残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

文字の大きさ
22 / 83
第二章 黒金の城

第22話 再会のとき

しおりを挟む
ラウレスは、納得したのかしないのか、2杯目を要求した。
今度はさきほどとは違って、一気に煽ったりはしなかったが、それでも一口飲んで
「この飲みものは気に入った。」
と、つぶやいた。

イシュトが不思議そうに、
「あなたのいたところには、お酒がなかったの?」
と尋ねると、ラウレスは、困った顔をしたが、
「記憶がないんだ。ここに来る途中で、拾ってもらったんだけど。」

「まあ。場所はどこなの?」
「わからない。山の中だったと思う。」
「バルトフェルからここまでの間?」
と、イシュトは、ルウエンに尋ねた。

ルウエンは頷いた。
「そうですよ。トラブルがあって、列車をとめたときに見つけました。」
「じゃあ、ラウレスって名前は?」
「アデルがつけてくれた。」

お客は、だれも、入ってこず、しばらく四人は四方山話を続けた。

「パーティ名をご領主さまに決めていただくのは、あまり感心しないわね。」
イシュトは自分もグラスを持ち出して、一杯やりながらそう言った。

「そうですか? 謎につつまれたご領主さま、しかも『昏き御方さま』を直接知るとの噂もある。そんな方にパーティ名をつけていただけるのは、とっても名誉なことに感じますけどね。」
「ご領主さまは、はっきり言うとネーミングのセンスがまるでない。」
多少、酔いも手伝ったのか、イシュトははっきりとそう言った。

「お会いになったことはあるのですか?」

イシュトは、本に顔面をおしあてたまま、眠りこけている冒険者をチラリと見ながら、声をひそめた。

「ここを紹介したのは、参議官のドルク閣下だろう?」
「偉いんですか、その役職?」
「さて、なにしろここは、独立してはいるが、ひとつの国ほどの規模はない。そこの城主を中心とする評議会に参加できるのが、参議官よ。」

やっぱり、けっこう偉いのか。
と、ぶつぶつ言いながら、ルウエンは、お酒を舐めた。

「じゃあ、ここは特別な冒険者事務所ってことですね?」
「一応、ここが作られた時に、一役かったのが、『ラザリム&ケルト』事務所さ!
そういう意味では、特別だね。
閣下がここにあなたがたを送り込んだのは、まあ、単純に、あなた方にに興味を持ったのだと思うわ。
普通に、そこいらの事務所を尋ねたら、有無を言わせずに、バルトフェル奪還作戦に巻き込まれて、悪くすれば討死。」

「バルトフェルの奪還には、鉄道の保安部が動いていると、聞きました。」
「それは動くだろうし、すみやかに保安部が勝利するだろうさ。」

イシュトは、またお代りを要求したラウレスのグラスに酒を注ぎながら言った。

「だけど、そのに『加勢した』って実績が欲しいんだろう? 『城』の上層部は、ね。
ならとにかく、戦ってみせないと。お宝は、寝転んでまってても歩いてきてはくれないのだから。」
「でも、まとまった戦力を組織するのも、送り込むのも、どうあがいたって鉄道公社が早いでしょう?」

ルウエンは、言った。

「ここの戦力が着く前に、戦いは終わってます。」

「それもそうだよ。」
イシュトは、頷いた。
「だけど、今回はいろいろと例外だ。
場所はわたしたちの隣の駅だし、列車はここに止まっている。不可侵条約を破って、駅のある街に手を出したククルセウを蹴散らすのだから、当然、移動に列車を使わせてもらえるだろう。
あとは人数だけど、ここには正規軍というもなはない。けど、冒険者はいる。
かき集めて、明日の朝には送り出せる。。」

「冒険者と傭兵は、似て非なるもんだけどなあ。」
アデルが不満そうに言った。

ラウレスと違って、アデルもルウエンも、酒にはほとんど手をつけていない。

「ここには、産業になるような迷宮はない。」
イシュトは、艶然と笑った。
「冒険者はいわゆるなんでも屋ってこと。
もちろん、戦いにも駆り出される。
ここでのパーティ編成が、5人から8人って話したのは、それが近代の軍における最小単位だから。戦争に送り込む時に、戦力の計算がしやすいようにね。」

「ここは、戦争とは無縁の土地だって、うかがってんですけど。」
ルウエンの言葉には、非難するような響きがあった。

「それも正解。年がら年中、土地をとったの街を焼いたのしてるほかの国に比べれば、出動の機会なんて、ないに等しい。
けど、ないわけじゃない。
戦わないだけで、戦えないわけじゃないことを、常に示しておかないとならないのよ。」

「なんだか、騙されてるような気がする。」
アデルが不満そうにぶつくさ言った。

「というわけで。4人編成のパーティもためな訳じゃないけど、はやめに5人めを補充しておくのをおすすめするわ。
単純な護衛任務だって、パーティが5人以上いることを前提に、発注されることが多いんだから。」

「ついたばっかりなので。」
ルウエンは、腰を上げた。
有意義なひと時ではあったし、イシュト・グイペルは、たしかに顔をつないでいた方が、あとあと役にたつ人物であることは、わかったが、これ以上、長居をしても得るべきものはなさそうだ。
日の暮れる時刻には、帰らねばならないし、そのまえにすこし買い物もしたかったのだ。

「はい!」

明るい声に、3人は振り返った。
机の顔をつっぷして爆睡していた冒険者が、手を挙げていた。

髪は短く、瞳はとてつもなくきれいな紺色だった。
口元にまいたストールがずれて、健康そうなビンクの唇が微笑んで、白い歯が見えた。

イシュト・グイペルが苦虫を噛み潰したような顔をした。

「わたしが5人め、というのはどうだろう?」

立ち上がったその姿を見て、ルウエンたにははじめて彼女が、女性であることに気がついた。
化粧などなにもしていないボーイッシュな美貌だったが、短い丈のジャケットの下のタートルネックセーターの胸は、鮮やかに盛り上がっている。

「ここの冒険者?」
アデルが、ルウエンの前に出た。
「だれ?」

「わたしを忘れちゃったの。」
美貌の女冒険者は、1歩、近づいた。
アデルが剣の束に手をかけた。

「ロウ=リンド」
ルウエンが、嗄れた声でつぶやいた。
「ぼくのこと、覚えてるの?」

冒険者は、破顔した。

「あたりまえでしょう! ルウエン。」

ルウエンのもらした、ため息はとてつもなく、深く、長かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...