暇を持て余した道化師たちの遊び~邪神と勇者とその他たち

此寺 美津己

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魔王になんかなりたくない!

悪夢の戦い

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女は。
待っている。
既に、時刻は翌日に変わっている。

学校の、あちこちに設けられた闘技場のひとつ。
彼女はそこのベンチのひとつに腰を下ろして、待っていた。
これでは、まるで、恋人との逢瀬を待つようではないか。と、

女は苦笑した。

今夜もルルベルーナは、革製の鎧を身につけている。
先日と違うのは。

女の指が灼熱し、熱線を放った。
わずかな予備動作だったはずだが、ルルベルーナの盾が間に合った。
白銀に輝く盾は、鏡のように、女の熱線を、反射し、数秒ながらそれに耐えた。
溶解しつつある盾をすてて、ルルベルーナは新しい盾を生み出した。
こんどの盾は、さらに強力で、女の熱戦はその表面を焦がすのみ。

これは分が悪い。
女もそれは認めざるを得なかった。
熱戦の放射は、彼女の指をも溶かす。
すぐに再生できるのだが、それでも自分で自分にダメージを与え続け、相手にはなにもダメージを与えていないこの状態は不愉快だった。

ルルベルーナが走ってくる。
盾は彼女を護るように浮遊している。崩壊するまでに、女の指が五本、失われた。
盾は崩壊しても次の瞬間、新しいものが現れる。

強い。
強くなっている。
間違いない。
走る足取りはたどたどしい。抜いた剣は、重そうで、切っ先は地面に引きずっている。構えも何もあったものではない。
だが。

右手のすべての指が同時に火をふいた。
ルルベルーナの盾がくだけた。
その後ろに。
ルルベルーナはいない。
彼女は、跳躍していた。そんなことができる娘ではなかった。

「いやあああああああっ」

そのまま、着地に失敗し。頭から地面に突っ込んで。


果てた。


女は、止めの熱戦をはなとうとして、左手を差し伸べ。ルルベルーナが完全に気を失っているのを確認して、がっかりしたように手を降ろした。
「また、殺しそこねた。」

女は。
疲れたようだった。
「わたしの力が衰えているのか、それともこいつの、力が増しているのか。」それともこいつが強くなっているのか?」

「強さというのは、常に相対的なものじゃよ。」

聞き慣れぬ声に、女は立ち上がった。
「なにものだ! ここは我が世界。だれにも立ち入ることはできぬはず。」

「わしは、銀灰皇国が『悪夢』ミルトエッジという。」

まだ年端も行かぬ少年は、女の頭上に浮かんでいた。

冒険者学校の生徒の制服を着て入るが、まだ、教室にすわって、読み書きをならっている年齢だ。

「なぜ、ここにいるのかと言うと、すこうし、話が長くなる。そのまえに、おまえが何者か教えてくれるかの。
そこに倒れて気を失っているのが、我が主が気にかけているルルベルーナなる新入生だということはわかったのだが。」

「なまえか。」
女は、その質問を面白いと思ったのか、笑いを浮かべた。
「・・・・そうだな、ベベルーナ、とでも名乗っておくか。」

ミルトエッジは、ふわりと、女、ベベルーナの前に着地した。

「次にわしが、なぜここにいるのかというと、それは、我が主の友人からの依頼よ。
おぬしの結界は、『夢』の回廊を使ったのもの。わしら『悪夢』が使う結界とは相性がよくてな。手助けしてやるからもぐりこんでこいと頼まれた。」

「動乱の中で、辺境に逃れた銀灰族のことはききおよんでいる。そして、その長の直属の護衛を『悪夢』と呼ぶことも、な。」
ベベルーナは、興味深そうに、少年を見つめた。
さらさらの髪に、ほんのりバラ色の頬。聖光教の宗教画に描かれる天使のごとき風貌だ。
だが、その表情は、かぎりなく邪悪で、笑みは獰猛な肉食獣に似ていた。
「ということは、銀灰族の族長が、いま、この学校にいるということか、そして、すでにルルベルーナに目をつけている、と。」

ふたりの目の前で、ルルベルーナの体は、一陣の風に、吹き消されるように、消えた。

「いつの時代の話をしている。西域八大列強の一角をつかまえて、銀灰族と。三百年の昔からでもやってきたのか?」
「まあ、否定はしない。」

ベベルーナは、肩をすくめた。

「ルルベルーナを逃したのは、おまえのせいではないが、わたしは少々、腹をたてている。
悪いが、八つ当たりをさせてもらうぞ。」

面白い。
ミルトエッジは、言って、紐を巻き付けた短剣を何本も取り出した。
それは、互いに絡まることもなく、彼のちいさな体の周りを旋回しはじめる。

「夢のなかで試合うことに、どの程度意味があるのかわからんが、受けたとう。
わが技をもって、たおれるが良い、ベベルーナとやら。」

短剣の作り出す、切断の暴風の中に、べベルーナは足を踏み入れた。

そのまま、ミルトエッジの脇を通り抜けた。
攻撃はみえなかったが。

つぎの瞬間。

ミルトエッジの短剣はことごとく折れ、
左腕から、左肩が消失した。まるで、見えない何かに食いちぎられたように。
ミルトエッジ小さな体が、鮮血をふきあげて倒れた。

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