暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

文字の大きさ
36 / 55
魔王になんかなりたくない!

竜の牙は困っている

しおりを挟む
神竜皇妃。
それが后妃だの、公姫だの、アモンを呼ぶ名は、国によって、伝承によって、いくつもある。それだけ、人の世に混じって生活してきた、という証でもある。
煩わしくなって、迷宮に閉じこもってもみたが、伝承は伝わるほどに形を変え、変質し、彼女を崇めるものする現れている。
古竜は「神」ではない。
望んでもいない祈りによって、己が変質するのは真っ平だった。

“ですから、我々はもう、リアモンドさまにおすがりするしかないのです。”

宝珠なかの道化服のオトコは、そう力説した。
おすがりするしかない、と言うわりには偉そうである。
「放っておけばいいだろう。飽きれば帰ってくる。」
それから付け加えたリアモンド。と呼ぶな。いまのわたしは竜人アモンだ。
「わかっております、アモンさま。」
道化のメイクのは、緊張のための脂汗で流れ始めている。
そんなところまで、化けなくてもいいのに。
と、アモンは内心舌打ちした。
「普通なら放っておきます。あの『世界の声』とかいう道化がいなければ、ですね。」

“道化はおまえだろうに”
と、またアモンは心の中で突っ込んだ。、
「あらゆる障壁を突破して、話しかけてきたやつです。内容こそ荒唐無稽ですが、実際に主上は悩まれ、どなたにも相談できずに、出奔された。」
「わたしは、ここでやるべきことがあるのだ。」
アモンは冷たく言った。
「リウのやつが、フィオリナをめぐっての不始末でここを不在にして、もう半年になる。二人ではじめたコアの改良も放ったらかしだ。
いいか、よく、聞けよ。
わたしは忙しいんだっ!竜の牙。」

偉大なる竜王の親衛隊たる『竜の牙』は、宝珠ごしの通信であっても激しく動揺した。
理論上、宝珠越しにはどんな魔力も通じないことは、わかっていたが、目の前の神竜なら、理を越えてそんな事を平気でやってのけそうな気がした。

「わかっております。」
竜らしからぬ冷や汗に塗れながらも、道化の仮面は外さずに、竜の牙リイウーは、平服した。

「こちらに現れたら連絡はとってやる。それ以上の期待はするな。」
「いやいや」
「なあにが、いやいや、だ。」
「わたしどもは、事態の解決こそ、あなたさまにお願いしたいのです。
出奔した主を見つけるなどということは、そのなかのひとつ、単なる些事も、些事。」

ずうずうしい申し出に、アモンは、怒らずにちょっと考え込む様はさまを見せた。

「ふむ・・・その依頼を受けてやってもいい。ただし、わたし個人ではなく、『踊る道化師』として、だ。」


「仲良くなったのは、いいんだがな。」
とぼくは、ぼやいた。
「いや、ほんとに仲良くなったのは、よいことなんだけど。」

ぼくと、アキルとルルベルーナ。どうしたものか、新入生のイゲルとガセル長老もご一緒だ。
めでたく、「丸暗記」という究極のテクニックを駆使し、一般常識に合格したルルベルーナの祝賀会というやつである。
ルルベルーナの仲良しということで、着いてきたので、そのことはいいのだが、ぼくがここの支払いをもつことになりそうなので、やめてほしい。
せめて、ガセル長老。あんたのその恨みがましい目つきだけはなんとかならないんだろうか。

アキルのリクエストで、「神竜の息吹」が新しく出店したスイーツの店に、ぼくらは腰を落ち着けている。
場所は、レストラン「神竜の息吹」の隣で、もっぱら夜の商売の「神竜の息吹」の姉妹店で、繊細な工芸品を思わせる飴細工をつかったスイーツの考案者は、ラウレスの元部下らしい。

会にはもうひとり、神竜騎士団のサオウも参加していた。

アモンを誘ったのだが、このところアひどくアモンは、難しい顔をしている。
こちらはこちらで、悩みがあるらしい。数日間、神竜騎士団本文と、冒険者学校の迷宮を管理するコアの設置場所を行ったり来たりする生活で、授業にも顔を出していない。

ここ最近に起きた一連の出来事。
勇者に対になる存在「魔王」の再臨。
ぼくらを夜道で襲った竜魔法の使い手。
そして、実際にカザリームに現れ、リウたちに戦いを挑んだと言われる「魔王」ドゥルノ・アゴン。

すべて関係のないところで発生しているようであり、だが、関係していないはずがない。

そこにやってきた転校生。ラントン侯爵家の令嬢を名乗るルルベルーナだ。
この一連の出来事に、物語としての関連性をもたせるならば、彼女もまた「魔王」であり、しかも竜魔法をつかって、ぼくらを襲撃した張本人であろう。
ほら、ぜんぶ、繋がった。

そう考えて、ぼくは肩をおとす。むりやりこじつけたって、虚しいだけだ。

いや、実は考えをまとめるために、誰かに話を聞いてほしかってのだが、悪即斬のフィオリナは論外として、ドロシー、ロウもカザリームだ。

「わあっ! みてよ、このお菓子。
魔法でもないのに、空中にマカロンがうかんでるみたい!」
「それはですね、透明に近い飴細工を編んだもので。両側のサークルで固定しているのです。」
「やかましいのう? 魔王子殿。菓子が不味くなるから少し黙らんかのう?」

グランダ王都の東の森に生息する亜人『長寿族』の元族長で、ぼくと旧知の間柄のガゼルは、どうも狩猟民出身の新入生イゼルが、お気に入りで、なんとか自分のものにしたいようだが、話す相手ごとに、口調はおろか、声のトーンまで、変えてると、ドンびかれること間違いない。
・・・
ほら、引かれてる。

「ルルベルーナだって、ずいぶんと、苦労してるみたい。」
と、アキルが横の、純朴そうか田舎娘を振り向いた。
「い、いえ」
ルルベルーナは、俯いた。
「苦労なんてそんな。」

「ランゴバルド冒険者学校には、留学もそうだけど、ほんとは人探しにきた、みたいなの。
彼女の国の需要人物でありながら、突然姿をくらましたひとのことを。」

「それだったら、力になれるかもしれないな。」
ぼくは身を乗り出した。
「ぼくたち・・・ぼくやアキルは、冒険者パーティを作ってるんだ。言っとくけど、腕は悪くない。」

「わたしも、そう提案してみたんだけどね。」
アキルは、フォークの先で飴菓子をさくさくと、くずして下のスポンジと一緒に口に運んだ。
「迷惑をかけたくないっていうんだ。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...