残酷な異世界の歩き方~忘れられたあなたのための物語

此寺 美津己

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第六章 ランゴバルドの風

第73話 一文無し!参上!

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「え? 無料じゃない?」
「すまないな。」

受付をしていた事務員は、気の毒そうに答えた。

「いつから‥‥」
「もうかれこれ、20年は経つが、まあ、辺境までは届いていないか。」

受験の受付は、かなりの列ができている。
受付のおじさんは、親切そうだが、後ろに並ぶ受験生たちが、キレ始めた。

「どこの田舎もんだ! とっとと、手続きしろ!」
「しねえんなら、場所あけろ、クズが!」
「いまどき、タダ飯タカリに入学しようとするヒトなんているのかしらね。
こんなのと一緒に入校したくないよ。」
「この分だと、受験料ももってないんじゃないかしら。」


ぼくの表情はかなり、ひきつっていたと思う。
「じ、じうけんりよう‥‥」
「ああ、もちろん、受験料もいる。」

事務員のおじさんは、それでも根気よく、説明してくれる。
ぼくみたいなヤツは、たまにいるのだろう。

口にされた金額はそう大きなものではなかった。たぶん、常識的な額なんだろう。
でも、最後の現金を列車の運賃にあててしまったぼくには、1ダルでも100ダルでも一緒だ。
要するに「ない」んだから。

「受験料と、あとは、入学金、前期の授業料と寮費、」
事務員のおじさんは、バンフレットを取り出して、ぼくに手渡した。
「もちろん、入学後に、臨時冒険者資格をとって、稼ぎながら、学校に通う学生もいる。
だが、初期の費用としては、だいたいこのくらいは必要だ。
お金を工面して、また来るんだな。次の受験日は、3ヶ月後だ。」
「じ、受験って毎日やってませんでしたっけ?」
「ん、ああ。昔は、な。」

事務のおじさんは、気の毒そうに言った。

「昔はそれこそ、地方で食い詰めたりした子どもに、読み書きを教えてやるための厚生施設だった側面もある。
かくいう、俺もそのクチだ。
だが、いまのランゴバルド冒険者学校は、高度な知識や戦闘技術、最先端の魔法がな学べる高等教育機関だ。
学費も寮費もとんでもなく、安いが、ぜんぶ無料ってわけにはいかなくなっんた。」

受験生たちの冷たい視線を浴びながら、
ぼくは受付をあとにした。

受験の受付の列は、まだまだ長い。
手元のバンフレットに目を落とすと、今日が受験の受付開始日。実際の受験日は10日後、だった。

受験なんて、冒険者学校では、希望者さえいれば、随時やってるって、思い込んでいたから、これはついている。

場合によっては、次の受験日まで三ヶ月、またなくちゃならない場合もあったんだから。

だが、それでもいろいろと、詰んでいた。
受験料は、身の回りの備品を売ればなんとかなりそうだったが、入学金と授業料の前納が無理だ。
高くはない。高くはないのだが、1文無しには、はるか遠い数字だ。

ふと、さっきぼくを助けてくれたアデルの顔が浮かんだ。
アデルについて、ぼくの判断が間違ってなければ、あれはとんでもないお姫様のはずだ。
なんとか、あれにくっついて、冒険者学校にはいれないだろうか。
見たところ、ひとりだったようだし、あの身分ならお付きのひとりやふたり、いたっておかしくない様な気がする
……


「ああっ!? 受験するのに金がいるのか?」

別の列から怒号があがった。

ぼくに、冷たい視線をむけていた受験生のみなさんが、一斉に、そちらを観る。
“またか…”
そんな表情であった。

「入学金に授業料? 寮費もかかるのか? 聞いてないぞ!」

聞き覚えのある声に、ぼくは、近づいた。
アデルだ。
ここの受付をしているのは、若い女性の事務員だった。

ぼくの相手をしたおじさん事務員よりは、ビジネスライクで、明らかにアデルを迷惑がっていた。

「そもそもランゴバルド冒険者学校は、ろくに教育を受けられなかった子どもに基礎教育を行うふくりこうせいしせなわけで、」
「いまも、そうよ。」

事務員は、ぼくがもらったのと変わらないパンフレットを、アデルに手渡しながら言った。

「でも食い詰めて、ここに流れた貧民がとりあえずの衣食住目当てで入学してこれるようなところではないの、ここは。」
「食い詰めて、故郷から出てきたんじゃない!」
「ああ、そうなの。だったらせめて受験料くらいは用意してきてよね。」

事務員は、小バエでも追い払うような手つきで、アデルを追い払おうとした。
対してアデルは……。

「ルウエン!」
いまにも殴りかかりそうだったアデルは、ぼくを見て、顔を輝かせた。
「いいところに来た! お金貸してよ。」
「いや、ぼくもお金はまったくありません!!」
「す、少しは持ってこいよお!」

ぼくは、アデルの手を引っ張って、列を離れた。
もちろん、アデルは、一悶着起こす気まんまんであったが。

「アデル…お金もってないのか。」
「ルウエンだってそうでしょう?
わたしは、その…家出してきたから、旅費しかもってない。」
「アホかっ!」
「おまえがな!」

ぼくらは、いったん学校を出た。

以前は、機械馬車のロータリーだった学校前の広場は、びっしりとバラックが立ち並び、通路はひとが通るのがやっとだ。

その1軒に、ぼくらは腰をおちつけた。

頼んだのは、お茶だけである。

「受験料は、1万ダルか。」
バンフレットを食い入るように眺めながら、アデルは呻いた。
「ほかに、半期分の授業料、入学金、寮費の前払い。」
「だいたい50 万ダル、か。」

アデルの話のなかに、ばあちゃんとじっちゃんの話が出ていたのをぼくは、思いだした。
もし、それがぼくの考えている人物なら、アデルはお姫さまのはずなんだが。

「いや、まて!!」

アデルは、バンフレットの一点を指さした。

「これなら、受験料だけ払えば、あとは無料で過ごせるぞ!」

そこには、「特待生」の文字があった。





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