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第四章 混迷
第40話 諸共、魔王宮へ
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三人は。
しばし、押し黙った。
彼らはそれぞれの立場で、アルディーンを守護するものであったが、それは立場を必ずしも超えたものではない。
アルディーンが、どうやらアデルのの娘であることは、間違いなく、この度の皇位継承に、否応もなく、巻き込まれている。
そこから、特に、中央軍の企みから、彼女を守るべき立場にあるのは、その通りなのだが、では、アルディーンのために、どうするのが、より良き道なのか。
もとが、クローディア大公国の騎士団を母体とする北方軍。
クローディア家の暗部を担当する銀狐。
アルディーンの祖母を神と奉る戦女神神殿。
それぞれの立場で、考えるに、アルディーンをどうするか、よりも統一帝国との関係や今後をまず考慮せねばならない。
三人は、多少なりとも、アルディーンに接する機会があったから、やっと成人したばかりの彼女に、そんな風に思われている自分を恥じたのだ。とはいえ、それは、それでも、仕方の無いことなのだが。
「ジウル・ボルテック氏が、アルディーンの逃亡に関連している、と?」
ミヤレが、身を乗り出した。
根っからの武闘派である彼女は、アルダーやハイベルクに比べると、頭の回転は鈍い。
「ああ。半年ばかり前から、ジウルの息子で、ジオロというのが、在籍している。」
三人は顔を見合わせた。
「そのジオロ・ボルテックが、魔拳士ジウル・ボルテック本人だというのですかっ!?」
たまりかねたように、ミヤレが
叫んだ。
「いくらなんでも、雑談すぎますっ!!
恐れ多くも、皇帝陛下御自ら、三十年法に従って、皇位を退こうとさせているところに、何故、ジウル・ボルテックが……」
「ジオロは、普通に試験を受けて、魔道院に入学しました。」
聖女のごとき秘書官は、つらつらお答えた。
「授業料もきちんと支払っています。まあ、封印されたはずのボルテック卿の私的な研究室を使用しているようですが、あそこは、魔道院の管轄、と言うより、ボルテック卿の私有物ですからね。
封印を解除する術を知っていたか、その力があったから、そうしたのでしょう。」
三人は、呆然としていた。この情報は、まだ把握していなかったのだ。
「まったくっ!!」
マロウドは、ドンと床を踏み鳴らした。
「ボルテックとヴァルゴールへの贔屓が、露骨すぎる!
もともと、現世の政治には関わるなと、命じておいて、ボルテックには、義体の提供や逃亡の手助けまで、させるのか。」
「ならば、そのジオロとやらを捕縛して……」
「逃げた。」
「は?」
「事務局長と以前から、懇ろな仲なっていたらしい。事務局長の部屋に書き置きがあった。
『わたしは真実の愛を見つけました。この愛に殉じます。』」
「そんな、バカな!」
「そうだ。そんなバカな、だ。
一昨日は、そんな置き手紙は無かったのに、昨日になって、忽然と現れた。
まるで、誰かが、転移魔法でブツを送り込んだように、な。」
マロウドは、ため息をついて、自分のデスクに座り込んだ。
「では、アルディーン姫の居所は……」
ミヤレが泣きそうな顔で言った。
「それについては、わたくしから報告したい件があります。」
アルダー准将が、身を乗り出した。
「我がグランダ駐留部隊のイードル大佐が、姫の逃亡先を、魔王宮だと特定しました。
中央軍の筆頭魔導師グリシャム・バッハ卿に、戦闘を仕掛けられて、やむなく応戦。これを捕らえた際に、得た情報とのことです。
彼は、すでに冒険者を雇って、魔王宮に向かいました。」
「それも知っている。
西域から到着したばかりの冒険者パーティだな。やつらだけでは、心もとない……というか、そこまで、好き勝手にさせるのも癪に障るので、うちの秘書をひとり、同行させた。」
「ひ、秘書を?」
アルダーは、狼狽したように、傍らにたつリーシャの方を見た。
「わたしではありませんわ。わたしも学院長とともに、この件については直接の介入を禁じられております。
向かったのは、ヨウィス。“隠者”ヨウィスと呼ばれるグランダでもトップの冒険者です。」
「そ、それは幸いです。」
と、アルダーは言った。
「ここ数日のイードルの動きに不可解な部分が多く」
「グリシャムへの聞き取りは、北部軍として行ったのか?」
「い、いえ、それは。」
アルダーの顔はしかめられた。
「グリシャム・バッハ卿は、仮死状態のままです。倒した際に、特殊な薬品を口にしたのだ、とイードルは、説明していたそうです。」
「そうです、とは?」
「わたしになんの説明もないまま、卿の身柄は、西域から一緒にやって来た中央魔道士たちに引き渡してしまいました。
もともと独断専行気味の男でしたが、こんな好き勝手をする人物ではなかった。
魔王宮に入るにしても、なぜ、部下の兵士を使わずに、冒険者を雇ったりしたのか。」
アルダーは、舌打ちした。
「問いただそうにも、すでに彼は、魔王宮へと旅立ったあとでした。」
「それはそうだろう。グリシャムの能力は、魂を他人の体に移し替える事であって、それは、必ずしも、魂を交換する必要らない。」
「ああっ!!もう! 学長先生、アルダー閣下。なにが起こってるんです?
わたにもわかるように説明してください!」
戦女神の神官は、悲壮な顔で叫んだ。
「グリシャムは、自分の魂を、イードルに移し替えたのだ。」
マロウドがたんたんと言った。
「はじき出されイールドの魂がどうなったかは、しらない。肉体なしに存在を維持できる魂など、そうはないなら、今頃は、とっくに輪廻の渦に還元されているだろう。
アルディーンの逃げ場所として、魔王宮が有力なのは、グリシャムもわかっていたが、なにしろ、ここ北方では、中央軍が迷宮探索をすることは、厳禁だからね。
そこまで、計算してイールドを乗っ取ったのかは定かないが、まあ、渡りに船、というやつだね。」
しばし、押し黙った。
彼らはそれぞれの立場で、アルディーンを守護するものであったが、それは立場を必ずしも超えたものではない。
アルディーンが、どうやらアデルのの娘であることは、間違いなく、この度の皇位継承に、否応もなく、巻き込まれている。
そこから、特に、中央軍の企みから、彼女を守るべき立場にあるのは、その通りなのだが、では、アルディーンのために、どうするのが、より良き道なのか。
もとが、クローディア大公国の騎士団を母体とする北方軍。
クローディア家の暗部を担当する銀狐。
アルディーンの祖母を神と奉る戦女神神殿。
それぞれの立場で、考えるに、アルディーンをどうするか、よりも統一帝国との関係や今後をまず考慮せねばならない。
三人は、多少なりとも、アルディーンに接する機会があったから、やっと成人したばかりの彼女に、そんな風に思われている自分を恥じたのだ。とはいえ、それは、それでも、仕方の無いことなのだが。
「ジウル・ボルテック氏が、アルディーンの逃亡に関連している、と?」
ミヤレが、身を乗り出した。
根っからの武闘派である彼女は、アルダーやハイベルクに比べると、頭の回転は鈍い。
「ああ。半年ばかり前から、ジウルの息子で、ジオロというのが、在籍している。」
三人は顔を見合わせた。
「そのジオロ・ボルテックが、魔拳士ジウル・ボルテック本人だというのですかっ!?」
たまりかねたように、ミヤレが
叫んだ。
「いくらなんでも、雑談すぎますっ!!
恐れ多くも、皇帝陛下御自ら、三十年法に従って、皇位を退こうとさせているところに、何故、ジウル・ボルテックが……」
「ジオロは、普通に試験を受けて、魔道院に入学しました。」
聖女のごとき秘書官は、つらつらお答えた。
「授業料もきちんと支払っています。まあ、封印されたはずのボルテック卿の私的な研究室を使用しているようですが、あそこは、魔道院の管轄、と言うより、ボルテック卿の私有物ですからね。
封印を解除する術を知っていたか、その力があったから、そうしたのでしょう。」
三人は、呆然としていた。この情報は、まだ把握していなかったのだ。
「まったくっ!!」
マロウドは、ドンと床を踏み鳴らした。
「ボルテックとヴァルゴールへの贔屓が、露骨すぎる!
もともと、現世の政治には関わるなと、命じておいて、ボルテックには、義体の提供や逃亡の手助けまで、させるのか。」
「ならば、そのジオロとやらを捕縛して……」
「逃げた。」
「は?」
「事務局長と以前から、懇ろな仲なっていたらしい。事務局長の部屋に書き置きがあった。
『わたしは真実の愛を見つけました。この愛に殉じます。』」
「そんな、バカな!」
「そうだ。そんなバカな、だ。
一昨日は、そんな置き手紙は無かったのに、昨日になって、忽然と現れた。
まるで、誰かが、転移魔法でブツを送り込んだように、な。」
マロウドは、ため息をついて、自分のデスクに座り込んだ。
「では、アルディーン姫の居所は……」
ミヤレが泣きそうな顔で言った。
「それについては、わたくしから報告したい件があります。」
アルダー准将が、身を乗り出した。
「我がグランダ駐留部隊のイードル大佐が、姫の逃亡先を、魔王宮だと特定しました。
中央軍の筆頭魔導師グリシャム・バッハ卿に、戦闘を仕掛けられて、やむなく応戦。これを捕らえた際に、得た情報とのことです。
彼は、すでに冒険者を雇って、魔王宮に向かいました。」
「それも知っている。
西域から到着したばかりの冒険者パーティだな。やつらだけでは、心もとない……というか、そこまで、好き勝手にさせるのも癪に障るので、うちの秘書をひとり、同行させた。」
「ひ、秘書を?」
アルダーは、狼狽したように、傍らにたつリーシャの方を見た。
「わたしではありませんわ。わたしも学院長とともに、この件については直接の介入を禁じられております。
向かったのは、ヨウィス。“隠者”ヨウィスと呼ばれるグランダでもトップの冒険者です。」
「そ、それは幸いです。」
と、アルダーは言った。
「ここ数日のイードルの動きに不可解な部分が多く」
「グリシャムへの聞き取りは、北部軍として行ったのか?」
「い、いえ、それは。」
アルダーの顔はしかめられた。
「グリシャム・バッハ卿は、仮死状態のままです。倒した際に、特殊な薬品を口にしたのだ、とイードルは、説明していたそうです。」
「そうです、とは?」
「わたしになんの説明もないまま、卿の身柄は、西域から一緒にやって来た中央魔道士たちに引き渡してしまいました。
もともと独断専行気味の男でしたが、こんな好き勝手をする人物ではなかった。
魔王宮に入るにしても、なぜ、部下の兵士を使わずに、冒険者を雇ったりしたのか。」
アルダーは、舌打ちした。
「問いただそうにも、すでに彼は、魔王宮へと旅立ったあとでした。」
「それはそうだろう。グリシャムの能力は、魂を他人の体に移し替える事であって、それは、必ずしも、魂を交換する必要らない。」
「ああっ!!もう! 学長先生、アルダー閣下。なにが起こってるんです?
わたにもわかるように説明してください!」
戦女神の神官は、悲壮な顔で叫んだ。
「グリシャムは、自分の魂を、イードルに移し替えたのだ。」
マロウドがたんたんと言った。
「はじき出されイールドの魂がどうなったかは、しらない。肉体なしに存在を維持できる魂など、そうはないなら、今頃は、とっくに輪廻の渦に還元されているだろう。
アルディーンの逃げ場所として、魔王宮が有力なのは、グリシャムもわかっていたが、なにしろ、ここ北方では、中央軍が迷宮探索をすることは、厳禁だからね。
そこまで、計算してイールドを乗っ取ったのかは定かないが、まあ、渡りに船、というやつだね。」
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