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異世界
ポプリ
それから持て余した時間で他の商品の試作にも取り掛かる。
私には教えを乞う師匠もいなければ、知識だってマーサちゃんから借りた本でしか補えない。
本は本当に有用で助かったが、魔法の“魔”の字も知らなかった私からすれば、ハンドメイドすらほぼ独学でやってきたのに、ただ書いてある言葉だけを読んでも本当の意味で理解するまでには至っていないような気分だった。
とにかく今はその“魔力”について実際に自分でやってみて実感し、理解を深めていくしかない。
その為には色々試せる試作品が必要だ。ハンカチやドイリーまで手が混んでなくて良い。とにかく数が必要だ。
「何にしようか…」
ふと、視界の端に綺麗な花束を捉える。
百合のような竜胆のような小ぶりの花びらが薔薇のように幾重にも重なった様な見た目の見たことのない花だったが、とても良い香りがしていたのでついつい手に取ってしまい、店員に言われるがままに買ってしまった花束だ。
花屋の店主の話では“リンド”と言う名前らしい。リンドはフローネ地方ではよく栽培されている花らしく、一年中手に入るのだが季節によって色と薫りが変わる不思議花らしい。
今時期の夏前の程よい太陽の暖かな日差しの間リンドは薄ピンク色に色付いているが、夏になると気温の上昇に併せて少しずつ赤味を増していき、真っ赤になる。秋にかけては少しずつ橙色に染まり、秋深くなると薄い黄色へ変わる。冬には一度真っ青に染まり、春にかけてゆっくりと白くなっていく。
薫りの変化も季節の移り変わりと共に変わっていく。春はフローラル、夏はウッディ、秋はフルーティー、冬はシトラスな薫りになるそう。
なのでリンドは別名“四季の花”とも呼ばれており、花屋の店先に並ぶリンドの色味と薫りで季節の移り変わりを感じるのだとか。
「本当はもう少し飾っておきたかったけど…先に花弁を取っておこう」
この見た目にも可愛らしく美しいリンドのフローラルな薫りを生かす為にポプリにする。
残念ながら精油や香油は手に入らなかったので、出来上がりに少し時間はかかるがフランス流のモイストポプリを作ることにした。
普通のポプリと違ってモイストポプリは生花を使う。だからこの薫り高いリンドには寧ろ最適な方法だ。
「ちょうど良い小瓶があって良かった」
試験官のような細長い小瓶。普段はポーション用に使われているそうで、特にダンジョン都市であるフローネでは尽きることないほど取り扱われているらしく、とても安く大量に手に入った。
今回作るポプリに使うのは綺麗に洗った小瓶、それから塩、花弁。
作り方は簡単だ。塩と花弁を小瓶に交互に綺麗な層になるように詰めていくだけ。
本当は香りが引き立つ様に塩にブランデーを少し振っておくと良いのだが、ブランデーが見当たらなかったので我慢だ。
そして、たまに様子を見て容器の中身を振って混ぜつつ、日の当たらない場所で1ヶ月ほど休ませておく。
「これでよし…と」
小瓶のモイストポプリは全部で20本。出来栄えは上々。
蓋を開ければ花のいい香りを楽しめて、薫りがなくなって来たらバスソルトとしても楽しめる。
「…どれどれ」
そして早速取り入れたばかりの知識を試してみる。
今まで1番気になっていて尚且つ誰にも聞くことが出来なかったこと。皆んなはどうやってアクセサリーやハンカチの《付与》の効果を知ることが出来たのか。
やり方は至ってシンプル。
寧ろ何故今まで気付かなかったのか、と思うような話しなのだが、皆んな自身のステータスを見ていたのだ。
よく考えてみればヒントは沢山あったと思うが全て見逃してしまっていたらしい。
「…《解毒》、こっちは《状態異常無効》…か」
実際に試作してみた結果の感想は、やっぱり理解が追いつかない、だった。
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