38 / 245
異世界
一抹の不安
ルーペリオさんはそのまま暫く鞄を観察している。普段から優しげな表情で見守ってくれている彼だが、今日はその眉間に珍しく皺が寄っている。
ただ、私には如何してルーペリオさんがそんなに険しい表情をしているのか予想がついていた。
やっぱりダメだったか、と言う残念感と諦めで緊張も何もなかった。
「リザ様。こちらは本当に素晴らしい商品です。それにこれなら冒険者に需要があります」
「はい」
「ただ…」
「…はい」
何と説明しようか、と戸惑うルーペリオさんに申し訳なくなってついつい細かな相槌がでしまう。
ルーペリオさんはこれまで私のやることに対して一度も否定をした事がない。どんな時も私を主人として最優先にし、何の躊躇もなく受け入れてくれて、販売についても決して無理とは言わず、それの代替案を示してくれる。
何よりどんなに隠し事をしても決して聞いてこない。貴族と関わりたくない理由や必要以上に毛嫌いしている理由、何処から来て、どの様な生活をしていて、どうやって作ったのか。何もかもだ。
「その、規格外過ぎて…」
「やはり、売るのは難しいですよね」
「い、いえ。売ることは可能です」
「え?」
ルーペリオさんが言うにはこれまでも鞄は幾度となく作られてきて、その度に需要と価格が合わず廃れたのだと言う。
革で作ると重く、価格も上がり、内容量も減る。普通の布で作ると安く、軽いが丈夫さがない。かと言って魔物素材を使うのは勿体無さすぎるのだとか。
なので主に使うのはお金がある冒険者か商人ぐらいで、そのどちらも防具屋などで特注して作る事が多いそう。
ただ、嬉しいことに貴族は鞄を持たないらしい。荷物などは全て使用人やお付きの侍従か侍女が運ぶ。
「なので、リザ様のご要望通り冒険者に売ることは可能です」
「じゃあ、一体何が問題なのでしょうか…?」
「私には値段の付けようがないのです…」
「…金貨2枚くらいでは売れないのでしょうか?」
「そんな金額で売ったら人が殺到してしまいます!」
「え?」
梨沙の作った革鞄。
大きさは掌に収まる程度の小さいサイズで重さも気にならないし、邪魔にもならないが、小さ過ぎて需要は望めない。
初めはそう思った。
だが、それには商人としてありとあらゆる物を見てきたルーペリオですら驚いてしまう特殊な効果が《付与》されていた。
「私は見たことがないんです。《収納》と言う効果を鞄に《付与》されているのを」
「…珍しいということですか?」
「はい。珍しいどころの話ではありません」
ルーペリオさん曰く、《収納》は指輪か腕輪に《付与》するのが一般的なのだとか。いや、そもそも《収納》に限らず《付与》自体魔法が馴染みやすい宝飾品に施すのが普通なのだとか。
その中でも冒険者に人気なのが《収納》でそれが《付与》された指輪や腕輪はとても人気で容量の少ない最低限の物でも金貨10枚とかなり高額だが、便利なので商人や冒険者でも持っている人はいるそうだ。
ただ、やはり武器を持つ手にはアクセサリーは邪魔だったり、宝石の質や大きさによって込められる魔力量が決まっているので《収納》の容量も大きくはない。
なので、それなりの量を《収納》しようとすると結局何個も持つ必要があるし、身につけるには邪魔なのでベルトやチェーンに通して首から下げたり、小さな革鞄などを持つことになるそう。
「鞄自体に《収納》を《付与》事が恐らくですが世界初のことです」
そもそも部門が違うとルーペリオさんは言う。
鞄を作るのは防具屋。付与するのは付与術師。だから鞄に魔物素材を使って、丈夫で軽量な鞄を作り《収納》を付与すると言う発想自体が生まれて来なかった。
でも、よく考えてみれば宝石よりも安く、物によっては魔力の通りも良い魔物素材ならば《付与》自体は簡単だ。ただ、宝石の様にどの素材が何属性なのか分かっていればの話だが。
勿論、これは私にそう言う一般的か知識がなかった故の副産物で理論上《付与》が出来る人ならばカバンを用意すれば誰にでも出来る事だ。
「このようなアイディアなら、他も直ぐに真似してくるでしょうし、この鞄のせいで貴族に絡まれるなんて事もないと思いますので、現状では売り物として一番最適な品だと思われます」
これまでルーペリオさんはとても物腰柔らかく優しく見守ってくれるタイプの老紳士だったが、今その目には闘志が燃えている。
そんなルーペリオの変化に嬉しく思いながらも、何か嫌な予感が拭い切れていなかった。
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
52歳のおっさん、異世界転移したら下水道に捨てられた――下水の汚物は宝の山だった
よっしぃ
ファンタジー
【祝!3/22~25 ホットランキング第1位獲得!】
皆様の熱い応援、本当にありがとうございます!
ファンタジー部門6位獲得しました!感謝です!
【書籍化作家の本気作。まず1話、読んでください】
電車でマナー違反を注意したら、逆ギレされて殴られた。
気がついたら異世界召喚。
だが能力鑑定は「なし」。魔力適性も「なし」。
52歳のおっさんに、異世界は容赦ない。
結論――王都の地下下水道に「廃棄」。
玄湊康太郎。職業、設備管理。趣味、健康管理。
血管年齢は実年齢マイナス20歳。
そんな自慢も、汚物まみれの下水道じゃ何の役にも立たない。
だが、転んだ拍子に起きた「偶然の浄化」が、すべてを変えた。
下水には、地上の連中が気づかない「資源」が眠っている。
捨てられた魔道具。
長年魔素を吸い続けた高純度魔石。
そして、同じく捨てられた元聖女、セシリア。
チート能力なし。異能なし。魔法も使えない。
あるのは、52年分の知識と経験、そして設備屋としてのプロ意識だけ。
汚物を「資源」に変え、捨てられた者たちと共に成り上がる。
スラムから始まる、おっさんの本気の逆転劇。
この作品には、現代の「病気」と「健康」に対する、作者の本気のメッセージが込められています。
魔力は毒である。代謝こそが命である。
軽い気持ちで読み飛ばせる作品ではありません。
でも、だからこそ――まず1話、読んでください。
【最新情報&著者プロフィール】
代表作『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』(オリコンライトノベル部門18位記録)の著者が贈る最新作!
◆ 2月に待望の【第2巻】刊行!
◆ 現在、怒涛の展開となる【第3巻】を鋭意執筆中!
◆ 【コミカライズ企画進行中】!
すでにキャラデザが完成し、3巻発売と同時に連載スタート予定です。絶対的な勢いで駆け上がる本作に、ぜひご期待ください!
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?