11 / 59
第二章 グランダ脱出
第11話 小悪党と小悪党な姫君
しおりを挟む
ティーンは、懐か薄布を取り出して、羽織った。体の線がいくらか、隠れる。スカーフのような薄い薄い布なのだが、羽織ると膨らんでふつうのコート並の生地になった。
ぼくは、魔道院の制服のうえから、マントを羽織っている。
通りに出て、駅までの道を黙々と歩いた。
人通りの多い道を選んだ。
ぼくらは、店のショーウィンドウを眺めながら、軽口を叩き合い、手を繋いで歩く。
そのほうが目立たない。
駅までは遠かったが、彼女もぼくも疲れることなく、演技をし続けた。
駅前の人気の店で、軽食を買い込んだ。
切符は、ティーンが買うといって、券売所に並んだ。
驚いたことに、グランダのような田舎でも、仕事場に通うのに、魔道列車を使うのはかなり、一般的になっているようで、かなり混んでいる。
「テルメリオスまで。学生二人。」
「学生証を」
「ジーセ、学生証…え! 忘れてきたの?」
「だって。」
ぼくは、ムッとしたように言い返した。
「きみがもう切符は買ってあるって。」
「わたしが買うっていったの!
買ってあるなんて言ってない!」
険悪な雰囲気になったぼくらを、とりなすように、駅員が言った。
「まあ、魔道院の制服も着てるんでけっこうですよ。学生料金で2枚ね。」
ティーンは、怒ったように、ぼくにアゴをしゃくった。
お前か払え、ということらしい。
ぼくは、しぶしぶ二人分の切符を買った。
十分後。
サリオ行きの列車に、ぽくらは揺られていた。
四人がけのボックス席は、ぼくらだけだった。
ゴトン。
ゴトン。
列車は、前もってひかれたレールの上をはしる。
リズミカルな音は、レールとレールの間につなぎ目があるからだ。
「サリオ」行の電車は空いている。
もともと、西域中心部へ向かう列車のターミナル駅となっている街だ。
いや、街というほどの規模はない。
駅そのものの中に、宿泊施設と飲食ができる場所を完備したのだが、そのために、駅から外に出るものは少なくなり、街としては、まったく発展しなかったそうだ。
いまからの時間に、サリオについても明日まで、西域行きの便はないから、列車は閑散としているのだ。
「券売所でのあんたの演技は、下手くそだだったわ。」
ティーンは、頬杖をついてぼくを睨んだ。
「あそこでは、わたしたちが、テルメリオスに行くことを、強く印象づけなければならなかった。
そのためには、ケンカのひとつもしてみるべきだったんだぞ。
たぶん、わたしがいなくなったことに、気が付かれるのは、明日の授業の開始のころ。
身の回りのものも財布も部屋に置いてきているから、まずは誘拐の線が疑われるでしょうね。
それと平行して、わたしの脱出を手引きしたものが疑われる。
なにしろ、制服までおいてきているから」
ティーンは、ちらりとコートの襟をめくって、客引きのときにつかっていた扇情的なドレスを見せた。
「単独で逃げ出した、とは誰も考えない。
調べても調べても、誘拐も手引きしたものもわからない。まさかこれは、単独行動もありうると考えて、捜査の手を広げるのは、それからだ。そこで、まず2日は稼げる。」
ティーンは、駅前で買い求めた軽食の袋を開いた。
「軽食」という言葉が、しっくりこないほど、分厚いハムとチーズ、刻んだ野菜が、一口でかじり付けないパンの間に挟まっている。
「“不死鳥の冠”風のサンドイッチか。」
「よく知ってるなあ。ところで、おまえは何者だ? うちの制服は着ているようだが。」
いまさらそれかっ!
そう小悪党によくあることだが、ぼくたちはお互いを知らぬまま、事情もわからないまま、旅をはじめていた。
「ぼくは、ヒスイ、という。」
そう改めて名乗ったが、ティーンの疑り深そうな表情は晴れない。
ある程度、納得させる理由が必要だろう。
「ぼくは、転生者だよ。」
「ああ、それで、ボルテック卿の人形に宿っているのか。」
ぼくは、考え込んだ。
ティーンが、魔道院の学生であることは、間違いなさそうだった。
彼女がチンピラを倒した使った時に使った暗器は、魔道具だ。
それにしても、ジオロ・ボルテックが、かつての大魔導師ボルテック卿本人であることを知っているならぱ、ただの学生ではありえない。
そして、この体を一目で、義体と見抜くことなど、学生の技量を抜けている。
「そうだ。」
「どうして、転生するはめになったの?
馬車の前に飛び出した仔犬でも助けたの? 」
「そんなくだらないことをするか。
食ったものを戻して、喉に詰まらせたんだ。」
そっちの方がくだらないじゃないの。
と。ティーンはつぶやいた。
つぶやきながら、ぼくの分のサンドイッチの袋を差し出した。ここでは、詰まらせないでよね、とか言いながら。
「で? あなたを召喚したのは、ボルテックってことになるわけね?」
正確には少し違うのだが、ぼくと、かつてぼくが、敵になったり、味方になったりしたものたちや、それをきっかけに知り合うことになった神のことなど、説明するには、話がながくなり過ぎる。
ぼくは黙って頷いた。
「で? わたしに近づいた目的はなに?
言っておくけど、わたしは、敵に回せば結構厄介で、味方にするのも、それ以上に剣呑な立場にあるんだけど?」
ぼくは、考え込んだ。
ぼくは、単に、皇位継承のトラブルにひと働きさせられるのがイヤで、魔道院を逃げ出したのだ。
そして、手っ取り早く金を稼げるトラブルを求めて、自分を売ろうとしていた(正確には自分を買おうとした相手に暴行を加えた金銭をむしり取ろうとしていた)ティーンに出会った。
なるほど。
なるほど。なるほど。
神が転生を、仲立ちした以上、ぼくの意志と関わりなく、物語は進行してしまう、ということか。
ティーンに会うことは、運命として定められていたのだ。
ぼくのような小悪党は、この必然とか、運命にものすごく弱い。
「いや。なんの説明も聞かずに、逃げたしてきたんでな。
やつは、ぼくを皇位継承に関するゴタゴタついて。なにか、やらせたかったのだろうが、ぼぼくはそんなものはゴメンだった。」
「じゃあ、なんでわたしに近づいたの?」
「路銀を稼ぎたかったんだ。今日、ここに転生したばかりで、1文無しだったんでな。
で、ああった場所を彷徨いていれば、必ずトラブルがある。トラブルがあれば金になる。」
「わたしと同じような思考をするのね!
はじめて会ったわ。」
いや、おまえの方が悪質だろう。
そう思ったが、口には出さなかった。
「で? あらためてきくが、おまえは何ものなんだ?」
「クローディア大公家の姫君だよ。
アルデイーン・クローディア。幼いころに養女に貰われたのだけど、どうも統一帝の血を引いているとの噂が絶えなくて、ね。」
ぼくは、魔道院の制服のうえから、マントを羽織っている。
通りに出て、駅までの道を黙々と歩いた。
人通りの多い道を選んだ。
ぼくらは、店のショーウィンドウを眺めながら、軽口を叩き合い、手を繋いで歩く。
そのほうが目立たない。
駅までは遠かったが、彼女もぼくも疲れることなく、演技をし続けた。
駅前の人気の店で、軽食を買い込んだ。
切符は、ティーンが買うといって、券売所に並んだ。
驚いたことに、グランダのような田舎でも、仕事場に通うのに、魔道列車を使うのはかなり、一般的になっているようで、かなり混んでいる。
「テルメリオスまで。学生二人。」
「学生証を」
「ジーセ、学生証…え! 忘れてきたの?」
「だって。」
ぼくは、ムッとしたように言い返した。
「きみがもう切符は買ってあるって。」
「わたしが買うっていったの!
買ってあるなんて言ってない!」
険悪な雰囲気になったぼくらを、とりなすように、駅員が言った。
「まあ、魔道院の制服も着てるんでけっこうですよ。学生料金で2枚ね。」
ティーンは、怒ったように、ぼくにアゴをしゃくった。
お前か払え、ということらしい。
ぼくは、しぶしぶ二人分の切符を買った。
十分後。
サリオ行きの列車に、ぽくらは揺られていた。
四人がけのボックス席は、ぼくらだけだった。
ゴトン。
ゴトン。
列車は、前もってひかれたレールの上をはしる。
リズミカルな音は、レールとレールの間につなぎ目があるからだ。
「サリオ」行の電車は空いている。
もともと、西域中心部へ向かう列車のターミナル駅となっている街だ。
いや、街というほどの規模はない。
駅そのものの中に、宿泊施設と飲食ができる場所を完備したのだが、そのために、駅から外に出るものは少なくなり、街としては、まったく発展しなかったそうだ。
いまからの時間に、サリオについても明日まで、西域行きの便はないから、列車は閑散としているのだ。
「券売所でのあんたの演技は、下手くそだだったわ。」
ティーンは、頬杖をついてぼくを睨んだ。
「あそこでは、わたしたちが、テルメリオスに行くことを、強く印象づけなければならなかった。
そのためには、ケンカのひとつもしてみるべきだったんだぞ。
たぶん、わたしがいなくなったことに、気が付かれるのは、明日の授業の開始のころ。
身の回りのものも財布も部屋に置いてきているから、まずは誘拐の線が疑われるでしょうね。
それと平行して、わたしの脱出を手引きしたものが疑われる。
なにしろ、制服までおいてきているから」
ティーンは、ちらりとコートの襟をめくって、客引きのときにつかっていた扇情的なドレスを見せた。
「単独で逃げ出した、とは誰も考えない。
調べても調べても、誘拐も手引きしたものもわからない。まさかこれは、単独行動もありうると考えて、捜査の手を広げるのは、それからだ。そこで、まず2日は稼げる。」
ティーンは、駅前で買い求めた軽食の袋を開いた。
「軽食」という言葉が、しっくりこないほど、分厚いハムとチーズ、刻んだ野菜が、一口でかじり付けないパンの間に挟まっている。
「“不死鳥の冠”風のサンドイッチか。」
「よく知ってるなあ。ところで、おまえは何者だ? うちの制服は着ているようだが。」
いまさらそれかっ!
そう小悪党によくあることだが、ぼくたちはお互いを知らぬまま、事情もわからないまま、旅をはじめていた。
「ぼくは、ヒスイ、という。」
そう改めて名乗ったが、ティーンの疑り深そうな表情は晴れない。
ある程度、納得させる理由が必要だろう。
「ぼくは、転生者だよ。」
「ああ、それで、ボルテック卿の人形に宿っているのか。」
ぼくは、考え込んだ。
ティーンが、魔道院の学生であることは、間違いなさそうだった。
彼女がチンピラを倒した使った時に使った暗器は、魔道具だ。
それにしても、ジオロ・ボルテックが、かつての大魔導師ボルテック卿本人であることを知っているならぱ、ただの学生ではありえない。
そして、この体を一目で、義体と見抜くことなど、学生の技量を抜けている。
「そうだ。」
「どうして、転生するはめになったの?
馬車の前に飛び出した仔犬でも助けたの? 」
「そんなくだらないことをするか。
食ったものを戻して、喉に詰まらせたんだ。」
そっちの方がくだらないじゃないの。
と。ティーンはつぶやいた。
つぶやきながら、ぼくの分のサンドイッチの袋を差し出した。ここでは、詰まらせないでよね、とか言いながら。
「で? あなたを召喚したのは、ボルテックってことになるわけね?」
正確には少し違うのだが、ぼくと、かつてぼくが、敵になったり、味方になったりしたものたちや、それをきっかけに知り合うことになった神のことなど、説明するには、話がながくなり過ぎる。
ぼくは黙って頷いた。
「で? わたしに近づいた目的はなに?
言っておくけど、わたしは、敵に回せば結構厄介で、味方にするのも、それ以上に剣呑な立場にあるんだけど?」
ぼくは、考え込んだ。
ぼくは、単に、皇位継承のトラブルにひと働きさせられるのがイヤで、魔道院を逃げ出したのだ。
そして、手っ取り早く金を稼げるトラブルを求めて、自分を売ろうとしていた(正確には自分を買おうとした相手に暴行を加えた金銭をむしり取ろうとしていた)ティーンに出会った。
なるほど。
なるほど。なるほど。
神が転生を、仲立ちした以上、ぼくの意志と関わりなく、物語は進行してしまう、ということか。
ティーンに会うことは、運命として定められていたのだ。
ぼくのような小悪党は、この必然とか、運命にものすごく弱い。
「いや。なんの説明も聞かずに、逃げたしてきたんでな。
やつは、ぼくを皇位継承に関するゴタゴタついて。なにか、やらせたかったのだろうが、ぼぼくはそんなものはゴメンだった。」
「じゃあ、なんでわたしに近づいたの?」
「路銀を稼ぎたかったんだ。今日、ここに転生したばかりで、1文無しだったんでな。
で、ああった場所を彷徨いていれば、必ずトラブルがある。トラブルがあれば金になる。」
「わたしと同じような思考をするのね!
はじめて会ったわ。」
いや、おまえの方が悪質だろう。
そう思ったが、口には出さなかった。
「で? あらためてきくが、おまえは何ものなんだ?」
「クローディア大公家の姫君だよ。
アルデイーン・クローディア。幼いころに養女に貰われたのだけど、どうも統一帝の血を引いているとの噂が絶えなくて、ね。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる