異世界でダンジョン壁に転生したけど、マスコット的な存在としてメタルスライムに擬態します!

聖斗煉

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 私の視界に入ったのは、洞窟の暗がりから浮かび上がった小柄で醜悪な姿だった。緑色の肌と鋭い牙、見開いた黄色い目がこちらをじっと見据えている。ゴブリンだ。しかも、ただの雑魚ではない。
 歪んだ鉄片を鎧に縫い付け、手には錆びたナイフを握っている。

「この鎧と盾、武器があればきっと大丈夫……スライムさんと練習したとおりに」

 私の心は恐怖と緊張でいっぱいだったけれど、同時に好奇心も湧き上がっていた。今まで練習でしか使ってこなかったスキルを初めて実戦で試す機会だった。

 ゴブリンは甲高い鳴き声を上げると、短剣を振りかざしながら突進してくる。私は心の中で集中を深め、発動した。

「やああああああああああああ」

 スキルをまずは試す。

「疾風迅雷!」

 一瞬で体が軽くなり、周囲の空気が変わったのを感じる。私の視界の端に映るものがわずかに歪んだように見えた。自分の動きが信じられないほど速くなっている。ゴブリンの目の前をすり抜け、背後に回り込んだ。

「追撃!」

 速度を活かして一撃目を与え、さらに続けざまにもう一撃。追撃は二撃分のダメージを与える。
 剣がゴブリンの背に突き刺さり、予想以上のダメージを与えられたのがわかった。ゴブリンはぎゃっと叫び、体勢を崩しながら振り返るが、私はさらに距離を取り、戦況を冷静に見極めた。

「このまま畳みかける…!」

 さらに、素早さを上昇させるスキルを重ねがけして、動きの遅いゴブリンに一方的に攻撃を浴びせ続けた。ゴブリンは攻撃を防ぐ間もなく、うまく私の動きを追いきれずにいる。

 しかし次の瞬間、ゴブリンの手から不意に土煙が巻き上がった。私が一瞬、視界を奪われたその隙を狙って、2体目のゴブリンは鋭い牙をむき出しにしながら接近してきた。

「スパーク!」

 瞬時に電撃の火花が放たれ、ゴブリンの体にしびれが走った。その目が一瞬、虚ろになり、手にしていた短剣を地面に落とした。今が好機だ。

「針攻撃!」

 私は両手で持つ剣の先から無数の針を放ち、ゴブリンの全身に突き刺した。小さな針が次々と皮膚に食い込むたびに、ゴブリンは痛みに身をよじらせて悲鳴を上げた。そのまま ゴブリンは地面に沈む。とどめだ。

「火矢!」

 私は意識を集中し、剣に炎を宿らせると、それをゴブリンへと撃ち放った。火矢は空を切り裂き、まっすぐゴブリンの胸に命中する。赤い炎が一気に広がり、ゴブリンの体を包み込んだ。やがてその体は動かなくなり、炎と共に灰になった。

 次の戦闘は、その直後に起こった。再びダンジョンの奥へと足を踏み入れると、2匹のゴブリンが待ち伏せしていた。今度は数が多い。状況はかなり不利だったが、私は冷静に息を整えた。

「土壁!」

 二匹のゴブリンに対して、私はまず守りを固めることにした。瞬時に土がせり上がり、分厚い壁を作り出して、目の前に立ちはだかる。ゴブリンたちは壁に当たって足止めされ、悔しそうに壁を叩きながら威嚇の声を上げている。

「完全睡眠!」

 私はその隙をついて、眠りの魔法をゴブリンに向けて放った。眠りに誘う柔らかな光がゴブリンの瞳に届くと、1匹がうとうととし始め、ついには地面に崩れ落ちた。これで、1対1だ。

 残ったもう1匹のゴブリンが怒り狂って私に向かって突進してきたが、今の私はさっきとは違う。自分のスピードとスキルを組み合わせ、正面から迎え撃つ覚悟を決めた。

「強度上昇!」

 腕に力を込め、自らの耐久力を引き上げるスキルを発動する。これで多少の攻撃は防げるはずだ。ゴブリンが突き出した刃が私の腕に当たったものの、強度上昇のおかげでほとんどダメージを受けなかった。

「針攻撃!」

 すかさず私は両手から再び針を放ち、ゴブリンの顔に命中させた。視界を失ったゴブリンが叫び声を上げ、混乱する隙に私は距離を取って「火矢」を準備した。

「火矢!」

 再び炎の塊が矢となり、ゴブリンへと突き刺さる。
 今回は頭部を正確に狙った。矢が命中した瞬間、ゴブリンの表情が苦痛に歪み、そのまま地面に崩れ落ちた。

 数回の戦闘を終え、私は汗をぬぐいながら少しだけ休憩を取った。

「驚いた。シャリアは結構戦闘センスがあるかもしれないね」
「そう?」
「ああ、そうだ。それを活かす戦闘力が今までなかっただけだよ」

 しかし、まだ出口は見つけ出せていない。ゴブリンの戦闘もまだあるだろう。
 それまで休みを入れながらダンジョン内を進むのだった。
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