小悪党、転生~悪事を重ねてのし上がって大往生、これでいいやと思ったらなぜか周りが離してくれません

此寺 美津己

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第四章 混迷

第43話 竜の虜囚

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「古竜殿、わたしたちは、あなた方に囚われた、という事になるのですか?」
いくら名家クローディアの養女で、ひょっとすると統一帝国皇帝陛下の気を引いているかもしれない。
それでも、ティーンの口調は丁寧で、無駄な行動(にげようとしたり、反対に攻撃したり)は、一切しなかった。

「そうだな。第三層のこの辺りは、、人間の出入りを禁止してはいないが、その場合は、前もっての申請が必要となる。おまえたちは、申請なく三層に侵入し、高貴なる竜種を傷つけた。」

そう言いながら、ゾールは、嵐竜に治癒魔法を施している。
気絶から覚めた嵐竜は、ゾールにじゃれついた……
もちろん、見た目は牙をがちがち言わせながら、体長50メトルの巨体でのしかかってきているのではあるが、まぎれもなく、それはゾールを認識して、じゃれているのだろう。

およそ、無目的なまでに視界に入ったものを襲う習性のある嵐竜であるが、唯一の例外が古竜である。

「襲われたので応戦しただけです。」
ティーンは、嬉しそうに抗議した。

「だが、逃げるという選択肢もあったはずだ。
申開きがあるなら、あとでゆっくり聞こう。」
「あ、もうひとつ」
「なんだ?」

ゾールは、顔をしかめた。

「仲間が、戦闘で怪我をしています。手当をお願いできますか?」

「見たところ、その少年がいちばん重傷のようだな。
治癒魔法は、使えるか?」
「わたしも、ヒスイ自身も使えます。どこか、横になって休める場所を提供ください。」
「ふむ? 痛むか、ヒスイとやら。」

ぼくは、足に少し体重をかけてみた。
全身を痛みが貫く。
たが、この程度は。
治癒魔法と充分な睡眠で大丈夫だ。

「まあな。出来ればでいい。白酒を一本都合してくれ。」
「消毒にでも使うのか?」
「いや、飲むのさ。」
ぼくはニヤッと笑った。
「痛みには泥酔がもっともよく効くんだ。」

ゾールの目が大きく見開かれた。

「おまえは……」
「ヒスイと言う。ティーンが安全を確保出来るまで、同行するように仰せつかっている。」

ライミアは、面白そうに、ぼくたちを眺めていたが、サリアの肩をポンポンと叩いた。

「では、わたしたちは、ここで失礼する。」

ゾールが、じろりとライミアを睨んだ。
「おまえと賢者殿の弟子が、主に竜を攻撃していたのだが。」

「リンド伯爵の側近と、ウィルニアの弟子を拘束してみるかね、ゾール。」

「後ほど、リンド閣下と賢者殿には、我が神竜より、申し入れをさせてもらう。」



おまえはひとりで歩けるな?
と、ティーンに念を押してから、ゾールは、ぼくを見えない力場で包んだ。
ぼくの体は、まったく力を入れずに立ち上がり、ゾールの向かう方向へふわふわと漂った。

古竜が、その背に人間をのせるときに使う力場だ。

「竜の背に乗る」は、常套句として、勇気ある行いをする、または、大変な名誉を得る、という意味に使われるが、文字通り「乗る」のではない。
特殊な力場を発生させて、それに人間を包んで一緒に飛行するのだ。
でなければ、竜の飛ぶ高度に、その急加速に、人間の体は耐えきれない。

その力をゾールは、「拘束して、連れ歩く」ことに応用している。

「見事なものだよ、ゾール。」
ぼくは、力場のなかから、ゾールに話しかけた。
「竜のもつ力の応用、という訳だ。。強大すぎて、周りにも被害を及ぼしてしまう竜の力を制限しつつ、相手を無傷で無力化できる。」

第三層は、竜たちの巣窟だ。
知性をもつ竜。いわゆる古竜だけで、八柱いるという。
構造は、二種類に分かれている。
二十メトルを越える巨体が動き回るための、広々とした大空洞と、それに付随した桟道。
こちらは、造りこそは、しっかりとしているものの、手すりなどは、考慮されていない。

この造りには、見覚えがあった。
昔の銀灰皇國でよく見た。

全員が飛翔、または浮遊の魔法を使えるのが当たり前であるがゆえに、転落の危険など度外視した造り方。

実際、このような道が有るだけマシだ。
道の幅は十分ある。
高所が苦手でなければ、けっして歩きにくい道ではない。

「ティーンも一緒に運んではもらえないか。」

ぼくはたずねてみた。
ティーンは気丈で、体力も十分だとは思うが、実際には、どこまで気力が持つかわからない。
少なくとも肝心カナメには、ティーンが交渉するしかないのだ。

そして。
人を越えた存在、“超越者”を一番、がっかりさせるのは、対峙した人間が威圧に負けて、ひと言も口が効けなくなることだった。
いまのところ、ゾール。
かつて、“神竜の鱗”をめぐって、竜の都や人間界を騒がせた“深淵竜”殿に対峙して、なお、ティーンはびくともしなかった。だが、リアモンドは、そも古竜ゾールをしても格が違うのだ。

少しでも、ティーンの消耗を避けたかったのだが。

ゾールの返事は
「一度に力場に包めるのは、一人だけだ。」
というツレナイものだった。

「わたしは、大丈夫よ。」
ティーンはケナゲに言った。
「それより、ヒスイ。これはうまくいってるのよね。わたしには、理想的にことが運んでいるとしか、思えないんだけど。」

「その理解で合っている。」
ぼくは答えた。
「ぼくらは、迷宮内のルールに違反して囚われたんだ。もし、追っ手が来ても、おいそれと引き渡されることはない。」

「竜が自主的に保護したのなら、そうはいかなくなるからね。」
ティーンは、ゾールにウィンクした。
「これは、あなたの知恵なのでしょうか、ゾール殿。」

ゾールは面白くなさそうに、ティーンとぼくを一瞥した。

「リアモンドさまは、今、不在だ。おまえをするか。
それはすなわち、古竜が統一帝国の継承にどう関わるかという意味になるのだが。
その判断をリアモンドさまに仰ぐために、一時、おまえたちを拘束するだけだ。これで古竜が味方についたと、 夢にも思わんことだな。」
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