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第四章 演出家たち
第51話 バルトフェルへの道行
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鉄道公社を出し抜いたのだと、思い込んだワルド伯爵は、上機嫌で、ルウエンとアデルを送り出した。
バルトフェルの街にはこれから、鉄道公社が、そして『城』からも再建のための投資がはいる。
それも全て、本来はワルド伯爵が負担すべき費用を、鉄道公社が肩代わりしたことになるのだ。
つまり、負債は膨れ上がるのみで、一向に減ることは無い。
バルトフェルが、ワルド伯爵領に帰ってくることは、未来栄光ありえないのだ。
「ルールス先生が、アルデの素性を言ってしまうから、もう一悶着あるかと思ったけど、さすがに、手を出す度胸のあるヤツはいなかったか。」
ルウエンは、難しい顔で俯くアルデを慰めるように言った。
「これが、あの場にいるものだけなら、話は違ったかもしれないけど、『調停者』ルールスが同席してたわけだから。
問題は、きみの素性はすみやかにほかの者たちにも知られることになるだろうな。」
「それはそれで、しょうがない。」
伯爵が申し出た馬車を断ったので、二人は徒歩だった。
アデルは気をとりなおしたように、笑顔を、むけた。ルウエンは眩しそうに、その笑顔をから、目を背けた。
「わたしは、ちゃんと、じっちゃんと、ばっちゃんに、ランゴバルドの冒険者学校に行くって言って、故郷を離れたんだ。黙って家出したわけじゃあない。」
「しかし、少なくとも、これでフィオリナもリウもきみが故郷を離れたことを知ることになった。」
ルウエンの足取りは、ゆっくりしている。
アデルもそれに合わせている。
道は、一応はある、という程度だ。
まともに旅すれば5日はかかる道のりを、山をかき分けて、1日でたどり着き、ワルド城でひと暴れして二人だが、疲れたというわけでは、ないようだった。
「あの二人には、会いたくない。」
きっぱりと、アデルは言った。
「あいつらが、この西域で行っていることは、最悪だ。
わたしは、それを止める。そのために」
アデルは、ルウエンの手を握った。
「もっと、力をつけないと。
だから一緒に」
もう少し、ロマンティックな雰囲気になってもよかっただろう。
だが、後方から追いすがった騎馬の1団がそれを邪魔した。
いずれも軽装だ。
馬に乗ったままで、ルウエンとアデルを取り囲んだ。
「ワルド城まで、同行願おう。」
リーダーらしき、マントの男が言った。
アデルは、露骨に嫌な顔になった。
「ついさっき、ワルド城をでてきたばかりなんだけど?」
ルウエンは、にっこりと笑った。
その笑顔を見て、アデルの表情はいっそう暗くなった。
「“災厄の女神”の血を引くお方と伺いました。ワルド城で保護いたします。」
「ワルド伯爵の元で、とは言わないんですね。」
ルウエンは、楽しそうだったが、アデルは、抜きかけた剣を鞘にもどした。
「なんだ。やらないの?」
「きみがやりすぎるのを警戒してるんだよ、わたしは!」
ぐるりと、二人を取り囲んだ騎馬の一団。そのリーダーが言った。
「賢明なご判断です、アデル。あなたはまた“黒の御方”の娘でもある。見の安全はもちろん保証いたします。」
差し上げた指にはめた宝石のがキラリと、光った。
ルウエン少年の手が、額をガードするかのように上がった。その指に。
光の矢が、はさみ止められていた。
「な!・・・・・・」
「あなたたちは、ワルド伯爵の特殊部隊みたいだね。」
ルウエンの指の中で、光の矢はゆっくりと消失していった。
「わたしの身の安全『だけ』を保証してくれるわけね。」
からからと、アデルは笑った。
「なら、答えはNOだね。ワルド伯爵は、今日で虎の子の魔法士による特殊部隊を失うことになる。」
「かかれえっ!」
リーダーの声が必要以上に大きかったのは、おそらく恐怖によるものだったのだろう。
戦争の処理は、最後はきまって退屈なものになる。勝つために戦力を尽くしている間は、それはそれで楽しいのだ。
ただ、いったん終わってしまえば・・・・。
たとえ勝ったとはいえ、被害はゼロではない。負傷者もそうだた、戦った相手との落しドロコだ、難しい。
しかし、今回はまだ「マシ」であった。
なにしろ、鉄道公社のアイザック・ファウブル、「城」のロウ=リンドのふたりがそろっている。
「ククルセウへの追撃の首尾は?」
「保安部と義勇軍の混合部隊が、砦を捨てて後退するククルセウ軍に追いすがり、馬一頭、と騎士、兵士二人に負傷を負わせた。」
「交戦されたのか? また大胆な。」
アイザックが、そう言ったのは、ククスセウ軍が千を越える数を、無傷のまま撤退したからであり、これを追尾した混合部隊が百にも満たないかずだった。
「矢を打ったら、最後尾の馬の尻に命中した。 驚いた馬が乗ってた騎士を振り落として、さらに従卒を2人、蹴り倒した。」
「なるほど。ならば褒賞はその馬に与えるべきでしょうな。」
「矢を打ったのは、『城』の冒険者だ。」
「まあ、そこで無理やり功労者を作らなくても、ワルド伯爵のもとに使いをしてくれた、アデルとルウエンで、貢献度は、十分です。」
そう言って、アイザックは、陶器のポットから、ロウのカップにお茶を注いだ。
「ククウセウの軍の主体は、メナンドロス侯爵を中心とする国境際の小領主たちの集合体です。」
「それは、まずいな。」
ロウは、お茶をすすりながら言った。
まだ、夜が明けてそれほどたっていない。
気温は上がらず、ロウの吐く息も白い。
「賠償金が請求しにくい。」
「あそこらは、地味が豊かなよい土地ですからな。」
アイザックは、笑った。
「ここから、ククルセウ連合領ボルトミクまで、線路を敷く、というのは、いかがかと思いました。」
「鉄道公社も昔とは違うだろうに。」
ロウは、軽くアイザックを睨んだ。
「あちこちで、廃線の噂も聞く。新たに路線を開発する余力があるのか?」
「手厳しいですな。
たしかに、打ち続く戦乱のため、鉄道そのものが成り立たない、あるいはないほうがよい地域も増えています。本来なら、改良されるべき、車輌さえ修理を重ねて、だましだまし使っております。」
「ならば」
「ならば、ここは『中立国家』を中心に、鉄道のネットワークを再編成する必要があるかたと、存じます。
そう言った意味合いでは、『城』はその中心のひとつとなるべきではないかと。」
ロウは、難しい顔をした。
「『城』はかなり特殊な組織だ…」
「それはたしかにそうだね。トップが蜘蛛の神獣で、幹部のほとんどが吸血鬼なんて国境は、これまでになかったからね。」
こいつ。
どこから、現れた。
ロウとアイザックが、お茶を楽しんでいたのは、野外のテラス。
なぜ、夜明け間もないこの時間にそんなことをしていたのかといえば、まさに、この時間に到着するであろう、ルウエンとアデルを出迎えるためだった。
しかし。
保安部が警備をかためた野営地に、忽然とすがたを現せたのは、いかなる魔法なのか。
「寒いよ。わたしもお茶ちょうだい。」
アイザックは、当番兵を呼んだ。
当番兵は、突如ふえた客人に困惑しながらも、二人分の茶器を運んできた。
「ご苦労だった。」
アイザックは、自らお茶を入れてやり、ふたりを労った。
「ワルド城からここまで、夜の山中を抜けてきたのか?」
「まあ。それなりに大変でしたよ。」
ルウエンは頷いた。
「でも行きと帰り。二回目ですからそこはそれなりです。」
「あそこは、夜行性の肉食獣も多いはずだが。」
「ああ、邪魔な大岩を蹴り飛ばして、進ヤツにちょっかいをかけてくる獣はいませんね。そこらへんは、野生の動物はよくわかってくれるんですよ。むしろ、ワルド伯爵の特務部隊よほうがものわかりが悪くて、ね。」
バルトフェルの街にはこれから、鉄道公社が、そして『城』からも再建のための投資がはいる。
それも全て、本来はワルド伯爵が負担すべき費用を、鉄道公社が肩代わりしたことになるのだ。
つまり、負債は膨れ上がるのみで、一向に減ることは無い。
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「ルールス先生が、アルデの素性を言ってしまうから、もう一悶着あるかと思ったけど、さすがに、手を出す度胸のあるヤツはいなかったか。」
ルウエンは、難しい顔で俯くアルデを慰めるように言った。
「これが、あの場にいるものだけなら、話は違ったかもしれないけど、『調停者』ルールスが同席してたわけだから。
問題は、きみの素性はすみやかにほかの者たちにも知られることになるだろうな。」
「それはそれで、しょうがない。」
伯爵が申し出た馬車を断ったので、二人は徒歩だった。
アデルは気をとりなおしたように、笑顔を、むけた。ルウエンは眩しそうに、その笑顔をから、目を背けた。
「わたしは、ちゃんと、じっちゃんと、ばっちゃんに、ランゴバルドの冒険者学校に行くって言って、故郷を離れたんだ。黙って家出したわけじゃあない。」
「しかし、少なくとも、これでフィオリナもリウもきみが故郷を離れたことを知ることになった。」
ルウエンの足取りは、ゆっくりしている。
アデルもそれに合わせている。
道は、一応はある、という程度だ。
まともに旅すれば5日はかかる道のりを、山をかき分けて、1日でたどり着き、ワルド城でひと暴れして二人だが、疲れたというわけでは、ないようだった。
「あの二人には、会いたくない。」
きっぱりと、アデルは言った。
「あいつらが、この西域で行っていることは、最悪だ。
わたしは、それを止める。そのために」
アデルは、ルウエンの手を握った。
「もっと、力をつけないと。
だから一緒に」
もう少し、ロマンティックな雰囲気になってもよかっただろう。
だが、後方から追いすがった騎馬の1団がそれを邪魔した。
いずれも軽装だ。
馬に乗ったままで、ルウエンとアデルを取り囲んだ。
「ワルド城まで、同行願おう。」
リーダーらしき、マントの男が言った。
アデルは、露骨に嫌な顔になった。
「ついさっき、ワルド城をでてきたばかりなんだけど?」
ルウエンは、にっこりと笑った。
その笑顔を見て、アデルの表情はいっそう暗くなった。
「“災厄の女神”の血を引くお方と伺いました。ワルド城で保護いたします。」
「ワルド伯爵の元で、とは言わないんですね。」
ルウエンは、楽しそうだったが、アデルは、抜きかけた剣を鞘にもどした。
「なんだ。やらないの?」
「きみがやりすぎるのを警戒してるんだよ、わたしは!」
ぐるりと、二人を取り囲んだ騎馬の一団。そのリーダーが言った。
「賢明なご判断です、アデル。あなたはまた“黒の御方”の娘でもある。見の安全はもちろん保証いたします。」
差し上げた指にはめた宝石のがキラリと、光った。
ルウエン少年の手が、額をガードするかのように上がった。その指に。
光の矢が、はさみ止められていた。
「な!・・・・・・」
「あなたたちは、ワルド伯爵の特殊部隊みたいだね。」
ルウエンの指の中で、光の矢はゆっくりと消失していった。
「わたしの身の安全『だけ』を保証してくれるわけね。」
からからと、アデルは笑った。
「なら、答えはNOだね。ワルド伯爵は、今日で虎の子の魔法士による特殊部隊を失うことになる。」
「かかれえっ!」
リーダーの声が必要以上に大きかったのは、おそらく恐怖によるものだったのだろう。
戦争の処理は、最後はきまって退屈なものになる。勝つために戦力を尽くしている間は、それはそれで楽しいのだ。
ただ、いったん終わってしまえば・・・・。
たとえ勝ったとはいえ、被害はゼロではない。負傷者もそうだた、戦った相手との落しドロコだ、難しい。
しかし、今回はまだ「マシ」であった。
なにしろ、鉄道公社のアイザック・ファウブル、「城」のロウ=リンドのふたりがそろっている。
「ククルセウへの追撃の首尾は?」
「保安部と義勇軍の混合部隊が、砦を捨てて後退するククルセウ軍に追いすがり、馬一頭、と騎士、兵士二人に負傷を負わせた。」
「交戦されたのか? また大胆な。」
アイザックが、そう言ったのは、ククスセウ軍が千を越える数を、無傷のまま撤退したからであり、これを追尾した混合部隊が百にも満たないかずだった。
「矢を打ったら、最後尾の馬の尻に命中した。 驚いた馬が乗ってた騎士を振り落として、さらに従卒を2人、蹴り倒した。」
「なるほど。ならば褒賞はその馬に与えるべきでしょうな。」
「矢を打ったのは、『城』の冒険者だ。」
「まあ、そこで無理やり功労者を作らなくても、ワルド伯爵のもとに使いをしてくれた、アデルとルウエンで、貢献度は、十分です。」
そう言って、アイザックは、陶器のポットから、ロウのカップにお茶を注いだ。
「ククウセウの軍の主体は、メナンドロス侯爵を中心とする国境際の小領主たちの集合体です。」
「それは、まずいな。」
ロウは、お茶をすすりながら言った。
まだ、夜が明けてそれほどたっていない。
気温は上がらず、ロウの吐く息も白い。
「賠償金が請求しにくい。」
「あそこらは、地味が豊かなよい土地ですからな。」
アイザックは、笑った。
「ここから、ククルセウ連合領ボルトミクまで、線路を敷く、というのは、いかがかと思いました。」
「鉄道公社も昔とは違うだろうに。」
ロウは、軽くアイザックを睨んだ。
「あちこちで、廃線の噂も聞く。新たに路線を開発する余力があるのか?」
「手厳しいですな。
たしかに、打ち続く戦乱のため、鉄道そのものが成り立たない、あるいはないほうがよい地域も増えています。本来なら、改良されるべき、車輌さえ修理を重ねて、だましだまし使っております。」
「ならば」
「ならば、ここは『中立国家』を中心に、鉄道のネットワークを再編成する必要があるかたと、存じます。
そう言った意味合いでは、『城』はその中心のひとつとなるべきではないかと。」
ロウは、難しい顔をした。
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「それはたしかにそうだね。トップが蜘蛛の神獣で、幹部のほとんどが吸血鬼なんて国境は、これまでになかったからね。」
こいつ。
どこから、現れた。
ロウとアイザックが、お茶を楽しんでいたのは、野外のテラス。
なぜ、夜明け間もないこの時間にそんなことをしていたのかといえば、まさに、この時間に到着するであろう、ルウエンとアデルを出迎えるためだった。
しかし。
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「寒いよ。わたしもお茶ちょうだい。」
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当番兵は、突如ふえた客人に困惑しながらも、二人分の茶器を運んできた。
「ご苦労だった。」
アイザックは、自らお茶を入れてやり、ふたりを労った。
「ワルド城からここまで、夜の山中を抜けてきたのか?」
「まあ。それなりに大変でしたよ。」
ルウエンは頷いた。
「でも行きと帰り。二回目ですからそこはそれなりです。」
「あそこは、夜行性の肉食獣も多いはずだが。」
「ああ、邪魔な大岩を蹴り飛ばして、進ヤツにちょっかいをかけてくる獣はいませんね。そこらへんは、野生の動物はよくわかってくれるんですよ。むしろ、ワルド伯爵の特務部隊よほうがものわかりが悪くて、ね。」
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