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第二章 黒金の城
第26話 謁見の間
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遠目には、豪壮に見えた城だが、近づくとそうでもない。
もともとは、この地方を支配するなんとかという侯爵(これは人間の封建領主としての称号のほうだ)の持ち物だったというが、くねくねと曲がった隘路に、覗き穴のついた石塀が、並ぶという、昔ながらの趣ある古城のひとつにすぎなかった。
途中で、ふいにアデルが立ち止まった。
そこからは、石壁が「漆黒城」の名の通り、黒く塗られている。
使われている石も、いままでのようなつるりとした感触ではなく、ごつごつとして見えた。
「どうした、アデル。」
ルウエンが、尋ねたが、がれにももうわかっていた。
「いったいなにが・・・・」
ルーデウスが尋ねた。
ラウレスは、なにか不安を感じるように、やはりそこから先に進むのを尻込みしていた。
「たいしたものだと、思うよ。アデル。」
ロウ=リンドがくすくすと笑った。
「これは感じられなくてもしかたない。いまはこの壁は生きてはいないのだからね。」
「真祖さま。」
ルーデウスは、自分だけが、異変に感知できないことを恥じるように、ロウに尋ねた。
「壁の材質がかわっていることは、わかります。実際に、色だけではない。芯の部分は岩かも知れませんが、その全体を細かな・・・・」
ルーデウスは息をのんだ。
「これは・・・・虫? いえ、かたちはそうですが、ここにはなんの力も通ってはいません。この壁を構成している虫たち・・・の死骸。いえ、虫の形をした素材は少なくとも生きてはいません。なんの脅威にもなりません。」
「それで、答えとしては満点だ。」
ロウ=リンドは、うれしそうに、ルーデウスを褒めた。
「観察力、分析力ともにまったく問題ない。正解だ、ルーデウス。
これは、ルウエンたちが異常すぎるのだ。こんな形のものをみたことがあるか、ルウレン。」
「内部で、武器を製造できるタイプの神獣の作品ですよね。」
ルウレンは、答えた。
「いまは、まあ、電球でいうところのスイッチをオフにした状態ですから、なんの脅威にもなりません。
ただ、スイッチを入れることもできるわけで、そのときの戦闘力は、ちょっと未知数です。」
「一体一体はたいしたことはないよ、ルウレン。」
ロウは、慰めるように言った。
「ただ、この城の壁がほとんど、これで覆われていることを考えると。」
「そんな!」
ルウエンの顔色がかわっていた。
「そうだ。数十万の魔物の軍団だ。」
「出動させたら壁が崩れちゃうじゃないですか!」
同時に叫んで、ロウとルウレンは顔を見合わせた。
「・・・・感想はそっちか。」
「そうですよ。構造体を全部武器にしたら、天井はおちるわ、床はぬけるわ。」
「気が合うんだな。昔、一緒に戦っただけなのに。」
すねたアデルの肩を、ルウエンが叩いた。
「そんなことない。これの脅威を瞬時に感じ取れるのは、さすがにアデルだ。不世出の天才だよ。」
「本気で、ほんとにそう思う?」
「思う思う。」
「ルウエン。あとで、でいい。そのアデルがなにものかは、ご領主のまえで話してもらうぞ?」
「アデルは、冒険者学校の同級生ですってば。学校始まって以来の天才です。」
「そうなんだ。それ以外に補足することはいろいろあるよね。出自とか、なにをどこで、誰から学んだとかね。
その変わった武器も含めて。」
さあ、いこう!
とルウレンは明るく声をかけた。
気が付かなければ。
気が付かなければ、よかった。
ルーデウスは、あしが震えるのを感じた。足元の石畳も、塀と同じ色に変わっている。これが全部、魔物なのか。いまは眠っているだけで、その上をおそるおそる歩を進める。
「いまは、こいつはら、たんなるモノだ。たとえ攻撃されても反撃することはない。」
ロウが慰めた。
「もちろん、ご領主がスイッチをいれたら。」
やめてくれれえ。
泣き出しそうなルーデウスをひょいと。アデルがおんぶした。
「なんだか、先が長そうなので急ごう。」
「ふええええええっ」
「なんであんなのに、血を吸わせたんだ。」
ロウが、ルウエンの側によってきたぼやいた。
「もう少しましなのはいなかったのか?」
「バルトフェルの住民を、閣下の特別車両に収容してもらうためにはしょうがなかったんですよ。」
「自分を、吸血鬼の下僕にするほどの価値はあったのか。もうおまえは、遅かれ早かれ、人間以外のものに生まれ変わる。
そうしたら、あの元気なお嬢さんともお別れだぞ。」
「アデル、だれかに似てますか。」
「・・・・・」
ロウは、言葉につまった。
「あのオレンジの明るい髪は覚えている。つまりは北の大国の大公家の血をひくものなのか。」
「あの顔立ちは? あの性格は?」
「確かに知り合いによく似たのがいた。つまり・・・・・」
「そこらへんは、ご領主に確かめてもらいましょう?」
城の門は、ゆっくりと開いて、五人を迎えた。
難しい顔をして、出てきたのはドルク参議官だった。
困ったように。ロウ=リンドに耳打ちした。
「暴れている? いつもの発作か?」
「こんどのはいささか酷い。“貴族”が複数かかってもとめらません。いつもやっている人間のふりがだいぶストレスになってると思われます。」
「何人、やられた。」
「負傷は三人。ひとりは首を抜かれました。」
ロウの足が早くなった。
「わたしが止める。客人たちには、控えていてもらえ。」
だれも言うことをきかなかった。
「ルウエン! 危ないんだ。下がっていてくれ。」
「ぼくとアデルはやくに立ちますよ。」
「わ。わたしも!」
「ラウレスは無理をするな。いまのおまえは竜の姿にももどれない。ブレスも使えないはずだ。」
「ああ、無理はしないけど、もしルウエンたちが危ないことをするようなら」
「あ、あのお、わたしは」
「閣下はひっこんでてください。」
廊下を一直線に走った。
両開きの大扉を、体当たりするように、ロウは吹き飛ばした。
散乱した大広間。食事でも行っていたのだろうか。テーブルクロスにつつまれたテーブル。皿の上には豪華そうな料理がならでいた。
ならんでいた、のは過去形だ。いまはテーブルは倒されて、料理の大半が散乱している。
その犯人は。
天井近くにいた。
まるで子供のような華奢な体躯。
顔は人間のこどもに似ていた。だが、額と頬にあらたな瞳が開いていた。
口に加えた皿をばりばりと白い歯が噛んだ
「ご領主殿!」
ロウが叫んだ。
「それはお皿と言って食べるものではない!」
「わたしはしたいようにする。食べたいものをたべる。」
ぐるり。眼球が複数ある目が、ルウエンたちを睨めつけた。
その視線がルウエンのところに止まった。
「ギムリウス!」
ルウエンが叫んだ!
「降りてこい。」
ロウは、ルウエンの顔をみつめた。
こいつは、あの神獣を知っているのか。知っているから、蜘蛛の城壁をひとめで看破できたのか。
「ウォルト!」
天井にへばりついた少女の顔に笑みが浮かんだ。
「ウォルト! 会いに来てくれたんだね!」
そのまま、少女はだダイブした。そのままルウエンの胸の中に。
収まりそうなところで、アデルの一撃が邪魔をした。
もともとは、この地方を支配するなんとかという侯爵(これは人間の封建領主としての称号のほうだ)の持ち物だったというが、くねくねと曲がった隘路に、覗き穴のついた石塀が、並ぶという、昔ながらの趣ある古城のひとつにすぎなかった。
途中で、ふいにアデルが立ち止まった。
そこからは、石壁が「漆黒城」の名の通り、黒く塗られている。
使われている石も、いままでのようなつるりとした感触ではなく、ごつごつとして見えた。
「どうした、アデル。」
ルウエンが、尋ねたが、がれにももうわかっていた。
「いったいなにが・・・・」
ルーデウスが尋ねた。
ラウレスは、なにか不安を感じるように、やはりそこから先に進むのを尻込みしていた。
「たいしたものだと、思うよ。アデル。」
ロウ=リンドがくすくすと笑った。
「これは感じられなくてもしかたない。いまはこの壁は生きてはいないのだからね。」
「真祖さま。」
ルーデウスは、自分だけが、異変に感知できないことを恥じるように、ロウに尋ねた。
「壁の材質がかわっていることは、わかります。実際に、色だけではない。芯の部分は岩かも知れませんが、その全体を細かな・・・・」
ルーデウスは息をのんだ。
「これは・・・・虫? いえ、かたちはそうですが、ここにはなんの力も通ってはいません。この壁を構成している虫たち・・・の死骸。いえ、虫の形をした素材は少なくとも生きてはいません。なんの脅威にもなりません。」
「それで、答えとしては満点だ。」
ロウ=リンドは、うれしそうに、ルーデウスを褒めた。
「観察力、分析力ともにまったく問題ない。正解だ、ルーデウス。
これは、ルウエンたちが異常すぎるのだ。こんな形のものをみたことがあるか、ルウレン。」
「内部で、武器を製造できるタイプの神獣の作品ですよね。」
ルウレンは、答えた。
「いまは、まあ、電球でいうところのスイッチをオフにした状態ですから、なんの脅威にもなりません。
ただ、スイッチを入れることもできるわけで、そのときの戦闘力は、ちょっと未知数です。」
「一体一体はたいしたことはないよ、ルウレン。」
ロウは、慰めるように言った。
「ただ、この城の壁がほとんど、これで覆われていることを考えると。」
「そんな!」
ルウエンの顔色がかわっていた。
「そうだ。数十万の魔物の軍団だ。」
「出動させたら壁が崩れちゃうじゃないですか!」
同時に叫んで、ロウとルウレンは顔を見合わせた。
「・・・・感想はそっちか。」
「そうですよ。構造体を全部武器にしたら、天井はおちるわ、床はぬけるわ。」
「気が合うんだな。昔、一緒に戦っただけなのに。」
すねたアデルの肩を、ルウエンが叩いた。
「そんなことない。これの脅威を瞬時に感じ取れるのは、さすがにアデルだ。不世出の天才だよ。」
「本気で、ほんとにそう思う?」
「思う思う。」
「ルウエン。あとで、でいい。そのアデルがなにものかは、ご領主のまえで話してもらうぞ?」
「アデルは、冒険者学校の同級生ですってば。学校始まって以来の天才です。」
「そうなんだ。それ以外に補足することはいろいろあるよね。出自とか、なにをどこで、誰から学んだとかね。
その変わった武器も含めて。」
さあ、いこう!
とルウレンは明るく声をかけた。
気が付かなければ。
気が付かなければ、よかった。
ルーデウスは、あしが震えるのを感じた。足元の石畳も、塀と同じ色に変わっている。これが全部、魔物なのか。いまは眠っているだけで、その上をおそるおそる歩を進める。
「いまは、こいつはら、たんなるモノだ。たとえ攻撃されても反撃することはない。」
ロウが慰めた。
「もちろん、ご領主がスイッチをいれたら。」
やめてくれれえ。
泣き出しそうなルーデウスをひょいと。アデルがおんぶした。
「なんだか、先が長そうなので急ごう。」
「ふええええええっ」
「なんであんなのに、血を吸わせたんだ。」
ロウが、ルウエンの側によってきたぼやいた。
「もう少しましなのはいなかったのか?」
「バルトフェルの住民を、閣下の特別車両に収容してもらうためにはしょうがなかったんですよ。」
「自分を、吸血鬼の下僕にするほどの価値はあったのか。もうおまえは、遅かれ早かれ、人間以外のものに生まれ変わる。
そうしたら、あの元気なお嬢さんともお別れだぞ。」
「アデル、だれかに似てますか。」
「・・・・・」
ロウは、言葉につまった。
「あのオレンジの明るい髪は覚えている。つまりは北の大国の大公家の血をひくものなのか。」
「あの顔立ちは? あの性格は?」
「確かに知り合いによく似たのがいた。つまり・・・・・」
「そこらへんは、ご領主に確かめてもらいましょう?」
城の門は、ゆっくりと開いて、五人を迎えた。
難しい顔をして、出てきたのはドルク参議官だった。
困ったように。ロウ=リンドに耳打ちした。
「暴れている? いつもの発作か?」
「こんどのはいささか酷い。“貴族”が複数かかってもとめらません。いつもやっている人間のふりがだいぶストレスになってると思われます。」
「何人、やられた。」
「負傷は三人。ひとりは首を抜かれました。」
ロウの足が早くなった。
「わたしが止める。客人たちには、控えていてもらえ。」
だれも言うことをきかなかった。
「ルウエン! 危ないんだ。下がっていてくれ。」
「ぼくとアデルはやくに立ちますよ。」
「わ。わたしも!」
「ラウレスは無理をするな。いまのおまえは竜の姿にももどれない。ブレスも使えないはずだ。」
「ああ、無理はしないけど、もしルウエンたちが危ないことをするようなら」
「あ、あのお、わたしは」
「閣下はひっこんでてください。」
廊下を一直線に走った。
両開きの大扉を、体当たりするように、ロウは吹き飛ばした。
散乱した大広間。食事でも行っていたのだろうか。テーブルクロスにつつまれたテーブル。皿の上には豪華そうな料理がならでいた。
ならんでいた、のは過去形だ。いまはテーブルは倒されて、料理の大半が散乱している。
その犯人は。
天井近くにいた。
まるで子供のような華奢な体躯。
顔は人間のこどもに似ていた。だが、額と頬にあらたな瞳が開いていた。
口に加えた皿をばりばりと白い歯が噛んだ
「ご領主殿!」
ロウが叫んだ。
「それはお皿と言って食べるものではない!」
「わたしはしたいようにする。食べたいものをたべる。」
ぐるり。眼球が複数ある目が、ルウエンたちを睨めつけた。
その視線がルウエンのところに止まった。
「ギムリウス!」
ルウエンが叫んだ!
「降りてこい。」
ロウは、ルウエンの顔をみつめた。
こいつは、あの神獣を知っているのか。知っているから、蜘蛛の城壁をひとめで看破できたのか。
「ウォルト!」
天井にへばりついた少女の顔に笑みが浮かんだ。
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