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第三章 バルトフェル奪還戦
第30話 作戦会議(上)
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ルウエンが連れ込まれたのは、列車の連結部分だった。
客車間の移動は、冒険者同士のトラブルをさけるために、禁止されていたので、やってくるものは誰もいなかった。
「いい加減、自分の足であるけ!」
ずっと、ルウエンを抱っこしていたアイシャは、少年を放り投げた。
ルウエンは、転倒することもなく、足から着地した。
アイシャは、顔を顰めた。
この坊やは、少なくとも並以上の体術はもっている。あるいは、見かけ通りの年齢ではないのかもしれない。
“貴族”ではないにしろ、強大な魔力をやどした人間に、老化の遅延が見られるのはよく、あることではあった。
「おまえが、あのパーティのリーダーだな?」
それは質問ではなく、断定だったが、少年は笑って否定した。
「な、わけがないでしょう。どう考えたってルーデウス閣下です。」
「それがどう見ても、おまえだから、わたしも困惑している。」
アイシャの言葉に、少年は髪を書き上げて、首筋をみせた。複数回穿たれた吸血痕は、まちがいなく彼が、“貴族”の犠牲者であることを示している。そして、複数回の訪問がある以上、それはもはや、その“貴族”に魅入られた下僕となったことを意味していた。
「ね? 間違いなくぼくはルーデウスの下僕です。」
「普通、下僕はそんな自己紹介はしない。」
アイシャは断定した。
「おまえは、どう思っているかしらないが、ルーデウス伯爵は、名前の知れたトレジャーハンターだ。拠点にしていた戦乱に巻き込まれて、パーティの維持が難しくなるまでは、所属していたギルドのトップパーティとして、長く活躍していた。
そのルーデウスに欲されて、自我を保てる人間がどのくらいいる?」
「・・・・・」
無言で、ルウエンは笑った。
「ドルク殿から、おまえの名前を聞かされたロウ=リンド様は、政務も会議もほったらかして、おまえと会うことを優先した。
そして、ルーデウス伯爵は、おまえを支配するどころか、おまえに支配されているかのように見える。
人間が、契約によって“貴族”を支配することは、困難であっても絶対に不可能ではない。」
「だって、ぼくは血を吸われているんですよ。」
ルウエンは抗議した。
「ぼくが、閣下に隷属したことに間違いないですよ。」
「魔術的な公式からは」
わざとゆっくりとアイシャは、言った。隻眼が赤光を放っていた。
「血を『与えた』かわりに、代価として『血を吸った』相手を従属化に置くことは、ありえない話ではない。」
「理屈だけの話でしょう?」
ルウエンは抗議した。
「フラスコの中でだけ、成立する化学反応はいくらでもありますよ?」
「ロウさまから伺っている。血を吸わせた“貴族”を従属させる魔法は実在するそうだ。」
「理論上だけでしょう? 使えるものが、ほんとにいるのですか?」
「これもロウさまからの情報だ。
『災厄の女神』が、その魔法を所有している、と。」
ルウエンのかわいらしい顔が、不満げに唇を尖らせた。
「フィオリナが? まあ、それはそうだろうけど。」
アイシャは、唇を噛んだ。
「その名をみだりに口にするな!
その名を口にしてよいものは、ご城主さまとロウさまだけだ・・・・・その名を平然と口にできるおまえは。」
隻眼の赤光が世界を覆い尽くした。
「おまえは、『災厄の女神』のなんだ?」
「アデルは、フィオリナとリウの娘です。」
ルウエンは、短く答えた。答えにはなっていない。だが、紅く染め上げられた世界は、破片と成って砕け散った。
「・・・・それが、なぜここに?」
「知ってる限りのことは、話しますよ。」
あくまで有効的に、そう話す少年の顔は、まるで相手を騙そうとする詐欺師のように魅力的で優しい笑みにあふれていた。
「でも、ぼくからの質問にも答えてください。情報交換しましょうよ、アイシャさま。」
わずかに躊躇ってから、アイシャは頷いた。
「いいだろう。だが答えらないこともある。それは承知しておけ。」
「かまいません。まず、アデルのことを打ち明けたんです。最初の質問はぼくからでいいですね。」
列車は、速度をあげている。
連結部分の小さな窓から、夜明けの光だ差し込んだ。まともに浴びたアイシャだったがまぶしいのか少し顔をしかめただけで、やり過ごした。
「答えられるものならな。」
「じゃあ、まずひとつ。」
ルウエンは指をたてた。
「なぜ、ロウが『領主』ではないんですか? ここは、“貴族”の支配する“貴族”の国です。真祖ロウ=リンドが最高責任者であってしかるべきでしょう?
ギムリウスは、たしかにすごい力をもっていますが、もともとが拠点制圧用の動く軍需工場です。行動パターンがあまりにも人間そっくりの“貴族”の集団を率いるには不向きだ。」
「ロウ=リンドさまの希望だ。」
ためらいつつ、アイシャは答えた。
「ロウさまには想い人がいる。死の寸前に『停滞フィールド』に閉じ込めたアルセンドリック侯爵ロウラン、という。
ロウランを復活させる研究に時間を裂くため、『城』の運営雑務からは遠ざかりたいというのが、あの御方の望みだったそうだ。」
「どんな怪我かわかりませんけど。しかるべき医療設備の整ったところで、『停滞フィールド』を解除して治療にあたれば、問題はないのでは?」
「ミイナは・・・ああ、すまん。これは、アルセンドリック侯爵ロウランの幼名だ。ロウランは、竜のブレスに巻き込まれ消滅するさなかに、停滞フィールドで保護された。停滞フィールドを解除した瞬間、ロウランの体は瞬時に分解する。」
客車間の移動は、冒険者同士のトラブルをさけるために、禁止されていたので、やってくるものは誰もいなかった。
「いい加減、自分の足であるけ!」
ずっと、ルウエンを抱っこしていたアイシャは、少年を放り投げた。
ルウエンは、転倒することもなく、足から着地した。
アイシャは、顔を顰めた。
この坊やは、少なくとも並以上の体術はもっている。あるいは、見かけ通りの年齢ではないのかもしれない。
“貴族”ではないにしろ、強大な魔力をやどした人間に、老化の遅延が見られるのはよく、あることではあった。
「おまえが、あのパーティのリーダーだな?」
それは質問ではなく、断定だったが、少年は笑って否定した。
「な、わけがないでしょう。どう考えたってルーデウス閣下です。」
「それがどう見ても、おまえだから、わたしも困惑している。」
アイシャの言葉に、少年は髪を書き上げて、首筋をみせた。複数回穿たれた吸血痕は、まちがいなく彼が、“貴族”の犠牲者であることを示している。そして、複数回の訪問がある以上、それはもはや、その“貴族”に魅入られた下僕となったことを意味していた。
「ね? 間違いなくぼくはルーデウスの下僕です。」
「普通、下僕はそんな自己紹介はしない。」
アイシャは断定した。
「おまえは、どう思っているかしらないが、ルーデウス伯爵は、名前の知れたトレジャーハンターだ。拠点にしていた戦乱に巻き込まれて、パーティの維持が難しくなるまでは、所属していたギルドのトップパーティとして、長く活躍していた。
そのルーデウスに欲されて、自我を保てる人間がどのくらいいる?」
「・・・・・」
無言で、ルウエンは笑った。
「ドルク殿から、おまえの名前を聞かされたロウ=リンド様は、政務も会議もほったらかして、おまえと会うことを優先した。
そして、ルーデウス伯爵は、おまえを支配するどころか、おまえに支配されているかのように見える。
人間が、契約によって“貴族”を支配することは、困難であっても絶対に不可能ではない。」
「だって、ぼくは血を吸われているんですよ。」
ルウエンは抗議した。
「ぼくが、閣下に隷属したことに間違いないですよ。」
「魔術的な公式からは」
わざとゆっくりとアイシャは、言った。隻眼が赤光を放っていた。
「血を『与えた』かわりに、代価として『血を吸った』相手を従属化に置くことは、ありえない話ではない。」
「理屈だけの話でしょう?」
ルウエンは抗議した。
「フラスコの中でだけ、成立する化学反応はいくらでもありますよ?」
「ロウさまから伺っている。血を吸わせた“貴族”を従属させる魔法は実在するそうだ。」
「理論上だけでしょう? 使えるものが、ほんとにいるのですか?」
「これもロウさまからの情報だ。
『災厄の女神』が、その魔法を所有している、と。」
ルウエンのかわいらしい顔が、不満げに唇を尖らせた。
「フィオリナが? まあ、それはそうだろうけど。」
アイシャは、唇を噛んだ。
「その名をみだりに口にするな!
その名を口にしてよいものは、ご城主さまとロウさまだけだ・・・・・その名を平然と口にできるおまえは。」
隻眼の赤光が世界を覆い尽くした。
「おまえは、『災厄の女神』のなんだ?」
「アデルは、フィオリナとリウの娘です。」
ルウエンは、短く答えた。答えにはなっていない。だが、紅く染め上げられた世界は、破片と成って砕け散った。
「・・・・それが、なぜここに?」
「知ってる限りのことは、話しますよ。」
あくまで有効的に、そう話す少年の顔は、まるで相手を騙そうとする詐欺師のように魅力的で優しい笑みにあふれていた。
「でも、ぼくからの質問にも答えてください。情報交換しましょうよ、アイシャさま。」
わずかに躊躇ってから、アイシャは頷いた。
「いいだろう。だが答えらないこともある。それは承知しておけ。」
「かまいません。まず、アデルのことを打ち明けたんです。最初の質問はぼくからでいいですね。」
列車は、速度をあげている。
連結部分の小さな窓から、夜明けの光だ差し込んだ。まともに浴びたアイシャだったがまぶしいのか少し顔をしかめただけで、やり過ごした。
「答えられるものならな。」
「じゃあ、まずひとつ。」
ルウエンは指をたてた。
「なぜ、ロウが『領主』ではないんですか? ここは、“貴族”の支配する“貴族”の国です。真祖ロウ=リンドが最高責任者であってしかるべきでしょう?
ギムリウスは、たしかにすごい力をもっていますが、もともとが拠点制圧用の動く軍需工場です。行動パターンがあまりにも人間そっくりの“貴族”の集団を率いるには不向きだ。」
「ロウ=リンドさまの希望だ。」
ためらいつつ、アイシャは答えた。
「ロウさまには想い人がいる。死の寸前に『停滞フィールド』に閉じ込めたアルセンドリック侯爵ロウラン、という。
ロウランを復活させる研究に時間を裂くため、『城』の運営雑務からは遠ざかりたいというのが、あの御方の望みだったそうだ。」
「どんな怪我かわかりませんけど。しかるべき医療設備の整ったところで、『停滞フィールド』を解除して治療にあたれば、問題はないのでは?」
「ミイナは・・・ああ、すまん。これは、アルセンドリック侯爵ロウランの幼名だ。ロウランは、竜のブレスに巻き込まれ消滅するさなかに、停滞フィールドで保護された。停滞フィールドを解除した瞬間、ロウランの体は瞬時に分解する。」
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