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第二章 黒金の城
第28話 伯爵閣下、頑張る!
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ルーデウスは、唇を噛み締めた。
牙が出てしまっていたので、唇に穴があいて、血が流れた。
彼女は、伯爵級の吸血鬼である。
その自負はあった。
だが、目の前の連中は、ルーデウスのプライドをズタズタにして、踏みにじり、ほうきとちりとりで丁寧にかき集めては、燃えるゴミに出してくれたのだ。
およそ百年。西域では活動記録のない真祖。
ロウ=リンド。
上古の神獣ギムリウス。
とんでもない力をもつアデルは、『暗き御方』と『破壊の女神』の血を引くものだった。
ラウレスは、もうわかってる。竜だ。体の構成要素が足りないだけで、竜の姿にはなれないが、人間界でおそらくはただ1頭の古竜だ。
その全員が、倒れたルウエンの周りに集まって、彼を心配し、なんとかしようと議論を戦わせている。
うっかり、傷を終われせてしまったギムリウルなどは、しょげかえって、懸命にルウエンの身体をさすっていた。とくに意味もないのに。
と、とにかく、ちょっとイイトコ見せねば。
ルーデウスは、焦っていた。
彼女が使おうとしている魔術は、習得が困難な上に実用価値も低い。
だが、彼女はそれを何度も仲間たちに、使っていた。
人間のパーティメンバーとともに、たたかってきたルーデウスには、仲間がすぐに死んじゃうのが悩みの種であった。
強大な(?)貴族であるルーデウスのお眼鏡にかなう冒険者は、そうそうおらず、簡単にくたばっていただいては困るのだ。せめて
老いて技ふるえなくなるまで、ルーデウスに奉仕してもらいたい。
かといって、一瞬で、傷を治癒する魔法は、いろいろと弊害も多かった。もっとも効果的で、副作用も少ない治癒魔法。
それが、いまルーデウスが使った「ダメージや苦痛を自分に移す」魔法である。
漆黒城の広間に、ルーデスウの絶叫が響き渡った。
覚悟はしていた。
だが、グリムのもたらした傷の痛みは、そんなものを軽々と凌駕した。
痛みが筋肉を収縮させ、骨が折れる。
ガチガチと噛み鳴らされる口元から、白い破片が零れた。
歯が砕けたのだ。
「無茶をするなあ、閣下は。」
ルウエンが覗き込んだ。
こ、コロシテ。
言葉にならない言葉で、ルーデウスはうったえた。
これ以上は耐えられない。わたしをコロシテ。
その痛みが唐突に消えた。
ルーデウスは、痛みの中心だった肩口をみて、呆然とした。腕が付け根からなかった。
腕を切られた灼熱の痛みもグリムのもたらす苦痛に比べれば、春風のそよぎのようだった。
アデルが、あの斧剣を器用につかって、切り取ったルーデウスの腕を、ざくざくと切り刻んでいた。
顔全体が「?」になったルーデウスを振り向いて、アデルは大きく肉を抉ったルーデウスの腕を差し出した。
グロテスクな見た目だが、いかに再生能力にたけた“貴族”といえどもこのまま、接続して欠損部分のみを修復したほうが早い。
つまりは、呪剣グリムに侵された部分を切除してくれたのだとおもうが、アデルの手付きがなんとなく、肉を解体するように見えて、ルーデウスはちょっと不愉快になった。
「ありがとう、閣下。」
と、ルウエンは微笑んで、手をのばした。
ルーデウスの、切断された肩、抉られた腕のまわりで白い光が明滅し、腕が復元されていく。
感謝していることは、間違いないが、血を吸われて従属したものがとる立場でも、口調でもなかった。
「ずいぶんと無茶をする。」
アデルは、剣についた血を拭いながら、ルーデウスを睨んだ。
「グリムの与える苦痛は、気絶すら許さない。今回の件は感謝するが、こんな真似はもうするな。」
あれ?
意外にやさしい・・・・
「ルウエンの苦痛を引き受けていいのは、わたしだけだ。」
嫉妬だった。
ルーデウスの悲鳴に、なにごとかと駆けつけた城のものたちを、ロウが追い払った。
ギムリウスは、自分が、倒したテーブルや椅子を自分でおこすと、三人に座るよう指示した。
一応、「領主さま」が、新しく街にやってきた有望な冒険者を謁見する、という体裁をとるらしい。
「じゃあ、ウォルト・・・・」
「ルウエンだ。」
ロウ=リンドが口をはさんだ。
ギムリウスは、不満そうな顔をした。
「わたしにとっては、ウォルトだ。」
「なかなか、裏がありそうだぞ。どっちも偽名かもしれない。冒険者学校の生徒なのは本当だろうけど、あそこの冒険者学校は誰でも受け入れるからな。
だから、とりあえず、本人がルウエンと名乗っているから、ルウエンだ。いいな?」
ルウエン、ルウエン。
ギムリウスは、口なかでその名前を転がして、から諦めたように言った。
「じゃあ、ルウエンと名乗っているウォルト。」
「ご領主さま」
「ギムリウスと呼んでいい。」
「わかりました。ギムリウス。さっき、人間で試しを終えて友人になったのが、ぼくで三人めといいましたけど、あとの二人は誰ですか?」
ギムリウスは明らかにほかに話したいことがあったようだったが、この質問に素直に頭をひねった。
「一人はミイシアだよ。ミトラでウォルト・・・・ルウエンが連れていた女の子だ。あの子はどうした?」
アデルが、きつい目でルウエンを睨んだが、少年は飄々とした答えた。
「結婚して子どもも生まれて、元気にしてるようです。夫婦仲はこのところよくないみたいですけど。」
「そうなのか。」
ギムリウスは、ちょっと複雑そうな顔をした。
「わたしの記憶では、ウォルト・・・ルウエンとミイシアという少女はとても仲がよかった。いずれは人間がする結婚というものするのだと思っていたのだ。」
ルウエンは変な顔で笑った。
「世の中、なにもかも思い通りにはいかないものですよ、ギムリウス。
あと一人は誰でしょう?」
「アウデリアさま・・・・はもともと半神というべき存在だから、除外だ。
フィオリナ・・・・・は、もう人間とは呼べなくなったから、これもはずす・・・あれ? 誰だろう。」
考えこんでしまったギムリウスに、アデルが、ルウエンに囁いた。
「“試し”って、神獣や“貴族”が相手の人間を友人として認めるかどうかを、実力でためすってやつでしょ?
わたしにも受けさせてよ、それ。わたしだって、このご領主さまに『友人』として認められたいもん。」
「それは大丈夫だと思うよ、アデル。」
ルウエンはやさしく言った。
「たぶんさっきので、もう試しは終わってる。」
牙が出てしまっていたので、唇に穴があいて、血が流れた。
彼女は、伯爵級の吸血鬼である。
その自負はあった。
だが、目の前の連中は、ルーデウスのプライドをズタズタにして、踏みにじり、ほうきとちりとりで丁寧にかき集めては、燃えるゴミに出してくれたのだ。
およそ百年。西域では活動記録のない真祖。
ロウ=リンド。
上古の神獣ギムリウス。
とんでもない力をもつアデルは、『暗き御方』と『破壊の女神』の血を引くものだった。
ラウレスは、もうわかってる。竜だ。体の構成要素が足りないだけで、竜の姿にはなれないが、人間界でおそらくはただ1頭の古竜だ。
その全員が、倒れたルウエンの周りに集まって、彼を心配し、なんとかしようと議論を戦わせている。
うっかり、傷を終われせてしまったギムリウルなどは、しょげかえって、懸命にルウエンの身体をさすっていた。とくに意味もないのに。
と、とにかく、ちょっとイイトコ見せねば。
ルーデウスは、焦っていた。
彼女が使おうとしている魔術は、習得が困難な上に実用価値も低い。
だが、彼女はそれを何度も仲間たちに、使っていた。
人間のパーティメンバーとともに、たたかってきたルーデウスには、仲間がすぐに死んじゃうのが悩みの種であった。
強大な(?)貴族であるルーデウスのお眼鏡にかなう冒険者は、そうそうおらず、簡単にくたばっていただいては困るのだ。せめて
老いて技ふるえなくなるまで、ルーデウスに奉仕してもらいたい。
かといって、一瞬で、傷を治癒する魔法は、いろいろと弊害も多かった。もっとも効果的で、副作用も少ない治癒魔法。
それが、いまルーデウスが使った「ダメージや苦痛を自分に移す」魔法である。
漆黒城の広間に、ルーデスウの絶叫が響き渡った。
覚悟はしていた。
だが、グリムのもたらした傷の痛みは、そんなものを軽々と凌駕した。
痛みが筋肉を収縮させ、骨が折れる。
ガチガチと噛み鳴らされる口元から、白い破片が零れた。
歯が砕けたのだ。
「無茶をするなあ、閣下は。」
ルウエンが覗き込んだ。
こ、コロシテ。
言葉にならない言葉で、ルーデウスはうったえた。
これ以上は耐えられない。わたしをコロシテ。
その痛みが唐突に消えた。
ルーデウスは、痛みの中心だった肩口をみて、呆然とした。腕が付け根からなかった。
腕を切られた灼熱の痛みもグリムのもたらす苦痛に比べれば、春風のそよぎのようだった。
アデルが、あの斧剣を器用につかって、切り取ったルーデウスの腕を、ざくざくと切り刻んでいた。
顔全体が「?」になったルーデウスを振り向いて、アデルは大きく肉を抉ったルーデウスの腕を差し出した。
グロテスクな見た目だが、いかに再生能力にたけた“貴族”といえどもこのまま、接続して欠損部分のみを修復したほうが早い。
つまりは、呪剣グリムに侵された部分を切除してくれたのだとおもうが、アデルの手付きがなんとなく、肉を解体するように見えて、ルーデウスはちょっと不愉快になった。
「ありがとう、閣下。」
と、ルウエンは微笑んで、手をのばした。
ルーデウスの、切断された肩、抉られた腕のまわりで白い光が明滅し、腕が復元されていく。
感謝していることは、間違いないが、血を吸われて従属したものがとる立場でも、口調でもなかった。
「ずいぶんと無茶をする。」
アデルは、剣についた血を拭いながら、ルーデウスを睨んだ。
「グリムの与える苦痛は、気絶すら許さない。今回の件は感謝するが、こんな真似はもうするな。」
あれ?
意外にやさしい・・・・
「ルウエンの苦痛を引き受けていいのは、わたしだけだ。」
嫉妬だった。
ルーデウスの悲鳴に、なにごとかと駆けつけた城のものたちを、ロウが追い払った。
ギムリウスは、自分が、倒したテーブルや椅子を自分でおこすと、三人に座るよう指示した。
一応、「領主さま」が、新しく街にやってきた有望な冒険者を謁見する、という体裁をとるらしい。
「じゃあ、ウォルト・・・・」
「ルウエンだ。」
ロウ=リンドが口をはさんだ。
ギムリウスは、不満そうな顔をした。
「わたしにとっては、ウォルトだ。」
「なかなか、裏がありそうだぞ。どっちも偽名かもしれない。冒険者学校の生徒なのは本当だろうけど、あそこの冒険者学校は誰でも受け入れるからな。
だから、とりあえず、本人がルウエンと名乗っているから、ルウエンだ。いいな?」
ルウエン、ルウエン。
ギムリウスは、口なかでその名前を転がして、から諦めたように言った。
「じゃあ、ルウエンと名乗っているウォルト。」
「ご領主さま」
「ギムリウスと呼んでいい。」
「わかりました。ギムリウス。さっき、人間で試しを終えて友人になったのが、ぼくで三人めといいましたけど、あとの二人は誰ですか?」
ギムリウスは明らかにほかに話したいことがあったようだったが、この質問に素直に頭をひねった。
「一人はミイシアだよ。ミトラでウォルト・・・・ルウエンが連れていた女の子だ。あの子はどうした?」
アデルが、きつい目でルウエンを睨んだが、少年は飄々とした答えた。
「結婚して子どもも生まれて、元気にしてるようです。夫婦仲はこのところよくないみたいですけど。」
「そうなのか。」
ギムリウスは、ちょっと複雑そうな顔をした。
「わたしの記憶では、ウォルト・・・ルウエンとミイシアという少女はとても仲がよかった。いずれは人間がする結婚というものするのだと思っていたのだ。」
ルウエンは変な顔で笑った。
「世の中、なにもかも思い通りにはいかないものですよ、ギムリウス。
あと一人は誰でしょう?」
「アウデリアさま・・・・はもともと半神というべき存在だから、除外だ。
フィオリナ・・・・・は、もう人間とは呼べなくなったから、これもはずす・・・あれ? 誰だろう。」
考えこんでしまったギムリウスに、アデルが、ルウエンに囁いた。
「“試し”って、神獣や“貴族”が相手の人間を友人として認めるかどうかを、実力でためすってやつでしょ?
わたしにも受けさせてよ、それ。わたしだって、このご領主さまに『友人』として認められたいもん。」
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