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28、最終決戦はただの舌戦
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仄暗い世界が、一行を迎えた。
ルトは、黒いシャツに黒いスラックス。傍らの不安そうなドロシーをなだめるように、頭をポンと叩いた。
ラウレスと、二フフはそれでも戦闘態勢。
身体の周りに、力場を展開させて、いつでもブレスを放てるよう準備をしている。
呆然としているのは、『紅玉の瞳』を除くロゼル一族の面々だった。
実際・・・この異空間に招かれたことのあるのは、一族でも長の『紅玉の瞳』とエミリアのみ。
戦うことを生業としているものなら、少なくとも現代では魔術の心得のないものは、皆無であるだけに、ここに問答無用で彼らを拉致した、魔力の膨大さを想像し、それだけで戦意を失っているのかもしれない。
ぼんやりと、明かりが灯る。
そこは集会場に使われるような小部屋。
天井近くに小さな明り取りの窓があり、そこから光が差し込んでいた。
壇上にひとりの男の姿があった。
ルトやラウレス、『紅玉の瞳』にはおなじみの姿。
深淵竜ゾール、である。
「ラウレス・・・・おまえには失望した。」
ゾールが言った。死刑を宣告するときの裁判官の声だった。
「わたしがっ!?」
ラウレスは、驚いたようだったが、それはそうだろう、とルトは思った。
「おまえにこの前会ったときに、我は命じたはずだ。にランゴバルド冒険者学校に入り込んで、真祖吸血鬼リンドを名乗るものの正体を見極めよ、と。」
「・・・・・」
「人にまじり生活しているおまえの立場ならば、容易な任務のはず。なにもしないまま日を重ね、こうして、竜の鱗が我が手にそろう日までに、不確定の要素を残してしまった。
・・・駄竜だな。評判どおりの。」
「あ、ごめん。それ聞いたのはぼくです。」
ルトはさっと手をあげた。ラウレスが駄竜なのは、賛成だったが、いわれのない罪をきせられるのはかわいそうだと思ったからだ。
「黒蜥蜴のコスチュームを借りて、ビラ巻きをしてたときに、この空間に呼び込まれて、あなたからそんなことを言われました。
・・・でも、ぼく、あなたの命令に従う義理はないですよね。」
ゾールは、黙った。
「それとも、黒蜥蜴のコスチュームをしていると誰でもラウレスに見えてしまう幻覚症状でも?」
「・・・ラウレス。このモノは?」
「冒険者学校の生徒のルトです。」
「こんな冒険者学校の生徒がいるかっ!」
ルトを除いた一同は、思った。そりゃそうだ。
「つまらない騒ぎを起こしてくれたもんです。」
ルトは、壇上のゾールを見上げた。
口元には相変わらず、穏やかな笑みが浮かんでいる。
だが、少しはルトと付き合いのあるドロシーとラウレスは思った。
ああ、これは怒ってる。
「おかげで、ドロシーはひどい目にあった。エミリアだってとばっちりを食ったようなもんだし、あなたが余計なことをしなければ、二フフも犯罪に手をそめずにすんだ。
つまり」
「ニンゲン風情がっ!」
「やかましい! 育ち過ぎの蜥蜴が!」
レベル最低の口喧嘩だったが、ダメージはゾールのほうが、大きかった。顔色をかえて黙り込む。
ラウレスは思った。
ルトの口調が。竜を蜥蜴を侮蔑するときの口調が、発音が、微妙なイントネーションが、顔の表情が。
どこか、上位の竜が未熟な個体を叱責するときのそれに似ているのだ。
人間のルトがそんなことができるわけがないし、誰かのそれを真似たのだろうか。
たとえば、どこかの古竜とか。
この少年はまとも、ではない。それでも古竜など、めったに目にすることなどそもそもないはずなのだが、しかも人化した状態の。そんな知り合いでもいるのだろうか・・・
あ。
あ。
あ。
冒険者学校の試験の日。
いたのだ。その場に。
『神竜の鱗』?
世界に五枚しかない宝。
いやいやいや。そんなものなんの価値がある。
「ぞ、ゾール! まずい。お主がなにをたくらんだのかわからないが、すぐに洗いざらい話して、詫びろっ!
もし、話の内容が面白ければ、助かる可能性はあるっ!」
その瞬間ラウレスの喉が裂けた。
見えない刃に裂かれたように。
展開していた防御力場も竜鱗もまったく効果がなかった。
倒れ込むラウレスをルトが支えてくれた。
治癒魔法の明滅。
最期に血をはいて、ラウレスは、呼吸が回復するのを感じとった。
「ゾール。あなたが敵対したいのなら、ちょっとしたゲームをしませんか?」
ラウレスは、ルトを見た。ああ、またあの怖い笑いを浮かべている。
やめろ、やめておけ。ゾール。
こいつのパーティは、神獣ギムリウスに真祖吸血鬼ロウ=リンド、それにリ・・・いやアモンさまなんだぞ。
声がでなかった。
まさか! 声だけだせないように治癒魔法を調整した??
「なにを企むかわからぬが、乗ってもよい。なにを賭ける?」
「もちろん、五枚目の神竜の鱗。」
ルトは手に『神竜の鱗』を取り出した。
ルトは、黒いシャツに黒いスラックス。傍らの不安そうなドロシーをなだめるように、頭をポンと叩いた。
ラウレスと、二フフはそれでも戦闘態勢。
身体の周りに、力場を展開させて、いつでもブレスを放てるよう準備をしている。
呆然としているのは、『紅玉の瞳』を除くロゼル一族の面々だった。
実際・・・この異空間に招かれたことのあるのは、一族でも長の『紅玉の瞳』とエミリアのみ。
戦うことを生業としているものなら、少なくとも現代では魔術の心得のないものは、皆無であるだけに、ここに問答無用で彼らを拉致した、魔力の膨大さを想像し、それだけで戦意を失っているのかもしれない。
ぼんやりと、明かりが灯る。
そこは集会場に使われるような小部屋。
天井近くに小さな明り取りの窓があり、そこから光が差し込んでいた。
壇上にひとりの男の姿があった。
ルトやラウレス、『紅玉の瞳』にはおなじみの姿。
深淵竜ゾール、である。
「ラウレス・・・・おまえには失望した。」
ゾールが言った。死刑を宣告するときの裁判官の声だった。
「わたしがっ!?」
ラウレスは、驚いたようだったが、それはそうだろう、とルトは思った。
「おまえにこの前会ったときに、我は命じたはずだ。にランゴバルド冒険者学校に入り込んで、真祖吸血鬼リンドを名乗るものの正体を見極めよ、と。」
「・・・・・」
「人にまじり生活しているおまえの立場ならば、容易な任務のはず。なにもしないまま日を重ね、こうして、竜の鱗が我が手にそろう日までに、不確定の要素を残してしまった。
・・・駄竜だな。評判どおりの。」
「あ、ごめん。それ聞いたのはぼくです。」
ルトはさっと手をあげた。ラウレスが駄竜なのは、賛成だったが、いわれのない罪をきせられるのはかわいそうだと思ったからだ。
「黒蜥蜴のコスチュームを借りて、ビラ巻きをしてたときに、この空間に呼び込まれて、あなたからそんなことを言われました。
・・・でも、ぼく、あなたの命令に従う義理はないですよね。」
ゾールは、黙った。
「それとも、黒蜥蜴のコスチュームをしていると誰でもラウレスに見えてしまう幻覚症状でも?」
「・・・ラウレス。このモノは?」
「冒険者学校の生徒のルトです。」
「こんな冒険者学校の生徒がいるかっ!」
ルトを除いた一同は、思った。そりゃそうだ。
「つまらない騒ぎを起こしてくれたもんです。」
ルトは、壇上のゾールを見上げた。
口元には相変わらず、穏やかな笑みが浮かんでいる。
だが、少しはルトと付き合いのあるドロシーとラウレスは思った。
ああ、これは怒ってる。
「おかげで、ドロシーはひどい目にあった。エミリアだってとばっちりを食ったようなもんだし、あなたが余計なことをしなければ、二フフも犯罪に手をそめずにすんだ。
つまり」
「ニンゲン風情がっ!」
「やかましい! 育ち過ぎの蜥蜴が!」
レベル最低の口喧嘩だったが、ダメージはゾールのほうが、大きかった。顔色をかえて黙り込む。
ラウレスは思った。
ルトの口調が。竜を蜥蜴を侮蔑するときの口調が、発音が、微妙なイントネーションが、顔の表情が。
どこか、上位の竜が未熟な個体を叱責するときのそれに似ているのだ。
人間のルトがそんなことができるわけがないし、誰かのそれを真似たのだろうか。
たとえば、どこかの古竜とか。
この少年はまとも、ではない。それでも古竜など、めったに目にすることなどそもそもないはずなのだが、しかも人化した状態の。そんな知り合いでもいるのだろうか・・・
あ。
あ。
あ。
冒険者学校の試験の日。
いたのだ。その場に。
『神竜の鱗』?
世界に五枚しかない宝。
いやいやいや。そんなものなんの価値がある。
「ぞ、ゾール! まずい。お主がなにをたくらんだのかわからないが、すぐに洗いざらい話して、詫びろっ!
もし、話の内容が面白ければ、助かる可能性はあるっ!」
その瞬間ラウレスの喉が裂けた。
見えない刃に裂かれたように。
展開していた防御力場も竜鱗もまったく効果がなかった。
倒れ込むラウレスをルトが支えてくれた。
治癒魔法の明滅。
最期に血をはいて、ラウレスは、呼吸が回復するのを感じとった。
「ゾール。あなたが敵対したいのなら、ちょっとしたゲームをしませんか?」
ラウレスは、ルトを見た。ああ、またあの怖い笑いを浮かべている。
やめろ、やめておけ。ゾール。
こいつのパーティは、神獣ギムリウスに真祖吸血鬼ロウ=リンド、それにリ・・・いやアモンさまなんだぞ。
声がでなかった。
まさか! 声だけだせないように治癒魔法を調整した??
「なにを企むかわからぬが、乗ってもよい。なにを賭ける?」
「もちろん、五枚目の神竜の鱗。」
ルトは手に『神竜の鱗』を取り出した。
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