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第六章 ランゴバルドの風
第74話 目指せ!特待生
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「いらっしゃませ。お二人さまですか。お食事でしょうか。それともお泊まりですか。はいかしこまりましたあ。どうぞ、こちらのお席で。
ただいまご注文を伺いますので少々お待ちくださいませ。」
「よお。なんか食うものは決まったか? なに?
まだ決まってねえだと? せっかく焼いた串焼きが覚めちまうじゃねえか。
ええ? それでいい? あっそうか。じゃあ、飲み物をきいてやる。」
「はい。おへやですか。空いております。二名さまですね。
はい。一部屋ずつ別々に? はい。女性でございますか?
ただいま、確認してまいります。え? あのウエイトレスはだめかって?」
「なんか用事? もうラストオーダー終わって、かまどの火も落としちまっからまあ、乾き物ならあるぜ。え? 部屋で飲み直し? おまえと?」
嘲るような笑いに、なめられたと思ったのだろうか。
酔っ払った冒険者は、ウェイトレスに向かって短剣を抜いた。
明らかに悪酔いだが、挑発したウェイトレスもどうかと思う。
短剣は、わずかには真珠色の燐光を放っている。なんらかの付与魔法のかかった業物のようだった。
「こいつをてめえの腹にぶち込むことだってできるんだぜ。それとももうひとつの大業物のほうにしてやろうか。おまえがひいひい言うのは間違いねえ。どっちみち泣き叫ぶんなら、死なねえほうがいいんじゃねえのか」
「下ネタじゃねーか!」
パッカーン。
小気味いい音が、悪酔いした冒険者の後頭部でなった。
ウェイターの少年、トレイで頭をぶんなぐった音だった。
怒りと酔いに目を血張らせた冒険者は、立ちあがろうとしたが、自分の手がまったく動かないことに気がついた。
自分の右手。そこに握った“祝幸のファウベリクス”の剣身を、ウェイトレスの手が、がっちりと握りしめている。
「な、なにしやがる。はなせ! はなしやがれ!」
素直にウェイトレスは、手を離した。
なおも喚こうとした冒険者もその連れも、呆然とその手を見ていた。
祝幸のファウベリクスが無惨に折れ曲がっていた。少女の握力がそれをなした、としか考えられない状況だったが、常識がそれを否定した。
いや、確かにウェイトレスの少女は、鍛え上げた体をしていた。ちょっとウェイトレスのエプロンドレスが似合わないほどに隆々たる筋肉をしている。
だからって、剣を鷲掴みにしてへし曲げる? いや100歩譲ってそんな怪力をもっていたとしても、そこまで力を入れれば、指の方が落ちる。
「酔いすぎた。」
少女はきっぱりと言った。
「部屋はとってあるから、朝までには酔いを覚ましておくんだな。あとで、水を持って行ってやる。」
まだ成人にも達していない少女のその落ち着きぶりに、ふたりの冒険者は戦慄した。
「わかったか? それと水を持って行ってやった時に、不埒な真似をするようなら、その自慢の大業物とやらも」
少女は、怖い目つきで、冒険者の股間を睨んだ。
「短剣と同じ目にあうことになる。」
◾️◾️◾️◾️◾️
アデルとぼくは、学生街の一角にある居酒屋で、雇ってもらうことになった。
隣は、あまり繁盛していない冒険者ギルドで、そこに併設された酒場での労働だ。2階には宿泊施設もある。
食事付きで、朝から夜遅く、店が捌けるまでの接客。あとは客室や酒場の清掃。
アデルは、凄みはあるものの、顔立ちは整っていたし、ぼくもまあ、口はよく回る方だったので、まあ、なんとか10日後、入学試験の締め切りまでには、受験料をためておける予定だった。
アデルが、言い出した“特待生”とやらは、どうも冒険者学校のルールス理事長のお眼鏡に適った生徒に、学費や寮費の免除や、逆に月々、手当までもらえるたいへんけっこうなものらしい。
確かに、パンフレットの片すみには、そんな記述があるのだが、とくに「何名」との記載もないし、ためしに、ぼくらを雇ってくれた酒場の主に尋ねてみても、そんな制度自体を知らなかった。
バンフレットの「特待生募集」の文字の隣に「特待生」の由来が、さらに細かな文字でかかれていた。
もともとは、昔、「踊る道化師」というパーティに与えられた待遇らしい。
ぼくとアデルに与えられた部屋は一つで、ベッドは2段ベッドだった。
拘束時間は長いし、けっこうな重労働だったが、アデルにはなにほどのことでなし。
眠る前に、ベッドの上と下でいろいろ話をするの習慣になっていた。
とは言え、アデルは自分の素性については、あまりしゃべろうとは、しなかった。
北の出身で、祖父母と育ったこと。
学校には通わず、読み書きや
「踊る道化師!!」
話をすると、アデルは、驚いたように声を出した。
「なにか知っているの?」
「いや、なんでも。有名だからね。」
上のベットで、アデルが、寝返りをうったようだった。
ベッドが軋む音がした。
アデルが、冒険者とトラブルを起こした翌朝だった。
ぼくらが、働く居酒屋兼宿屋兼に訪問者があったのだ。
タイプの異なる美女二人。
ひとりは、褐色の肌をボロきれでかろうじて覆っただけの野性味あふれる美女。
もうひとりは、小柄で知的な顔立ちをしていて、しっとりと落ち着いたドレスを身にまとっている。
酒場の主は平身低頭で彼女たちを迎えたが、ぼくとアデルはそうでもない。
褐色の肌の美女は、冒険者学校の教師であるネイアであり。
清楚な美人は、ルールス理事長その人だった。
ただいまご注文を伺いますので少々お待ちくださいませ。」
「よお。なんか食うものは決まったか? なに?
まだ決まってねえだと? せっかく焼いた串焼きが覚めちまうじゃねえか。
ええ? それでいい? あっそうか。じゃあ、飲み物をきいてやる。」
「はい。おへやですか。空いております。二名さまですね。
はい。一部屋ずつ別々に? はい。女性でございますか?
ただいま、確認してまいります。え? あのウエイトレスはだめかって?」
「なんか用事? もうラストオーダー終わって、かまどの火も落としちまっからまあ、乾き物ならあるぜ。え? 部屋で飲み直し? おまえと?」
嘲るような笑いに、なめられたと思ったのだろうか。
酔っ払った冒険者は、ウェイトレスに向かって短剣を抜いた。
明らかに悪酔いだが、挑発したウェイトレスもどうかと思う。
短剣は、わずかには真珠色の燐光を放っている。なんらかの付与魔法のかかった業物のようだった。
「こいつをてめえの腹にぶち込むことだってできるんだぜ。それとももうひとつの大業物のほうにしてやろうか。おまえがひいひい言うのは間違いねえ。どっちみち泣き叫ぶんなら、死なねえほうがいいんじゃねえのか」
「下ネタじゃねーか!」
パッカーン。
小気味いい音が、悪酔いした冒険者の後頭部でなった。
ウェイターの少年、トレイで頭をぶんなぐった音だった。
怒りと酔いに目を血張らせた冒険者は、立ちあがろうとしたが、自分の手がまったく動かないことに気がついた。
自分の右手。そこに握った“祝幸のファウベリクス”の剣身を、ウェイトレスの手が、がっちりと握りしめている。
「な、なにしやがる。はなせ! はなしやがれ!」
素直にウェイトレスは、手を離した。
なおも喚こうとした冒険者もその連れも、呆然とその手を見ていた。
祝幸のファウベリクスが無惨に折れ曲がっていた。少女の握力がそれをなした、としか考えられない状況だったが、常識がそれを否定した。
いや、確かにウェイトレスの少女は、鍛え上げた体をしていた。ちょっとウェイトレスのエプロンドレスが似合わないほどに隆々たる筋肉をしている。
だからって、剣を鷲掴みにしてへし曲げる? いや100歩譲ってそんな怪力をもっていたとしても、そこまで力を入れれば、指の方が落ちる。
「酔いすぎた。」
少女はきっぱりと言った。
「部屋はとってあるから、朝までには酔いを覚ましておくんだな。あとで、水を持って行ってやる。」
まだ成人にも達していない少女のその落ち着きぶりに、ふたりの冒険者は戦慄した。
「わかったか? それと水を持って行ってやった時に、不埒な真似をするようなら、その自慢の大業物とやらも」
少女は、怖い目つきで、冒険者の股間を睨んだ。
「短剣と同じ目にあうことになる。」
◾️◾️◾️◾️◾️
アデルとぼくは、学生街の一角にある居酒屋で、雇ってもらうことになった。
隣は、あまり繁盛していない冒険者ギルドで、そこに併設された酒場での労働だ。2階には宿泊施設もある。
食事付きで、朝から夜遅く、店が捌けるまでの接客。あとは客室や酒場の清掃。
アデルは、凄みはあるものの、顔立ちは整っていたし、ぼくもまあ、口はよく回る方だったので、まあ、なんとか10日後、入学試験の締め切りまでには、受験料をためておける予定だった。
アデルが、言い出した“特待生”とやらは、どうも冒険者学校のルールス理事長のお眼鏡に適った生徒に、学費や寮費の免除や、逆に月々、手当までもらえるたいへんけっこうなものらしい。
確かに、パンフレットの片すみには、そんな記述があるのだが、とくに「何名」との記載もないし、ためしに、ぼくらを雇ってくれた酒場の主に尋ねてみても、そんな制度自体を知らなかった。
バンフレットの「特待生募集」の文字の隣に「特待生」の由来が、さらに細かな文字でかかれていた。
もともとは、昔、「踊る道化師」というパーティに与えられた待遇らしい。
ぼくとアデルに与えられた部屋は一つで、ベッドは2段ベッドだった。
拘束時間は長いし、けっこうな重労働だったが、アデルにはなにほどのことでなし。
眠る前に、ベッドの上と下でいろいろ話をするの習慣になっていた。
とは言え、アデルは自分の素性については、あまりしゃべろうとは、しなかった。
北の出身で、祖父母と育ったこと。
学校には通わず、読み書きや
「踊る道化師!!」
話をすると、アデルは、驚いたように声を出した。
「なにか知っているの?」
「いや、なんでも。有名だからね。」
上のベットで、アデルが、寝返りをうったようだった。
ベッドが軋む音がした。
アデルが、冒険者とトラブルを起こした翌朝だった。
ぼくらが、働く居酒屋兼宿屋兼に訪問者があったのだ。
タイプの異なる美女二人。
ひとりは、褐色の肌をボロきれでかろうじて覆っただけの野性味あふれる美女。
もうひとりは、小柄で知的な顔立ちをしていて、しっとりと落ち着いたドレスを身にまとっている。
酒場の主は平身低頭で彼女たちを迎えたが、ぼくとアデルはそうでもない。
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