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第六章 ランゴバルドの風
第77話 アウラというギルマス
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ルールス先生たちが、帰ったあ と、すぐにぼくらは、ここのギルドマスターに呼ばれた。
はじめて、顔を見るギルマスは、ふくよかな体型の40代の女性でアウラ、と名乗った。
「あんたら、クローディア大公家のお身内なのかい?」
隣のギルドの受付には、いくつか個室も用意されている。
込み入った話や大きな商談に使われるのだろう。
調度品は、あまり金をかけた様子はなく、なにより、あまり使われたことがないようだった。
「違いますよ、」
「おまえには、聞いてない。」
アウラさんは、ぼくの言葉を遮り、アデルに詰め寄った。
「ルールス閣下が、おまえをクローディアの娘、と読んだそうだな。」
アデルは、破かれたエプロンドレスよ上から、テープルのシーツを被っている。あまりにも露出が過ぎるので、そうしているだけなのだが、あまりかっこよくはない。
それもこれもあって、アデルの機嫌はかなり悪かった。
「知らない。なんかの間違いじゃないの?」
「おまえは知らんだろうが、あのお人は、『真実の目』をもつ。冒険者学校のトップであると同時に、西域全体でも七名しかいない『調停者』のおひとりだ。」
「ええっと…調停者ってなんです?」
アウラさんはぼくを睨んだ。
「どこの田舎からでてきた。」
「けっこう遠いです。」
まずい。また、「一般常識」で苦労しそうな予感がする。
「とくかく、そういう偉い人がいる、ということを覚えておけ。」
「七人もいるんなら、そんなに偉くないのでは?」
「“銀雷の魔女”ドロシーはきいたことはないか?」
ぼくは、ちょっと考えて言った。
「ありますよ。」
「ならば、“血の聖者”サノスは?
“背教者”ゲオルグは? “賢者”ウィルニアは?」
「ゲオルグさんってのは、よく知らないですね。」
ぼくは正直に答えた。
「この世界から列強国というものが失われ、外交すら滞ってしまったこの時代に戦争や紛争を調停するのが“調停者”だ。」
「それはなんの権威に基づいて、そうするのんですか?」
ぼくが尋ねると、アウラさんはいよいよ、嫌な顔をした。
デスクの箱から、キセルを取り出すと火をつけた。紫の煙と、焦げ臭い匂いが、充満する。
「指名したのは“黒の御方”と“災厄の女神”だ。あのお二方が同時に賛同して、指名されたのが、調停者だ。」
その名前は旅をする間もちょいちょい
耳に挟んでいた。
戦いは、両者の陣営間で起こる。
本人たち、あるいは本人たちが指揮する軍は、戦場にはあらわれない。
西域の陰の支配者。
黒の御方。
災厄の女神。
両者は対立しあっている、と言う。
「リウと、フィオリナのお眼鏡にかなったのなら確かにたいしたもののようですね。」
アウラさんは、硬直した。
目を丸くして、ぼくを眺めていた、
「…その名をみだりに口にするなよ、少年。」
やっとのこと。絞り出すようにアウラさんは言った。
「はい。まあ。なんていうか」
「20年かそこいら、冬眠でもしてたのか! もういい!
それより、そっちのアデルのことだ。」
アウラさんは、タンとキセルの灰を落とした。
「クローディアのお身内なのか、ほんとうに。」
「わたしはなにも言ってない。」
アデルは、そっぽを向いている。
アウラさんは、あまり経営状態はよくないにしろ、ギルドのマスターだったし。あまり、失礼な態度は良くない。
「北の育ち、だったよね?」
「そうだよ。」
「グランダからもっと、北?」
「そう。」
「…だそうです。」
「答えになってないぞ! 別にわたしは出身地を聞いたわけではない。クローディアのお身内かどうかを尋ねている。」
「ルールス理事長は、アデルを『クローディア』の娘、と呼びました。少なくとも冒険者学校のトップは、そう思っているようです。だったらそれでいいんでは?」
ぼくは、肘掛椅子に深く座り直した。
「学校の最高責任者にして、7人しかいない『調停者』か、そうおっしゃるならそうなんですよ。
ほかに答えは、ない。」
ぼくは、せいぜい友好的に笑いかけたつもりだったが、アウラは恐ろしいものでも見たように、身体を仰け反らせた。
「アデルが、否定しても肯定してもそれを裏付けるものはなにもない。気かだけ無駄です。」
ぼくらは、今日はもう仕事はいいとあと言われて、寝室に戻った。
部屋のドアは外から施錠されたいた。
食事を運んできたのは、たぶん現役バリバリの冒険者で、一言も口をきかずに、トレイを置いて立ち去った。
「軟禁じゃないか、これ!」
「いや、監禁だよ。」
「壁もドアもこのくらい壊せるし、武器も取り上げられた無いから、南京だよ。」
ぼくは、恐ろしく不毛な会話をして夕方まですごした。
夕方、尋ねてきたのは、酒場のマスターだった。
アデルの着替えと。
けっこうマシな賄いを持っていた。
「とりあえず、何が何だかわからん。というのがギルマスの見解だ。」
彼もまた、大いに困っているのが分かったので、ぼくらはそれについては不問にした。
「なんで、とりあえず働いてくれ。
客が多くて手が回らん。」
はじめて、顔を見るギルマスは、ふくよかな体型の40代の女性でアウラ、と名乗った。
「あんたら、クローディア大公家のお身内なのかい?」
隣のギルドの受付には、いくつか個室も用意されている。
込み入った話や大きな商談に使われるのだろう。
調度品は、あまり金をかけた様子はなく、なにより、あまり使われたことがないようだった。
「違いますよ、」
「おまえには、聞いてない。」
アウラさんは、ぼくの言葉を遮り、アデルに詰め寄った。
「ルールス閣下が、おまえをクローディアの娘、と読んだそうだな。」
アデルは、破かれたエプロンドレスよ上から、テープルのシーツを被っている。あまりにも露出が過ぎるので、そうしているだけなのだが、あまりかっこよくはない。
それもこれもあって、アデルの機嫌はかなり悪かった。
「知らない。なんかの間違いじゃないの?」
「おまえは知らんだろうが、あのお人は、『真実の目』をもつ。冒険者学校のトップであると同時に、西域全体でも七名しかいない『調停者』のおひとりだ。」
「ええっと…調停者ってなんです?」
アウラさんはぼくを睨んだ。
「どこの田舎からでてきた。」
「けっこう遠いです。」
まずい。また、「一般常識」で苦労しそうな予感がする。
「とくかく、そういう偉い人がいる、ということを覚えておけ。」
「七人もいるんなら、そんなに偉くないのでは?」
「“銀雷の魔女”ドロシーはきいたことはないか?」
ぼくは、ちょっと考えて言った。
「ありますよ。」
「ならば、“血の聖者”サノスは?
“背教者”ゲオルグは? “賢者”ウィルニアは?」
「ゲオルグさんってのは、よく知らないですね。」
ぼくは正直に答えた。
「この世界から列強国というものが失われ、外交すら滞ってしまったこの時代に戦争や紛争を調停するのが“調停者”だ。」
「それはなんの権威に基づいて、そうするのんですか?」
ぼくが尋ねると、アウラさんはいよいよ、嫌な顔をした。
デスクの箱から、キセルを取り出すと火をつけた。紫の煙と、焦げ臭い匂いが、充満する。
「指名したのは“黒の御方”と“災厄の女神”だ。あのお二方が同時に賛同して、指名されたのが、調停者だ。」
その名前は旅をする間もちょいちょい
耳に挟んでいた。
戦いは、両者の陣営間で起こる。
本人たち、あるいは本人たちが指揮する軍は、戦場にはあらわれない。
西域の陰の支配者。
黒の御方。
災厄の女神。
両者は対立しあっている、と言う。
「リウと、フィオリナのお眼鏡にかなったのなら確かにたいしたもののようですね。」
アウラさんは、硬直した。
目を丸くして、ぼくを眺めていた、
「…その名をみだりに口にするなよ、少年。」
やっとのこと。絞り出すようにアウラさんは言った。
「はい。まあ。なんていうか」
「20年かそこいら、冬眠でもしてたのか! もういい!
それより、そっちのアデルのことだ。」
アウラさんは、タンとキセルの灰を落とした。
「クローディアのお身内なのか、ほんとうに。」
「わたしはなにも言ってない。」
アデルは、そっぽを向いている。
アウラさんは、あまり経営状態はよくないにしろ、ギルドのマスターだったし。あまり、失礼な態度は良くない。
「北の育ち、だったよね?」
「そうだよ。」
「グランダからもっと、北?」
「そう。」
「…だそうです。」
「答えになってないぞ! 別にわたしは出身地を聞いたわけではない。クローディアのお身内かどうかを尋ねている。」
「ルールス理事長は、アデルを『クローディア』の娘、と呼びました。少なくとも冒険者学校のトップは、そう思っているようです。だったらそれでいいんでは?」
ぼくは、肘掛椅子に深く座り直した。
「学校の最高責任者にして、7人しかいない『調停者』か、そうおっしゃるならそうなんですよ。
ほかに答えは、ない。」
ぼくは、せいぜい友好的に笑いかけたつもりだったが、アウラは恐ろしいものでも見たように、身体を仰け反らせた。
「アデルが、否定しても肯定してもそれを裏付けるものはなにもない。気かだけ無駄です。」
ぼくらは、今日はもう仕事はいいとあと言われて、寝室に戻った。
部屋のドアは外から施錠されたいた。
食事を運んできたのは、たぶん現役バリバリの冒険者で、一言も口をきかずに、トレイを置いて立ち去った。
「軟禁じゃないか、これ!」
「いや、監禁だよ。」
「壁もドアもこのくらい壊せるし、武器も取り上げられた無いから、南京だよ。」
ぼくは、恐ろしく不毛な会話をして夕方まですごした。
夕方、尋ねてきたのは、酒場のマスターだった。
アデルの着替えと。
けっこうマシな賄いを持っていた。
「とりあえず、何が何だかわからん。というのがギルマスの見解だ。」
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