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第55話 公爵家令嬢の母の帰還
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私的な諮問として集められた列席者ではあるが、いずれも高位貴族。
あまりの無礼に、王自らが立ち上がったが。
背後からは、何者かを懸命に押し留めようとする衛兵の声。
怒鳴り声。
高らかに笑うのは女の声か。
クローディアとフィオリナが顔を見合わせる。
常に穏やかな表情を崩さないクリュークの顔色が目に見えて青くなった。
「な、な、なにもの!!」
ブラウ公爵が叫んだ。
もともと甲高い声が、ガラスを軋る音になっている。
「なぜ、あやつがここに・・・・」
クリュークが呻いた。
「わたしが呼んだのです、クリューク殿」
クローディアがすまなそうに言った。
「わたしの知己の中で最高の冒険者が彼女でしたので。」
「しかし・・・・」
「よおっ!ひさしいな!」
豪快に笑い、豪快に歩き、しがみつく衛兵を豪快に投げ飛ばす。
燃えるような朱色い髪の女偉丈夫は、大声でクリュークに向かって叫んだ。
「前にあったときは、上半身と下半身が別々の方向に這いずっていたようだったが、見事に巡り合ってひとつになれたようだな!
実にけっこう!」
「ぼ、ぼ、ぼうけんしゃ・・・なのか?」
王は、すっかり気圧されたように縮こまった。
かえって、王妃のほうが堂々としていたかもしれない。
「王の前である。せめて礼を尽くされよ、冒険者殿。」
「西域では、大斧豪の異名をもつ冒険者です。」
クリュークが、言った。
「それにしてもあまりにも無礼であろう・・・」
よおっ、と言いながら女は王妃にむかって手を上げた。
「いつから、王妃様におさまっている?
あまり似合わんぞ、その椅子は。」
「衛兵!!
この無礼者を・・・・」
ブラウ公爵が叫ぶのを、クリュークが制した。
「ブラウ閣下、彼女は敵ではありません。
たしかに王の前で一介の冒険者がとるべき態度ではありませんが、彼女は、中原ではシルマリル侯爵の称号を持つ身です。
兵を集めて討ち取れば、外交問題となります。」
「ついでに申し上げると、非公式ながら私の妻でもあります。」
クローディアが口をはさみ、クリュークの顔色がいっそう白くなった。
「フィオリナにとっては、母でもあります。
ご無礼の段、お赦しを。
いっしょに連れてきたもらった人物とともに『魔王宮』の攻略には欠かせぬ人物です。」
腰に手をあてて、アウデリアは会議室を見回した。
薄い布切れ一枚の上着では、その筋肉を隠しきれない。
その影からひょいと、少年が姿を表した。
こちらは、フィオリナと同じくらいの年齢で、整った顔立ちに金の髪をバンダナでまとめている。
「や、グランダ国のみなさん。初めてお目にかかる。
聖光教会を代表して挨拶させてもらうよ。
ぼくは、クロノ。
当代の勇者ってことになってる。」
騒然となった会議室をよそに、クローディアは、アウデリアと、次にクロノとがっちりと手を握りあった。
「半年ぶりだぞ、我が君よ。」
「おまえから言うか? 西域での冒険者稼業がよほど面白かったと見える。
たまには、クローディア公爵家の妻女らしきこともせい。
それなりのメンバーを連れてきてくれるとは思っていたが、勇者自らとはさすがに思わなかったぞ。」
「はじめまして、クローディア公爵。勇者クロノです。」
クロノ自身は、アウデリアに夫がいたことにショックを受けていたが、それを表に現すことはなかった。
アウデリアがうれしそうに言った。
「教会認定の儀礼用の勇者ではなくて、本物の生まれ変わりだぞ。
ここ一月ばかり、稽古をつけてやっていたが、さすがに筋がいい。
ハルトやフィオリナのいい遊び相手になりそうだ。
それはそうとハルトはどうした?」
「行方不明だ。」
クローディアは憮然として応えた。
「王室の影の力も借りて、行方を探しているが、まだ見つかっていない。」
「ふん、なら、魔王宮のなかだろうね。」
アウデリアはそれが当然、と言わんばかりの口調だった。
「魔王宮の攻略が目標なら、街なかでもたもたしている筋合いはない。」
「・・・・冒険者アウデリア殿。
シルマリル侯とお呼びしたほうがよいか?」
王が恐る恐る声をかける。
「グランダ陛下。」
意外にもアウデリアは、作法にかなった一礼をした。いや本当はだいぶ省力されたものだったのだが、今までが今までだけに、とりあえず、みなの混乱をおさめる効果は充分にあった。
「どうか、アウデリアと呼んでいただければ。
此度は、外交目的でも家族の団らんのためでもなく、ひとえに魔王宮攻略のため、馳せ参じた身なれば。」
「ならば、アウデリア殿。
勇者を連れての来訪を心より歓迎する。
クリュークならびにボルテック。
勇者クロノ殿、アウデリア殿を含めた迷宮への攻略を練り直してほしい。」
「それには及びません、グランダ王。」
クロノは飄々と言った。
「ぼくとアウデリアは、独自にパーティを結成し、自由に潜らせてもらいます。
二人でもよいし、場合によっては追加のメンバーを募集させてもらうかもしれませんが、そこも含めて、干渉は無用です。」
言い方はともかく。
要は、
好きにさせろ、指図はうけない。
と、言っている。
「勇者殿」
クリュークがやや声を険しくしていった。
「『魔王宮』はグランダの管理下にあります。迷宮への侵入も含めて、グランダの意向もある程度はきいていただきたい。」
「それは、魔王宮の封鎖に対する決定を尊重するもので、魔王宮が開かれたのならば、それをどうするかは、勇者の意思が最優先される。」
クロノは楽しげに言う。
「ぼくに指図をしようとするあなたは誰かな?
どうも西域で悪名高い銀級冒険者“燭乱天使”のクリュークさんに似ているけど。」
「いかにも、クリュークです。
ですが、私は現在、グランダのギルドグランドマスターを務め、迷宮攻略の指揮を任命されております。また、王位継承者たるエルマート殿下のパーティ『栄光の盾』のメンバーとして自らも攻略に・・・・」
じっとりと湿った沈黙が、場を支配した。
アウデリアは口が裂けそうなほど楽しげなニヤニヤ笑いを浮かべていたし、フィオリナは、なるほど一見似てはいないけれど、さすがに親子なのだと改めて、まわりが思ったほどうれしそうだったし。
クローディアはちょっと気の毒そうな顔で、クリュークや王、エルマートを眺めている。
「なるほど」
短くも濃い沈黙を破ったのは、クロノだった。
「『栄光の盾』は、ぼ、く、のパーティの名前だったと思ったんだけど、もう使われてしまったんだ。
では、アウデリア、ぼくらはなんと名乗ろう?」
「『愚者の盾』でいいのでは、ないか?」
アウデリアは、たくましい肩をすくめてみせた。
「グランダのために西域から三日三夜で駆けつけた愚か者にはふさわしい。」
「そうだな、我々は今日から『愚者の盾』だ。この名前でギルドに登録を頼む。
このくらいの融通はきくかな? グランドマスター。」
「そ、それは・・・・それはあまりにも・・・」
クリュークは、下を向いた。
このような事態はさすがに彼も想定してはいなかった。
フィオリナの母が、クローディア公爵の正式な妻ではなく、冒険者であり、領地にさっぱり寄り付こうとはせず、旅から旅の生活を送っていること。
そこらは把握していたが、まさかその母親が『大斧豪』アウデリアであったこと。
そのアウデリアが、こともあろうに勇者を引き連れてグランダにやってくること。
そんなことは誰が想像しただろう。
彼の使役する神には、知識と情報を司ると言われるモンダナも含まれてはいたが、さすがに彼が聞きもしないことに解答を与えてくれるようなサービスは契約してはいなかった。
「では、こちらからは以上です。」
クロノの身体がぐらりと揺れたのを、アウデリアが抱きとめた。
「ゆ、勇者どの!」
「ご心配なく。」
アウデリアは一同を軽くいなした。
「ただの睡眠不足です。
一晩、ゆっくり休ませれば回復します。
ロザリアから走っていくるにはさすがに睡眠時間をとるわけにはいかなかったので。」
え?
ロザリアは西域最北端。
そこからグランダは、街道を北上して二十日の旅となる・・・・が?
「我が君!宿を頼めるか?
なんなら馬小屋のはしか、護衛兵の当直室でもかまわんが?」
「フィオリナの母親と勇者にそんなことをできるかどうか考えろ!」
一喝して、クローディアは王に向かって優雅に一礼した。
「まずは遠路駆けつけてくれた勇者を休ませたいと存じます。
本日はこれにて。
次回の攻略は、娘の回復を待って行う所存です。」
もはや、アウデリアを止められるものはいないかに思われたが、このとき王妃が唐突に立ち上がった。
「アウデリア殿」
呼びかけた声は氷河のよう。
大人しく、社交嫌いで、人前に出ることを好まなかったブラウ公爵の姪ではなく、まるで年を経た魔女のことばのように聞こえた。
と、その場に居合わせたものはのちに語った。
「そなたが、何をしようが、何を図ろうが、何者であろうが。
エルマートは王位に付くのです。
誰かが無理強いしたのではない。正当な、正統な道筋をもって王となるのです。
それを阻むものは、何者であっても容赦はいたしません。」
「わかってるさ、\\\@@\@\@:@@^@;:::」
それはいかなる言語であったのか。
人間には発音ができぬはずのその音の羅列は、列席者たちの耳を裂くようで、実際に何人かが耐えきれず嘔吐した。
「32kksla;sas;ds@ddds;sassasasvd;v;;vd:x:s」
「dl;@@f:;gg:g:h:gh:t:ht:h:tg:f:f::df:df」
「05^^\\3@rd[d]」fd]]d]d]fdd]d]]」
「上古の圧縮言語かいっ!」
ボルテックが叫んだ。
二人の怪女はピタリと会話(それが会話だとしたのなら)を止め、ボルテックを見やった。
両者の目は、同じことを物語っていた。
“やれやれ、これが分かるものがいるのかい。じゃあ、これ以上話はできないな。”
「いずれ、ゆっくり話す機会もあろうさ、王妃様。」
アウデリアは不敵に笑った。
王妃も笑った。
一同は、息をのんだ。
それは、まぎれもなく強者の笑いだった。
アウデリアは、少なくとも勇者と親しいほどの熟練の冒険者で、クリュークの慌てぶりから見てもそれはそれは強いのであろう。
そのアウデリアと、王妃が対等・・・なわけが。
「こ、これはっ」
もっとも混乱しているのは、彼女の縁故でのし上がったブラウ公爵である。
慌てふためいて、話そうとする彼をまったく無視して王妃は、ゆったりと頬杖をついて、アウデリアを睨む。
「忠告はした。なにがあっても恨むなよ、斧神の。」
「・・・・そんなことでいちいち恨みはせぬよ、闇森の。」
斧神とは伝説の英雄神アクロデリアのことなのか?
闇森の、と呼ばれて人々が思いつくのは、闇森の番人と呼ばれた魔女ザザリしかいない。
問いただす間もなく、クローディア公爵一行は会場をあとにする。
引き止める?
そんな胆力だれが。
あまりの無礼に、王自らが立ち上がったが。
背後からは、何者かを懸命に押し留めようとする衛兵の声。
怒鳴り声。
高らかに笑うのは女の声か。
クローディアとフィオリナが顔を見合わせる。
常に穏やかな表情を崩さないクリュークの顔色が目に見えて青くなった。
「な、な、なにもの!!」
ブラウ公爵が叫んだ。
もともと甲高い声が、ガラスを軋る音になっている。
「なぜ、あやつがここに・・・・」
クリュークが呻いた。
「わたしが呼んだのです、クリューク殿」
クローディアがすまなそうに言った。
「わたしの知己の中で最高の冒険者が彼女でしたので。」
「しかし・・・・」
「よおっ!ひさしいな!」
豪快に笑い、豪快に歩き、しがみつく衛兵を豪快に投げ飛ばす。
燃えるような朱色い髪の女偉丈夫は、大声でクリュークに向かって叫んだ。
「前にあったときは、上半身と下半身が別々の方向に這いずっていたようだったが、見事に巡り合ってひとつになれたようだな!
実にけっこう!」
「ぼ、ぼ、ぼうけんしゃ・・・なのか?」
王は、すっかり気圧されたように縮こまった。
かえって、王妃のほうが堂々としていたかもしれない。
「王の前である。せめて礼を尽くされよ、冒険者殿。」
「西域では、大斧豪の異名をもつ冒険者です。」
クリュークが、言った。
「それにしてもあまりにも無礼であろう・・・」
よおっ、と言いながら女は王妃にむかって手を上げた。
「いつから、王妃様におさまっている?
あまり似合わんぞ、その椅子は。」
「衛兵!!
この無礼者を・・・・」
ブラウ公爵が叫ぶのを、クリュークが制した。
「ブラウ閣下、彼女は敵ではありません。
たしかに王の前で一介の冒険者がとるべき態度ではありませんが、彼女は、中原ではシルマリル侯爵の称号を持つ身です。
兵を集めて討ち取れば、外交問題となります。」
「ついでに申し上げると、非公式ながら私の妻でもあります。」
クローディアが口をはさみ、クリュークの顔色がいっそう白くなった。
「フィオリナにとっては、母でもあります。
ご無礼の段、お赦しを。
いっしょに連れてきたもらった人物とともに『魔王宮』の攻略には欠かせぬ人物です。」
腰に手をあてて、アウデリアは会議室を見回した。
薄い布切れ一枚の上着では、その筋肉を隠しきれない。
その影からひょいと、少年が姿を表した。
こちらは、フィオリナと同じくらいの年齢で、整った顔立ちに金の髪をバンダナでまとめている。
「や、グランダ国のみなさん。初めてお目にかかる。
聖光教会を代表して挨拶させてもらうよ。
ぼくは、クロノ。
当代の勇者ってことになってる。」
騒然となった会議室をよそに、クローディアは、アウデリアと、次にクロノとがっちりと手を握りあった。
「半年ぶりだぞ、我が君よ。」
「おまえから言うか? 西域での冒険者稼業がよほど面白かったと見える。
たまには、クローディア公爵家の妻女らしきこともせい。
それなりのメンバーを連れてきてくれるとは思っていたが、勇者自らとはさすがに思わなかったぞ。」
「はじめまして、クローディア公爵。勇者クロノです。」
クロノ自身は、アウデリアに夫がいたことにショックを受けていたが、それを表に現すことはなかった。
アウデリアがうれしそうに言った。
「教会認定の儀礼用の勇者ではなくて、本物の生まれ変わりだぞ。
ここ一月ばかり、稽古をつけてやっていたが、さすがに筋がいい。
ハルトやフィオリナのいい遊び相手になりそうだ。
それはそうとハルトはどうした?」
「行方不明だ。」
クローディアは憮然として応えた。
「王室の影の力も借りて、行方を探しているが、まだ見つかっていない。」
「ふん、なら、魔王宮のなかだろうね。」
アウデリアはそれが当然、と言わんばかりの口調だった。
「魔王宮の攻略が目標なら、街なかでもたもたしている筋合いはない。」
「・・・・冒険者アウデリア殿。
シルマリル侯とお呼びしたほうがよいか?」
王が恐る恐る声をかける。
「グランダ陛下。」
意外にもアウデリアは、作法にかなった一礼をした。いや本当はだいぶ省力されたものだったのだが、今までが今までだけに、とりあえず、みなの混乱をおさめる効果は充分にあった。
「どうか、アウデリアと呼んでいただければ。
此度は、外交目的でも家族の団らんのためでもなく、ひとえに魔王宮攻略のため、馳せ参じた身なれば。」
「ならば、アウデリア殿。
勇者を連れての来訪を心より歓迎する。
クリュークならびにボルテック。
勇者クロノ殿、アウデリア殿を含めた迷宮への攻略を練り直してほしい。」
「それには及びません、グランダ王。」
クロノは飄々と言った。
「ぼくとアウデリアは、独自にパーティを結成し、自由に潜らせてもらいます。
二人でもよいし、場合によっては追加のメンバーを募集させてもらうかもしれませんが、そこも含めて、干渉は無用です。」
言い方はともかく。
要は、
好きにさせろ、指図はうけない。
と、言っている。
「勇者殿」
クリュークがやや声を険しくしていった。
「『魔王宮』はグランダの管理下にあります。迷宮への侵入も含めて、グランダの意向もある程度はきいていただきたい。」
「それは、魔王宮の封鎖に対する決定を尊重するもので、魔王宮が開かれたのならば、それをどうするかは、勇者の意思が最優先される。」
クロノは楽しげに言う。
「ぼくに指図をしようとするあなたは誰かな?
どうも西域で悪名高い銀級冒険者“燭乱天使”のクリュークさんに似ているけど。」
「いかにも、クリュークです。
ですが、私は現在、グランダのギルドグランドマスターを務め、迷宮攻略の指揮を任命されております。また、王位継承者たるエルマート殿下のパーティ『栄光の盾』のメンバーとして自らも攻略に・・・・」
じっとりと湿った沈黙が、場を支配した。
アウデリアは口が裂けそうなほど楽しげなニヤニヤ笑いを浮かべていたし、フィオリナは、なるほど一見似てはいないけれど、さすがに親子なのだと改めて、まわりが思ったほどうれしそうだったし。
クローディアはちょっと気の毒そうな顔で、クリュークや王、エルマートを眺めている。
「なるほど」
短くも濃い沈黙を破ったのは、クロノだった。
「『栄光の盾』は、ぼ、く、のパーティの名前だったと思ったんだけど、もう使われてしまったんだ。
では、アウデリア、ぼくらはなんと名乗ろう?」
「『愚者の盾』でいいのでは、ないか?」
アウデリアは、たくましい肩をすくめてみせた。
「グランダのために西域から三日三夜で駆けつけた愚か者にはふさわしい。」
「そうだな、我々は今日から『愚者の盾』だ。この名前でギルドに登録を頼む。
このくらいの融通はきくかな? グランドマスター。」
「そ、それは・・・・それはあまりにも・・・」
クリュークは、下を向いた。
このような事態はさすがに彼も想定してはいなかった。
フィオリナの母が、クローディア公爵の正式な妻ではなく、冒険者であり、領地にさっぱり寄り付こうとはせず、旅から旅の生活を送っていること。
そこらは把握していたが、まさかその母親が『大斧豪』アウデリアであったこと。
そのアウデリアが、こともあろうに勇者を引き連れてグランダにやってくること。
そんなことは誰が想像しただろう。
彼の使役する神には、知識と情報を司ると言われるモンダナも含まれてはいたが、さすがに彼が聞きもしないことに解答を与えてくれるようなサービスは契約してはいなかった。
「では、こちらからは以上です。」
クロノの身体がぐらりと揺れたのを、アウデリアが抱きとめた。
「ゆ、勇者どの!」
「ご心配なく。」
アウデリアは一同を軽くいなした。
「ただの睡眠不足です。
一晩、ゆっくり休ませれば回復します。
ロザリアから走っていくるにはさすがに睡眠時間をとるわけにはいかなかったので。」
え?
ロザリアは西域最北端。
そこからグランダは、街道を北上して二十日の旅となる・・・・が?
「我が君!宿を頼めるか?
なんなら馬小屋のはしか、護衛兵の当直室でもかまわんが?」
「フィオリナの母親と勇者にそんなことをできるかどうか考えろ!」
一喝して、クローディアは王に向かって優雅に一礼した。
「まずは遠路駆けつけてくれた勇者を休ませたいと存じます。
本日はこれにて。
次回の攻略は、娘の回復を待って行う所存です。」
もはや、アウデリアを止められるものはいないかに思われたが、このとき王妃が唐突に立ち上がった。
「アウデリア殿」
呼びかけた声は氷河のよう。
大人しく、社交嫌いで、人前に出ることを好まなかったブラウ公爵の姪ではなく、まるで年を経た魔女のことばのように聞こえた。
と、その場に居合わせたものはのちに語った。
「そなたが、何をしようが、何を図ろうが、何者であろうが。
エルマートは王位に付くのです。
誰かが無理強いしたのではない。正当な、正統な道筋をもって王となるのです。
それを阻むものは、何者であっても容赦はいたしません。」
「わかってるさ、\\\@@\@\@:@@^@;:::」
それはいかなる言語であったのか。
人間には発音ができぬはずのその音の羅列は、列席者たちの耳を裂くようで、実際に何人かが耐えきれず嘔吐した。
「32kksla;sas;ds@ddds;sassasasvd;v;;vd:x:s」
「dl;@@f:;gg:g:h:gh:t:ht:h:tg:f:f::df:df」
「05^^\\3@rd[d]」fd]]d]d]fdd]d]]」
「上古の圧縮言語かいっ!」
ボルテックが叫んだ。
二人の怪女はピタリと会話(それが会話だとしたのなら)を止め、ボルテックを見やった。
両者の目は、同じことを物語っていた。
“やれやれ、これが分かるものがいるのかい。じゃあ、これ以上話はできないな。”
「いずれ、ゆっくり話す機会もあろうさ、王妃様。」
アウデリアは不敵に笑った。
王妃も笑った。
一同は、息をのんだ。
それは、まぎれもなく強者の笑いだった。
アウデリアは、少なくとも勇者と親しいほどの熟練の冒険者で、クリュークの慌てぶりから見てもそれはそれは強いのであろう。
そのアウデリアと、王妃が対等・・・なわけが。
「こ、これはっ」
もっとも混乱しているのは、彼女の縁故でのし上がったブラウ公爵である。
慌てふためいて、話そうとする彼をまったく無視して王妃は、ゆったりと頬杖をついて、アウデリアを睨む。
「忠告はした。なにがあっても恨むなよ、斧神の。」
「・・・・そんなことでいちいち恨みはせぬよ、闇森の。」
斧神とは伝説の英雄神アクロデリアのことなのか?
闇森の、と呼ばれて人々が思いつくのは、闇森の番人と呼ばれた魔女ザザリしかいない。
問いただす間もなく、クローディア公爵一行は会場をあとにする。
引き止める?
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