小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

文字の大きさ
12 / 59
第二章 グランダ脱出

第12話 小悪党と夜を駆ける

しおりを挟む
グランダの街が、遠くになっていく。
「異世界」の友人から、きいた話では、「夜行」といって、夜に列車を走らせるのは当たり前のことらしい。
だが、この世界では、まだまだ夜は夜の生き物のためのものだ。

いま、ぼくとティーン…本人の申告によれば、アルディーン・クローディアのいる世界では、今くらい時間はともかく、夜を達して、列車を走らせることは無い。

「ずいぶんとグランダも発展したものだな。」
地上の星のように見える街灯りが遠ざかるのを見ながら、ぼくは、ぽつりとつぶやいた、

「はあ。」
何かに気がついたように、ティーンがにんまりと笑った。
「あなたが転生してきたのは、異世界じゃなくって、この世界の違う時代ってことね!?
おそらく、史上最大の跡目争いになるであろう、初代“統一”皇帝の後継者争いに、妖怪ボルテック卿が招いたのは誰かしら。
上古の英雄剣士ブラホワルド?
ギウリーク聖帝国の礎を築いた三代目“剣聖”ガルフィート伯爵か?
いや、そんな大昔でなくとも、英傑はいくらでもいるわね。
クローディア大公国中興の祖となった“大公”陛下とか?
神にもっとも近い冒険者“燭乱天使”ローゼン・クリュークか。
はたまた、かの女神とも親交厚かったバルゴール伯爵夫人ミュラか。
そういえば、神をも欺く魔導師“背教者”ゲオルグも最近、入滅したときいているよ。」

ティーンが適当に、ぼくの前世について、考察している間に、ぼくは別のことを考えていた。

「で、姫君。」
「ティーンでいいわよ。」
「ディーン。きみはなぜ、逃げ出したんだ?
そして、どこに逃げるつもりなんだ?」

ティーンは肩を竦めた。

「まず、二つ目の答えよ。
どこに逃げるかは考えてないわ。
で、ひとつめの答えなんだけどね。
わたしは、もともと皇位継承者のスペアとして、魔道院に軟禁された状態にあったの。」

「スペア? つまり、統一帝国で一緒に育てられている後継者たちに、なにかあった場合の予備ということか?」

「そういう事!
優秀な人材をひとつところに集めて、よきライバルとして、切磋琢磨させる。そして、互いに殺し合わせるかわりに、そのうちの誰がが、皇帝の位についたときは、それをサポートする優秀なスタッフとして機能する。
悪いアイデアじゃないし、歴史を紐解けば、一時の銀灰のように、皇位継承者ごとに各派閥がバックについて、互いに殺し合うようなやり方よりは、だいぶマシでしょう。
ただ、それが思うようにいかない場合だってあるわよね。」

「いくら、きれいごとを言っても、やはり、皇位にはつきたいか。」

「そういう事!!
しかも、それは12名の候補者の中から、ひとりでも離反者が出たら、その瞬間に崩壊する。」
「そして、現実にそのようなことが起こったか、少なくもとその兆候となることがあった。」

「そういう事!」

これはどうもティーンの口ぐせらしかった。
ぼくは、ゆっくりと感想を述べた。
「“教育”と資質によほど、自信をもっていたのか。そう言ってしまうと、アデルもブの悪い賭けをしたものだ。」

「皇帝陛下をご存知なの、ヒスイ。」

「雲の上の存在に、いちいち敬称をつける習慣がないだけだ。」
ぼくは、皇帝陛下などになるまえのアデルを知っていたが、まだ、この少女にくわしく話す気はなかった。
「そのアデル……陛下の落胤だというのか?
おまえが、か?」

「サッパリわからないんだ。」
わずかな路銀をせしめる為に、ひとり美人局を目論んだ女は、本気で困ったような顔をした。
「わたしが、統一帝国の帝室から、クローディア公家に養子に出されたのは、事実だ。本当に幼子だったので、当時の記憶はまったくない。
単純に、不義の子だったのかもしれないけど、アデルは女帝だ。
この三十年で、複数の男性との浮き名は、ある。
実際に、12名の皇位継承者のなかには、父親の違う子もいるしな。
ならば、わたしだけが、養子に出された理由はなんだ?」

「なるほど。それがわからなければ、どこに逃げて、どうすれば、いいのかすらわからない、というところか。」
ぼくとて、多少はひとより頭は回るつもりでいても、とっさになにか知恵が浮かぶ訳ではない。
「そうなんだ。
去年まで、クローディアの家で、今にして思えば、実質的に軟禁状態だったんだから、魔道院へ入学させられたときは、うれしかったんだねど、ここでも常に監視の目がついている。
というより、クローディアの監視だけでは、不十分なために、魔道院にぶち込まれた!
そんな感じがしてしょうがない。」

「監視、とはいってもひとりで外出は、出来たんだろう?
それほど、酷く束縛されていたとは、思えないけどな。」

「授業そのものは、楽しかった。一緒に学ぶ仲間もいたしね。
だから、そうね。監視とか束縛とかいうよりも、観察、が適切なのかもね。」

「観察?」

「そう。わたしの内在魔力、健康状態、趣味趣向、そういったものをじっくりと観察されていた。なんのために、と聞きたくなるでしょうね。」

ぼくは、考えてみたが、皇室の血を伝える数少ないスペアだという以外の理由は思いつかなかった。

「ここに来て、ひとりの皇帝と11名の補佐官という長年に渡り、アデル帝が次の世代のために、作り上げてきた体制が、くずれるような何かにが起きた。
一方でアデルの引退は、目前に迫っている……」
「ま、まて! それは自分が作った『三十年法』に縛られているだけだぞ。
そんな法は皇帝に対してのみは無効。または、政権が混乱するからという理由で、引退を延期すると発表すれは、済む話ではないかな?」

「小悪党、よね、ヒスイ。」
別だん、嫌悪することもなく、ティーンは言った。
「ホンモノの悪党は、自分のつくったルールに縛られるのよね。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...