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魔道院始末
折れる魔剣
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ジャイロは、魔道院の副学院長だ。
そんな役職はないが、運営委員会の中でも最古株のジャイロは、周りからもそうよばれ、自分でもそれを否定してはいない。年功のせいかお給料は、同僚よりちょびっといい。
ほぼ、ボルテック卿の独裁であったのに対し、細かいことはまかせた式のウィルニアのもとでは、以前よりその権限は拡大しているといっていい。
権限が拡大しているということは、同時に責任も多くなる、ということであり。
冒険者を「あがって」あとの人生は平穏無事に暮らしたいだけのジャイロには、これは迷惑なことではあったが、だからといって責任を回避して右往左往するのは、最悪の結果となるということを、主に冒険者人生を通じて学んでいたのだ。
「また『魔剣研究会』か。」
ジャイロは、シライシという教諭を見つめた。
ボルテックの退職後に採用された若い教師だった。真面目で(融通がきかず)熱心で(野心家で)正義感にあふれた(独善的で言うことをきかない)彼は、とにかく学院の内外でトラブルが多い「魔剣研究会」を目の敵にし、これをつぶそうとやっきになっていた。
「ザジがミトラに留学が決まっているヤンを、暴行しようとしました。」
ボルテックならば生徒同士の争いなど、ほっておけと言っただろう。もともと、「魔法」という牙を磨きに、入学した者たちだ。いじめたのいじめられたの、そんなものはほっておけ。
所詮、魔道の世界も弱肉強食だ、と。
もちろん、放っておくわけにはいかない。
性格的に、あるいは根っからの学術肌で、戦いに向かないものもいる。そんな連中を例えば、それこそ、「魔剣研究会」などの好きにさせておいては、ゆっくり育成することもできない。
なので、ボルテックがなんと言おうが、ジャイロは、そういったことには必ず、介入し、戦闘面で弱いものを庇護する立場をとっていた。
「ザジは、直ちに拘束する。ヤンの傷の程度によらず、一月の拘束刑だ。」
ジャイロはそう命じたが、シライシは動かない。妙な顔をして、ジャイロを見ていた。
どうした?
負傷が意外に重いのか?
まさか留学に支障をきたすような重症なのか?
「ザジの負傷は治癒促進をおこなっても一ヶ月はかかります。一ヶ月の拘束では処罰にならないと思います。」
聞き間違えかと思って、ジャイロは三度、聞き直した。
ヤンが。
ザジを。
徹底的に痛めつけて、そのやり過ぎのあげく、ザジが入院することになった。
「何があった。」
ジャイロは、立ち上がって、叫んでいた。
ヤンは、本当に魔法理論の構築、つまり座業だけの人間だった。攻撃魔法は皆無に等しく、積極的に戦う気など、保存用の缶詰にも劣った。
確かに、ミトラに留学が決まってからは、そのあまりの治安の悪さに恐れをなして、護身術の一つも覚えようかと、相談されたことはあった。
その時ジャイロはそれを一笑したのだ。
生兵法など、かえって怪我の元だ。とにかく危ないところには近づかなければそれでいいだろう。
「わかりません。」
「具体的に何がどうなって、ザジは入院したのだ?」
「失神したザジを、ヤンが氷で固めた拳で執拗に殴り続けたからです。」
シライシは、なんとも言えない顔をしていた。
彼にとっては、ヤンが負傷して、ザジを退学にできるのが、理想のプランだったのだろう。
「喧嘩慣れしていないために、やりすぎてしまったのかと思われます。
これについては、ザジから仕掛けた闘争であったこと、ザジが前もって帯剣していたことを持って不問にするつもりです。」
その判断はいい。
グランダ魔道院が、送り出す留学生が、直近になって暴行事件で、留学できなくなった、はありえないからだ。
「ザジは、かなり使えるぞ。」
元冒険者のジャイロは、そこらを多少は見る目があった。
「一体、ヤンはどうやって、ジャイロを失神させたのだ?
いや待て、氷の拳で殴りつけたとかいっていたな。」
それは、かのランゴバルド冒険者学校との対抗戦で、銀雷の魔女が使っていた戦法。
銀雷の魔女の師匠は・・・・
「ジウル・ボルテックか!」
ジャイロは叫んだ。
「魔法拳法研究会か!」
実際のところ、ジャイロは、ジウルとシホウを食客のつもりで置いていた。
義理も恩もある相手である。非常勤の講師二人分くらいの給与は彼の権限でなんとでもなった。
ジウルは、自らの拳を磨くために、シホウとともに修行がしたかったのだ。そのために、寝泊まりと飲み食いができる場所を探していた・・・・
その結果、彼のいう魔法と拳法の融合に何か体系だった糸口でも見えれば、正式に講師として雇い、講座を持たせる。
そんな腹積りであった。
まさか、本当に「魔法拳法研究会」に部員を勧誘し、鍛えるとは真面目に思っていなかったのである。
シライシも直接、見たわけではなかったが、それはこんな風だったらしい。
向かい合った、両者。
剣を抜いて構えるザジ。
彼の魔剣は、雷撃の 追加効果を与えるものだった。
対して、ヤンは、氷の塊を作り出して、幾つもそれを空に浮かべた。
ザジは、せせら笑って、その一つを剣で、消滅させた。
「こんなものを幾つ投げつけても、意味ねえさ。」
ザジはそう言って剣を、顔の前に構えた。青白い電流が剣を走った。
やばい!
本当に殺る気だ!
誰かが叫んだ。
ヤンはさらにいくつかのキラキラと白く輝く氷を作り出す。
「無駄だ、無駄無駄無駄無駄!」
ザジは、笑った。氷の移動速度はあまりにもゆっくりで、それはザジの剣が触れただけで、消滅してしまうほど柔いもの。
「一撃で」
次の瞬間。
ザジの姿が消えたように、周りのものには思えたという。それほどの踏み込みだった。
そして。
ザジは、白い氷球の間に置かれた透明で硬い氷に自ら突っ込んで、気絶したのだという。
そんな役職はないが、運営委員会の中でも最古株のジャイロは、周りからもそうよばれ、自分でもそれを否定してはいない。年功のせいかお給料は、同僚よりちょびっといい。
ほぼ、ボルテック卿の独裁であったのに対し、細かいことはまかせた式のウィルニアのもとでは、以前よりその権限は拡大しているといっていい。
権限が拡大しているということは、同時に責任も多くなる、ということであり。
冒険者を「あがって」あとの人生は平穏無事に暮らしたいだけのジャイロには、これは迷惑なことではあったが、だからといって責任を回避して右往左往するのは、最悪の結果となるということを、主に冒険者人生を通じて学んでいたのだ。
「また『魔剣研究会』か。」
ジャイロは、シライシという教諭を見つめた。
ボルテックの退職後に採用された若い教師だった。真面目で(融通がきかず)熱心で(野心家で)正義感にあふれた(独善的で言うことをきかない)彼は、とにかく学院の内外でトラブルが多い「魔剣研究会」を目の敵にし、これをつぶそうとやっきになっていた。
「ザジがミトラに留学が決まっているヤンを、暴行しようとしました。」
ボルテックならば生徒同士の争いなど、ほっておけと言っただろう。もともと、「魔法」という牙を磨きに、入学した者たちだ。いじめたのいじめられたの、そんなものはほっておけ。
所詮、魔道の世界も弱肉強食だ、と。
もちろん、放っておくわけにはいかない。
性格的に、あるいは根っからの学術肌で、戦いに向かないものもいる。そんな連中を例えば、それこそ、「魔剣研究会」などの好きにさせておいては、ゆっくり育成することもできない。
なので、ボルテックがなんと言おうが、ジャイロは、そういったことには必ず、介入し、戦闘面で弱いものを庇護する立場をとっていた。
「ザジは、直ちに拘束する。ヤンの傷の程度によらず、一月の拘束刑だ。」
ジャイロはそう命じたが、シライシは動かない。妙な顔をして、ジャイロを見ていた。
どうした?
負傷が意外に重いのか?
まさか留学に支障をきたすような重症なのか?
「ザジの負傷は治癒促進をおこなっても一ヶ月はかかります。一ヶ月の拘束では処罰にならないと思います。」
聞き間違えかと思って、ジャイロは三度、聞き直した。
ヤンが。
ザジを。
徹底的に痛めつけて、そのやり過ぎのあげく、ザジが入院することになった。
「何があった。」
ジャイロは、立ち上がって、叫んでいた。
ヤンは、本当に魔法理論の構築、つまり座業だけの人間だった。攻撃魔法は皆無に等しく、積極的に戦う気など、保存用の缶詰にも劣った。
確かに、ミトラに留学が決まってからは、そのあまりの治安の悪さに恐れをなして、護身術の一つも覚えようかと、相談されたことはあった。
その時ジャイロはそれを一笑したのだ。
生兵法など、かえって怪我の元だ。とにかく危ないところには近づかなければそれでいいだろう。
「わかりません。」
「具体的に何がどうなって、ザジは入院したのだ?」
「失神したザジを、ヤンが氷で固めた拳で執拗に殴り続けたからです。」
シライシは、なんとも言えない顔をしていた。
彼にとっては、ヤンが負傷して、ザジを退学にできるのが、理想のプランだったのだろう。
「喧嘩慣れしていないために、やりすぎてしまったのかと思われます。
これについては、ザジから仕掛けた闘争であったこと、ザジが前もって帯剣していたことを持って不問にするつもりです。」
その判断はいい。
グランダ魔道院が、送り出す留学生が、直近になって暴行事件で、留学できなくなった、はありえないからだ。
「ザジは、かなり使えるぞ。」
元冒険者のジャイロは、そこらを多少は見る目があった。
「一体、ヤンはどうやって、ジャイロを失神させたのだ?
いや待て、氷の拳で殴りつけたとかいっていたな。」
それは、かのランゴバルド冒険者学校との対抗戦で、銀雷の魔女が使っていた戦法。
銀雷の魔女の師匠は・・・・
「ジウル・ボルテックか!」
ジャイロは叫んだ。
「魔法拳法研究会か!」
実際のところ、ジャイロは、ジウルとシホウを食客のつもりで置いていた。
義理も恩もある相手である。非常勤の講師二人分くらいの給与は彼の権限でなんとでもなった。
ジウルは、自らの拳を磨くために、シホウとともに修行がしたかったのだ。そのために、寝泊まりと飲み食いができる場所を探していた・・・・
その結果、彼のいう魔法と拳法の融合に何か体系だった糸口でも見えれば、正式に講師として雇い、講座を持たせる。
そんな腹積りであった。
まさか、本当に「魔法拳法研究会」に部員を勧誘し、鍛えるとは真面目に思っていなかったのである。
シライシも直接、見たわけではなかったが、それはこんな風だったらしい。
向かい合った、両者。
剣を抜いて構えるザジ。
彼の魔剣は、雷撃の 追加効果を与えるものだった。
対して、ヤンは、氷の塊を作り出して、幾つもそれを空に浮かべた。
ザジは、せせら笑って、その一つを剣で、消滅させた。
「こんなものを幾つ投げつけても、意味ねえさ。」
ザジはそう言って剣を、顔の前に構えた。青白い電流が剣を走った。
やばい!
本当に殺る気だ!
誰かが叫んだ。
ヤンはさらにいくつかのキラキラと白く輝く氷を作り出す。
「無駄だ、無駄無駄無駄無駄!」
ザジは、笑った。氷の移動速度はあまりにもゆっくりで、それはザジの剣が触れただけで、消滅してしまうほど柔いもの。
「一撃で」
次の瞬間。
ザジの姿が消えたように、周りのものには思えたという。それほどの踏み込みだった。
そして。
ザジは、白い氷球の間に置かれた透明で硬い氷に自ら突っ込んで、気絶したのだという。
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