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異世界
ダンジョン
しおりを挟む「さあ、同乗者同士で仲良くなった所でそろそろ簡単な自己紹介と大事な説明をさせて貰ってもいいかー?」
御者席の直ぐ後ろに座っていた冒険者のフラットが手を叩いてパンパンっと軽快な音を鳴らし注目を集める。
「俺はこの馬車の引率を任されているベテランAランクパーティーの【紅の空】のリーダーをしているフラットだ。改めて宜しく」
声は彼らしく飄々としているが、表情は笑っておらず、大切な話しなのだと姿勢を整える。
「ここからもう少し進むと森林ダンジョンに差し掛かる。そこまで来たら馬車からは決して身体を乗り出したりしないでくれ。注意を無視して魔物に持っていかれても俺たちは責任を負わない」
かなり物騒な話しだ。事故に遭うとかそう言う話しならまだ理解できたが、魔物に…と言われてもまだ魔物を見たことすらない私にとってこの旅路がとても恐ろしいものに感じた。
「リザおねえちゃん!Aランクの冒険者だって!」
「そうだね…?」
先日、フィオデナルドから冒険者について簡単に教わった。
冒険者のランクは一番上がS、その下にA~Fがあるが、Sランクは今までで三人しか取ったことがなく、冒険者は実質Aランクが一番上なのだとか。
「今回の引率はCランク以上の募集だからAランクの冒険者が引率は珍しいわね」
「そ、そうなんですね」
「ふふふ、そんなに緊張しないで。この街道は比較的安全なのだけど、右手側は森林ダンジョンだからたまに飛び出して来ることがあるのよ」
「魔物がですか?」
「そうよ。ただ入り口付近は噛みつきウサギぐらいしか出ないからそんなに危険ではないわ」
魔物の正体がウサギだと分かり、少し安心する。ウサギなら小学生の時にお世話をしたこともあるし、そんなに怖くはない。
「ママが言ってたよ!昔、冒険者の人の話しを無視した人が小指持ってかれたって!」
「…小指…?」
マリーちゃんの発言に背筋がヒュッと寒くなる。私の顔色が悪くなったのに気付いておじいさんが優しく声を掛ける。
「油断する人がいるから脅すくらいにしているだけだよ。この馬車には保護の魔術がかけられているからね。身を乗り出さなければ危険はないんだ」
「そ、そうなんですね」
私は万が一がないように窓からそっと身体を前にずらす。恐る恐る窓の外に目を向けると相変わらず緑が通り過ぎていているが、砂埃で森の奥は全く見えない。
ただ、先程と違い時折、その緑を遮るように小さな黒い影が通り過ぎている。
「次に煉獄ダンジョンについてだが、煉獄ダンジョンは上級のダンジョンだ。そこの第5階層にあるセーフティエリアに今回の目的地温泉がある」
「ダンジョンの中に…温泉…?」
「ダンジョンに着いたら、外にある魔法陣で真っ直ぐ5階層まで進む。ただ、ダンジョンの入口は森林ダンジョンに囲われている。馬車を降りたら、そっちに居るガラットの誘導に従って欲しい」
ガラットと呼ばれた男がにこやかに手を振る。
「はーい。ではでは、案内人の私からもご説明を!まずは木札をお配りしまーす」
木札、と言う通り、少し年季の入った普通の木の板を一人一人に配っていく。木札には7の数字が書かれていた。
「この木札が温泉への入場券になります!煉獄ダンジョンのセーフティエリアには全部で十個の温泉があります!皆さんには札に書かれている振り分け番号七番目でお寛ぎ頂きます!万が一にも間違えて他の温泉に入らないように!絶対にですよ~!」
どうやら、温泉には自由に入れないようだ。ただ、期待は膨らむ。ダンジョンと言う未知の場所。もしかしたら日本にはなかった泉質があったり、十個全部違う泉質だったりするかもしれない。
「そろそろ到着します!もう一度言いますよ!札は絶対に無くさないこと!番号以外の温泉には入らないこと!頼みますよ~!」
最後の念押しをして馬車は止まった。
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