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第四章 演出家たち
第55話 真祖の恋人
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祝賀会を、主役不在のまま続けるように、命令して、ぼくとロウ=リンドは、尖塔の階段を登る。
ロウの俯いて何かを考えているようだった。いろんな急展開に、さぞや、頭のなかは、ぐるぐると混乱するばかりだろう。
でも、その唇に浮かんだ笑は晴れやかにみえた。
「ミイナは。ああ、おまえも会ってるはずだ。
カザリームの当時のトップランクの冒険者アルセンドリック侯爵ロウラン。わたしがはじめて会った時は、9つの子供でな。ミイナと名乗っていたんだ。」
ロウは、歩きながらそう言う。
ぼくは頷いて
「覚えてる。氷雪魔術をつかう方だよね。」
そう答えた。
アデルたち、それにロウの部下の貴族も同行しようとしたのだが、ロウが断ったのだ。
ギムリウスはとりわけ、ついて来そうだったが、式の途最中にトップがいなくなることについては、みなが難色を示したので、お留守番をしてもらっていふ。
階段は、よく手入れされていた。埃ひとつ落ちていない。
「毎朝、わたしがお掃除するんだ。」
ちょっと、自慢そうに真祖は言う。
「ここは、基本、わたししか立ち入らないから。」
ところどころ、明かりとりの窓はあるものの廊下は薄暗く、正直、それほど頻繁に掃除の必要があるとも思えない。
神妙な顔で、ぼく、はロウのあとを着いて、階段を登るが、清掃がまあ、愛情表現だとは、まあ、彼女もかわりものではある。
丈夫な木製の扉には、古い錠前がついていた。
もっていた鍵を差し込んで、開けると、中は、ベットやら、テーブルやら。
窓にはカーテンもついていて、テーブルの一輪挿しは、さすがに枯れていた。
これはしかたない。
ロウ自身が、バルトフェルにでかけていたからだ。
「ただいま、ミイナ。」
ロウは、ちょっと、ひくほど柔らかな声で言った。
“おかえり。真祖さま。”
答えたのは、部屋の中央。
台座に固定されたクリスタルのなかからだった。
半ばを、明るいオレンジ色の炎で満たされたその中に。
止められた時のなかに、たしかに彼女は存在していた。
身体は半ば、炎の中に消失し、頭と首の一部しか残っていなかった。
整ってはいるが冷たい印象を与える顔は、苦悶の表情すら浮かべていない。
おそらくは。
「魔王憑きの古竜。そのブレスに巻き込まれたんだ。」
ロウが、クリスタルの表面にそっと触りながら言った。
「わたしたちの仲間。ドロシーを助けるためにね。一緒にいたギムリウスの眷属も巻き込まれて消滅した。
ミイナは、『停滞魔法』が間に合った。」
“あ。思い出したわ。”
クリスタルの中のミイナの念話は、明晰で、聞き取りやすかった。
“あなたは、あのときフィオリナテチームで参加していた魔道士ね。”
「ルウエンだよ。今度、わたしたちの『城』出雇い入れる事になったんだ。」
“物好きね。”
冷徹な美貌の淑女は、頭と胸しかないのに容赦ない。
“もし、あなたが魔力過剰のために長寿だというなららなにはともあれ、逃げることをおすすめするわ。
リウとフィオリナを何とかしない限り、人類社会、すくなくとも西域と忠言にはまともな社会を形成するのはムリね。
山奥にでもこもって、百年もくらせば、すこしはあの2人も落ち着くでしょう。”
「甘いです、侯爵閣下。」
ぼくは、目いっぱい友好的に微笑みながらばっさりと言い切った。
「あの二人はいつまで、生きるか分からない。そして、愛情なんてものは、長続きしなくても、憎悪だけは、無限に拡大して行くんですよ。
賭けてもいいですが、あと半世紀もしないうちに、西域から、国家という国家はひとつ残らずなくなるでさょうね。
生産も加工手段も。まともに文明と呼べるものを失った生き残りが、退去して中原に攻め寄せるのが次の十年。」
「ルウエンは、リウとフィオリナを止める、と言っている。」
ロウは、俯いたまま、クリスタルを撫で続けていた。
“本当にバカな子。”
まえに見た時の、アルセンドリック侯爵は、えりのぴっちりつまったドレスを着こなして、どこかの教壇にたつ先生のように見えた。
でもそんな言い方しちゃダメだぞ。生徒が登校してこなくなる。
“魔王をとめるものは、魔王妃のみ。そのふたりの諍いがこの世を混乱させているのだから。止めようがない。”
「踊る道化師。」
ロウの言葉に、あざけりの笑いはぴたりととまった。
“た、確かにね。『踊る道化師』が健在な間は、魔王は大人しかったわね。
ても、踊る道化師はもうないわ。
他ならないロウ。あなたとギムリウスの離脱によって、ね。”
「わたしもギムリウスも健在だよ。」
ロウは、クリスタルを抱きしめるようにして言った。
「そして、わたしたちにはアデルがいる。あの二人の子がね。まだ未熟なところはあるが旗頭には充分だ。」
“アデル?”
もちろんクリスタルの中の人影はピクリとも動かないが、精神的にアルセンドリック侯爵は首を傾げてみせた。
「そうだよ。」
“誰よ、それ。”
「リウとフィオリナの娘です。いまはランゴバルド冒険者学校に通ってる。在学中に銀級を取得した天才なんですよ。」
ぼくは口を挟んだ。
“それは凄いな。”
アルセンドリック侯爵は、感嘆した。
“在学中に銀を取得したのは、踊る道化師と、あのアウデリアだけだ。”
「アデルは、アウデリアさんの孫に当たるんです。当然と言えば当然。
で、そこで問題になるのが。」
アルセンドリック侯爵は、苦悶の表情を(精神的に)浮かべた。
“わたし、か。”
ロウの俯いて何かを考えているようだった。いろんな急展開に、さぞや、頭のなかは、ぐるぐると混乱するばかりだろう。
でも、その唇に浮かんだ笑は晴れやかにみえた。
「ミイナは。ああ、おまえも会ってるはずだ。
カザリームの当時のトップランクの冒険者アルセンドリック侯爵ロウラン。わたしがはじめて会った時は、9つの子供でな。ミイナと名乗っていたんだ。」
ロウは、歩きながらそう言う。
ぼくは頷いて
「覚えてる。氷雪魔術をつかう方だよね。」
そう答えた。
アデルたち、それにロウの部下の貴族も同行しようとしたのだが、ロウが断ったのだ。
ギムリウスはとりわけ、ついて来そうだったが、式の途最中にトップがいなくなることについては、みなが難色を示したので、お留守番をしてもらっていふ。
階段は、よく手入れされていた。埃ひとつ落ちていない。
「毎朝、わたしがお掃除するんだ。」
ちょっと、自慢そうに真祖は言う。
「ここは、基本、わたししか立ち入らないから。」
ところどころ、明かりとりの窓はあるものの廊下は薄暗く、正直、それほど頻繁に掃除の必要があるとも思えない。
神妙な顔で、ぼく、はロウのあとを着いて、階段を登るが、清掃がまあ、愛情表現だとは、まあ、彼女もかわりものではある。
丈夫な木製の扉には、古い錠前がついていた。
もっていた鍵を差し込んで、開けると、中は、ベットやら、テーブルやら。
窓にはカーテンもついていて、テーブルの一輪挿しは、さすがに枯れていた。
これはしかたない。
ロウ自身が、バルトフェルにでかけていたからだ。
「ただいま、ミイナ。」
ロウは、ちょっと、ひくほど柔らかな声で言った。
“おかえり。真祖さま。”
答えたのは、部屋の中央。
台座に固定されたクリスタルのなかからだった。
半ばを、明るいオレンジ色の炎で満たされたその中に。
止められた時のなかに、たしかに彼女は存在していた。
身体は半ば、炎の中に消失し、頭と首の一部しか残っていなかった。
整ってはいるが冷たい印象を与える顔は、苦悶の表情すら浮かべていない。
おそらくは。
「魔王憑きの古竜。そのブレスに巻き込まれたんだ。」
ロウが、クリスタルの表面にそっと触りながら言った。
「わたしたちの仲間。ドロシーを助けるためにね。一緒にいたギムリウスの眷属も巻き込まれて消滅した。
ミイナは、『停滞魔法』が間に合った。」
“あ。思い出したわ。”
クリスタルの中のミイナの念話は、明晰で、聞き取りやすかった。
“あなたは、あのときフィオリナテチームで参加していた魔道士ね。”
「ルウエンだよ。今度、わたしたちの『城』出雇い入れる事になったんだ。」
“物好きね。”
冷徹な美貌の淑女は、頭と胸しかないのに容赦ない。
“もし、あなたが魔力過剰のために長寿だというなららなにはともあれ、逃げることをおすすめするわ。
リウとフィオリナを何とかしない限り、人類社会、すくなくとも西域と忠言にはまともな社会を形成するのはムリね。
山奥にでもこもって、百年もくらせば、すこしはあの2人も落ち着くでしょう。”
「甘いです、侯爵閣下。」
ぼくは、目いっぱい友好的に微笑みながらばっさりと言い切った。
「あの二人はいつまで、生きるか分からない。そして、愛情なんてものは、長続きしなくても、憎悪だけは、無限に拡大して行くんですよ。
賭けてもいいですが、あと半世紀もしないうちに、西域から、国家という国家はひとつ残らずなくなるでさょうね。
生産も加工手段も。まともに文明と呼べるものを失った生き残りが、退去して中原に攻め寄せるのが次の十年。」
「ルウエンは、リウとフィオリナを止める、と言っている。」
ロウは、俯いたまま、クリスタルを撫で続けていた。
“本当にバカな子。”
まえに見た時の、アルセンドリック侯爵は、えりのぴっちりつまったドレスを着こなして、どこかの教壇にたつ先生のように見えた。
でもそんな言い方しちゃダメだぞ。生徒が登校してこなくなる。
“魔王をとめるものは、魔王妃のみ。そのふたりの諍いがこの世を混乱させているのだから。止めようがない。”
「踊る道化師。」
ロウの言葉に、あざけりの笑いはぴたりととまった。
“た、確かにね。『踊る道化師』が健在な間は、魔王は大人しかったわね。
ても、踊る道化師はもうないわ。
他ならないロウ。あなたとギムリウスの離脱によって、ね。”
「わたしもギムリウスも健在だよ。」
ロウは、クリスタルを抱きしめるようにして言った。
「そして、わたしたちにはアデルがいる。あの二人の子がね。まだ未熟なところはあるが旗頭には充分だ。」
“アデル?”
もちろんクリスタルの中の人影はピクリとも動かないが、精神的にアルセンドリック侯爵は首を傾げてみせた。
「そうだよ。」
“誰よ、それ。”
「リウとフィオリナの娘です。いまはランゴバルド冒険者学校に通ってる。在学中に銀級を取得した天才なんですよ。」
ぼくは口を挟んだ。
“それは凄いな。”
アルセンドリック侯爵は、感嘆した。
“在学中に銀を取得したのは、踊る道化師と、あのアウデリアだけだ。”
「アデルは、アウデリアさんの孫に当たるんです。当然と言えば当然。
で、そこで問題になるのが。」
アルセンドリック侯爵は、苦悶の表情を(精神的に)浮かべた。
“わたし、か。”
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