残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

文字の大きさ
66 / 83
第五章 銀雷の夢

第60話 アジャール伯爵領の冒険者たち

しおりを挟む
ぼくらは、門番に冒険者であると申告した。ランゴバルドの銀級パーティ。
名前を何と書こうか、少し迷ったが、はっきりと“踊る道化師”と記入した。

門番は顔色も変えない。

『城』の城代であるロウ=リンドのサインの入った紹介状を見せた時だけ、髭面が、わずかに硬直した。

「副団長殿に面会が希望か?」

「はい。若き英雄バルディさまに、お目にかかりたいのです。」
ぼくは、腰を低くして、頼んだ。
「なにとぞ、お取次ぎを願えませんでしょうか。」

「副団長は、伯爵閣下のご嫡男でもあらせられる。めったなものを通す訳にはいかん。」
「ですので、かの真祖ロウ=リンドさまからの紹介状を持参いたしました。」
「本物か?」

うんうん、とロウは、ぼくの隣りで頷いたが、話が面倒くさくなるので、脇腹をつついて、黙らせた。

「どうやって、手に入れた。」
「ぼくらは、先日まで『城』に滞在してまして。」
アデルや、昔はフィオリナなんかも人を詐欺師みたいに言うが、ほんとのことを話してるだけだ。詐欺師呼ばわりされる言われはない。
「ククルセウとワルド伯爵領との小競り合いで、手柄をたてたもので、そこ褒賞の1部として、紹介状を書いていただいたのですよ。」

「ほかのメンバーは?」
「人間の戦士がひとり。あとは伯爵級が二人です。あとこっちの子供は途中で拾った迷子です。記憶をなくしてるようなので、捨てておくことも出来ずに連れて歩いてます。」
「おい。」
と、言って門番は、怖い顔で、紹介状を指で叩いた。

紹介状の封印は、サインとそれが記された日付がはいるものだが、それが昨日になっている。
ここまでは、魔道列車もつかって五日、かかっているので、とうぜんおかしなことになってくる。

もちろん、ロウが昨日、書いたもので、封印のサインをするときに、うっかりその日の日付をいれてしまったものだが、城代本人が同行してるとなると、また話がややこしくなる。

「こちらに到着予定の日にあわせて、書いていただいたので、実際には一日遅れてしまいましたが、まぎれもなく、本物です。真祖さま自らが、ぼくの目の前で記入し、封印してくださいました。」

事務的な過誤で、押し通すことにする。

「いずれにしても“貴族”をまじえたパーティでは粗略に扱うことはできない。

門番はなお、ぶつぶつとなにやら呟いていが、若い衛兵をよんで、ぼくらを騎士団の駐屯場まで、案内するように、命じてくれた。


騎士団、というものは、鉄道や機械馬の普及で、ぼぼ消滅しかかったところで、乱世により忽然と復活した軍組織だ。
なにしろ、装備一式の維持に金がかかるうえに、ひとりでは着脱もできない金属鎧を身につけなければならない。

物理的な打撃にはある程度、強いが、魔法にはそうでもない。

鎧そのものに高度な防御魔法を施せば価格はうなぎのぼりとなる。

どう考えても単騎が、千や二千の軍を蹴散らせる人間の上位存在が跋扈する世の中では、最適解ではありえないのだが、もともとが騎士階級から成り上がった封建領主を先祖にもつ彼らは、軍備強化を図る際に、この英雄譚に登場する昔ながらの軍組織しか思いつかなかったのだ。

幸いにも、竜種や精霊種、神子といった上位存在は、軒並み姿を消し、相手は主に同じくらい愚かで、古色蒼然とした武威をかまえる同じ封建領主がほとんどになっていた。

幸いにも、権威主義的なアルジャール伯爵の騎士団には、『城』の城代からの手紙は実によく効いた。

多少のバタバタのあと、ぼくらは、面会室(応接室とよぶには、なんの装飾もなく、ベンチのような椅子とテーブルのみ)に通された。

なんだか、お湯を出された。
扱いは悪く無い。
というより、この程度の街では、沸かさずに飲める飲料水なんてないのが当たり前だ。

最初に副官と称する人物が現れた。

まだ若い。
よく鍛えた体つきだったが、防具らしきものは、革の胸当てだけで、どうも事務方の仕事をしているようだった。

「グリントと言う。」

口調はとくに乱暴でも丁寧でもない。
突然、訪れた冒険者に対するものとしては、いたってふつう、だ。

「バルディ副団長は、夕刻には帰ってくる。」

と、彼は言った。

「それまで待ってもらうことになるが?」
「こちらで、お待ちしてもよろしいのですか?」

と、ぼくは尋ねた。

「もちろんだ。というより、こんな怪しげな用事で尋ねてきた相手を、そのまま返すわけにはいかないので、これは実質的に拘束に近いものだと考えて欲しい。」
「実に慎重で理にかなった行動だ。」

ロウは、フードを下ろして、口元はストールで覆っている。
ほかの2名の「貴族」サマ方も同様だった。
吸血鬼の瞳きわめて、危険なもので、街をあるくときは、フードを深く被ったり、サングラスで目を隠す。
口元をかくすのは、牙を隠すためであり、これは「貴族」のみなさまの定番のスタイルだった。

グリントさんは、あらためて、三名にむかって丁寧に一礼した。

「失礼ながら。まだみなさまのお名前を伺っておりませんな。」
「わたしはアデル。こっちの頼りなさそうな魔法使いがルウエン。わたしたち二人はランゴバルドの冒険者学校の生徒で」
「アデル。どうもグリントさんは、ぼくらとラウレス以外の三人のことを知りたがっているみたいだよ!」

「わたしは、ルーデウス。伯爵級だ。」

ぼくの一応の主は、フードをとった。

「冒険者として活動していたから、名前は知られているかもしれないな。」
「秘宝探索者ルーデウス伯爵ですか!」

グリントは、驚いたようだった。

「存じてくれているとはありがたい。
活動の拠点にしていた街が戦乱に巻き込まれてな。『城』に退避しようとしたところで、このパーティに、協力することに、なった。」

「高名なルーデウス閣下に、お尋ねいいただき、光栄です。
他の、おふたりも、ルーデウス殿のパーティメンバーということですか?」
「いや、彼女たちとは『城』で知り合ったのだ。こちらは、アルセンドリック侯爵ロウラン。
かつて、カザリームのトップランカーのひとりだったが」

「しばらく、活動ができなかったので 、な。よしなに頼む。グリント殿。」
ロウランは、幅のひろい帽子をかぶり、マスクで顔をかくしていた。

一応、大雑把ではあるが、吸血鬼の力はその段階において、爵位で示される。
侯爵級は、そうめったには見ない、希少かつ、強力な吸血鬼だ。

人類の亜種として、正式に認められた吸血鬼だが、高位貴族級を複数、お目にかかる機会はそうそうはないだろう。

「最後のおひとりは、伯爵級でしたな。
名をお聞かせ願いますか?」

「グリントくん。まえに使者として半年ばかり前に『城』に来てくれた際に、わたしたちは会っているよ。」
「?」
「ロウ=リンドだ。」

ひえっ!
と、叫んでグリントは、尻もちを、ついた。

「あのときは、たしか目の再生を受けたばかりで、視力はかなり制限されていたはずだ。
視力のほうはいいのかい?」

「た、たしかにリンド伯爵閣下!」

ロウは女の子にはめずらしく、襟足あたりで髪を短くしていた。
サングラスを外した瞳は深い湖の青。

「真祖みずからが、『城』からお出かけになるとは。このことは我が主であるアジャール伯爵閣下にもぜひ、お知らせを!」
 「私たちは、忍び旅なんだ。大袈裟にしてもらってはこまる。
要件は、そうだな。おぬしになら話したも構わんか。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...