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第9部 道化師と世界の声
ベータのパーティ
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フィオリナとベータが、少々険悪になったのは、海竜の死体を巡ってのものだった。
ベータたち、カザリームの「踊る道化師」が請け負った任務は、海竜の「排除」であり、その体から採取できる素材は、もらっていいものであった。
だが、全身が宝箱といっていい古竜に比べればその体で価値のある部分は、ほとんどない。
解体して持ち帰りたいと主張するベータに対して、一刻も早くリウに会いたいフィオリナは、そんなものはほっておくように要求したのだ。
解決案としては、フィオリナたちの乗った船はこのまま、カザリームの港をめざし、ベータはここで、海竜の死骸から必要な部位の採取を心ゆくまで行う。
ということに、なるはずだがこれには、ベータが難色を示した。海竜は巨大であり、使える部位は、本物の竜ほど多くは無い。下手をすれば、半日かそれ以上かかるだろう。
なんとなく、ベータはフィオリナを、リウと2人きりで合わせたくなかった。
多分に直観的なものではある。
ベータは、フィオリナが、ルトと婚約しているものだと思っていた。
それは正しいのだが、リウたちがカザリームに来たのが、リウとフィオリナの浮気の結果だということは知らない。
それでも、ベータはざわざわするのだ。
自分がリウから愛されていることへの不安は無い。だが、自分と似たような顔立ちで、研ぎ澄まされた剣のような美貌をもつこの少女にも、リウの愛が向かわないか、はなはだ不安であったのだ。
二人がそんな言い争いを始めたので、空中に、持ち上げられていた船の着水は若干、雑になった。
貴重な工芸品などは、積んでいなかったが、もしそうならかなり不味いことになっただろう。
あるいは、このときまで、乗客、船員ともにまったくの無傷だったのが、着水のショックで転倒したり、どこかを、ぶつけたりで、軽傷ながら何人かけが人がでたのだ。
グルジエンは、ふたりを止めに入った。
彼女の異界ならば、海竜をそのまま、収納出来る。妥協案としてはそんなところだろう。
フィオリナは、ベータと一緒に「飛んで」行こうとしたが、船長が止めた。
もともカザリームの人間であるベータを除いては、船がつけばそのまま、入国審査がある。
それをすっとばして、カザリームに入るとあとあと、いろいろとやっかいなことになりかねないという、彼の主張をもっともだと
思ったのか、ベータがちゃっかり、船に乗り込んで、フィオリナたちと行動を共にすることになった。
------------------------
フィオリナとグルジエンのもつ、銀級の冒険者証は、通行手形としては、西域では最高のもののひとつに数えられるだろう。
あくまで、冒険者としての訪問並びに滞在であるため、到着後は速やかに、どこかの冒険者ギルドへの登録は義務付けられているが。
もっとも入国審査の実手続きにあたった審査官は、むしろ好奇心をいっぱいにして、尋ねてきた。
「あんたたちが、『踊る道化師』の増援かい?
じゃあ、例の噂ってのは本当なんだな。」
例の噂、に怪訝そうな顔をするフィオリナに、審査官は声をひそめた。
「『栄光の盾』トーナメント、だよ。なぜか、踊る道化師も参加するんじゃないかって噂が飛び交ってる!
リウは出ないって噂だし、銀雷の魔女を出しちまうと、『踊る道化師』が有利になりすぎてしまって、賭けが成立しなくなる。なので、ソコソコのメンバーを呼び寄せるんじゃないかってもっぱらの噂だったんだが。」
「あら。」
フィオリナは、特大の猫を被り直しながら、愛想良く笑った。
「わたしたちは、リーダーから『火急、カザリームに向かうよう』指示されただけで、なにも聞かされてないんです。」
「そりゃあ、お気の毒だ。」
事情もわからず、東奔西走させられる下っ端メンバーの悲哀は、彼自身にもつうじるところがあったのか、審査官は同情するように言った。
「なかなかの参加パーティがそろいそうだぞ。カザリームでも指折りの冒険者『氷の貴婦人』ロウラン・アルセンドリックのパーティには、なんと、踊る道化師から、真祖吸血鬼リンドを貸してもらうように話をつけたらしい。」
フィオリナは、なにも言わなかった。
ただ、笑みがいっそう濃くなっただけだ。
「銀雷の魔女は、なんとミトラから、勇者クロノと彼のパーティである『愚者の盾』の参加を取り付けたらしい。
教皇庁にまで、そんなコネがあるなんてさすがは銀雷の魔女だ。」
「・・・・・・」
「あとは、『魔王の卵』ドゥルノ・アゴンとその配下のメンバーで構成されたパーティ。いまのところ、この三つが優勝の最有力候補だ。
ベータ・グランダも有力候補だったんだが、ここはメンバー選びに苦戦している。元恋人と現恋人に話を持っていったんだがすげなく断られたらしい。」
「・・・とにかく、なにも聞いていませんので。」
ちょっと強ばった笑いのフィオリナの首を、後ろから抱きしめたものがいた。
「このコたちは、わたしのパーティメンバーになるんだよっ!」
ベータは快活に、そう言いながら、もう片方の手で、グルジエンの髪を引っ張った。
「ベータさん、ここは入国審査場です。部外者のかたの入場は」
「硬いことは、言うなかれっ!
審査はもういいよね。細かい事情は、わたしが事務所に行くまでの馬車の中ででも説明するわ。」
ベータたち、カザリームの「踊る道化師」が請け負った任務は、海竜の「排除」であり、その体から採取できる素材は、もらっていいものであった。
だが、全身が宝箱といっていい古竜に比べればその体で価値のある部分は、ほとんどない。
解体して持ち帰りたいと主張するベータに対して、一刻も早くリウに会いたいフィオリナは、そんなものはほっておくように要求したのだ。
解決案としては、フィオリナたちの乗った船はこのまま、カザリームの港をめざし、ベータはここで、海竜の死骸から必要な部位の採取を心ゆくまで行う。
ということに、なるはずだがこれには、ベータが難色を示した。海竜は巨大であり、使える部位は、本物の竜ほど多くは無い。下手をすれば、半日かそれ以上かかるだろう。
なんとなく、ベータはフィオリナを、リウと2人きりで合わせたくなかった。
多分に直観的なものではある。
ベータは、フィオリナが、ルトと婚約しているものだと思っていた。
それは正しいのだが、リウたちがカザリームに来たのが、リウとフィオリナの浮気の結果だということは知らない。
それでも、ベータはざわざわするのだ。
自分がリウから愛されていることへの不安は無い。だが、自分と似たような顔立ちで、研ぎ澄まされた剣のような美貌をもつこの少女にも、リウの愛が向かわないか、はなはだ不安であったのだ。
二人がそんな言い争いを始めたので、空中に、持ち上げられていた船の着水は若干、雑になった。
貴重な工芸品などは、積んでいなかったが、もしそうならかなり不味いことになっただろう。
あるいは、このときまで、乗客、船員ともにまったくの無傷だったのが、着水のショックで転倒したり、どこかを、ぶつけたりで、軽傷ながら何人かけが人がでたのだ。
グルジエンは、ふたりを止めに入った。
彼女の異界ならば、海竜をそのまま、収納出来る。妥協案としてはそんなところだろう。
フィオリナは、ベータと一緒に「飛んで」行こうとしたが、船長が止めた。
もともカザリームの人間であるベータを除いては、船がつけばそのまま、入国審査がある。
それをすっとばして、カザリームに入るとあとあと、いろいろとやっかいなことになりかねないという、彼の主張をもっともだと
思ったのか、ベータがちゃっかり、船に乗り込んで、フィオリナたちと行動を共にすることになった。
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フィオリナとグルジエンのもつ、銀級の冒険者証は、通行手形としては、西域では最高のもののひとつに数えられるだろう。
あくまで、冒険者としての訪問並びに滞在であるため、到着後は速やかに、どこかの冒険者ギルドへの登録は義務付けられているが。
もっとも入国審査の実手続きにあたった審査官は、むしろ好奇心をいっぱいにして、尋ねてきた。
「あんたたちが、『踊る道化師』の増援かい?
じゃあ、例の噂ってのは本当なんだな。」
例の噂、に怪訝そうな顔をするフィオリナに、審査官は声をひそめた。
「『栄光の盾』トーナメント、だよ。なぜか、踊る道化師も参加するんじゃないかって噂が飛び交ってる!
リウは出ないって噂だし、銀雷の魔女を出しちまうと、『踊る道化師』が有利になりすぎてしまって、賭けが成立しなくなる。なので、ソコソコのメンバーを呼び寄せるんじゃないかってもっぱらの噂だったんだが。」
「あら。」
フィオリナは、特大の猫を被り直しながら、愛想良く笑った。
「わたしたちは、リーダーから『火急、カザリームに向かうよう』指示されただけで、なにも聞かされてないんです。」
「そりゃあ、お気の毒だ。」
事情もわからず、東奔西走させられる下っ端メンバーの悲哀は、彼自身にもつうじるところがあったのか、審査官は同情するように言った。
「なかなかの参加パーティがそろいそうだぞ。カザリームでも指折りの冒険者『氷の貴婦人』ロウラン・アルセンドリックのパーティには、なんと、踊る道化師から、真祖吸血鬼リンドを貸してもらうように話をつけたらしい。」
フィオリナは、なにも言わなかった。
ただ、笑みがいっそう濃くなっただけだ。
「銀雷の魔女は、なんとミトラから、勇者クロノと彼のパーティである『愚者の盾』の参加を取り付けたらしい。
教皇庁にまで、そんなコネがあるなんてさすがは銀雷の魔女だ。」
「・・・・・・」
「あとは、『魔王の卵』ドゥルノ・アゴンとその配下のメンバーで構成されたパーティ。いまのところ、この三つが優勝の最有力候補だ。
ベータ・グランダも有力候補だったんだが、ここはメンバー選びに苦戦している。元恋人と現恋人に話を持っていったんだがすげなく断られたらしい。」
「・・・とにかく、なにも聞いていませんので。」
ちょっと強ばった笑いのフィオリナの首を、後ろから抱きしめたものがいた。
「このコたちは、わたしのパーティメンバーになるんだよっ!」
ベータは快活に、そう言いながら、もう片方の手で、グルジエンの髪を引っ張った。
「ベータさん、ここは入国審査場です。部外者のかたの入場は」
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