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第四章 混迷
第37話 網を絞る
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魔道院学院長マロウドは、この日、別の客人を迎えていた。
統一帝国北部方面軍イードル大尉である。
もともと、クローディア大公国の白狼騎士団がルーツとなる北部軍にあって、“青狼”との異名をもつイードルは、その苛烈な性格とともに、軍を象徴する存在であった。
「アルディーンは、西域行きの列車に乗っておりませんでした。」
グリシャムの属する中央軍とは、異なり、ここグランダでは、動かせる人員も体制も、はるかに整っているのが、北部軍だった。
グランダがほとんど、国としての体をなさなくなった五十年前には、警察を含めた街の治安までをクローディア大公国が、請け負っていた。
現在は、制度上はそうではなくなっはいたが……。
グランダの警察に相当する警邏大隊は、実質、北部軍の配下にあるといっても過言では無い。 だから魔道院が依頼した、アルディーンの失踪(誘拐の可能性も含む)に対して、イードルが自ら報告に訪れることは、不自然ではない。
「アルディーン姫は、いったん郊外に出たこあとで、またグランダに戻ったと、我々はふんでおります。」
「なんのために、そんなことを?」
「西域に逃亡した、と我々に思い込ませたいがために、です。」
「イードル殿」
マロウドの秘書のリーシャが、口を挟んだ。
「あなたまで、中央軍のあのいけ好かない魔道士と同じ意見なのですか?
アルディーンが、ここから自分の意志で逃げたという。」
「いえ。」
イールドは、冷たい目で、リーシャを一瞥した。
「現在のところは、憶測でしかありませんが。姫と行動をともにしているという少年に、誑かされているものかと。」
「それは、だれ?」
リーシャも冷たい微笑みで返した。
「わかりません。駅で切符を買う時にトラブルを起こしたので、駅員が、記憶しておりましたが、互いに別の名前で呼びあっていたと。
魔道院の制服を着ていたそうですが。」
「グリシャム・バッハ閣下から、絵姿を見せてもらったよ。」
マロウドは、ゆっくりと言った。
「うちの生徒ではないようだ。」
リーシャが、イールドを睨むようにして言った。
「絵姿を作るのに、中央軍は駅員さんの頭をかなり酷く弄ったようね。
鉄道局から、抗議がいってるはずよ。
首謀者のグリシャム・バッハの身柄の引渡しと、グランダからの即時、無条件の全面撤退。」
「まったく! 中央軍というのは勝手なそしきですな。」
「そればかりではない。」
マロウドもまた、イールドをなんとも言えない表情で、見つめながらゆっくりと言った。
「いまさらながら、鉄道局も、アルディーン嬢が、皇位継承に対して重要な役回りなのを理解したようだ。鉄道保安軍の精鋭“絶士”が動くよ。」
「保安軍は、軍とは名ばかり、鉄道網の保全に東奔西走するだけの警備屋です。
真なる皇帝の剣は、我ら、ち、北部軍です。」
「で?」
イールドの言葉を華麗にスルーして、マロウドは続けた。
「アルディーン嬢と、その連れはどこに行ったのだろう?」
「それについては、彼女が逃げ込むのに、絶好の場所があります。」
マロウドとリーシャは、一瞬、視線をからめた。
「そんな場所がグランダにあるのかな?
そもそもグランダが危険だと思ったから、彼女は逃げ出したのだろう?」
「あります。」
芝居がかった口調で、イールドは言った。
「魔王宮です。彼女の出自なら、魔王宮の災害級の魔物にも受け入れられるはずです。」
マロウドは、ため息をついた。
「たしかに、その可能性は考えた。
……ヨウィス。」
部屋の隅で、書類を整理していたもうひとりの秘書が立ち上がった。
フードのしたの顔は、均整が取れて、美しく、すらりと背が高かった。
「彼女は、現役の冒険者としても活動していてね。いろいろ、ツテを使って聞き込みをしてもらっていた。」
「そ、それで!」
「確証はなにもない。」
まったくの無表情で、美女は淡々と言った。
「だが、アルディーンの年代に似合う冒険者が、ここ二日で、178組、魔王宮一層の“舞踏会場”でガイドを雇っている。」
「そ、そんなに!」
「魔王宮は、一定の所までは観光地だから。
ただ、アルディーンの目的から考えるとと、団体ツアーに参加したとは思えない。
単独でガイドを雇ったのは、そのうち7組。アルディーンのツレと思われる少年と一緒になのは、1組だけだった。」
「ならば!」
イールドは身を乗り出した。
「ならば、それが!」
「学院長と黒の聖女は、アルディーンが魔王宮に向かったのではないか、という推論をたてて、わたしに調査をさせた。
そして、一応、それらしき人物を発見した。
情報はそこまでで、なにも確証はない。」
「それでも、その可能性が高いのなら、調査隊を! アルディーン姫のガイドをしてるのは、どこのギルドです?」
「それは教えられない。」
冷たい、というより、無関心。
出来の悪い魔道人形が与えられた知識だけで、回答するような平坦な口調で、ヨウィスは言った。
「なぜだっ!」
「ガイドの身を守るためだ。皇位継承闘いは、人の世の暮らしと魔王宮と。別のところでやってくれ。
そもそも、中央軍は、北方地域の迷宮には立ち入りは出来ない。特別許可をえる方法も、あるが、この状態で、許可がおりるとは思えない。」
イールドは、妙な表情を、浮かべた。
「……我らは、北部軍だ。迷宮への探索は、一般の冒険者と同等の権利を有する。」
「そうだった。」
ヨウィスは、淡々と言った。
「ところで、グリシャム・バッハの居所について、イールドは知らないか?
昨日、正門を出たところで、おまえたちと、グリシャムが交戦しているのは、多くのものが目撃している。
意識を失ったグリシャムを、おまえがどこかに連れ去ったところまでは、調べがついているんだが。」
チッと、舌打ちして、イールドは答えた。
「グリシャム・バッハ閣下の身柄は、こちらで確保している。取り押さえられる直前に、特殊な薬物を服用したらしく、昏睡状態のままだ。」
統一帝国北部方面軍イードル大尉である。
もともと、クローディア大公国の白狼騎士団がルーツとなる北部軍にあって、“青狼”との異名をもつイードルは、その苛烈な性格とともに、軍を象徴する存在であった。
「アルディーンは、西域行きの列車に乗っておりませんでした。」
グリシャムの属する中央軍とは、異なり、ここグランダでは、動かせる人員も体制も、はるかに整っているのが、北部軍だった。
グランダがほとんど、国としての体をなさなくなった五十年前には、警察を含めた街の治安までをクローディア大公国が、請け負っていた。
現在は、制度上はそうではなくなっはいたが……。
グランダの警察に相当する警邏大隊は、実質、北部軍の配下にあるといっても過言では無い。 だから魔道院が依頼した、アルディーンの失踪(誘拐の可能性も含む)に対して、イードルが自ら報告に訪れることは、不自然ではない。
「アルディーン姫は、いったん郊外に出たこあとで、またグランダに戻ったと、我々はふんでおります。」
「なんのために、そんなことを?」
「西域に逃亡した、と我々に思い込ませたいがために、です。」
「イードル殿」
マロウドの秘書のリーシャが、口を挟んだ。
「あなたまで、中央軍のあのいけ好かない魔道士と同じ意見なのですか?
アルディーンが、ここから自分の意志で逃げたという。」
「いえ。」
イールドは、冷たい目で、リーシャを一瞥した。
「現在のところは、憶測でしかありませんが。姫と行動をともにしているという少年に、誑かされているものかと。」
「それは、だれ?」
リーシャも冷たい微笑みで返した。
「わかりません。駅で切符を買う時にトラブルを起こしたので、駅員が、記憶しておりましたが、互いに別の名前で呼びあっていたと。
魔道院の制服を着ていたそうですが。」
「グリシャム・バッハ閣下から、絵姿を見せてもらったよ。」
マロウドは、ゆっくりと言った。
「うちの生徒ではないようだ。」
リーシャが、イールドを睨むようにして言った。
「絵姿を作るのに、中央軍は駅員さんの頭をかなり酷く弄ったようね。
鉄道局から、抗議がいってるはずよ。
首謀者のグリシャム・バッハの身柄の引渡しと、グランダからの即時、無条件の全面撤退。」
「まったく! 中央軍というのは勝手なそしきですな。」
「そればかりではない。」
マロウドもまた、イールドをなんとも言えない表情で、見つめながらゆっくりと言った。
「いまさらながら、鉄道局も、アルディーン嬢が、皇位継承に対して重要な役回りなのを理解したようだ。鉄道保安軍の精鋭“絶士”が動くよ。」
「保安軍は、軍とは名ばかり、鉄道網の保全に東奔西走するだけの警備屋です。
真なる皇帝の剣は、我ら、ち、北部軍です。」
「で?」
イールドの言葉を華麗にスルーして、マロウドは続けた。
「アルディーン嬢と、その連れはどこに行ったのだろう?」
「それについては、彼女が逃げ込むのに、絶好の場所があります。」
マロウドとリーシャは、一瞬、視線をからめた。
「そんな場所がグランダにあるのかな?
そもそもグランダが危険だと思ったから、彼女は逃げ出したのだろう?」
「あります。」
芝居がかった口調で、イールドは言った。
「魔王宮です。彼女の出自なら、魔王宮の災害級の魔物にも受け入れられるはずです。」
マロウドは、ため息をついた。
「たしかに、その可能性は考えた。
……ヨウィス。」
部屋の隅で、書類を整理していたもうひとりの秘書が立ち上がった。
フードのしたの顔は、均整が取れて、美しく、すらりと背が高かった。
「彼女は、現役の冒険者としても活動していてね。いろいろ、ツテを使って聞き込みをしてもらっていた。」
「そ、それで!」
「確証はなにもない。」
まったくの無表情で、美女は淡々と言った。
「だが、アルディーンの年代に似合う冒険者が、ここ二日で、178組、魔王宮一層の“舞踏会場”でガイドを雇っている。」
「そ、そんなに!」
「魔王宮は、一定の所までは観光地だから。
ただ、アルディーンの目的から考えるとと、団体ツアーに参加したとは思えない。
単独でガイドを雇ったのは、そのうち7組。アルディーンのツレと思われる少年と一緒になのは、1組だけだった。」
「ならば!」
イールドは身を乗り出した。
「ならば、それが!」
「学院長と黒の聖女は、アルディーンが魔王宮に向かったのではないか、という推論をたてて、わたしに調査をさせた。
そして、一応、それらしき人物を発見した。
情報はそこまでで、なにも確証はない。」
「それでも、その可能性が高いのなら、調査隊を! アルディーン姫のガイドをしてるのは、どこのギルドです?」
「それは教えられない。」
冷たい、というより、無関心。
出来の悪い魔道人形が与えられた知識だけで、回答するような平坦な口調で、ヨウィスは言った。
「なぜだっ!」
「ガイドの身を守るためだ。皇位継承闘いは、人の世の暮らしと魔王宮と。別のところでやってくれ。
そもそも、中央軍は、北方地域の迷宮には立ち入りは出来ない。特別許可をえる方法も、あるが、この状態で、許可がおりるとは思えない。」
イールドは、妙な表情を、浮かべた。
「……我らは、北部軍だ。迷宮への探索は、一般の冒険者と同等の権利を有する。」
「そうだった。」
ヨウィスは、淡々と言った。
「ところで、グリシャム・バッハの居所について、イールドは知らないか?
昨日、正門を出たところで、おまえたちと、グリシャムが交戦しているのは、多くのものが目撃している。
意識を失ったグリシャムを、おまえがどこかに連れ去ったところまでは、調べがついているんだが。」
チッと、舌打ちして、イールドは答えた。
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