞きました。」
つらつらと、ルウレンが述べた。流暢すぎて、ちょっと詐欺師っぽくさえあった
「確かに、ちょっと、話はしたさ。史上初の竜の亡霊を退けた臨時パーティだ。このまま手放してしまう手はないだろう、とね。」
「実際に勝負に勝ったのは、ドルクのほうなのに太っ腹だよな。」
アデルは、相変わらず敬語、尊称はなし、である。
クルルルル。
ミニ竜が、非難するように鳴いた。
半ば白骨と化した竜の屍を屠ったのは、まぎれもなくルーデウスたちであったのだが、ニミ竜はすっかり彼らに懐いていた。
「三合打ち合えば、おまえたちの勝ち。
そう宣言したからには、約束は守るだろう。ドルクはそういう男だ。」
ナセルは、キッパリと、言った。
ふうん。
納得したのかしないのか、ルウエンはちょっと考え込むような仕草をみせた。
「例えば、なんですけど、ぼくが剣をもってなかったら、それって、成立しないじゃないですか?
ドルク閣下が、斬りかかってくるのを、ぼくが、切り結びもせずに、逃げ回っていたりしたろどうなりましたかね。」
「ドルクの剣技からそうそう逃れられるものがいるとも思えんが。
そうだな。いたくプライドを傷つけられこそするが、結局、相手の勝ちを認めるだろうな。
テストの目的は相手の強さを図ることであり、それが一定レベル以上あることが確認できたわけだから。」
「それは」
ルウエンはにっこりと嬉しそうに笑った。
「立派なおかたですね。」
「ああ。その通りだな。」
「閣下にはあらためて、お礼を申し上げます。」
ナセルは、丁寧にルーデウスに頭をさげた。
「閣下のご活躍で、列車と多くの人命が救われました。のちほど、公社としても規定の討伐料を上乗せして、お渡しいたします。」
「いや・・・・そんな、」
「もらっておいたほうがいいです、閣下。」
ルウエンが口を出した。
「ぼくたちが回収しそびれた屍の残骸だけでも、公社が予定している討伐料の20倍は価値がありますから。」
「そ、そうなのか?」
「だって、現代では手に入らない竜の素材ですよ? それが一山あるんですから。」
「そ、そう考えると・・・・」
「ただし、アレ自体があくまで、行き場をなくした竜の亡霊がとりついたなにかの塊にすぎません。ほんとうにその素材が『竜』のものとしての価値があるのかどうなのか。」
キルルルル。
とミニ竜が鳴いた。
「と、とにかく、だ。」
あまりそこいらは、細かく話をしたくないのか、ナセルはいささか慌てたように、続けた。
「まだ、ルーデウス閣下に滞在いただく、屋敷も用意できていない。そこで、準備ができるまで、高級職員用の宿舎をご用意した。
これも公社からのお礼の気持ちとして受け取ってもらえればありがたい。」
「・・・・世話になろう。ナセル保安官。」
ルーデウスは重々しく言った。
「このふたりに食事や飲み物を用意してもらえるか?」
「もちろんです、伯爵閣下。」
案内されたのは、駅からさほど遠くない。
五階建てのコンドミニアムだった。
ここ数年流行りである南方の港町の建物をモデルにした、四角い、まるで墓標のような建物だった。玄関をはいってすぐのホールは、談話室や接客用のスペースも有り、豪華なつくりではあったが、窓のない部屋がないことに、ルーデウスが難色を示した。
「閣下は、あれですか? 陽の光にあたると溶けるタイプなんですか?」
ルウエンが明るい口調で、ずいぶんと失礼なことをずけずけと言った。
「誰が! ただ、基本的には呪いの一部として“親”からは陽光麻痺の体質を受け継いでいる。日中活動するためには、最低でも三つの魔法の重ねがけが必要なんだ。
進んで太陽の下に出ていきたいとは思わない。」
ナセルは少し驚いた。
“貴族”が自分の弱点をあけすけに語るのは、珍しい。しかもその相手は、自分が噛んだいずれ、“子”となるであろう相手である。
「だから、いずれおまえもこうなる。
大丈夫、できる限り保護をするし、余計な呪いは植え付けない。だから安心して一緒にに、闇の生を歩いて欲しい。」
それは、何百年いきたかわからない“貴族”の愛の告白とも取れる、真摯な言葉だった。
「代を重ねる事に、弱体化するのは、“貴族”」の特性上しかたない気もしますが。」
プロポーズ、ともとれる言葉を、少年は平然と無視した。
「それでは、日常生活が不便でしょう。ここのご城主に噛んでもらったら。」
「な、な、な、なにを言う!」
ルーデウスは飛び上がった。
「ここのご城主は“真祖”だという…噂です。
親を切り替える、いわゆる双主変という力ですね。真祖なら使えるでしょうし、そうすれば、閣下が受け継いだ呪いともいえる弱体化からは、解放されます。」
「それは、難しいだろう。」
ナセルが口を挟んだ。
「ここのご領主は、一時、実在が危ぶませるほどに、姿を見せなかった。
ご領主が“暗き御方”の盟友であるがゆえに、この地には戦の手が及ばず、平穏な日々が送れている以上、実在はしているのだろうが
はたしてどんな人物なのか、一切が不明のままだ。
もちろん、かなり上位の“貴族”には違いないが、“真祖”はどうかな。誰にも噛まれずに、自ら“貴族”となったもののことだろう?
それ自体が伝説の産物だぞ。」
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