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第7話 叔父とふたりの姉
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さて、ルドルフ亡きあと、ミイナを追い出したアルセイ、マハラ、ジュリエッタだが、すぐに愕然とすることになった。
各種の財産目録、権利書などを提出するように指示を受けたメイド頭は、あっさりとそれを拒否した。
「今さら、あの小娘に味方しても意味はないぞ。」
アルセイは、メイド頭のまったく表情を変えぬ顔に、威嚇の言葉をぶつけた。
「あいつは、ここを出て行った‥‥自ら、アルセンドリック家の後継者について、意見を述べる機会を放棄して、出て行ったのだ。
下々のおまえらに、話をしてやるのもバカらしいが、我々貴族には、権利と引き換えに義務を放棄することが出来る。あの小娘は、それを放棄した。もはや、この家に口出しする権利はない。」
「貴族法後継者決定についての細則七条四項の、後継者の権利放棄についてのお話をされているのでしょうか?」
分厚い眼鏡の下で、メイド頭の眼がキラリ光った。
「もともとはお家争いが激化して、命の危険が甚だしい場合、一定の資産の受け取りと引き換えに、後継者の地位からの遺脱、および後継者争いに一切の干渉の権利を放棄するものです。実施細則には所定の書式をもって、本人が資産管理局に申請することになっておりますが、ルドルフさまが亡くなられて、昨日の今日でそのような手続きが行われているとは、知りませんでした。」
「反抗罪よ!」
シャルロットが無邪気そうに叫んだ。
「誰か、このメイドを捕まえて! 広場で鞭打ちの上、解雇します。」
「まあまあ。」
アルセイはニヤリと笑った。
「別にわたしは、そこまで残酷なことはしたくない。大人しく財産目録と権利書、屋敷の鍵類一切を差し出して貰えば、ただの解雇で済まそう。」
「存じません。」
「おい、こいつを裸に向け。ここでわし自ら鞭をくれてやる!」
「鍵の管理は、執事頭のゼパスの役目です。彼なら、あるいは権利書の場所も知っていたかも知れませんが、わたしたちには、一切わかりません。」
誰だ、ゼパスを追い出したのは!
と、アルセイは、喚いたが、さすがにこれには、マハルとシャルロットも冷たい目を向けた。
おまえだろう!?
ふん!
アルセイは、どっかりと腰を下ろすと、メイド頭に命じた。
「ゼパスは、わしの手のものに探させる。ならおまえは、おまえの出来ることをやれ。もっと食い物と酒を出すんだ。吸血鬼用のふざけた代物ではなく、一番、上等のやつを、だ。」
「わたしたちは、ミイナの寝室を見せてもらうわ。」
マハルは、シャルロットを促して、立ち上がった。
「あの子の暮らしぶりが心配だから、どんなところで生活してたのか見てあげたいかの、それまで、邪魔はしないわよね?」
「予告の無い、お客様に出せるのは軽食まで。」
メイド頭はそっけなく言った。
「それ以上のものを、お出しする際には、当主または、その配偶者の判断によりますりら。また、お客人は、この応接室から奥には出入りいただくことはできません。
とはいえ。」
メイド頭の眼鏡がまた、キラリと光った。
「ほかならぬ、ご親族の皆さま方。ミイナさまの寝室にはご案内いたします。
アルセイ閣下はこちらで、ワインでもお召し上がりながら、お待ちください。」
マハルと、シャルロットは。
もちろん、アクセサリーや貴金属の類を物色するつもりだった。
彼女たちから見ても、あまり、質がいい(この場合は二枚目かどうか、だ)とはいえない、執事見習いに、先導されて、地下に降りる。
もともと、この屋敷で育ったマハルとシャルロットだが、こんなところには来たことがなかった。
天井あたりにあかりとりの窓はあるが、薄暗く、先導の若者は燭台をもっていた。
「こちらです。」
と、言われて入った部屋は、せまく、家具といえばベットに衣装棚。
ここもあかりとりの窓が、申し訳程度に、天井付近に開いていた。
「ここが、ミイナの寝室!?」
マハラは、振り返って執事見習いを問い詰めたが、彼は深く頭を下げた。
「はい。実際に、昨晩もこちらでお過ごしになっています。」
「わかったわ。」
マハルは、そう言った。
「しばらく、わたしと、シャルロット、2人きりにさせて欲しいの。誰も入って来れないように鍵をかけて貰えるる?」
「かしこまりました。」
執事見習いは、なにも言わずに、部屋を出た。ガチャリと錠のかかる音がした。
さて。
と、ふたりの姉は、金目のもの。アクセサリーや貴金属(できれば現金)を物色し始めた。
「なにがどうなってるの?」
半時間ほどでまず、シャルロットが音を上げた。
タンスの着替えは寝巻きに、部屋着が数点。アクセサリーどころか化粧道具すらそろっていない。
マハルは、しつこく、ベットをずらし、タンスを引き抜いて探し続けたが、なにも見つからなかった。
諦めて出ようとして。
彼女たちは、ドアに鍵がかけられているのに、気がついた。
よく見れば、扉は頑丈な鉄製で。
押しても引いても、びくともしなかった。
鍵をかけるように、確かに言ったが、まさか、内側からも開けられないとは、思いもしない。
「ち、ちょっと、姉様。」
シャルロットが、半べそをかきながら言った。
「ここって。前にミイナを閉じ込めていたあの」
「やめてよ!」
マハルは、叫んだ。
気がつくと、天井脇のあかりとりの窓から差し込む日は、すでに 傾いている。
「こんなところ、もう、いられないわ!」
シャルロットは、ドアを叩いた。
「誰か! 誰か来て! 開けて! ここを開けるのよ!」
むかしむかし。
とは言ってもほんの10年ほど前。
ミイナは、ここに、閉じ込められていた。
二人の姉がこの短時間で悲鳴をあげた部屋に約8年。幽閉されて過ごしたのだ。食事として、出された残飯を食い繋ぎながら。
もともとは、手癖が悪かったり、不始末を起こした召使いの懲罰部屋だったらしい。
なので、人気はなく、ちょっとやそっと、呼んでも誰にも聞こえないのであった。
各種の財産目録、権利書などを提出するように指示を受けたメイド頭は、あっさりとそれを拒否した。
「今さら、あの小娘に味方しても意味はないぞ。」
アルセイは、メイド頭のまったく表情を変えぬ顔に、威嚇の言葉をぶつけた。
「あいつは、ここを出て行った‥‥自ら、アルセンドリック家の後継者について、意見を述べる機会を放棄して、出て行ったのだ。
下々のおまえらに、話をしてやるのもバカらしいが、我々貴族には、権利と引き換えに義務を放棄することが出来る。あの小娘は、それを放棄した。もはや、この家に口出しする権利はない。」
「貴族法後継者決定についての細則七条四項の、後継者の権利放棄についてのお話をされているのでしょうか?」
分厚い眼鏡の下で、メイド頭の眼がキラリ光った。
「もともとはお家争いが激化して、命の危険が甚だしい場合、一定の資産の受け取りと引き換えに、後継者の地位からの遺脱、および後継者争いに一切の干渉の権利を放棄するものです。実施細則には所定の書式をもって、本人が資産管理局に申請することになっておりますが、ルドルフさまが亡くなられて、昨日の今日でそのような手続きが行われているとは、知りませんでした。」
「反抗罪よ!」
シャルロットが無邪気そうに叫んだ。
「誰か、このメイドを捕まえて! 広場で鞭打ちの上、解雇します。」
「まあまあ。」
アルセイはニヤリと笑った。
「別にわたしは、そこまで残酷なことはしたくない。大人しく財産目録と権利書、屋敷の鍵類一切を差し出して貰えば、ただの解雇で済まそう。」
「存じません。」
「おい、こいつを裸に向け。ここでわし自ら鞭をくれてやる!」
「鍵の管理は、執事頭のゼパスの役目です。彼なら、あるいは権利書の場所も知っていたかも知れませんが、わたしたちには、一切わかりません。」
誰だ、ゼパスを追い出したのは!
と、アルセイは、喚いたが、さすがにこれには、マハルとシャルロットも冷たい目を向けた。
おまえだろう!?
ふん!
アルセイは、どっかりと腰を下ろすと、メイド頭に命じた。
「ゼパスは、わしの手のものに探させる。ならおまえは、おまえの出来ることをやれ。もっと食い物と酒を出すんだ。吸血鬼用のふざけた代物ではなく、一番、上等のやつを、だ。」
「わたしたちは、ミイナの寝室を見せてもらうわ。」
マハルは、シャルロットを促して、立ち上がった。
「あの子の暮らしぶりが心配だから、どんなところで生活してたのか見てあげたいかの、それまで、邪魔はしないわよね?」
「予告の無い、お客様に出せるのは軽食まで。」
メイド頭はそっけなく言った。
「それ以上のものを、お出しする際には、当主または、その配偶者の判断によりますりら。また、お客人は、この応接室から奥には出入りいただくことはできません。
とはいえ。」
メイド頭の眼鏡がまた、キラリと光った。
「ほかならぬ、ご親族の皆さま方。ミイナさまの寝室にはご案内いたします。
アルセイ閣下はこちらで、ワインでもお召し上がりながら、お待ちください。」
マハルと、シャルロットは。
もちろん、アクセサリーや貴金属の類を物色するつもりだった。
彼女たちから見ても、あまり、質がいい(この場合は二枚目かどうか、だ)とはいえない、執事見習いに、先導されて、地下に降りる。
もともと、この屋敷で育ったマハルとシャルロットだが、こんなところには来たことがなかった。
天井あたりにあかりとりの窓はあるが、薄暗く、先導の若者は燭台をもっていた。
「こちらです。」
と、言われて入った部屋は、せまく、家具といえばベットに衣装棚。
ここもあかりとりの窓が、申し訳程度に、天井付近に開いていた。
「ここが、ミイナの寝室!?」
マハラは、振り返って執事見習いを問い詰めたが、彼は深く頭を下げた。
「はい。実際に、昨晩もこちらでお過ごしになっています。」
「わかったわ。」
マハルは、そう言った。
「しばらく、わたしと、シャルロット、2人きりにさせて欲しいの。誰も入って来れないように鍵をかけて貰えるる?」
「かしこまりました。」
執事見習いは、なにも言わずに、部屋を出た。ガチャリと錠のかかる音がした。
さて。
と、ふたりの姉は、金目のもの。アクセサリーや貴金属(できれば現金)を物色し始めた。
「なにがどうなってるの?」
半時間ほどでまず、シャルロットが音を上げた。
タンスの着替えは寝巻きに、部屋着が数点。アクセサリーどころか化粧道具すらそろっていない。
マハルは、しつこく、ベットをずらし、タンスを引き抜いて探し続けたが、なにも見つからなかった。
諦めて出ようとして。
彼女たちは、ドアに鍵がかけられているのに、気がついた。
よく見れば、扉は頑丈な鉄製で。
押しても引いても、びくともしなかった。
鍵をかけるように、確かに言ったが、まさか、内側からも開けられないとは、思いもしない。
「ち、ちょっと、姉様。」
シャルロットが、半べそをかきながら言った。
「ここって。前にミイナを閉じ込めていたあの」
「やめてよ!」
マハルは、叫んだ。
気がつくと、天井脇のあかりとりの窓から差し込む日は、すでに 傾いている。
「こんなところ、もう、いられないわ!」
シャルロットは、ドアを叩いた。
「誰か! 誰か来て! 開けて! ここを開けるのよ!」
むかしむかし。
とは言ってもほんの10年ほど前。
ミイナは、ここに、閉じ込められていた。
二人の姉がこの短時間で悲鳴をあげた部屋に約8年。幽閉されて過ごしたのだ。食事として、出された残飯を食い繋ぎながら。
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