21 / 245
異世界
旅路
馬車はとても簡単な作りだった。
木で作られた長方形の箱型に同じく木で作られた硬い椅子が備え付けられている。
よく言えば中の空気が籠らないほど開放的で外の景色がよく見えるようになのか、目線の高さはくり抜かれている。
だが、悪く言えば外が見えるのは有り難いのだが、車輪で巻き上げられた砂埃を遮る窓がないので快適とは言えない。
更に、椅子にはクッションなんて言う親切な物はないので、ただ剥き出しの木の椅子ではお尻が危険だ。
「貴方達は初めてなのかしら?」
「うん!はじめてだよ!」
「そうなのね。一つしか無いのだけど…予備で持ってきたからどうぞ」
「これは…」
「リザおねえちゃん、それマリーにかして!」
「う、うん」
おばあさんに貰ったのは薄緑色の大きな葉っぱを小さく折り畳んでいる物で、それをマリーちゃんに手渡すと慣れた手付きでそれを広げ、両手で挟んだ。
「みててね!」
「うん」
それをパンッと良い音が出るくらい思いっきり叩くとゆっくりムクムクと膨らんで行く。
「膨らんだ!面白いね」
「ムクムクそうっていうの!」
そのまんまな名前に思わず吹き出す。
「お尻に敷くと少しマシになるわ」
「すみません。分けて頂けて助かりました」
「良いのよ。こう云うのはお互い様なんだから」
何かお礼を、とポケットを漁って出てきたのは時間があればマーサさんに見せようと思って持ってきていたハンカチ。今私の手元に渡せる物はこれしかない。
迷った末に私はハンカチを差し出す。
このハンカチは売る気はなかった。けれども、実は結構自信作だったりする。なんとなく何処にも出さないのは何となく寂しく感じたのだ。
「あ、あの…。もし宜しければ此方を…」
「まぁ!こんなに素敵な物を頂いて良いのかしら?」
「はい。喜んで頂けて嬉しいです」
「寧ろ得した気分だわ…」
「本当に素敵なハンカチーフだ。実は今日は私達の結婚記念日でね。妻が何もいらない何て言うから温泉にでもと思ったんだが、素敵な記念日になったね」
「そうね。リザさん貴方のお陰だわ」
「いえ、私は…その、おめでとうございます」
本当に素敵なご夫婦だ。こんなに歳を取ってもお互いを思い合っていると言うことが伝わってくる。
そんな二人が私の作ったハンカチをとても喜んでくれて、素敵な記念日になると言ってくれた。
私が作った物が誰かの記念の品になって思い出に残ってくれる。
それがとても嬉しかった。
「みて!マリーのリボンもリザおねえちゃんがくれたの!」
「まぁ!そのおリボンもとっても素敵だわ。何処で買ったのかしら?お土産に買って帰ったら孫が喜びそうね」
「これはね~ひみつなのよ!」
「まぁ、それはとても残念だわ」
マリーちゃんは何処で買ったのかを知らないのだと思ったのか、チラリと老夫婦から視線を貰ったが、私は笑って誤魔化すしかない。
二人はとても素敵な人だけど、身なりがとても綺麗だ。それは他の乗客と比べても明らか。
とても気安くて、貴族ぽくはない立ち振る舞いだが、それはお忍びだからかも知れない。
そりゃ貴族だからと言って皆んながみんな悪い人ばかりではないと思うし、そんなお二人だから意を決してハンカチを渡したのだが、貴族と関わりたいくないと言うのは今も同じだ。
「じゃあ、やっぱりお土産はお菓子かしら?」
「実は孫は甘い物が好きでね」
「じゃあ、“マダム・ヘンリーのフローネげんていポポンあめ”がいいとおもう!」
「“ポポン飴”?知らない名前だわ」
「帰りに行ってみようか?」
「そうね、ありがとう。マリーちゃん」
やっぱり、この二人はとても良い人達だ。言いたくないのだと察して直ぐに問いただすのを辞めてくれた。
地球にいた時は殆ど一人だった。ハンドメイドをしている時間は私にとって癒しの時間だったけど、やればやる程人との関わりが希薄になっていった。
「リザさん。ハンカチ、ありがとうね。大切にするわ」
年の功だろうか。多分、おばあさんもおじいさんも私が作ったのだと分かってるような気がする。それがこのお礼の言葉に詰まっていた。
「大切にして下さると嬉しいです」
本当に憧れてしまうほどに素敵なご夫婦だった。
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?