34 / 83
第三章 バルトフェル奪還戦
第34話 小隊、進め!
しおりを挟む
列車は、バルトフェルとだいぶ手前で停車した。ククルセウが、鉄道設備を、そこまで、破壊する度胸があるとも、思えなかった。
が、念には念を入れてである。
「列車をおりたら。各車両毎に固まれ!」
装備もバラバラ。一応、義勇軍であるというを示す黒い布を左腕には巻いてはいたが。烏合の衆という言葉がぴったりの。
恐らくは、まともな指揮官なら、それだけで、戦いを諦める。
だが。今回指揮するものも、また冒険者だった。
30~50名ほどの小隊を作った彼らは、それぞれのルートをもって、バルトフェルに進む。
一斉攻撃、という概念はない。
だいたいの攻撃時刻は、決められているが、、攻撃対象も方法もバラバラである。
ひとりひとりは、熟練の猛者揃いとはいえ、こんな戦い方では、多少損害は与えても「勝つ」ことは不可能だったろう。
だが、それでもいい。
それは公式には『城』のもつ戦力ではなく、バルトフェルの難民に懇願され、義勇心のみで立ち上がった冒険者であり、実際の奪還は、ここから、2日ばかりあとに到着する鉄道公社の保安部が行うこととなるのだろう。
『城』としては、そのまえに一戦して、鉄道公社に恩がうれれば、それで良かった。
だが、もちろんそれだけでは、すまなくなった者もいる。
「おまえたちの分隊は、一番最後だ。」
アイシャは、そう断言した。
「いや。いっそ、撤退してもいいんだぞ。
そうだ。誰か体調が悪くなったものとかはいないのか?」
「それは困る。」
と、ロウが返した。
「わたしは、目的があってこの戦場に来てるんだ。それには、先陣を切らしてもらいたい。」
「功名餓鬼は、真っ先に死ぬぞ?」
「わたしはそう、簡単には死なないので、大丈夫だ。」
アイシャとしては、この街についたばかりのパーティを特別扱いはしたくなかったのだが、もう遅い。
同じ車両の全パーティから、好奇の視線をめいっぱい浴びている。
「そう、言えばちょっとおなかが痛いです。」
ルウエンが、言い出して、ロウは顔を歪めた。
「だ、大丈夫か? そうだ、噛んでやろうか、そえすれば、腹痛も頭痛も生理痛もない世界へ連れて行ってやれる。」
「ごしん……ロウさん、それはわたしの獲物です。」
「やかましい、ルーデウス。汚い噛み跡をいくつも残しおって。」
痴話喧嘩をはじめた真祖と伯爵を残して、ルウエンは、アイシャに話しかけた。
「どちらでもいいと思います。」
「どちらでも、というのは?」
「先行でも、後退でも。
要するに、ぼくらのパーティが、孤立してしまえばいいんです。」
「ちっともよくないんだっ!」
アイシャは吠えた。
「『貴族殺し』が来てるんだぞ。狙いは明白だろうが!」
「ナゼルさんから、聞いたんですね?」
ルウエンは、にこにこと笑っていた。
彼の笑顔には、さまざまな意味があることには、もう気がついてはいたが、このときの笑い方は、ほんとうに楽しく、また安心したような笑顔だった。
「ぼくは、フィオリナの『百驍将』やら、『貴族殺し』ブテルパについてはなんにも知らないんです。すこし教えてくれませんか?」
「だから、その名をみだりに口にするなと言ってるだろうが。」
無駄だろうな、と思いながら、アイシャは言った。
「『災厄の女神』が『黒き御方』と袂を分かつたときに、彼女に従った腕利きたちを中心に、『災厄の女神』を崇める集団だ。
およそ、『災厄の女神』の命ずることなら、どんな残虐なことでも平然とやってのける。
アレに対抗出来るのは、おそらく鉄道公社の絶士だけだろう。
各国の抱える特務戦力のなかでも、頭1つ抜けた存在ということになる。
通常は、戦場にたつことはなく、『災厄の女神』が命じた『特務』のみを遂行しに、あらわれ。 そして、その任務を正確に果たして戦場を去っていく。」
「なるほど。」
ルウエンは、感心したように言った。
「彼女なりにいろいろと考えてくれてるってことですね。」
「意味がわからん!
何を言いたい!?」
「そんな超戦士を一般的な戦地に放り込んだら、人が死にすぎるってことですよ。適当にエリート部隊として祭り上げて、使う時は予め特定の目標をピンポイントで決めた時だけ。
人的な損害を減らすという点では、うまいやり方です。ひょっとして、リウも同じ方法をとっていますかね。」
「御名を口にするな。」
アイシャは、虚しく、そのことを繰り返した。
「『黒の御方』は、八武将以下ハタモト衆と呼ばれる精鋭を10~20騎抱えている。こいつらは基本的に戦場では指揮をとるだけだ。実際に鉾を振るって相手をなぎ倒したりはしない。」
「なるほど。それなりに考えてくれてはいるんだ。両方とも。」
ルウエンは、腕組みをして頷いた。
「で、その『吸血鬼殺し』ブテルパってのは、どんなヤツなんですか?」
「よくもまあ、話がころころと変われるやつだな。」
アイシャは。呆れたように言った。
「だが、その自分勝手な話の進めようは、わたしを“貴族”にしたかの女性を思い出す。答えられる限りは答えてやろう。
まず、おまえは“貴族殺し”ときいて何を思い浮かべる?」
「たとえば、比較的苦手な聖属性魔法が得意、とか?」
「単なる属性の問題ならいくらでも対処のしようがある。」
吐き捨てるように、アイシャは言った。
が、念には念を入れてである。
「列車をおりたら。各車両毎に固まれ!」
装備もバラバラ。一応、義勇軍であるというを示す黒い布を左腕には巻いてはいたが。烏合の衆という言葉がぴったりの。
恐らくは、まともな指揮官なら、それだけで、戦いを諦める。
だが。今回指揮するものも、また冒険者だった。
30~50名ほどの小隊を作った彼らは、それぞれのルートをもって、バルトフェルに進む。
一斉攻撃、という概念はない。
だいたいの攻撃時刻は、決められているが、、攻撃対象も方法もバラバラである。
ひとりひとりは、熟練の猛者揃いとはいえ、こんな戦い方では、多少損害は与えても「勝つ」ことは不可能だったろう。
だが、それでもいい。
それは公式には『城』のもつ戦力ではなく、バルトフェルの難民に懇願され、義勇心のみで立ち上がった冒険者であり、実際の奪還は、ここから、2日ばかりあとに到着する鉄道公社の保安部が行うこととなるのだろう。
『城』としては、そのまえに一戦して、鉄道公社に恩がうれれば、それで良かった。
だが、もちろんそれだけでは、すまなくなった者もいる。
「おまえたちの分隊は、一番最後だ。」
アイシャは、そう断言した。
「いや。いっそ、撤退してもいいんだぞ。
そうだ。誰か体調が悪くなったものとかはいないのか?」
「それは困る。」
と、ロウが返した。
「わたしは、目的があってこの戦場に来てるんだ。それには、先陣を切らしてもらいたい。」
「功名餓鬼は、真っ先に死ぬぞ?」
「わたしはそう、簡単には死なないので、大丈夫だ。」
アイシャとしては、この街についたばかりのパーティを特別扱いはしたくなかったのだが、もう遅い。
同じ車両の全パーティから、好奇の視線をめいっぱい浴びている。
「そう、言えばちょっとおなかが痛いです。」
ルウエンが、言い出して、ロウは顔を歪めた。
「だ、大丈夫か? そうだ、噛んでやろうか、そえすれば、腹痛も頭痛も生理痛もない世界へ連れて行ってやれる。」
「ごしん……ロウさん、それはわたしの獲物です。」
「やかましい、ルーデウス。汚い噛み跡をいくつも残しおって。」
痴話喧嘩をはじめた真祖と伯爵を残して、ルウエンは、アイシャに話しかけた。
「どちらでもいいと思います。」
「どちらでも、というのは?」
「先行でも、後退でも。
要するに、ぼくらのパーティが、孤立してしまえばいいんです。」
「ちっともよくないんだっ!」
アイシャは吠えた。
「『貴族殺し』が来てるんだぞ。狙いは明白だろうが!」
「ナゼルさんから、聞いたんですね?」
ルウエンは、にこにこと笑っていた。
彼の笑顔には、さまざまな意味があることには、もう気がついてはいたが、このときの笑い方は、ほんとうに楽しく、また安心したような笑顔だった。
「ぼくは、フィオリナの『百驍将』やら、『貴族殺し』ブテルパについてはなんにも知らないんです。すこし教えてくれませんか?」
「だから、その名をみだりに口にするなと言ってるだろうが。」
無駄だろうな、と思いながら、アイシャは言った。
「『災厄の女神』が『黒き御方』と袂を分かつたときに、彼女に従った腕利きたちを中心に、『災厄の女神』を崇める集団だ。
およそ、『災厄の女神』の命ずることなら、どんな残虐なことでも平然とやってのける。
アレに対抗出来るのは、おそらく鉄道公社の絶士だけだろう。
各国の抱える特務戦力のなかでも、頭1つ抜けた存在ということになる。
通常は、戦場にたつことはなく、『災厄の女神』が命じた『特務』のみを遂行しに、あらわれ。 そして、その任務を正確に果たして戦場を去っていく。」
「なるほど。」
ルウエンは、感心したように言った。
「彼女なりにいろいろと考えてくれてるってことですね。」
「意味がわからん!
何を言いたい!?」
「そんな超戦士を一般的な戦地に放り込んだら、人が死にすぎるってことですよ。適当にエリート部隊として祭り上げて、使う時は予め特定の目標をピンポイントで決めた時だけ。
人的な損害を減らすという点では、うまいやり方です。ひょっとして、リウも同じ方法をとっていますかね。」
「御名を口にするな。」
アイシャは、虚しく、そのことを繰り返した。
「『黒の御方』は、八武将以下ハタモト衆と呼ばれる精鋭を10~20騎抱えている。こいつらは基本的に戦場では指揮をとるだけだ。実際に鉾を振るって相手をなぎ倒したりはしない。」
「なるほど。それなりに考えてくれてはいるんだ。両方とも。」
ルウエンは、腕組みをして頷いた。
「で、その『吸血鬼殺し』ブテルパってのは、どんなヤツなんですか?」
「よくもまあ、話がころころと変われるやつだな。」
アイシャは。呆れたように言った。
「だが、その自分勝手な話の進めようは、わたしを“貴族”にしたかの女性を思い出す。答えられる限りは答えてやろう。
まず、おまえは“貴族殺し”ときいて何を思い浮かべる?」
「たとえば、比較的苦手な聖属性魔法が得意、とか?」
「単なる属性の問題ならいくらでも対処のしようがある。」
吐き捨てるように、アイシャは言った。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる