残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

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第二章 黒金の城

第17話 入国審査3

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ドルクは、三人と一匹を、駅裏の空き地に案内した。
様々な資材が積み上げられた空き地だ。

それほど、広くはない。

昼間は多くのひとが出入りするのだろうが、最終便であるルーデウスたちをのせた便は、客車ばかりで、物資はろくに積んでいない。

明日はともかく、今晩はここを使うものは誰1人いないだろう。

「というところで。」
ドルクは、軽く首と肩を回した。
「公式な見解としては、おまえらの入国はNGだ。」
「そこをなんとか!」
「難民たちと同一には、扱えんよ。
現実に、ルーデウス殿。あんたは、ここで入国を拒否されたからと言って、死ぬことはあるまい?」
「まあ、その通りですね。」

小姓姿のルウエンが、答えた。

「ルーデウス閣下は、けっこう強力な“貴族”ですよ。
荒野を旅することも、そこいらの守備隊程度の戦闘に巻き込まれても、どうこうなることはありません。まして、ぼくとアデルは、ほんの通りがかりです。安全な帰国ルートの情報収集に何日か滞在はしたいかな。
そのくらいです。」

だろうな、とドルクは頷いた。
「我々が、人間を入国させるのは、主に人道的な意味合いだ。この先も動乱は続くし、最終的に世界がどう落ち着くかは、皆目わからん。人間は確かに、増えやすい生き物だが、属すべき社会をなってしまったら、たやすく、死んでしまう脆弱さももっている。」

「しかし、わざわざドルク閣下は、わたしたちをテストしてくださる。なぜです?」
「昔馴染みのあの鉄道保安官、ナセルに頼まれたんだよ。」

ドルクは、タバコを取り出して火をつけた。
人間にとっては、さまざまな害のある煙を、胸いっぱいにすいこんで、吐き出した。

「避難民の運搬、それから道中で襲ってきた魔物の撃退。
いずれにも、功績があったことを強調していてな。なんとかしてやってくれと頼まれた。
ご領主さまは、そういうバカな“貴族”は嫌いじゃないと思う。」

「ぼくもそう思いますよ。」
ルウエンはにこやかに、そう言った。
「ご厚情に感謝します。それでとんなテストを受ければよいのですか?」
「このタバコが燃え尽きるまで、俺の前に、立っていること。」

すでに3分の1は燃え尽きた紙巻きを、唇に載せるようにして、ドルクは言った。

「俺は、ご領主の親衛隊のなかでも特に、剣には自信があってな。どんな抵抗をしてもいい。このいっぷくが終わるまで、3人のうち1人でも立っていられたら、合格にしてやる。」
「優しいんですね?」
「残念ながら。俺はこの20年ばかり、剣の勝負で負けたことはないんだ。」

わかりました。

むしろうれしそうに、ルウレンはにこにこと笑った。

「ほう? 受けて立つか?」

「拒否することはないでしょう。」
ルウエンは声を潜めるように言った。
「そもそも、煙草というものは、人間だから害がある、というものではありません。
確かに、定まった寿命というものがない、“貴族”のみなさんですが、逆に申し上げれば、人間の寿命すら越える期間、その肺は煙という誤ったものを吸い続けさせられる訳です。
物理的な損傷には対応する、貴族の不死身性もそういったダメージからは回復が遅いのです。かくして、そのような“貴族”は人真似をしようとしても、咳き込んだり、甚だしくは、吸血中の下僕からも『口が臭い』という点で、嫌がられるようになるのです。
目に見えない臓器の一見するとわからないダメージにおいては、単純には再生が出来ずに、ときとして、自らが、肺エグりだし、損傷を目視せねばなりません。ここで問題となるのは、肺は大きな臓器であり、隣には心臓があるということです。施術はきわれて、危険であり、」

「なにを言ってるんだ?」

「閣下に喫煙の習慣をやめさせれば、いまのタバコを吸うのをやめることになるので、自動的に勝ちになるのでは?」
「なるか! その前にタバコが燃え尽きるわッ!」
「その場合も、ぼくらの勝ちです。恐ろしく分の悪い賭けをなさいましたね。」

外見によらず、少年が腕の良い魔法士であることは、ナセルから聞いていた。
少女アデルが、優れた剣士であることも。
だがどう考えても、主敵はルーデウスである。

同じ貴族として、ドルクは当然、そう考えていた。
違う、のか?

ふいに、背筋を冷たいものが上下した。
20年前に、ドルクを負かしたのは誰だ?

「ゲームを変える。」
ドルクは、紙巻きを足元に落とすと、踏みにじった。
「ルウエン…と言ったな。おまえが、俺と3合、剣を交えることができれば、おまえたちの勝利だ。」

「なんで! ルウエンを!」
似合わないメイド袋のアデルが抗議した。
「剣の勝負ならわたしだろ!?」

「アデルだと、流血沙汰になってしまう。」

ルウエン少年は、1歩前に進んだ。少し背を丸めて、両手はからだの脇にたらして。
ドルクの間合いに。
いとも簡単に、少年は侵入してきたのだ。

それはまるで、達人と呼ばれる剣の達者が行う歩法にほかならぬ。
たが、ドルクもまた、百年以上を剣の道に邁進してきた“貴族”であった。
その力、反射神経、技量すべてが人間を上回る。

金属がふれあう音は三回。

ドルクの突きを、ルウレンの剣がはじき、弾かれた剣が、そのまま、軌道をかえて、ルウレンの首筋をおそう。
受けたルウレンの剣は、ドルクの剣に耐えられず、この時に折られている。
その折れた剣先を、空中で指で挟んで受け止めたルウレンが、それをドルクめがけて、投げつけ、ドルクの剣が弾いたのが、3回目。

「果たしてこれで『三合』になりますかね微妙です。切り結んでこその三合ですから。で、勝負としてはぼくの負けです。剣を折られてしまいまししたからね。
いかがします?」





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