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第三章 迷宮
第29話 特異種
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ティーンの行動は、見事なものだった。
燃える溶岩の中に、生身で足を踏み入れたサリアを救おうと、自分も溶岩のなかに飛び込んだのだ。
そう。
小悪党とは、おっちょこちょいなのである。
「ぎゃあああっ!! 熱い、熱い、あ……」
ティーンは、体を見回した。
彼女の体も燃えている。
ぼくの肉眼では、ティーンの体もサリアの見事なおっぱいも、オレンジの炎に焼き尽くされて、溶け崩れていくのが、見える。
だが、それは幻覚だ。
ぼくも続いて、階段に足を踏み入れた。
マグマ溜りのなかに、隠された通路だった。
ここの溶岩は、冷えて固まっている。
それどころか、周りの熱さえ、来ないように障壁がはられていた。
「階段の位置は、毎回変わる。」
二層へと続く階段を降りながら、サリアは言った。
「マグマ溜りのなかに、隠されているが、数日に一度、偽装がとけて姿を現すことがある。ここから、入った実は観光客向けの入口よりも、吸血鬼たちの生息区域までは、早い。」
「あんたには、その偽装がきかなかったようだな?」
ぼくは
たぶん、あのメガネがタネだ。
もし、異世界技術に由来するのもなら、なんとかその技術がほしい。
「さっきから、わたしのいた世界の技術に興味があるみたいだけど」
階段を降りながら、サリアは、振り向いた。
「わたしに言わせれば、この世界の魔法の方が驚異的だ。
人間としてのスペックには、大差はなさそうだから、要するに、人間を超えた存在、つまり、古竜やら、吸血鬼やら、神獣やらと、意思の疎通ができるのが、大きい要因のようだ。
高い山を見れば、そこへの登り方もわかるわけだからね。」
サリアの視線が、ぼくとティーンを通り越して、階段の入り口を見ているのに、気がついて、ぼくらも振り向いた。
……いた。
黒を貴重に、オレンジの紋様を貼り付けた外観をもつ蜘蛛の魔物が!
サリアは、慌てるふうもなく、手を挙げた。
「やあ。今日は客人を第三層まで、案内する予定なんだ。狩りや採集の予定は無い。」
ぼくと、ティーンは、オレンジ紋様の蜘蛛が、同じように、手、手ではないな、棘のついた脚を上げるのを見た。
有り得ないことだが、それは、炎熱蜘蛛が、挨拶を返したようにしか見えなかった。
ギムリウス配下の蜘蛛達には、量産型と、それぞれ特別な能力を付与した特異種が存在する。
炎熱蜘蛛は、特異種に相当するが、挨拶をしたり、意思の疎通ができたり、と言うような、知性はもたされていないハズだった。
「わたしは、ティーンという。」
ティーンは、同じように手をあげた。
「こっちは、わたしの仲間で、ヒスイ。
第三層の古竜を尋ねる途中なんだ。」
なるほど。
それは、蜘蛛が、己のオレンジの紋様から炎を吹き出す音だった。
だが、それはなんとか聞き取れる言葉になっている。
ぼくは、ギムリウスの蜘蛛達や同様に集団を形成することで、擬似的な知性を獲得する生き物と、意思の疎通をしたことはない。
たが、言語に似たものをもっていたとしても、彼らは人間のような発声器官をもたないのだ。
多くは、羽や脚を擦り合わせたり、顎を鳴らしたりして、交信するのだ。たとえ、その言葉を聞き取れたとしても、同じような音を発する器官が人間にはない。
「すごいじゃないか、炎熱蜘蛛。喋れるのか!」
ボボボ。
火がふきだした。なんとか、それは言葉に聞こえた。
「通じているなら、ありがたい。」
炎熱蜘蛛は、そういったのだ。
単なる事実確認だけではない。抽象的な思考もできる知性を身につけている。
「迷宮研究家よ。この二人は冒険者なのか?」
炎熱蜘蛛は、炎をふきだした。
発音はかなり、いい感じだが、難点もある。
こちらが熱い。
「少し違うようだ、ジルバード。」
サイアは答えた。
迷宮研究家、研究家、か!
たしかに、剣士でも拳士でも魔法士でもない彼女を表すには、うってつけの言葉だった。
「地上でなにか、トラブルを抱え、その解決のために、三層のリアモンド様を尋ねるつもりなのだ。」
驚いた!
炎熱蜘蛛は、知性をもっている。
そして…名付けたのは誰なのか、名前まで 持っていた。
「良ければ主上と連絡をつけようか?」
炎熱蜘蛛…ジルバードはそう言った。
「昨今は、義体のほうが気に入ったと見えて、めったに本体のほうには、意識を戻さない。だが、呼びかけることは可能だ。」
「ありがとう。でも今回の相談事は、たぶんに俗世がからむんだよ。」
ティーンは済まなそうに言った。
「大丈夫だ。どこの方面軍が相手であっても、主上と我らなら、確実に屠ることが、できる。」
ぼくはティーンに目配せした。
な?
だから、ギムリウスには、相談しない方がいいだろう?
ティーンは、引きつった笑顔で頷き、言った。
「ありがとう、ジルバード。でもわたしたちは、あなた方の力ではなくて、知恵が借りたいの。」
「ならば、確かに、我が主上よりも、リンド伯爵やオロア老師、リアモンド様のほうが、むいているかもしれない。
単純に思考だけの問題なら、主上よりも“ユニーク”のヤホウをオススメする。」
自分の創造物にけっこうなことを言われてるぞ、ギムリウス。
と、ぼくは、心の中て思った。
あまり、接する機会はなかったが、ぼぬの記憶にあるギムリウスは、可憐な肢体をもた、しょっちゅう、キテレツなことを仕出かす少年の姿だった。
「さあ。わたしたちは、先へ行くとするよ。」
サリアは愛想良く言った。
「一昨日、溶岩湖ツアーの団体さんが、“舞踏場”を出発している。そろそろ、溶岩湖に、着く頃だぞ?」
「ならば、持ち場に戻るとするか。」
ジルバードは、ガチガチと顎をならした。
「気をつけていけよ。
第二層は、けっこう寒いぞ。」
マグマ溜りの中で暮らすお前に比べれば、何処だって結構寒いだろう?
と、ぼくは突っ込もうとしたが、思いとどまった。
「ここに、比べればどこだって、寒いでしょ!」
ティーンが叫んだ。
ジルバードは、カチカチと脚を打ち鳴らした。
喜んでいるのだ、とあとで、サリアが教えてくれた。
燃える溶岩の中に、生身で足を踏み入れたサリアを救おうと、自分も溶岩のなかに飛び込んだのだ。
そう。
小悪党とは、おっちょこちょいなのである。
「ぎゃあああっ!! 熱い、熱い、あ……」
ティーンは、体を見回した。
彼女の体も燃えている。
ぼくの肉眼では、ティーンの体もサリアの見事なおっぱいも、オレンジの炎に焼き尽くされて、溶け崩れていくのが、見える。
だが、それは幻覚だ。
ぼくも続いて、階段に足を踏み入れた。
マグマ溜りのなかに、隠された通路だった。
ここの溶岩は、冷えて固まっている。
それどころか、周りの熱さえ、来ないように障壁がはられていた。
「階段の位置は、毎回変わる。」
二層へと続く階段を降りながら、サリアは言った。
「マグマ溜りのなかに、隠されているが、数日に一度、偽装がとけて姿を現すことがある。ここから、入った実は観光客向けの入口よりも、吸血鬼たちの生息区域までは、早い。」
「あんたには、その偽装がきかなかったようだな?」
ぼくは
たぶん、あのメガネがタネだ。
もし、異世界技術に由来するのもなら、なんとかその技術がほしい。
「さっきから、わたしのいた世界の技術に興味があるみたいだけど」
階段を降りながら、サリアは、振り向いた。
「わたしに言わせれば、この世界の魔法の方が驚異的だ。
人間としてのスペックには、大差はなさそうだから、要するに、人間を超えた存在、つまり、古竜やら、吸血鬼やら、神獣やらと、意思の疎通ができるのが、大きい要因のようだ。
高い山を見れば、そこへの登り方もわかるわけだからね。」
サリアの視線が、ぼくとティーンを通り越して、階段の入り口を見ているのに、気がついて、ぼくらも振り向いた。
……いた。
黒を貴重に、オレンジの紋様を貼り付けた外観をもつ蜘蛛の魔物が!
サリアは、慌てるふうもなく、手を挙げた。
「やあ。今日は客人を第三層まで、案内する予定なんだ。狩りや採集の予定は無い。」
ぼくと、ティーンは、オレンジ紋様の蜘蛛が、同じように、手、手ではないな、棘のついた脚を上げるのを見た。
有り得ないことだが、それは、炎熱蜘蛛が、挨拶を返したようにしか見えなかった。
ギムリウス配下の蜘蛛達には、量産型と、それぞれ特別な能力を付与した特異種が存在する。
炎熱蜘蛛は、特異種に相当するが、挨拶をしたり、意思の疎通ができたり、と言うような、知性はもたされていないハズだった。
「わたしは、ティーンという。」
ティーンは、同じように手をあげた。
「こっちは、わたしの仲間で、ヒスイ。
第三層の古竜を尋ねる途中なんだ。」
なるほど。
それは、蜘蛛が、己のオレンジの紋様から炎を吹き出す音だった。
だが、それはなんとか聞き取れる言葉になっている。
ぼくは、ギムリウスの蜘蛛達や同様に集団を形成することで、擬似的な知性を獲得する生き物と、意思の疎通をしたことはない。
たが、言語に似たものをもっていたとしても、彼らは人間のような発声器官をもたないのだ。
多くは、羽や脚を擦り合わせたり、顎を鳴らしたりして、交信するのだ。たとえ、その言葉を聞き取れたとしても、同じような音を発する器官が人間にはない。
「すごいじゃないか、炎熱蜘蛛。喋れるのか!」
ボボボ。
火がふきだした。なんとか、それは言葉に聞こえた。
「通じているなら、ありがたい。」
炎熱蜘蛛は、そういったのだ。
単なる事実確認だけではない。抽象的な思考もできる知性を身につけている。
「迷宮研究家よ。この二人は冒険者なのか?」
炎熱蜘蛛は、炎をふきだした。
発音はかなり、いい感じだが、難点もある。
こちらが熱い。
「少し違うようだ、ジルバード。」
サイアは答えた。
迷宮研究家、研究家、か!
たしかに、剣士でも拳士でも魔法士でもない彼女を表すには、うってつけの言葉だった。
「地上でなにか、トラブルを抱え、その解決のために、三層のリアモンド様を尋ねるつもりなのだ。」
驚いた!
炎熱蜘蛛は、知性をもっている。
そして…名付けたのは誰なのか、名前まで 持っていた。
「良ければ主上と連絡をつけようか?」
炎熱蜘蛛…ジルバードはそう言った。
「昨今は、義体のほうが気に入ったと見えて、めったに本体のほうには、意識を戻さない。だが、呼びかけることは可能だ。」
「ありがとう。でも今回の相談事は、たぶんに俗世がからむんだよ。」
ティーンは済まなそうに言った。
「大丈夫だ。どこの方面軍が相手であっても、主上と我らなら、確実に屠ることが、できる。」
ぼくはティーンに目配せした。
な?
だから、ギムリウスには、相談しない方がいいだろう?
ティーンは、引きつった笑顔で頷き、言った。
「ありがとう、ジルバード。でもわたしたちは、あなた方の力ではなくて、知恵が借りたいの。」
「ならば、確かに、我が主上よりも、リンド伯爵やオロア老師、リアモンド様のほうが、むいているかもしれない。
単純に思考だけの問題なら、主上よりも“ユニーク”のヤホウをオススメする。」
自分の創造物にけっこうなことを言われてるぞ、ギムリウス。
と、ぼくは、心の中て思った。
あまり、接する機会はなかったが、ぼぬの記憶にあるギムリウスは、可憐な肢体をもた、しょっちゅう、キテレツなことを仕出かす少年の姿だった。
「さあ。わたしたちは、先へ行くとするよ。」
サリアは愛想良く言った。
「一昨日、溶岩湖ツアーの団体さんが、“舞踏場”を出発している。そろそろ、溶岩湖に、着く頃だぞ?」
「ならば、持ち場に戻るとするか。」
ジルバードは、ガチガチと顎をならした。
「気をつけていけよ。
第二層は、けっこう寒いぞ。」
マグマ溜りの中で暮らすお前に比べれば、何処だって結構寒いだろう?
と、ぼくは突っ込もうとしたが、思いとどまった。
「ここに、比べればどこだって、寒いでしょ!」
ティーンが叫んだ。
ジルバードは、カチカチと脚を打ち鳴らした。
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