破滅の芽は根っこから 第一部 解離の片割れ異世界へ編

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 エレナの行動は単純だった。
 とにかく、皇太子と身を寄せ合い、周囲にそれを見せつける。それがどれだけ愚かな行動かを知らない彼女は万面の笑みで私にその視線を向けてくる。

 ただ、予想外だったのが一向にラドルクには関心を向けない事だった。見目の良さならラドルクの方が良い。彼女は立場や権威にのみ興味があるのかしら。

 でも、そうならばプルメリアに盾を付いたのにも少しは納得がいく。どんなに頑張ってもプルメリアが存在している限り立場を覆す事は出来ないから。

 この国の唯一の公女。
 それがプルメリアの立場だから。

 それ以上の存在はこの世界には皇妃と王女しか居ない。
 まぁ、それも言ってしまえば勘違いなのだけど、あの子は平民だから貴族社会の事情を知る機会も情報を得る手段もないのだろう。

 だって、これは公然の事実でありながら王家に緘口令が引かれたものだから。

 でも、お陰で周囲の状況は明解なものだった。
 エレナに与する無能。
 その無能を嘲笑う無能。
 自分に咎が及ばないように息を潜める無能。
 己の立場を理解して距離を置く凡人。

 相手にもしていない有能な者、の構図がね。

 無能の親は無能。凡人と有能の親は凡人か有能。って所ね。

 多少、派閥、系譜などの影響は有るだろうけど、それを考慮しても有能な子も親も少ない。これが貴族というのなら無くなった方が良いのではないかしら。

 己の役割も分からない無能達はいなくなれば良い。

「目星はついた?」

「うん、声もかけて来た」

「そう。顔合わせは早い方が良いわ」

「もう来るよ。…ほら」

 有能の極みのような男。
 プルメリアと交わってからこの男の事は良く知っているつもりだったけど、本当に底がしれない。

 プルメリアの記憶の中の男は有能な優男程度だった。
 でも、目の前にいるこの男はそれすら彼の一端でしかなかったのだと主張してくる。

「お初にお目にかかります、サードン伯爵家のリード・サードンと申します」

 リード・サードン。
 この男は前騎士団長のグリフ・サードンの息子。
 現騎士団長の甥で、あの女に与してる無能男の従兄弟に当たる。
 その有能さは国内外にも知れ渡る程で剣の腕前はこの国のナンバー2。

 戦略家とも評されていて、今はまだ学生と言う身分から騎士団の参謀補佐官として時折助言をする程度らしいが卒業後には正式に参謀としての地位も約束されていて今最も次期騎士団長に近い男と言われている男。

「僕はクロード。クロード・キアニス、キアニス侯爵家の次男です」

 クロード・キアニス。
 この男は少し厄介な家の出身だけど、ラドルクが呼んだのなら問題はない、と言うことなのかしら。

 キアニス侯爵家は王国の闇を預かる一族。
 元々は伯爵家だったが、先代の王の失態時に王を討つのに一役買ったがキアニス家だ。
 領土を広げる事に賛同した貴族達は自分達の立場を守る為に相当抵抗したらしいが、キアニス家のお陰ですぐに片が付いたと聞いている。公爵も一目置いていた。

「私も自己紹介が必要でしょうか?プルメリア様」

 ルドニク・ガル・ネピア。
 そう、ラドルクの双子の弟。彼も兄同様有能な男だけど、ルドニクの方はそれを表に出す気はないらしい。
 と言うのも、ラドルクが陽の人間なら彼は陰の人間で本当に双子とは思えないくらいに腹黒い。ラドルクも腹の中が見えない所はあるが、基本的には優しい所があるが、此奴は清々しい顔で人を斬りつけられるくらいに残酷な男。

「あなたは良いわ。皆んなも知ってるでしょうから」

 そして私も自己紹介なんて必要ない。
 この国の貴族にプルメリアのことを知らない者は一人としていない。知ったきっかけも、内容も色々有るだろうけど、それでもプルメリアはこの国の公女であり、皇太子の婚約者。

「それで、此処に来たと言う事は協力する意思があると受け取って良いのかしら」

「そうですね。寧ろ、早く殺したいくらいなのですが」

「目障りなのは同感ですが、いくら貴方が暗殺を許可された家の人間でも命令もなく殺れる訳ではないのでは?」

「命令ならプルメリア様が出せるじゃん?」

 血の気の多い事で。

「確かに、目障りだから殺したい所なのだけどあの子にはまだ使い道があるの」

「それはどんな使い道なのでしょうか?」

 リードは根っからの騎士。
 学生だから、と参謀補佐官(文官扱い)止まりではあるものの、そのくせ参謀補佐の仕事に留まらないことまでさせられている。

 本当におかしな話よね。

 ラドルクは既に騎士として働いているのにも関わらず何ですもの。彼に騎士団に入られたら困る方が居るのかしら?

「貴方の騎士団長への道を奪い、無能なくせに我が物顔で取ろうとしてるアイツらをこの世から消す為に使うの」

「へぇ~、面白そうですね?」

「クロード、貴方にも協力する利点があるわ」

 幼げな表情を途端に鋭い目つきに変える。

 ラドルクが今にも飛びかかって来そうなクロードと私の間に入るように立つ。まぁ、彼の生い立ちを考えれば今は仕方がない事だけど。

 彼の家は先代皇帝を討つ際に大いに活躍したにも関わらず、国民の混乱を、という名目で皇帝の死は病死という事にされてしまったから、その貢献度はあまり知られていない。

 とりあえず、彼らの地位を上げる事で納得させたと思っているようだけど、そんなわけが無い。彼らが齎したのは大量の情報。
 たくさんの貴族が失脚するに値する膨大な量のそれを集めるのに彼らがどれだけの時間をかけたことか。
 ——領民を飢えさせて私腹を肥やした伯爵、
 密売で戦争を長引かせた侯爵。
 名前を一つ挙げるだけで、一つの家が終わるような証拠ばかりだ。

 …プルメリアと同じ思いを持っていると私は思っている。プルメリアの家も国民のためと言われれば泣く泣く受け入れるしか無かったのだ。
 娘がどれだけ苦しい思いをしても。

「まぁ、いいや。僕にとっては君が利用価値だし」

「確かにそうね?」

「それで?ラドルクが君を手伝うのはまぁ…分かるしとして。弟君は?」

 にっこりと笑って見せるルドニクにクロードはピクッと眉根を動かす。この嘘くさい笑顔に嫌悪感を抱くのは分かる。クロードとは気が合いそう。

「私が手伝う理由を知るのは必要ですか?」

「知っておきたいさ。こっちの事を勝手に調べておいて自分達は何も言いませんって都合良すぎない?」

「ルドニクは私のだから」

「はぁ?」

 知らない者は多い事実、か。ラドルクとルドニクは私の呪いによく関わっている二人。
 特にルドニクは自分のせいでプルメリアに深い傷を負わせて、兄から婚約者を奪ったと思っている。
 贖罪の意味でプルメリアに貢献して来た男。

「納得いかないなら、貴方も調べれば良いんじゃない?」

「…調べても何も分からなかったんだよ。その双子が君を崇めるほどの何かは」

 口ぶりからきちんとプルメリアの呪いについては知っているようね。
 私に仕えるのはこの国の貴族の義務とも言える。
 だから、此処に集められた時点で彼らには既に拒否権はないに等しい。
 そんなことも理解していない無能も多いけど、それも王族が勝手に緘口令を敷いたせいに他ならない。無用に口に出してはならないからって子供達にきちんと教えないのも貴族としての職務怠慢。

 無能ばかりになる訳だ。

「じゃあ、今後の事を説明してあげて」

 面白い喜劇の第三幕の始まりよ。








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